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1.訪れの時
10.マデイラ川のほとりで
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(なぜ、その事を知ってるんだ???)との疑惑が、神波の心の中ですぐに頭をもたげた言葉だった。イントロンの研究所へ行くことを含め、そこで検査や細胞採取をする事実は、神波自身、予備校の生物講師真岡そしてイントロンの担当者以外は秘密情報として極力、秘匿されているはずだからだ。もちろん、今回ブラジルへ同行している他のパーティメンバーも誰一人知らされてはいない。
(ひょっとしたら・・・スパイか?。)考えれば考える程疑惑は大きくなり、折角のあの夜の出来事もそれ以上進展は無く、神波はジュリアの質問に「え⁉研究所なんか行っていないよ。それより明日があるから・・。」等と言ってジュリアとも別れ、さっさとホテルの自室へ引き揚げてシャワーを浴びた後、すぐに寝てしまった。
翌日、ジュリアは何事も無かったかの様に陽気にふるまっていた。今までの彼女の言動を考えてみれば、別に神波を精神的に愛していたわけではなく、単に彼の肉体的な所が好みのタイプというだけで彼女にとっては、一種の「お遊び」に過ぎなかったのかも知れなかった。
(危ない、危ない。色仕掛けの「お遊び」でその気にさせられて、俺から情報を聞き出そうとしてたんだな。)とすっかり疑惑モードになってしまった神波は、ジュリアと距離を置くことにしたのだった。
ホテルでの朝食も終わり、パーティーは港に繋留されているボートへと手荷物をまとめて出発した。大きい荷物やたくさんの量の食料は、別に人手を使って積み込ませてある。あとは出航して目的地に向かうだけだ。ところで、ここポルトヴェーリョというのは、かつて日本のある有名自動車メーカーの外国人代表取締役社長だったが、不祥事から海外へ秘密裡に高跳びした某外国人経営者の出身地なのだそうだ。また錫鉱石の積出港としても有名な所だそうである。
ボートへ全員乗り込み、最終チェックを終えて港の川縁から出航する。ボートの運転はマティスさんというオッサンが務める。天気は快晴で赤黒く濁った水面を快調にボートは進んで行く。出発地点から西の方向に120キロメートル程行くと中継地点に到着、今夜はそこで夜を明かす予定だ。今は乾季に入る前なので、川の水位が高い間にクエストを済ませておきたかったのもある。(ここまでは順調だ。)と思う神波だったが、この先のことを考えるといつまで安全でいられるかは不安だった。予備校の勉強は、空いている時間をフル活用して行っている。今のところ、こちらにも特に支障は無い。滑る様に進んで行く快速力のボートの上で青空を眺めながら、神波は先ほどやった生物の復習を頭の中で整理することにした。
最近の受験生物問題には、細胞におけるタンパク質の合成とその輸送に関する問題も多く出題される傾向の一つにあり、一般的な高校教科書には出ていない事項が出題されたりする。例えば次の様な問題だ。「ヒトの体を構成する細胞が正常に機能するためには、細胞を構成する多様なタンパク質がそれぞれあるべき場所に運ばれる必要がある。これについて、細胞小器官に輸送されるタンパク質にはその輸送を指示するアミノ酸配列がある。なんというか。」
答えは「シグナル配列」(または「局在化シグナル」)。真核細胞(核の有る細胞)の細胞質のリボソームで合成されたタンパク質の中には特定の細胞小器官(ミトコンドリアとか核)にのみ輸送されて局在化するものがあるが、こうしたタンパク質の輸送を指示するアミノ酸配列をシグナル配列とか局在化シグナルと言ったりする。
この他にも、インスリンの様な「分泌タンパク質」とそうでないタンパク質の区別を問うた上で「エキソサイトーシス」(開口分泌)の仕組みを事細かに尋ねてくる問題も、某有名大学では過去に出題されたりする。この分野からの特異的な出題も結構、生物試験の穴場の一つとなっている様だ。
