リ・インカーネーション

ウォーターブルーム

文字の大きさ
上 下
8 / 30
1.訪れの時

3.フェロモン・クエストへの挑戦

しおりを挟む
 サークルというかパーティの仲間という形で二人のパートナーを得て、神波はパーティの最初の活動として化学に本腰を入れることにした。入試科目の一つに化学を専攻した理由もあるが、化学を通じていろいろとやってみたいことがあったからだ。今、神波達が受けているのは「化学基礎・化学」という教科だが、まず初学者がつまづくのは組成式の書き方の理解からだ。これが簡単な様で意外と分かりにくい。
陽イオンの後に陰イオンを書く。ここまではいい。次に陽イオンと陰イオンの比を求めるわけだが、いきなり|陽イオンの電荷×陽イオンの数|=|陰イオンの電荷×陰イオンの数|という式が成り立つとか言われて、目が白黒しているうちにこの式をさらに比を求める式に変形?させて、|陽イオンの数:陰イオンの数|=|陰イオンの電荷:陽イオンの電荷|とかいう式が突然現れたかと思うと、先生曰はく「この様にして陽イオンの数と陰イオンの数の比を求めるのだ(コレでイイのだあ!と先生の心の声が聞こえるとか聞こえないとか)。」と結論づけることになって「ハイ、チャンチャン♬」と説明がまことしやかに終わる。神波が高校現役時代に教わった授業の説明は少なくともそうだった。
これは、要するに小学校時代の算数で習った「比例式」と言われるもののたぐいの応用に過ぎない。小学校の時に比とか比率とか習った際にa:b=c:dのときにad=bcが成り立つ、つまり(内項の積)=(外項の積)という事項を教わったはずだ。この陽イオンの数と電荷、陰イオンの数と電荷それぞれの比もad=bcだからその逆にa:b=c:dも言えるよ~ん、ということを示しているに過ぎないのだ。だが、小学校時代の知識なんかもう忘れてしまっている方々もいるだろうに、高校の授業では「暗黙の了解」という摩訶不思議な掟があって、そんなこと小学校で習ったんだから高校の授業では知っているはず・・のことを前提・・としている知識は敢えて教えないよ~だ!という厳しい掟のために質問などしても、「バカモン!そんなことも分からないのか!。」と質問したこと自体で怒られてしまい、サッパリ分からないまま、授業だけがドンドン進行していくという仕組みになっているのだ(過去のことで思い当たるかも知れない)。
当然のことながら、そういう「暗黙の了解」が了解できないまま、たくさんの了解できないことが積み重なっていけば、授業はますます理解できないし質問すればするだけ怒られるだけだから、化学・化学基礎という教科科目自体もますますつまらないし面白くなくなるのは、当たり前と言えば当たり前だろう。その生徒自身が、分からないことで苦しむのをむしろ「快感」ととらえるマゾヒストでもない限りは・・・。

 以上の例はなにも「化学基礎・化学」だけではない。特に理系の教科科目にはそういったことが原因で授業の落ちこぼれや理解できない者が出てくるのは多々あることだ。だが、どういうわけかそれを改善したり「掟」をやめようとする動きは、今の高校にも予備校の授業にも微塵も感じられないのは不幸なことだと神波は思うのだが、読者の方々はいかがだろうか。

 さて、話を戻して神波はパーティを招集して勉強以外の化学に関するある活動を提案することにした。それは「素材」収集のクエストだった。ギルドでは、受験者達への生活支援の一環として企業からの仕事の依頼を「クエスト」と呼んで受験者にあっせんしている。クエストによる様々な仕事をあっせん、照会してくれるシステムが存在しているというわけだ。仕事の達成難易度に合わせて、通常はAランク(最高に難しい)からFランク(最もお手軽)まであるが、最上級に難しいランクにはSランク(超難関)というものもある。通常はAからFまでのランクが依頼の主流だが、Sランクはそれこそたまにしか依頼が来ないという状況になっているらしい。
今回、神波達が受けるクエストは、ある製薬会社からの依頼で化学に関する仕事だ。依頼した製薬会社によれば、昨今開発した新薬で異性誘因フェロモン剤(つまり媚薬・・なわけだが)の原材料の一つである「コプリン」(ゴブリンではない!)という物質を多量に含む毒キノコの一種「ビッグ・ヒトヨタケ」を素材として、たくさん収集してきて欲しいということだ。
ちなみに「コプリン」はヒトのフェロモン候補物質の一つで、分子式はC₈H₁₄N₂O₄。過去にはフランス製の香水にも添加されたこともある物質で、ヒトヨタケ属のキノコ(学名:コプリヌス・アトラメンファリス)に含まれている。
やっかいなのは、普通のヒトヨタケは白色で柄の長いヒョロリとした何の変哲も無いただの小さな毒キノコなのだが、今回クエストのターゲットである「ビッグ・ヒトヨタケ」は、人間大の大きさもあるキノコでヒトが近づくと毒の胞子を吹きかけて、異性を好きで好きでたまらなくさせてしまう眩惑に陥らせてしまうらしい。そういう少しやっかいなリスクを伴うものの、ランクとしては「F」で報酬はキノコ1本あたり金5万円というクエストなので、うちのパーティの学習資金としては申し分ないものと判断して引き受けることにしたのだ。

