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1.訪れの時
22.謎の隕石群とアルビノ人間
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テントで休憩して1時間以上が経過したが、ソフィアが戻ってこないのを受け、神波達は周辺を手分けして探し回った。そして、300mほど奥に行った所でソフィアを発見したが、彼女の胸は無残な姿となってしまっていた。ここでソフィアを救護、リタイアさせるために早瀬とシンディとがソフィアを地上へ送り出すために付き添うことになった。ソフィアはグッタリとしていたが、意識はなんとかあるようで二人に両腕を抱えられながらも歩いていくことはできる様だった。ソフィアをいったん地上へ送り出すのを見送った後、神波達はさらに地底の奥深くを探検することにした。
「用心するのよ。敵は恐るべき技の使い手みたいだからね。」と恋町は油断なく、いつでも戦闘モードに入れる体制を取りながら進んで行く。もう地下2000mは来ているのだろうか。周囲の温度は高くなりもう全員、Tシャツかタンクトップに半ズボン、短パンといったいで立ちになっている。やがて再び開けた空間に出て来た。巨大な空間でどの位の広さか見当も付かない。巨大な石筍や柱石が幾つも聳え立ち、高さも数十メートルはあろうかという開けた空間だ。一行は用心しながらも奥へと進んで行く。
「よく、ここまでやってきたわね。お嬢さんたち。」
どこからか、甲高い女の声が響き渡る。
「誰?。姿を現しなさいよ。相手になるわ!。」と恋町がいつになく荒げた大声で応じる。
「威勢だけはいいわね。相手になる、ですって。相手になるのかしらね、ホホホホ。」と高い声の女が右前方から姿を現す。中務だ。
「どうして、あんな酷いことをしたの?。」人形坂が悲痛な面持ちで訊く。
「ここが、我々にとって非常に重要な所だからよ。偶然とは言え、あなた方が闖入して来るとは思ってもみなかったけど。」
「一体、アンタらは何者なんだ?。どこかの秘密結社なのか?。」と神波。
「ご想像にお任せするわ。ただ、アナタにとっても関係の深い組織、とでも言っておくわ。それより・・・」
中務がクイッと横に首を振るとあちらこちらから黒い人影が複数現れて来た。最初は暗がりでよく分からなかったが懐中電灯を向けるとそれらの姿が段々とはっきりしてきた。
「人間??、なのか・・・。」
たしかに人間ではあったがそれらは普通の人間ではなかった。体全体が雪の様に真っ白で髪の色も純白に近かった。しかしもっと異様なのは、その目の色だった。真っ赤な目をしてさながら、吸血鬼と思われる様な血の色であった。
全員ほぼ全裸に近く、皮でできた布切れ一枚を身に纏っていただけに、その体の色は対照的に異様に映る。男もいれば女もいた。
「この者達は、我々の組織が開発製作したアルビノ人間。でも遺伝子変異の副作用で直射日光を浴びると数時間で皮膚がんを発症し死んでしまうのよ。そのため、ここで飼育せざるを得なかったというわけ。でもここへアナタ達が足を踏み入れたことで彼等の生活の場は奪われたのも同然。そこで排除する手段をとる前に警告の意味を込めて、アナタ達の仲間の一人に犠牲になってもらったというわけ。お分かり?。」と馬鹿にしているかの様な口調で蔑んだ表情を浮かべ神波達を見つめる中務。
やがて、神波達のパーティ周囲をアルビノ人間達が取り囲む形となってしまう。しかしアルビノ人間達は光を嫌うのか、懐中電灯の光線すら眩しそうに両手で顔を覆う仕草を見せる。
「待ってくれ。俺達はここへモノポールを探しに来たんだ。決してお前達の邪魔をしに来たんじゃないんだ。」どこまで話や説明が通じるのか未知数ではあったが、神波は一応説得を試みる。