そんな事を頭の中で考えたりしている神波の傍にふと近づく者がいた。突然肩を叩かれ、神波が振り返るとムギュと誰かの指先が頬に突き刺さる。恋町だった。
頬を押さえながら神波が「恋町か。どうしたの?。」と訊くと「何だか退屈でね。それに神波とジュリアの間でなんかギクシャクしている壁みたいなものを感じたので、どーしたのかな?と気になってたのよ。」と恋町。
(コイツ、妙に感イイな。)と思いつつ、「う~ん、ちょっとね。いろいろと俺のことを探ってくるから。あんま干渉されるの、俺キライだから。」と言った。実際、イヤだった。神波は、血液型がAB型であったがそのせいかどうかは分からないが、基本的に孤独を愛する人間だった。ともかく過度に他人(たとえ親、兄弟、親友であっても)に干渉されたり付き合いを強要されるのは、イヤでイヤでたまらなかった。実際、一人で旅行したり一人で過ごしている時間の方が喧噪に狂った都会を離れて静かにのんびり暮らしたいと思う程に安らげたし、彼にとっては孤独な時間を一人過ごすことは、何よりも貴重な人生を実感できる唯一の現実でもあったのだ。
(別に厭世主義を気取ったり自己チューに徹してるわけではないが)とも思いつつ、神波は続ける。「ジュリアを見てるとなんというか、自分に正直過ぎる面があって逆にコワクなるんだ。自分がスキだと思った男には、トコトン感情も考えも愛情も自分というもの全てすらもブツケテくる。そういう彼女の純粋なトコが俺には分かるけどコワイしウザくもあるんだ。」
「それは、神波が他人からの愛情とかに臆病なだけだよ。」と恋町が反論する。「もっと楽に相手を受け止めればイイんじゃない?。自分の殻に閉じこもっても、他人との誤解や問題は解けないわ。他人との交わりなしには自分だけでは、決して知りえない世界もあるはずだわ。それは尊重すべき事なんじゃないかしら。」
(クソくらえ。)と神波は思う。それこそ、俺への勝手な干渉だろうがとも思う。だが、神波はやんわりと言った。
「ご忠告、ご指摘ありがとう。でもしばらく考えさせてくれ。」
暑い空気と水面の涼しい空気がぶつかり合って、ちょうどいい湿度と温度を運んできてくれるかの様だ。こうして半日以上走り続けて途中、昼食や燃料補給もあったが午後7時頃までには中継地点の港に到着した。今夜はここで一泊することになる。船酔いする者もなく、上陸してすぐに近くの食堂へと入っていった。大きな木造建ての一軒家だったが、ナポリタンとフルーツサラダ、アサイジュースが美味しかった。バンガローの様な宿泊施設に泊まったが、蚊対策に日本から蚊取り線香を持って行ったのは、正解だった。ここ現地では、蚊を媒介とした病気、例えばマラリアとかデング熱、日本脳炎が蔓延する時もあるので、脅威となっているのだ。ブラジルでは今の時期は秋にあたり、6月には乾季に入る。乾季に入ると降雨量もぐっと減り、川の水位が減り始める。川の上流の水嵩が高い方が捕獲量も多いだけに短期集中で捕獲したいところだ。
翌朝、早めに朝食を取り再び水上走行。所々にある生簀ポイントをマップで確認しながら、どんどん遡る。ジャングルや鬱蒼と茂る森林を対岸にはるかかなたには山脈の影を眺めながら、午後5時頃には無事、目的地へ到着した。そして今このクエストに挑戦しているのは、神波達の他にもう1組いることがそこで分かった。アメリカからのクエスト挑戦者で5人いた。日系ハイスクールの学生という紹介で女性ばかりの構成だった。その5人の日系アメリカ人女子の1人が、『ルシンダ・アオヤマ』と名乗って握手を求めた。彼女は、日系アメリカ人だという。父親が日本人で母親がイタリア系白人ということだ。髪は染めているのかブロンドだが、目はややグリーンの瞳だ。野生的な魅力が特徴で白いTシャツにジーンズのハーフパンツを履いている。日本語も達者でとても流暢に話す様だ。5人の中のもう1人が「ハーイ」と声をかけてきた。