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1.訪れの時

18.スーパー人造人間の創造

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 講師室のソファでぐったり横たわっている守を尻目に女講師は、彼の精液の採取を終え黒い長い髪を無造作に引っ張ると、カツラだったのか髪がスッポリ抜け後から金髪の髪がこぼれ出て来た。メイクを落とした元の女の顔は、女吸血鬼ワルキューラだった。女講師の正体はワルキューラが変装していたものだったのだ。ワルキューラは手早く身支度を整え、精液の試験管の入った特殊な冷凍アタッシュケースを小脇にかかえると部屋を出て通りを横切り、駐車場に停めてあったブルーのセダンに乗り込む。車で1時間半ほど走り続けると広大な屋敷のある門を通過して、白亜の巨大な建物の前で停める。一見するとただの西洋館の様な建物だが、周囲には人の気配が全く感じられなかった。

 ワルキューラはそのまま建物の中にアタッシュケースを持ったまま入り込み、奥にあったエレベーターで階下、と言っても35階もあるのだが、下へ降りていく。彼女が降りた先には広大な実験設備や化学薬品、精密な機械類、巨大なパイプや様々な菅が縦横無尽に走る実験設備が広がっていた。
「任務、御苦労。」と白衣を着た15,6歳位の日本人少年が出迎える。どう見ても高校生位の背格好、年齢にしか見えない少年だ。
「早瀬 守の遺伝子はこの計画に適合した被験体だ。彼の遺伝子をモデルに製造した人造人間はヒトの進化の原動力となる素材だ。キミに彼の精液を採取していただいて助かっている。少しくつろぎたまえ。」と目上の様な口調でワルキューラに語りかける。
「はい、ありがとうございます、ドクター・ミカド。でもせっかくですから、実験工場の様子を拝見させていただきたいですわ。」とワルキューラも白衣とマスク、手袋を着用して少年の後に付き従う。ワルキューラにミカドと呼ばれた少年だが、神波達がニューギニアのクエストで財団Zの研究所で出会った副所長も「三角ミカド」と名乗っていた。何か関係があるのだろうか。

 広大な実験施設の奥にはさらに奇妙な光景が繰り広げられていた。巨大なガラス管が無数に並び、白いモヤモヤとしたタンパク質の塊や胚、胎児、乳児ほどの大きさの人間といった様々な試験管ベイビーが培養されている。ここは人間製造工場、それも財団Zの所有施設なのだ。
「人口子宮装置と呼んでいる、この巨大な培養装置は人間の羊水と同じ成分で満たされた液体が入っており、適切な温度と成分管理が24時間休むことなく続けられている。この装置にこちらで開発した人工卵細胞とキミの採取した被験者の精子とを交配させて受精させ、この装置の培養液の中で遺伝子編集を行いながら超スピード育成を図る。すると新たなミュータント、つまり遺伝子改編型人造人間が約2か月で、人間の年齢で言えば12,3歳ほどの成長段階まで育成製造できるのだ。」とドクター・ミカドは言いながら、ケースから取り出した守の精液の入った試験管を他の研究員に渡す。
「出来上がった人造人間達は世界中に送られ、その国や社会で通常の人間と変わらぬ暮らしをしつつ、現地の男女と結婚して交配する。交配してできるハイブリッドが従来のヒトという生物種からどれだけ進化したのかを追跡調査したデータが、さらに新たな人造人間を作る貴重な資料となるわけなのだ。」
「人造人間の用途は、それだけではありませんわ。不老不死・・・人類が、いやあらゆる生物の究極の目標である老いず死なない肉体形質の獲得、これを実現する唯一の手段、それが人造人間の体を利用する幹細胞移植メソッドや肉体交換手術。これらの技術を使って永遠の時間と空間の中を生きるのですわ。まさに至高至宝の技術・・おホホホ」とワルキューラも狂った様に妖艶な笑みを浮かべる。
人類の進化や強化のコントロールを分子レベルでの遺伝子や細胞で施す技術を手に入れ、思うがままに進化や生物の創造を自分達の手で操り、行うという目的が財団Zの活動理念の一つであった。
当然、この技術を実用化し応用すれば、ワルキューラの言うように「不老不死」も夢では無く、どんな能力の超人・・が出現するにしてもおかしいことではない。それを思うがままに自分達の手で実現することが財団Zの真の目的だったのだ。