 早速、提案したところ早瀬は簡単に同意してくれたが、恋町は当初不承不承というか、なんかしかめっ面で「仕方ないな・・・。」とこぼしていた。ところがこのクエストには「助っ人」としてどこで嗅ぎつけたのか、人形坂が加わる羽目になってしまった。
しかも「アタシ、手伝ってあげる。報酬はいらないわ。」とか人形坂は言うのだ。この助っ人の参加には恋町が大賛成で、男2人女2人のバランスがとれた?混成メンバーとなってしまった。
こうしてメンバーが決定したところで、ギルドに報告に行き計画書を提出する。ギルドで必要な資材や道具一式をレンタルし、いよいよスケジュールに従って出発することになった。目的地はニューギニア島のジャングル奥地だ。出発当日、まずは東京国際宇宙空港からスーパーシャトル便に乗って一旦、大気圏外まで出てニューギニア島の国際宇宙空港に到着する。この時代は宇宙にも進出していて、月には宇宙都市スペースシティまで築かれているのだ。一行がニューギニア島まで到着するのに1時間とかからなかった。

 国際宇宙空港のホテルで一泊した翌日、案内人が運転するジープに乗って現場の近くまで行く。そこからは緑の木々が鬱蒼と生い茂っているジャングルの奥地が続くばかりだ。パーティの一行はジープを降りた場所から徒歩で奥地へと進んで行く。先頭から神波、人形坂、恋町、早瀬の順での編成だ。先頭の3人は迷彩服を着てマスクとヘルメットを着用していたが、早瀬はマスク以外はいつもと変わらぬジャージと短パン姿だ。GPS移動位置確認装置を見ながら30分ほど歩くと、やがて大きな樹木の根元に高さが1メートル以上もある巨大な白いキノコの巨体が見えてきた。
「あ。アレだ。刈るぞ。」と神波が目くばせする。近づいて行くと突然、キノコからぷしゅーっとガスか何かが噴出する様な音がして、周囲に白い粉が飛散した。毒の胞子だ。慌てて、距離を取る。こちらも大きな長い柄のサイズを取り出して、キノコの根元を刈り取る。さいわいキノコ自体は柔らかく、スパッと刈り取ることに成功した。胞子もマスクを着用していたので影響は無かったようだ。胞子が飛散しないよう注意しながら、大きなケブラー繊維製の袋に二人がかりでキノコを入れ込む。こうして収穫第1号が無事終了した。収穫したキノコは帰りに運んでいくため、いったんはGPS装置で位置をマーキングした後でその場に置いておく。
「よし、次行くぞ。」

 その日は順調にも3体のキノコが収穫できたので、ホテルでギルドあての宅配便で送ることにした。翌日もジープで同じ所まで行ってそこから徒歩でジャングルに分け入った。昨日よりもさらに奥深く進んだところでまだ何の収穫も無かったが、休憩を兼ねた昼食を摂ることにした。密林の中にも開けた場所があったのでそこで食事を摂る。大きな倒木があったので、そこに腰を降ろした瞬間だった。突然、背後でぷしゅーっと音がして白い粉がふり撒かれた。
例の巨大キノコだ。木の陰でこちらからは全く見えなかったのだ。ぷしゅーつ、ぷしゅーつとたちまち4人の全身に白い胞子の粉が浴びせられ、もんどり打って神波たちは倒れてしまった。倒れて手足をバタバタさせてもがいていても、キノコはさらに容赦なく胞子の粉を4人に浴びせ続ける。ついに4人とも全身、頭の先から足先まで真っ白になってしまった。しかも食事をするという油断からこの時ばかりは、マスクもヘルメットも装着していなかった。
「うわあー、く、苦しいっ・・・。」、「キャーッ」。早瀬も「苦しいようっ・・・だ、誰かたすけて・・。」とかすれた声で叫ぶのだった。神波はあまりの苦しさにフッと気が遠くなってしまった。

 どれほどの時間が経過したことだろう。胸の辺りの圧迫感を感じてようやく神波は目を覚ました。
(アア、俺たちキノコにやられちゃったんだな。みんな大丈夫だろうか・・・。)と思い、ヒョイと顔を上げるとそこには異様な光景が繰り広げられていた。人形坂の顔が神波の胸の上にあった・・・。なぜか服がはだけて、神波の厚い胸板を愛撫する人形坂の恍惚とした表情がそこにはあった。
「うう・・・う、ううっ。」と押し殺したようなうめき声が近くから聞こえてくる。倒れたまま横を見ると、恋町が早瀬に倒れた体勢のまま抱きついて、彼の短パンの鼠径部に手を押しあてようとしている場面が目に入った。恋町の目はトロンとして何かに憑かれている様な表情をしている。一方、早瀬は目を閉じて恋町にされるがままになってしまい、顔を真っ赤にして何かに感じて耐えているかの様にしきりにうめいていたのだった。
(は、早くなんとかしなきゃ・・・。)と神波は体を動かさそうと試みてみたが、痺れてしまったかの様に感覚がなくなり、体を自由に動かすことができない。もがけばもがく程、ドロ沼にはまっていくような気持ちだった。そしてしばらくすると、自分もなんだかイイ気分になって目の前の人形坂を抱きしめたい衝動に駆られてきた。心の中では必死に抵抗していても、体がだんだんと自分の意志とは全然別の方向へ行ってしまう様な感じだった。
(こ、このままじゃダメだ・・・ど、どうすればいいんだ・・。)心は焦るものの、神波の意識は再び奈落の底へ吸い込まれる様な感覚に襲われ始めていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『星屑の狭間で』(チャレンジ・ミッション編)