彼女は『サンドラ・キタハラ』と名乗る。栗色のロングヘアがとても綺麗で面長な娘だ。ピンク色のワンピースを身にまとっている。後の3人は、ルシンダことシンディが紹介してくれた。もう1人は小柄な女性で5人の中で最も背が低い。『サトミ・マヤマ』という名前だ。こちらは、両親とも日本人だが、両親とも海外で暮らしており彼女もアメリカで産まれたとのこと。顔立ちは東洋人というか日本人そのものだ。肩までの長さの黒髪に色白な肌が対照的な綺麗な娘だ。もう1人が『ソフィア・ソマーズ』という女性だ。彼女はとてももの静かな女性で、あまり積極的に会話には参加しないタイプの様だ。何よりも他の3人と比べてハーフっぽくなかった。金髪碧眼の美少女だった。そして最後の1人が『メーガン・ローレンス』。こちらもハーフであったが、より彫の深い顔立ちで全くの無表情が特徴的だった。冷徹というか冷ややかな眼差しで何とも不気味な感じがする。静かにグラスを傾けて飲み物を嗜んでいる。5人とも日本語を話せる様だ。
夜食も彼女らとともに食べ、すっかり意気投合した神波達だったがシンディは特に早瀬に興味を覚えたらしく、彼にひっきりなしに会話を持ち掛けたがる。夜食が終わった後も早瀬と話を続け、彼の肩に手を回したりしていた。随分と積極的な子だ。早瀬も満更ではない様子で楽しそうだったが、やがてお開きとなって皆、ホテルの自室へと各自引き揚げていった。
翌日、朝早くに2つのパーティは各々予定していたポイントへと目指していた。クエスト参加申請の段階でポイントは別々で行動するよう予定されていたので、ポイント重複で捕獲活動しなければならないことはなかったが、どのポイントの方がより多くのカンディルを捕獲できるかは分からなかった。神波たちはここで「撒き餌」を投入することにした。ロープで繋いだ大きなビニール袋に真っ赤な内臓やら腸やら血液やらが混じったひどい悪臭を放つモノが冷蔵庫から持って来られた。ソレが水中にドボンと投げ込まれる。なんでもブタの内臓や余り肉、それに尿なんだそうだ。そんなエゲツないモノを詰めた袋が撒き餌の中身として投入されたのだ。だが、袋が投げ込まれてものの10分も経たぬ内に恐ろしい事が起こった。川の波の様子が変わった。急に辺りがザザッとざわめいたかと思うと水の色が赤く染まった。いや、赤い水の川とそうでない川の部分とに分かれたというべきか。赤い部分はボートの周囲を取り囲み、さらに真っ赤になって波打った。バシャバシャバシャ。袋が水面にまで持ち上がる。袋はあちこちが食い破られ、赤いドジョウの様な生物がウニャウニャと集りまくって、中には袋の中にまで進入しているものもいる。カンディルだ。もう川の見渡す限りが赤くなり、まさに地獄の三途の川といった様相を呈している。ボートが波立つ程に揺れる頃、ボートの両側の舷側から巨大な四手網が下ろされる。網が水中に没するとしばらくして巻き上げられる。網の中から溢れんばかりの巨大な赤い塊が持ち上げられる。大量の血塊の様に真紅のカンディル達の大群が今、まさに水中から引き揚げられた瞬間だった。
ボートは微速前進し、近くにある生簀ポイントに向かう。生簀ポイントは川の岸辺にいくつか設置された巨大なプールで、カンディルをそこで放流し同時に計量が瞬時に行われて重量と匹数とがすぐに測定できる器械化されたシステムとなっている。
こうした所作を午前中だけでも7、8回行い、かなりの数のカンディルが水揚げされた。話には聞いていたものの、まさに「入れ食い」状態だったと神波は思う。次のポイントは下流なので、そこへと向かう。一行は、下流に向かう間、軽い昼食を摂った。
「結構、捕れたね。」と人形坂。「それにしても気味が悪い魚ね。まるでルビーみたいに真っ赤だったわ。」と恋町もその生態のおぞましさを聞いているだけに少し興奮している様だった。
「この調子で今後もヨロシク。」と神波は、出だしとしてはまずまず好調だった旨を強調した。午後も6時をまわる迄、幾度となく捕獲しまくり今日の日程を終えることにした。こうして初日が過ぎ、2,3日が過ぎた頃だった。