するとアルビノ人間達が顔を見合わせて何かブツブツと話し始めた。何か知っていることでもあるのだろうか。やがてアルビノ人間のリーダー格と思われる者が中務の傍に近寄り、小声で何か話し始める。中務の険しい表情も何か変わった様な様子だ。モノポールのことに関して何か知っているのだろうか。
「分かったわ。アナタ達が酔狂でこんな南極くんだりまで来ないことは理解している。それにアナタ方も今までより相当、武装しているようですしね。そこでどうかしら?。ここに彼等が存在していることを他人に口外しないという条件ならば逆にアナタ達に協力してあげてもいいわ。先ほどの乳吸いに乳を吸われた方も元に戻してあげる。その代わり・・・。」
「なんだ!?。」と神波も急転直下の展開にやや戸惑いながらも尋ねてみる。
「アナタ方が見つけたモノポールを我々に引き取らせて欲しいのよ。もちろん、タダでとは言わないわ。どう?この提案、悪くないと思うけど?。」
早速、神波達の間でも即席協議が行われる。
「罠かも知れないわ。」と恋町は、開口一番そう言った。
「あんなこと言って油断させておいて不意打ちする気かもよ。」
「でも、そんな見え透いた嘘をこの場で言うだろうか。」
するとマヤマ・サトミが「向こうはアルビノ人間だけじゃない。光に弱そうだし武器らしいものも持ってないわ。アタシ達のアタッチメントパーツで戦えばきっとイチコロよ。ここは逆にアイツらに戦いを挑んで楽勝ね。」と好戦的な主張を言う者もいた。
「でもこちらもソフィアがいるんだぜ。ソフィアだけでも治療してもらえるのは助かるしな。やつらの生命科学や医療技術は超一流だ。この際、協力を仰ぎたいな。それにこのクエストの探検にも協力してもらえるし、モノポールは引き渡す形だけど報酬で交渉の余地は、後日あるだろう。」
意見はいろいろ出たが、結局神波の主張でいくことにした。
「いいだろう。ただし、こちらにも条件がある。今後、俺達に手出ししないこと、これが条件だ。」
「分かったわ。じゃあ、我々の基地に案内するわ。」
こうして、神波達のパーティと中務率いるアルビノ人間達の群れとは行動を共にすることになった。恋町はシンディと連絡をとりソフィアの救出に向かうことになった。幸い、まだソフィアとシンディ、早瀬の3人は地上へ出ていなかったので、途中で恋町達が到着するまで洞窟の中で待機してもらうことになった。
数時間が経過した。神波達は地底にあった近代的な秘密結社の基地の中でくつろいでいる。基地と言っても研究施設の様だった。洞窟の中とは違い空調も行き届いていて、快適な空間だった。すでにソフィアも収容されすぐに緊急胸部復元手術を受けるため、基地施設の手術室へと運ばれている。
基地内部にある別の大きな広間では神波と恋町、戻ってきたシンディの3人と中務が話し合っている。
「俺達はクエストでここまでやって来たんです。モノポールの位置を特定するのにここまでたどり着いたわけで。」と神波がいままでの経緯を細かく説明する。
「よくここまで来たわね。さすがと言いたいところだけど、実はあのクエストのスポンサーは我々の組織の会社なのよ。」と中務が驚愕の事実を語り始める。
「我々の組織は既にモノポールの存在位置を特定しているし、その場所も掴んでいるの。ただ、近寄ることがとても難しいのよ。」
「やっぱり財団Zが関係しているんですね。でも、モノポールに近寄れないとはどういうことなんですか。」
「そこがクエストとしてアナタ方にやって欲しいところなんだけど、ものすごい磁力や磁場で鉄が引き寄せられてしまうのよ。まるでブラックホールみたいにね。人間も例外ではないわ。人間の血液に含まれるわずかな量の鉄分すら引き寄せてしまうので、人間の体なんかたちまちペシャンコだわ。」と手を広げるゼスチュワーで語る中務。
「おまけに地球外から降り注ぐ鉄隕石なんかが吸い寄せられ集まって、まるで自動粉砕機みたいになっているわ。動物なんか近寄って吸い寄せられたら最期、ミンチになるわ。」とため息をつく。