 別の部屋には、15,6歳位の男女が数十人集まっていた。皆、白い制服を着ていて感情を面に出すこともなく、着席している。人種も様々だった。
「この部屋にいる少年少女は全て人造人間だ。若い日本人男子の精子を使って作られた日本人タイプの者も数人いる。」と言って指さしたドクター・ミカドの先には、若い日本人女子1人と男子2人がいる。
「まもなくこの3人を日本に解き放つ。すでにこの年齢で大学レベルの教育をもう履修済だ。どんな行動をするのか、今からお楽しみだ。フフフフ・・。」とドクターが不気味に笑う。つられるように一緒にワルキューラも満足そうに高笑いをするのであった。

 数日後、神波達は沖縄を後にした。それぞれ各位勉強の成果を手応えで感じたようで充実した強化合宿を送ったようだが、守だけは一人どこか寂しそうな表情を浮かべていた。アレ以来、例の女講師の授業は無く、別の男性講師が代役を引き受ける形で授業が終わってしまったからだ。無論、あの時以後彼女には会えていない。教務室で聞いても急用で辞められたという以外、何処へ行ってしまったのかも皆目分からなかった。「先生・・・。」と時折、悲しそうにポツリと呟く。若い守にとって年上の女性との性交為は人生で衝撃的な事実だったのだろう。まさか、その正体があのワルキューラだったとは想像もしていないのに違いない。
沖縄から戻ってすぐに夏の全国総合模試が行われた。神波達も受けたが、結果はA判定のものもB判定の科目もあったものの、全国的にはメンバー皆は全国平均より上位を占めていた様だ。ミスカテック予備校の中でも上位者の氏名と成績が掲示されるが、今回は現役高校生で全ての科目が満点の女子高生の名前が張り出されていたのが目を引いた。過去、現役生でオール100点を取った者もいないわけではなかったが、いきなり降ってわいた様に突然、彗星のごとく現れただけに、ちょっとした話題にはなったりしたのだった。
そんなある日、早瀬のスマホにアメリカのシンディから電話があった。この夏休みを利用して日本に来日するという。女講師との件で意気消沈していただけに守の復活にも逞しいものがあった。
「やった!シンディさんとまた会える。嬉しい~。」ともうワクワク気分をひけらかしている有様が見て取れる。もっともシンディの方は前回、守と一夜を共にしたことがまだ忘れられず、今回も何らかのアタックを仕掛けてくることは容易に想像できることではあったが。
「シンディさんだけではなく、他のパーティメンバーの皆さんも全員で日本に来るんだって。」と守は大はしゃぎで神波達にも話す。
「観光が目的なのかしら。なにかお土産でも用意した方がいいんじゃない。」と恋町も歓迎ムード満開だったが、神波だけは、あまり乗り気ではなかった。あの時もカンディルクエストで偶然一緒に同行する機会になったが、向こうの5人は全員、流暢な日本語を話すうえに日本人とのハーフや帰国子女の様な者もいたりで、何か出会い自体が作為的なものを感じるからだ。それに早瀬からはあのシンディと親密な関係を持ったという様な話を本人から神波も聞いていたので、何か心に引っ掛かる不自然なモノを感じるのだった。