ある晩、夜食が済んで早瀬がホテルの自室に向かうため、廊下の角を曲がった時だった。いきなり後ろから腕を回され締め付けられるとともに、口元を白いハンカチで塞がれてしまった。
「ウ、ぐぐ・・・。」懸命にもがこうとした早瀬だったが、ツーンと消毒用のアルコールの様な臭いをかがされた途端、スッと気が遠くなってしまった。
しばらくして気がつくと、誰かの見知らぬ部屋へいた。まだおぼろげな感覚で視線を凝らしてみると、あの日系ハーフの1人、シンディがうっすらと微笑を浮かべて、ベッドの上から彼を見下ろしていた。
「ぼ、ぼくをど・・・どうするの?。」と早瀬がやっと口を動かすとシンディはまたもや微笑んで、「マモル、アタシはここへ来てから、ずっとオトコと寝ていないのよ。オトコと寝れないとアタシ、もう狂いそうになるの。どう?一晩アタシと付き合ってネ。」と静かに言い放った。そして、ウインクをした途端、突然早瀬に覆いかぶさるように抱き着いて濃厚なキスを絡めてきた。早瀬は最初バタバタと足をばたつかせていたが、シンディが彼の短パンに手を伸ばし、アソコをもみもみと刺激するともう大人しくなってしまった。そしてシンディは、ひとしきり揉んだ後で短パンをいきなりはぎ取ってしまったのだ。
「ホレ薬をアソコに塗ってあげる・・・。」とシンディは細長いチューブをどこからか取り出すとそこからクリーム状のものを右手に絞り出し、スリスリと彼のアソコにその手でクリームを擦り込み始めた。
「あ、ああっ・・。」と快感で身悶えする早瀬。やがて、どういうわけか彼は体全身が火照るように熱くなる感じがしてきて、ムラムラと抑え難い衝動が湧いてくるのを感じるのだった。今や、どちらからともなく体を重ねあって、2人は永遠に続くかと思われる幻惑した時間の中で、互いに求め合っていったのであった。
(ひょっとしたら・・・スパイか?。)考えれば考える程疑惑は大きくなり、折角のあの夜の出来事もそれ以上進展は無く、神波はジュリアの質問に「え⁉研究所なんか行っていないよ。それより明日があるから・・。」等と言ってジュリアとも別れ、さっさとホテルの自室へ引き揚げてシャワーを浴びた後、すぐに寝てしまった。
翌日、ジュリアは何事も無かったかの様に陽気にふるまっていた。今までの彼女の言動を考えてみれば、別に神波を精神的に愛していたわけではなく、単に彼の肉体的な所が好みのタイプというだけで彼女にとっては、一種の「お遊び」に過ぎなかったのかも知れなかった。
(危ない、危ない。色仕掛けの「お遊び」でその気にさせられて、俺から情報を聞き出そうとしてたんだな。)とすっかり疑惑モードになってしまった神波は、ジュリアと距離を置くことにしたのだった。
ホテルでの朝食も終わり、パーティーは港に繋留されているボートへと手荷物をまとめて出発した。大きい荷物やたくさんの量の食料は、別に人手を使って積み込ませてある。あとは出航して目的地に向かうだけだ。ところで、ここポルトヴェーリョというのは、かつて日本のある有名自動車メーカーの外国人代表取締役社長だったが、不祥事から海外へ秘密裡に高跳びした某外国人経営者の出身地なのだそうだ。また錫鉱石の積出港としても有名な所だそうである。
ボートへ全員乗り込み、最終チェックを終えて港の川縁から出航する。ボートの運転はマティスさんというオッサンが務める。天気は快晴で赤黒く濁った水面を快調にボートは進んで行く。出発地点から西の方向に120キロメートル程行くと中継地点に到着、今夜はそこで夜を明かす予定だ。今は乾季に入る前なので、川の水位が高い間にクエストを済ませておきたかったのもある。(ここまでは順調だ。)と思う神波だったが、この先のことを考えるといつまで安全でいられるかは不安だった。予備校の勉強は、空いている時間をフル活用して行っている。今のところ、こちらにも特に支障は無い。滑る様に進んで行く快速力のボートの上で青空を眺めながら、神波は先ほどやった生物の復習を頭の中で整理することにした。