「ところであのアルビノ人間達はどうして作られたんですか?。」と神波は話題を変えて訊いてみる。モノポール探検の問題点は後で考えようというつもりのようだ。
「もともと別の研究施設でヒトの遺伝子編集実験を繰り返していた副産物として彼等は産まれたのよ。白子というアルビノ系の遺伝病があるけれど、それよりももっと白くて透き通る様な皮膚を持つのが、アルビノ人間なの。でも紫外線に異常に敏感な体質で、すぐに炎症を起こして数時間で皮膚がんになってしまうことが判明したわ。そこで南極にあるこの場所で彼等の持続可能な生活環境を提供し飼育しているってわけなのよ。」
(飼育か・・・。財団にとっては実験動物としての扱いなんだな)と神波はそら恐ろしいものを感じるのだったが・・。
数日後、神波達パーティは再びモノポールを求めて探検に出発した。今度は財団Zから中務やアルビノ人間数名も同行し道案内をしてもらうことになった。ただし、ソフィアは基地から地上へ帰ることになった。肉体的にはわずかな時間で元の通りの胸に復元したものの精神的なショックも大きかったので、大事をとって帰還させることになったのだ。こうして地底の奥深く神波達はさらに進んで行ったが、やがて軽い地震が絶えず頻発して起こる様になり、いつ落盤するか分からない様な場所へと辿り着いた。そこは真っ赤な溶岩がそこかしこから噴出し流れ出し、ガガガと突貫工事でもしているかの様な音が鳴り響く、さながら灼熱地獄に落ちたような感覚を覚える場所だった。その場所の奥に真っ赤な丸い球体が、グルグルと回転しながら宙に浮いている。球体の周囲には、青や黄色、紫や黒、緑といった様々な色の岩石がやはり回転しながら赤い球体の周りを取り囲む様に輪を描いて動いている。なんとも幻想的な光景だった。しかし近づくともの凄い吸引力で体が引き寄せられる。
「あれがモノポールよ。でもこれ以上は近寄れないわ。近寄るとあの周りの岩にぶつかってグチャグチャのミンチになってしまう。」
「でも、なぜあの色のついた岩だけがモノポールの周りを回転しているんですか?。」と恋町が訊く。
「あの色を発する岩は、いずれも鉄隕石の一種だということがスペクトル分析で分かっているわ。南極で隕石がよく発見される理由として人類未踏だった時間が長いという原因もあるけれど、それ以上に鉄隕石を南極自身が特別に引き寄せているからという理由の方が大きいと思うわ。隕石がモノポールに引き寄せられ、どうしてあんな美しい色を発光するのか、そのメカニズムはまだ分からないけれども・・。」
「なんとかして、たどり着けないかな。」神波はモノポールを目前にしながらも、その傍へ行くことができないことに歯痒い思いをしていた。モノポールそのものは見たところ、そんなに大きいサイズではない。しかし、その周囲はものすごい強力な磁場が形成されていて、数百メートル離れた所でさえも磁力で吸い寄せられる危険があった。一度でも吸い寄せられてしまうと、モノポールの周囲を輪の様に回転している鉄隕石の群れに挟まれて、肉体がグチャグチャに挽肉化してしまうリスクがある。
「ギ、ギャ~ツ!。」恐ろしい悲鳴をあげながらアルビノ人間の一人が近づきすぎて引き寄せられ、その体がフワッと宙に浮いた。と、中心のモノポールめがけてどんどん吸い込まれていく。しかし回転する隕石群に体がぶつかった瞬間、グチャッと嫌な音をたてて肉体が飛散してしまった。
「ああっ!?。」みんな顔をそむけた。
「キ、きゃ~~っ!。」と後方から突然、女の悲鳴が聞こえ誰かが宙に浮いたまま磁性体に吸い寄せられていく。神波は後ろを振り返り、誰なのかを目で追ったが・・・。
吸い寄せられているのは、なんと電撃女子高生の森澤あかねの姿だった。
「森澤~っ!。」神波は驚愕と同時に矢も楯もたまらず、その名を叫んでいた。
「か、神波く~ん、た、助けて~っ。」森澤も吸い込まれながら手を伸ばしている。