 こうして東京にある宇宙国際空港でシンディ一行と再会を果たした神波達だったが、シンディ側には新たなメンバーが加わっていた。アメリカの高校の男子生徒ジャック・ハミルトンとゴールドマン・グレゴリックという二人だったが、どちらもやはり日本語が達者だった。ジャックは気さくで陽気なお調子者という感じだったが、ゴールドマンは無口であまり目立たない存在の人物という印象だ。一週間ほど滞在するということで、神波達と東京の浅草や渋谷、横浜中華街などを歴訪する予定ということだった。
来日してから三日目、思い思いに別行動するということで横浜中華街に来ていた一行は、バラバラに散開していたが、シンディと守は二人だけで同じ行動をとる形になった。
二人は食事やショッピングを共に楽しんだ後、いつしか夕暮れ迫る茜色の空の下、港の見える丘公園まで来ていた。
夏の公園だけに若いカップルの姿も多かったが、シンディと守も人気の無い暗がりの中で互いを求め合い始める。シンディはディープキスを守と交し合った後、キャップを脱いで長い艶やかなブロンドの長髪を垂らして守にしなだれかかる。守も背中から手を回して、彼女を抱きつつも片方の手はジーンズのハーフパンツから伸びる魅力的な細い足へと伸ばしていく。
「うふん、何かあったの?。」とシンディが囁く。一瞬、守はドキリとして手を止める。「な、何もないよ。」と相手を安心させるかの様に答える。女講師との件が見透かされたのかと思ったからだ。

「クククク・・・。」と突然不気味な笑い声が辺りの沈黙を破った。「こんな所で逢引とは若い奴はイイね。アタシが来てお邪魔になったようだけど。」と暗がりの中から声がして一人の女性が現れた。
「アッ、あなたは藤波さん。どうしてここに。」と守が驚いた声を出す。以前、神波と守を襲った女性達の一人が藤波だった。今回もTシャツに丈の短いハーフパンツを履き、引き締まったボディは小麦色に焼けて健康的な肉体を見せつけてくれる。髪はポニーテールにまとめられていた。
「今日はこの前みたいにはいかないぜ、このチャンスを待ってたんだからな。それっ、固まってしまいな!」と言うと伸ばした手の先からシューツと白い粉が吹き出してきた。
「ああっ」、「キャーッ」シンディがいきなり守に抱きついてきたので、守は咄嗟とっさの回避行動もとれず二人とも全身に白い粉を浴び続けてしまった。シューツ、シューツ。粉は二人の全身を真っ白になるまで降りかかり、やがて身動き一つできない状態にしてしまった。藤波の手先にはノズルがセットされていて、背中には相手の体を固めてしまう白い粉が入った小型ボンベを背負っていた。
「どれ、今度はオレがこの子の相手をして楽しませてもらうとするよ。」と言うと藤波は、抱きついていたシンディを無理やり守の体から引きはがすと、守の陰部に手を置いて凄まじいまでの刺激を与え始めたのだ。
「うわわわ・・・」と真っ白な顔で引きつった声を出しながら守は、身を動かそうとするが無駄なあがきだった。
「もがいたってムダだ。今にお前とはキモチいいことして遊ぶんだ。」と言うと真っ白に固まったシンディの目の前で藤波は守の体を押し倒し、無理やりキスをし始める。そして服の上から陰部をもてあそび、次第に快楽の虜としていく女豹の顔つきに変わっていった。
「うーっ、ううーっ、うーっ」声にもならない叫び声をあげる守だったが、空しく響くばかりで誰も助けには来ない。ますます女豹は、そんな守の姿を見て興奮してきたのか、情欲を掻き立てる激しい刺激を獲物に与え続けていく。ブクブクとやがて守の口から泡が吹き出る。どうやら完全に失神してしまった様だ。
「イヒヒヒ、こいつはおもしれえや。こいつのチンポ立つんかな。」と言うと守の白くなったハーフパンツに手をかけ、ビリリと引き裂く女豹。現れた性器を両手で掴むとゴシゴシとしごいて行く。その振動は目にも止まらぬ速さだった。そんな光景を見ながら突っ立ったまま、固まってしまったシンディの目から涙が溢れ出ていたが、どうすることもできずに奇怪な夜の妖しい所業が進行していくのであった。
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