最近の受験生物問題には、細胞におけるタンパク質の合成とその輸送に関する問題も多く出題される傾向の一つにあり、一般的な高校教科書には出ていない事項が出題されたりする。例えば次の様な問題だ。「ヒトの体を構成する細胞が正常に機能するためには、細胞を構成する多様なタンパク質がそれぞれあるべき場所に運ばれる必要がある。これについて、細胞小器官に輸送されるタンパク質にはその輸送を指示するアミノ酸配列がある。なんというか。」
答えは「シグナル配列」(または「局在化シグナル」)。真核細胞(核の有る細胞)の細胞質のリボソームで合成されたタンパク質の中には特定の細胞小器官(ミトコンドリアとか核)にのみ輸送されて局在化するものがあるが、こうしたタンパク質の輸送を指示するアミノ酸配列をシグナル配列とか局在化シグナルと言ったりする。
この他にも、インスリンの様な「分泌タンパク質」とそうでないタンパク質の区別を問うた上で「エキソサイトーシス」(開口分泌)の仕組みを事細かに尋ねてくる問題も、某有名大学では過去に出題されたりする。この分野からの特異的な出題も結構、生物試験の穴場の一つとなっている様だ。
そんな事を頭の中で考えたりしている神波の傍にふと近づく者がいた。突然肩を叩かれ、神波が振り返るとムギュと誰かの指先が頬に突き刺さる。恋町だった。
頬を押さえながら神波が「恋町か。どうしたの?。」と訊くと「何だか退屈でね。それに神波とジュリアの間でなんかギクシャクしている壁みたいなものを感じたので、どーしたのかな?と気になってたのよ。」と恋町。
(コイツ、妙に感イイな。)と思いつつ、「う~ん、ちょっとね。いろいろと俺のことを探ってくるから。あんま干渉されるの、俺キライだから。」と言った。実際、イヤだった。神波は、血液型がAB型であったがそのせいかどうかは分からないが、基本的に孤独を愛する人間だった。ともかく過度に他人(たとえ親、兄弟、親友であっても)に干渉されたり付き合いを強要されるのは、イヤでイヤでたまらなかった。実際、一人で旅行したり一人で過ごしている時間の方が喧噪に狂った都会を離れて静かにのんびり暮らしたいと思う程に安らげたし、彼にとっては孤独な時間を一人過ごすことは、何よりも貴重な人生を実感できる唯一の現実でもあったのだ。
(別に厭世主義を気取ったり自己チューに徹してるわけではないが)とも思いつつ、神波は続ける。「ジュリアを見てるとなんというか、自分に正直過ぎる面があって逆にコワクなるんだ。自分がスキだと思った男には、トコトン感情も考えも愛情も自分というもの全てすらもブツケテくる。そういう彼女の純粋なトコが俺には分かるけどコワイしウザくもあるんだ。」
「それは、神波が他人からの愛情とかに臆病なだけだよ。」と恋町が反論する。「もっと楽に相手を受け止めればイイんじゃない?。自分の殻に閉じこもっても、他人との誤解や問題は解けないわ。他人との交わりなしには自分だけでは、決して知りえない世界もあるはずだわ。それは尊重すべき事なんじゃないかしら。」
(クソくらえ。)と神波は思う。それこそ、俺への勝手な干渉だろうがとも思う。だが、神波はやんわりと言った。
「ご忠告、ご指摘ありがとう。でもしばらく考えさせてくれ。」
暑い空気と水面の涼しい空気がぶつかり合って、ちょうどいい湿度と温度を運んできてくれるかの様だ。こうして半日以上走り続けて途中、昼食や燃料補給もあったが午後7時頃までには中継地点の港に到着した。今夜はここで一泊することになる。船酔いする者もなく、上陸してすぐに近くの食堂へと入っていった。大きな木造建ての一軒家だったが、ナポリタンとフルーツサラダ、アサイジュースが美味しかった。バンガローの様な宿泊施設に泊まったが、蚊対策に日本から蚊取り線香を持って行ったのは、正解だった。ここ現地では、蚊を媒介とした病気、例えばマラリアとかデング熱、日本脳炎が蔓延する時もあるので、脅威となっているのだ。ブラジルでは今の時期は秋にあたり、6月には乾季に入る。乾季に入ると降雨量もぐっと減り、川の水位が減り始める。川の上流の水嵩が高い方が捕獲量も多いだけに短期集中で捕獲したいところだ。