咄嗟に飛び出す神波。彼は吸い寄せられながらも、森澤の体をしっかりと抱き寄せた。二人は抱き合ったまま、そのまま磁性体、いや七色に輝く恐るべき鉄隕石群へと引き寄せられていく。
「神波ーっ!。」恋町やシンディ、早瀬や人形坂らが固唾を飲んで茫然と見守るなか、二人はどんどん「死の世界」へと吸い寄せられていくのであった。
「用心するのよ。敵は恐るべき技の使い手みたいだからね。」と恋町は油断なく、いつでも戦闘モードに入れる体制を取りながら進んで行く。もう地下2000mは来ているのだろうか。周囲の温度は高くなりもう全員、Tシャツかタンクトップに半ズボン、短パンといったいで立ちになっている。やがて再び開けた空間に出て来た。巨大な空間でどの位の広さか見当も付かない。巨大な石筍や柱石が幾つも聳え立ち、高さも数十メートルはあろうかという開けた空間だ。一行は用心しながらも奥へと進んで行く。
「よく、ここまでやってきたわね。お嬢さんたち。」
どこからか、甲高い女の声が響き渡る。
「誰?。姿を現しなさいよ。相手になるわ!。」と恋町がいつになく荒げた大声で応じる。
「威勢だけはいいわね。相手になる、ですって。相手になるのかしらね、ホホホホ。」と高い声の女が右前方から姿を現す。中務だ。
「どうして、あんな酷いことをしたの?。」人形坂が悲痛な面持ちで訊く。
「ここが、我々にとって非常に重要な所だからよ。偶然とは言え、あなた方が闖入して来るとは思ってもみなかったけど。」
「一体、アンタらは何者なんだ?。どこかの秘密結社なのか?。」と神波。
「ご想像にお任せするわ。ただ、アナタにとっても関係の深い組織、とでも言っておくわ。それより・・・」
中務がクイッと横に首を振るとあちらこちらから黒い人影が複数現れて来た。最初は暗がりでよく分からなかったが懐中電灯を向けるとそれらの姿が段々とはっきりしてきた。
「人間??、なのか・・・。」
たしかに人間ではあったがそれらは普通の人間ではなかった。体全体が雪の様に真っ白で髪の色も純白に近かった。しかしもっと異様なのは、その目の色だった。真っ赤な目をしてさながら、吸血鬼と思われる様な血の色であった。
全員ほぼ全裸に近く、皮でできた布切れ一枚を身に纏っていただけに、その体の色は対照的に異様に映る。男もいれば女もいた。
「この者達は、我々の組織が開発製作したアルビノ人間。でも遺伝子変異の副作用で直射日光を浴びると数時間で皮膚がんを発症し死んでしまうのよ。そのため、ここで飼育せざるを得なかったというわけ。でもここへアナタ達が足を踏み入れたことで彼等の生活の場は奪われたのも同然。そこで排除する手段をとる前に警告の意味を込めて、アナタ達の仲間の一人に犠牲になってもらったというわけ。お分かり?。」と馬鹿にしているかの様な口調で蔑んだ表情を浮かべ神波達を見つめる中務。
やがて、神波達のパーティ周囲をアルビノ人間達が取り囲む形となってしまう。しかしアルビノ人間達は光を嫌うのか、懐中電灯の光線すら眩しそうに両手で顔を覆う仕草を見せる。
「待ってくれ。俺達はここへモノポールを探しに来たんだ。決してお前達の邪魔をしに来たんじゃないんだ。」どこまで話や説明が通じるのか未知数ではあったが、神波は一応説得を試みる。
するとアルビノ人間達が顔を見合わせて何かブツブツと話し始めた。何か知っていることでもあるのだろうか。やがてアルビノ人間のリーダー格と思われる者が中務の傍に近寄り、小声で何か話し始める。中務の険しい表情も何か変わった様な様子だ。モノポールのことに関して何か知っているのだろうか。
「分かったわ。アナタ達が酔狂でこんな南極くんだりまで来ないことは理解している。それにアナタ方も今までより相当、武装しているようですしね。そこでどうかしら?。ここに彼等が存在していることを他人に口外しないという条件ならば逆にアナタ達に協力してあげてもいいわ。先ほどの乳吸いに乳を吸われた方も元に戻してあげる。その代わり・・・。」
