リ・インカーネーション

ウォーターブルーム

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1.訪れの時

24.財団Zの野望

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 何をやっても無気力、虚脱感や脱力感から抜け出せないで焦燥するという原因の分からない奇病が男の若者達の間ではやり始めていた。
一方で、男女を問わず急に人格が変わったかの様にまじめに勉強するようになったという者や昨日までの人間の性格や嗜好が極端に変わりはじめる現象も相変わらず多発していた。
また、地方を含めあちらこちらで男が女性にたぶらかされたとか強制性交されたとかいうニュースも話題となっていたが、犯人に繋がる証拠も無く一種の「都市伝説」として囁かれるという事態が社会現象化してきていた。
南極に戻った神波達もそういうニュースに社会で何が起こっているのか、少しは気にもなってはいたが、ますは受験生という境遇もあって、夏の最後の追い込みに余念がなかった。あれから予備校内では、神波、早瀬、恋町に似た受験生とは一度も見かけることは無かったが、ドッペルゲンガーの様な彼等の存在には対抗的な意識が芽生えてくるのを覚えずにはいられなかった。

 「フフフフ。男どもが腑抜けになっているのは、アタシの仕業とも知らずに。今に日本中の若い男どもの睾丸が去勢され、皆アタシの奴隷と化すのよ。アハハハハ。」と快活に笑うのは鬼道 明日香だ。
「人造人間とオリジナルの入れ替えも着々と進んでいるわ。」とその傍から女吸血鬼ワルキューラが顔を覗かせる。
「まもなく、若者だけではなく国家中枢にいる人間、大企業の幹部、文化圏の中心人物、皆我々のコピーした人造人間に置き換えられることになるわ。そして日本は我々財団の思うがままになるのよ。」とこちらも嬉しそうな口調だ。
「こちらの計画も順調よ。」と中務女史が深々と椅子に腰かけて、葉巻を咥えている。「あのボウヤ達のおかげで計画に必要な磁極体も手に入り、重要なエネルギー源も入手したわ。後は・・・。」と言いかけた所で部屋のスピーカーから声が発せられる。「至急、作戦ルームへ集まれ。理事長からの指令である。」
東京都内の超高層ビルの一室にある財団Z日本支部の作戦ルームに参集したのは、日本支部長のドクトル・ワルキューラ、中務秘書室長、15,6歳くらいの少年の姿をしたドクター・ミカド、11,2歳くらいの小学生体型の小人症の雪女こと雪野、それと今まで見るのは初めてであるが、白髪の紳士然とした男が円卓の一つの席に座っていた。

「これまでの経緯で知っての通り、財団のプロジェクトであるE計画は着々と進んでいる。おかげで日本国の文化・経済支配浸透率は67%となっている。一方、政治・行政・司法浸透支配率はいまだに48%だ。もう少し人造人間を送り込み、速やかに置き換わりを促進せよとのご指示が理事長からあった。」と老獪な紳士が淡々と語る。
「はい、了解しましたわ、ミスター伊牧これまき理事。置き換わり工作は月内で78%の進捗率を政治・行政・司法浸透率レベルでもう15%加速いたしますわ。後は、置き換わりの素体となる人造人間の生産レベルですが・・。」と言ってワルキューラがドクター・ミカドの方を見やる。
「分かっているよ。こちらも生産はフル回転でやっている。ただ、ここのところ被験体の遺伝子入手がやや難航している。それと被験体が高齢の場合、遺伝子の機能発現活性化がとても低い。これにはもう少し時間がかかるようだ。」と言い訳がましく弁解するドクター・ミカド。
「ミカド君。キミの頭脳や肉体を若返らせる遺伝子編集手術を施したのは、財団にとっての栄光ある活動をこれまでよりももっと前進させるためなのだ。少なくとも、キミの部門での成績は現状あまり芳しくない。あと生産率を35%は向上させたまえ。期限は今月中としよう。できる限り早く、遂行するように。」と厳かな声で老紳士が口を開く。
「り、了解いたしました、理事。」とやや紅潮した面持ちでドクター・ミカドは頭を下げる。
「それとプロジェクトD計画の進捗状況はどうかね、ミス・中務。」と今度は中務女史の方に視線を移す。
「はい。すでにプロジェクトの重要な柱の一つであるエネルギー源は南極より先週、取寄せることに成功いたしました。現在、工学部門との協力で地球上を旋回する全ての人工衛星の82%に秘密裡にセンサーを取り付けさせています。これが目標の95%以上に達してから、稼働中のエネルギー増幅装置の完成と試運転を待って計画の準備が終了いたします。準備終了までの予定進捗時間はあと238日21時間33分49秒です。」と机上のパソコンを見ながら事務的な口調で中務女史が報告する。
「もう少し、予定進捗時間を早めてくれ。30日短縮で可能か算定してみてくれ。できたらその案を検討しよう。」と老紳士もテキパキと指示を出す。どうやらこの伊牧これまきという老人は財団の理事のようだ。そして理事を束ねる理事長が財団での最高権力を握る幹部という位置づけなのだろう。