翌朝、早めに朝食を取り再び水上走行。所々にある生簀ポイントをマップで確認しながら、どんどん遡る。ジャングルや鬱蒼と茂る森林を対岸にはるかかなたには山脈の影を眺めながら、午後5時頃には無事、目的地へ到着した。そして今このクエストに挑戦しているのは、神波達の他にもう1組いることがそこで分かった。アメリカからのクエスト挑戦者で5人いた。日系ハイスクールの学生という紹介で女性ばかりの構成だった。その5人の日系アメリカ人女子の1人が、『ルシンダ・アオヤマ』と名乗って握手を求めた。彼女は、日系アメリカ人だという。父親が日本人で母親がイタリア系白人ということだ。髪は染めているのかブロンドだが、目はややグリーンの瞳だ。野生的な魅力が特徴で白いTシャツにジーンズのハーフパンツを履いている。日本語も達者でとても流暢に話す様だ。5人の中のもう1人が「ハーイ」と声をかけてきた。彼女は『サンドラ・キタハラ』と名乗る。栗色のロングヘアがとても綺麗で面長な娘だ。ピンク色のワンピースを身にまとっている。後の3人は、ルシンダことシンディが紹介してくれた。もう1人は小柄な女性で5人の中で最も背が低い。『サトミ・マヤマ』という名前だ。こちらは、両親とも日本人だが、両親とも海外で暮らしており彼女もアメリカで産まれたとのこと。顔立ちは東洋人というか日本人そのものだ。肩までの長さの黒髪に色白な肌が対照的な綺麗な娘だ。もう1人が『ソフィア・ソマーズ』という女性だ。彼女はとてももの静かな女性で、あまり積極的に会話には参加しないタイプの様だ。何よりも他の3人と比べてハーフっぽくなかった。金髪碧眼の美少女だった。そして最後の1人が『メーガン・ローレンス』。こちらもハーフであったが、より彫の深い顔立ちで全くの無表情が特徴的だった。冷徹というか冷ややかな眼差しで何とも不気味な感じがする。静かにグラスを傾けて飲み物を嗜んでいる。5人とも日本語を話せる様だ。
夜食も彼女らとともに食べ、すっかり意気投合した神波達だったがシンディは特に早瀬に興味を覚えたらしく、彼にひっきりなしに会話を持ち掛けたがる。夜食が終わった後も早瀬と話を続け、彼の肩に手を回したりしていた。随分と積極的な子だ。早瀬も満更ではない様子で楽しそうだったが、やがてお開きとなって皆、ホテルの自室へと各自引き揚げていった。
翌日、朝早くに2つのパーティは各々予定していたポイントへと目指していた。クエスト参加申請の段階でポイントは別々で行動するよう予定されていたので、ポイント重複で捕獲活動しなければならないことはなかったが、どのポイントの方がより多くのカンディルを捕獲できるかは分からなかった。神波たちはここで「撒き餌」を投入することにした。ロープで繋いだ大きなビニール袋に真っ赤な内臓やら腸やら血液やらが混じったひどい悪臭を放つモノが冷蔵庫から持って来られた。ソレが水中にドボンと投げ込まれる。なんでもブタの内臓や余り肉、それに尿なんだそうだ。そんなエゲツないモノを詰めた袋が撒き餌の中身として投入されたのだ。だが、袋が投げ込まれてものの10分も経たぬ内に恐ろしい事が起こった。川の波の様子が変わった。急に辺りがザザッとざわめいたかと思うと水の色が赤く染まった。いや、赤い水の川とそうでない川の部分とに分かれたというべきか。赤い部分はボートの周囲を取り囲み、さらに真っ赤になって波打った。バシャバシャバシャ。袋が水面にまで持ち上がる。袋はあちこちが食い破られ、赤いドジョウの様な生物がウニャウニャと集りまくって、中には袋の中にまで進入しているものもいる。カンディルだ。もう川の見渡す限りが赤くなり、まさに地獄の三途の川といった様相を呈している。ボートが波立つ程に揺れる頃、ボートの両側の舷側から巨大な四手網が下ろされる。網が水中に没するとしばらくして巻き上げられる。網の中から溢れんばかりの巨大な赤い塊が持ち上げられる。大量の血塊の様に真紅のカンディル達の大群が今、まさに水中から引き揚げられた瞬間だった。