「なんだ!?。」と神波も急転直下の展開にやや戸惑いながらも尋ねてみる。
「アナタ方が見つけたモノポールを我々に引き取らせて欲しいのよ。もちろん、タダでとは言わないわ。どう?この提案、悪くないと思うけど?。」
早速、神波達の間でも即席協議が行われる。
「罠かも知れないわ。」と恋町は、開口一番そう言った。
「あんなこと言って油断させておいて不意打ちする気かもよ。」
「でも、そんな見え透いた嘘をこの場で言うだろうか。」
するとマヤマ・サトミが「向こうはアルビノ人間だけじゃない。光に弱そうだし武器らしいものも持ってないわ。アタシ達のアタッチメントパーツで戦えばきっとイチコロよ。ここは逆にアイツらに戦いを挑んで楽勝ね。」と好戦的な主張を言う者もいた。
「でもこちらもソフィアがいるんだぜ。ソフィアだけでも治療してもらえるのは助かるしな。やつらの生命科学や医療技術は超一流だ。この際、協力を仰ぎたいな。それにこのクエストの探検にも協力してもらえるし、モノポールは引き渡す形だけど報酬で交渉の余地は、後日あるだろう。」
意見はいろいろ出たが、結局神波の主張でいくことにした。
「いいだろう。ただし、こちらにも条件がある。今後、俺達に手出ししないこと、これが条件だ。」
「分かったわ。じゃあ、我々の基地に案内するわ。」
こうして、神波達のパーティと中務率いるアルビノ人間達の群れとは行動を共にすることになった。恋町はシンディと連絡をとりソフィアの救出に向かうことになった。幸い、まだソフィアとシンディ、早瀬の3人は地上へ出ていなかったので、途中で恋町達が到着するまで洞窟の中で待機してもらうことになった。
数時間が経過した。神波達は地底にあった近代的な秘密結社の基地の中でくつろいでいる。基地と言っても研究施設の様だった。洞窟の中とは違い空調も行き届いていて、快適な空間だった。すでにソフィアも収容されすぐに緊急胸部復元手術を受けるため、基地施設の手術室へと運ばれている。
基地内部にある別の大きな広間では神波と恋町、戻ってきたシンディの3人と中務が話し合っている。
「俺達はクエストでここまでやって来たんです。モノポールの位置を特定するのにここまでたどり着いたわけで。」と神波がいままでの経緯を細かく説明する。
「よくここまで来たわね。さすがと言いたいところだけど、実はあのクエストのスポンサーは我々の組織の会社なのよ。」と中務が驚愕の事実を語り始める。
「我々の組織は既にモノポールの存在位置を特定しているし、その場所も掴んでいるの。ただ、近寄ることがとても難しいのよ。」
「やっぱり財団Zが関係しているんですね。でも、モノポールに近寄れないとはどういうことなんですか。」
「そこがクエストとしてアナタ方にやって欲しいところなんだけど、ものすごい磁力や磁場で鉄が引き寄せられてしまうのよ。まるでブラックホールみたいにね。人間も例外ではないわ。人間の血液に含まれるわずかな量の鉄分すら引き寄せてしまうので、人間の体なんかたちまちペシャンコだわ。」と手を広げるゼスチュワーで語る中務。
「おまけに地球外から降り注ぐ鉄隕石なんかが吸い寄せられ集まって、まるで自動粉砕機みたいになっているわ。動物なんか近寄って吸い寄せられたら最期、ミンチになるわ。」とため息をつく。
「ところであのアルビノ人間達はどうして作られたんですか?。」と神波は話題を変えて訊いてみる。モノポール探検の問題点は後で考えようというつもりのようだ。
「もともと別の研究施設でヒトの遺伝子編集実験を繰り返していた副産物として彼等は産まれたのよ。白子というアルビノ系の遺伝病があるけれど、それよりももっと白くて透き通る様な皮膚を持つのが、アルビノ人間なの。でも紫外線に異常に敏感な体質で、すぐに炎症を起こして数時間で皮膚がんになってしまうことが判明したわ。そこで南極にあるこの場所で彼等の持続可能な生活環境を提供し飼育しているってわけなのよ。」