 「最後に被験体の一人にして特に優秀な素質をもつオリジナル素体として、財団の超量子コンピューターが選出した神波 駿についてだが・・・。」と言ってから伊牧理事は一同をグルリと見渡すと「彼をミスカティック大学受験生として招請したいが、何か意見はあるか?。」とやはり厳かな口調で問いただす。
一瞬、参会者の中にはゴクリと唾を飲むものもいたが、全員黙ったまま暗黙の了解の意思を示した。
「それでは、これで散会とする。いつもの通り議事録は作成しておくように。」と言って伊牧理事が席を立つ。
それにしてもプロジェクトのD計画とかそのエネルギー源とは一体、何を意味するのか。おそらく、南極から採取したモノポールの一部のことであろうが、何のエネルギー源になるというのであろうか。そしてE計画については現在進行中である人間の置き換え、巷ではドッペルゲンガー事件として騒がれている都市伝説のことを指しているらしいが、人造人間と本来の人間とを入れ替えて財団Zは具体的に日本をどうしようというのであろうか。
そして、神波に受験資格があるとされたミスカティック大学とは、一体どの様な大学なのであろう。

 会議の後、ワルキューラが苦い顔で森澤と対峙していた。
「我々を裏切る気?。」と詰め寄るのはワルキューラだ。
「アタシ、そんな恋人になったふりをしながら、彼の行動をスパイするのは、もうイヤだわ。組織にだって今まで散々尽くしてきたじゃない。これ以上、騙し続けるのは耐えられないわ。」と苦痛に満ちた表情で話す森澤あかね。
彼女は神波との恋に陥り、敵同士という垣根を越えて男女の関係に踏み入ってしまい、もう互いを憎しみあう気持ちにはなれなくなっていたのだ。
「・・・・サヨナラ。」凛とした姿勢で女子高生は踵を返すと、その場を静かに立ち去ってゆくのであった。

 神波がその日も予備校で数学の復習を自習室で行っていた。数列の漸化式の問題を集中的に解いている。漸化式の解法には特性方程式を立てたり、式変形を細かく行ったりと技法的な手続きが多く、結構手こずる場面も多かったが彼はテキパキと事務処理をこなすがごとく演習問題を解いていく。と、突然スマホのバイブレーションが振動した。いったん、自習室を出て廊下でかけてきた相手を確認する。電話をかけてきたのは息も絶え絶えの森澤だ。
「駿、アタシ・・・。助けて。追われているの。指定した場所へすぐ来て。場所は・・・。」

   *  *  *  *  *

 新宿の繁華街の裏町に入ると暗がりの支配する小路が交差する所が多々あるが、その一角で森澤は半裸になった状態で処刑人「乳吸い」と死闘を演じつつ逃げまどっていた。
服はボロボロになり、露になった胸肌が妙に色っぽい。攻撃をかわしながら、追っ手から逃れようと逃げ場を求めて彷徨い続けていた。が、もう体力は限界に近かった。相手は、そこまで追いつめてきている。追われながらもなんとか打開策はないかと絶望的な気持ちになりながらも必死に考えていた。
(駿、早く来て!)頼みは神波の助けだけだった。彼には連絡と居場所を伝えてあるが、それまで間に合うかどうか。焦る気持ちが冷静な判断を狂わせるように不安はますます募るばかりだった。
ある建物の傍に身を潜めて辺りの様子を窺う。誰もいないようだと思った瞬間、聞き覚えのあるいやらしい声が響き渡った。
「みい~~~つけた。」ギョッとして後ろを振り向くと影の様にユラリと長身の男の姿が浮かび上がる。そう、まぎれもなくアイツ、処刑人だ。右手には鉤爪を装着し、それで森澤の服を引き裂いた。奴には森澤の電流攻撃が効かない。普通の人間なら即死級の超高圧電流を流しても、なぜか手応えが無かった。
「ヒヒヒ、イヒヒヒヒ・・・。」舌なめずりをしながら、狂気の目つきで忍び寄る処刑人。
「オレはなあ、お前のことスキだったんだぜ、でも今までは任務の都合で手が出せなかった。でも、こうしてターゲットになってくれて、感謝してるんだあ~。これでお前はオレのものだってね。」両腕をダラリと垂らした格好で近づいてくる。
「お前の乳、どんな味がするんだろうなあ~、吸いたいなあ、吸いたいなあ~、吸わせてくれるよなああ。」
と言うがいなや、いきなりもの凄い速さで疾風のごとく、森澤の眼前まで詰め寄るとドスッと鈍い音がして、森澤のボディに男の右拳が叩き込まれる。
「ぐっ!」森澤は音も無くくず折れてしまう。途端に男は、森澤の体を仰向けに卒倒させ、破れていた服に手をかける。ビリビリビリ・・・。服が引き裂かれて、女の豊満な胸が露わになった。
「イヒヒヒヒ、美味そうだなあ、イヒヒヒ・・・。」
それでも森澤は胸に両手をあてて、ガードする。しかし、強靭な男の力の前では無駄なあがきにすぎなかった。
「い、いやあああああ!。」
「叫んでも無駄だよ。だあ~れも来やしないさ。オレの秘技、乳吸いの技でお前の胸もパンクさせてやるうう~!。」
「きゃあああああああ!。」女の悲鳴が絶望の恐怖に変わり、その表情が凍りついたものになってしまう。
「ああっ、乳を吸われるのはイヤあ!。や、やめてえっ!」
絶叫する女の顔に男が数回、ビンタをする。
「うるせぇっ!。ガタガタするな、覚悟するんだよお。ソレッ!。」男は無理やり、女の両腕を胸から引きはがすと豊満な右の乳房の乳頭めがけ、パクッと真っ赤な口を開けて吸い着こうとする。
「きゃああああああ、いやあ~っ!!!!。シ、シュン~~~ッ」泣き叫びながらなおも抵抗を続けていたが、処刑人の顔がすぐ胸元まで迫って来る。チュッ!といやらしい音をたて、乳吸いがついに森澤の乳に吸い着いた!?。
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