トーマス・ライカー
SF
 政・官・財・民・公・軍に拠って構成された複合巨大組織『運営推進委員会』が、超大規模なバーチャル体感サバイバル仮想空間・艦対戦ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』を企画・企図(きと)し、準備して開催(かいさい)に及んだ。  そのゲーム大会の1部を『運営推進委員会』にて一席を占める、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』として、順次(じゅんじ)に公開している。  アドル・エルクを含む20人は艦長役として選ばれ、それぞれがスタッフ・クルーを男女の芸能人の中から選抜して、軽巡宙艦に搭乗(とうじょう)して操り、ゲーム大会で奮闘する模様を撮影されて、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』の中で出演者のコメント付きで紹介されている。  『運営推進本部』は、1ヶ月に1〜2回の頻度(ひんど)でチャレンジ・ミッションを発表し、それへの参加を強く推奨(すいしょう)している。  【『ディファイアント』共闘同盟】は基本方針として、総てのチャレンジ・ミッションには参加すると定めている。  本作はチャレンジ・ミッションに参加し、ミッションクリアを目指して奮闘(ふんとう)する彼らを描く…スピンオフ・オムニバス・シリーズです。  『特別解説…1…』  この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移(せんい)します。 まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察(どうさつ)力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』と言う。 追記  以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。 ご了承下さい。 インパルス・パワードライブ パッシブセンサー アクティブセンサー 光学迷彩 アンチ・センサージェル ミラージュ・コロイド ディフレクター・シールド フォース・フィールド では、これより物語は始まります。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

静寂の星

naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】 深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。 そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。 漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。 だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。 そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。 足跡も争った形跡もない。 ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。 「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」 音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。 この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。 それは、惑星そのものの意志 だったのだ。 音を立てれば、存在を奪われる。 完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか? そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。 極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。

Night Sky

九十九光
SF
20XX年、世界人口の96%が超能力ユニゾンを持っている世界。この物語は、一人の少年が、笑顔、幸せを追求する物語。すべてのボカロPに感謝。モバスペBOOKとの二重投稿。

銀河辺境オセロット王国

kashiwagura
SF
 少年“ソウヤ”と“ジヨウ”、“クロー”、少女“レイファ”は銀河系辺縁の大シラン帝国の3等級臣民である。4人は、大シラン帝国本星の衛星軌道上の人工衛星“絶対守護”で暮らしていた。  4人は3等級臣民街の大型ゲームセンターに集合した。人型兵器を操縦するチーム対戦型ネットワークゲーム大会の決勝戦に臨むためだった  4人以下のチームで出場できる大会にソウヤとジヨウ、クローの男3人で出場し、初回大会から3回連続で決勝進出していたが、優勝できなかった。  今回は、ジヨウの妹“レイファ”を加えて、4人で出場し、見事に優勝を手にしたのだった。  しかし、優勝者に待っていたのは、帝国軍への徴兵だった。見えない艦隊“幻影艦隊”との戦争に疲弊していた帝国は即戦力を求めて、賞金を餌にして才能のある若者を探し出していたのだ。  幻影艦隊は電磁波、つまり光と反応しない物質ダークマターの暗黒種族が帝国に侵攻してきていた。  徴兵され、人型兵器のパイロットとして戦争に身を投じることになった4人だった。  しかし、それはある意味幸運であった。  以前からソウヤたち男3人は、隣国オセロット王国への亡命したいと考えていたのだ。そして軍隊に所属していれば、いずれチャンスが訪れるはずだからだ。  初陣はオセロット王国の軍事先端研究所の襲撃。そこで4人に、一生を左右する出会いが待っていた。

3024年宇宙のスズキ

神谷モロ
SF
 俺の名はイチロー・スズキ。  もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。  21世紀に生きていた普通の日本人。  ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。  今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

Condense Nation

SF
西暦XXXX年、突如としてこの国は天から舞い降りた勢力によって制圧され、 正体不明の蓋世に自衛隊の抵抗も及ばずに封鎖されてしまう。 海外逃亡すら叶わぬ中で資源、優秀な人材を巡り、内戦へ勃発。 軍事行動を中心とした攻防戦が繰り広げられていった。 生存のためならルールも手段も決していとわず。 凌ぎを削って各地方の者達は独自の術をもって命を繋いでゆくが、 決して平坦な道もなくそれぞれの明日を願いゆく。 五感の界隈すら全て内側の央へ。 サイバーとスチームの間を目指して 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

処理中です...