(飼育か・・・。財団にとっては実験動物としての扱いなんだな)と神波はそら恐ろしいものを感じるのだったが・・。
数日後、神波達パーティは再びモノポールを求めて探検に出発した。今度は財団Zから中務やアルビノ人間数名も同行し道案内をしてもらうことになった。ただし、ソフィアは基地から地上へ帰ることになった。肉体的にはわずかな時間で元の通りの胸に復元したものの精神的なショックも大きかったので、大事をとって帰還させることになったのだ。こうして地底の奥深く神波達はさらに進んで行ったが、やがて軽い地震が絶えず頻発して起こる様になり、いつ落盤するか分からない様な場所へと辿り着いた。そこは真っ赤な溶岩がそこかしこから噴出し流れ出し、ガガガと突貫工事でもしているかの様な音が鳴り響く、さながら灼熱地獄に落ちたような感覚を覚える場所だった。その場所の奥に真っ赤な丸い球体が、グルグルと回転しながら宙に浮いている。球体の周囲には、青や黄色、紫や黒、緑といった様々な色の岩石がやはり回転しながら赤い球体の周りを取り囲む様に輪を描いて動いている。なんとも幻想的な光景だった。しかし近づくともの凄い吸引力で体が引き寄せられる。
「あれがモノポールよ。でもこれ以上は近寄れないわ。近寄るとあの周りの岩にぶつかってグチャグチャのミンチになってしまう。」
「でも、なぜあの色のついた岩だけがモノポールの周りを回転しているんですか?。」と恋町が訊く。
「あの色を発する岩は、いずれも鉄隕石の一種だということがスペクトル分析で分かっているわ。南極で隕石がよく発見される理由として人類未踏だった時間が長いという原因もあるけれど、それ以上に鉄隕石を南極自身が特別に引き寄せているからという理由の方が大きいと思うわ。隕石がモノポールに引き寄せられ、どうしてあんな美しい色を発光するのか、そのメカニズムはまだ分からないけれども・・。」
「なんとかして、たどり着けないかな。」神波はモノポールを目前にしながらも、その傍へ行くことができないことに歯痒い思いをしていた。モノポールそのものは見たところ、そんなに大きいサイズではない。しかし、その周囲はものすごい強力な磁場が形成されていて、数百メートル離れた所でさえも磁力で吸い寄せられる危険があった。一度でも吸い寄せられてしまうと、モノポールの周囲を輪の様に回転している鉄隕石の群れに挟まれて、肉体がグチャグチャに挽肉化してしまうリスクがある。
「ギ、ギャ~ツ!。」恐ろしい悲鳴をあげながらアルビノ人間の一人が近づきすぎて引き寄せられ、その体がフワッと宙に浮いた。と、中心のモノポールめがけてどんどん吸い込まれていく。しかし回転する隕石群に体がぶつかった瞬間、グチャッと嫌な音をたてて肉体が飛散してしまった。
「ああっ!?。」みんな顔をそむけた。
「キ、きゃ~~っ!。」と後方から突然、女の悲鳴が聞こえ誰かが宙に浮いたまま磁性体に吸い寄せられていく。神波は後ろを振り返り、誰なのかを目で追ったが・・・。
吸い寄せられているのは、なんと電撃女子高生の森澤あかねの姿だった。
「森澤~っ!。」神波は驚愕と同時に矢も楯もたまらず、その名を叫んでいた。
「か、神波く~ん、た、助けて~っ。」森澤も吸い込まれながら手を伸ばしている。
咄嗟に飛び出す神波。彼は吸い寄せられながらも、森澤の体をしっかりと抱き寄せた。二人は抱き合ったまま、そのまま磁性体、いや七色に輝く恐るべき鉄隕石群へと引き寄せられていく。
「神波ーっ!。」恋町やシンディ、早瀬や人形坂らが固唾を飲んで茫然と見守るなか、二人はどんどん「死の世界」へと吸い寄せられていくのであった。
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