ボートは微速前進し、近くにある生簀ポイントに向かう。生簀ポイントは川の岸辺にいくつか設置された巨大なプールで、カンディルをそこで放流し同時に計量が瞬時に行われて重量と匹数とがすぐに測定できる器械化されたシステムとなっている。
こうした所作を午前中だけでも7、8回行い、かなりの数のカンディルが水揚げされた。話には聞いていたものの、まさに「入れ食い」状態だったと神波は思う。次のポイントは下流なので、そこへと向かう。一行は、下流に向かう間、軽い昼食を摂った。
「結構、捕れたね。」と人形坂。「それにしても気味が悪い魚ね。まるでルビーみたいに真っ赤だったわ。」と恋町もその生態のおぞましさを聞いているだけに少し興奮している様だった。
「この調子で今後もヨロシク。」と神波は、出だしとしてはまずまず好調だった旨を強調した。午後も6時をまわる迄、幾度となく捕獲しまくり今日の日程を終えることにした。こうして初日が過ぎ、2,3日が過ぎた頃だった。
ある晩、夜食が済んで早瀬がホテルの自室に向かうため、廊下の角を曲がった時だった。いきなり後ろから腕を回され締め付けられるとともに、口元を白いハンカチで塞がれてしまった。
「ウ、ぐぐ・・・。」懸命にもがこうとした早瀬だったが、ツーンと消毒用のアルコールの様な臭いをかがされた途端、スッと気が遠くなってしまった。
しばらくして気がつくと、誰かの見知らぬ部屋へいた。まだおぼろげな感覚で視線を凝らしてみると、あの日系ハーフの1人、シンディがうっすらと微笑を浮かべて、ベッドの上から彼を見下ろしていた。
「ぼ、ぼくをど・・・どうするの?。」と早瀬がやっと口を動かすとシンディはまたもや微笑んで、「マモル、アタシはここへ来てから、ずっとオトコと寝ていないのよ。オトコと寝れないとアタシ、もう狂いそうになるの。どう?一晩アタシと付き合ってネ。」と静かに言い放った。そして、ウインクをした途端、突然早瀬に覆いかぶさるように抱き着いて濃厚なキスを絡めてきた。早瀬は最初バタバタと足をばたつかせていたが、シンディが彼の短パンに手を伸ばし、アソコをもみもみと刺激するともう大人しくなってしまった。そしてシンディは、ひとしきり揉んだ後で短パンをいきなりはぎ取ってしまったのだ。
「ホレ薬をアソコに塗ってあげる・・・。」とシンディは細長いチューブをどこからか取り出すとそこからクリーム状のものを右手に絞り出し、スリスリと彼のアソコにその手でクリームを擦り込み始めた。
「あ、ああっ・・。」と快感で身悶えする早瀬。やがて、どういうわけか彼は体全身が火照るように熱くなる感じがしてきて、ムラムラと抑え難い衝動が湧いてくるのを感じるのだった。今や、どちらからともなく体を重ねあって、2人は永遠に続くかと思われる幻惑した時間の中で、互いに求め合っていったのであった。
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鳳
SF
西暦XXXX年、突如としてこの国は天から舞い降りた勢力によって制圧され、
正体不明の蓋世に自衛隊の抵抗も及ばずに封鎖されてしまう。
海外逃亡すら叶わぬ中で資源、優秀な人材を巡り、内戦へ勃発。
軍事行動を中心とした攻防戦が繰り広げられていった。
生存のためならルールも手段も決していとわず。
凌ぎを削って各地方の者達は独自の術をもって命を繋いでゆくが、
決して平坦な道もなくそれぞれの明日を願いゆく。
五感の界隈すら全て内側の央へ。
サイバーとスチームの間を目指して
登場する人物・団体・名称等は架空であり、
実在のものとは関係ありません。
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