~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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時越えの詠嘆曲《アリア》

決まらない指針

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「……で、これからどうするの?
 その怪しい魔導士の足取りを追ってみる?」

会話が途切れたタイミングを狙ってか、フィルが
今後の行動の指針を訪ねてくる。
さて、どうするべきかな……私達自身はたちまち手が空いてるので
ユージスさん達の手伝いをするのは吝かじゃない。
とは言え魔導士が王国の変異に関わってるって言うのは
あくまで過去の行動からによる憶測に過ぎないから
本格的に追うにはもう少し裏取りが必要かな。
後はその魔導士が関わってなかった場合も
考慮して動かないといけないよね、となれば……

「……いや、それは俺達だけでやる
 レン達は他にそんなことを仕出かしそうな奴が他にいないか調べてくれ
 勿論、レン達の都合を優先しながらで構わない」

同じ事を思い至ったのか私に先んじてユージスさんが答える。

「……そう、貴方がそう言うなら私達はそれに従うわ
 そうでしょ? レン」

ユージスさんの答えにフィルは僅かに微笑んで返し
私に振ってくる。

「うん、私もそれがいいと思う
 まだその魔導士が完全なクロって確証は無いし
 他の可能性を探るのは必要だしね」

フィルの振りに私が答える。

「……黒?
 レン、その魔導士の色が黒くないといけないの?」

だけどフィルは私の答えに疑問を持ったらしく首を傾げながら聞いて来る。
……いやいや、そーじゃなくって。
と言うかこの世界じゃこの表現は通用しないのね。

「いや、そうじゃないよ
 私達の世界の表現で、犯人が確定する事を黒いって言うんだよ」

取り合えずフィルに説明する。
……こういう事があると自分が異世界にいるって事を痛感するなぁ。

「ふぅん、レンの世界って面白い表現をするわね
 けど、意味は納得したわ」

フィルが笑顔を向けて答える。

「ふっ……確かにな
 ならレンの表現を借りて、この魔導士が黒かどうかは俺達が突き止める
 レン達は他に黒そうな奴がいるかどうか情報を集めてくれ」

ユージスさんもにやりと笑いながらさっきと同じことを
態々表現を変えて言い換えてくる。
妙な展開だけど、みんなの雰囲気が柔らかくなったのならいっか。

「分かりました、ですが気を付けて下さいね
 マリスの話だと相当ヤバい奴みたいですから」
「ああ、肝に銘じるよ
 そっちも無茶すんじゃねぇぞ」

私とユージスさんはお互いにそう言い合い、頷き合った。


………



………………



………………………


「で、具体的にはこれからどうするの? レン」

ユージスさんに別れを告げ、私達は王国の大通りへと繰り出した時
フィルが私に問いかける。
具体的にかぁ……とは言っても今の私達では情報が少なすぎて
取れる手があんまりないよね、となれば……

「マリス、前に『首無し』……変異ドラゴンの中にあった魔晶石だっけ
 それを協会に渡したよね? それって何か進捗あるのかな?」
「えっ?」

取りあえず思いついた事をマリスに聞いてみる。
生物を変異する……と言えば帝国で戦ったトロールも王国で戦った
『首無し』も同じようなものだ、まぁあっちは元の姿とはかけ離れてたけども。
でもマリスはそんな変異をしてたとも言ってたし
その点で調べるのもありだとは思う。

「進捗ねぇ……あの時はお金になればいっかな~としか考えてなかったから
 研究の報告を聞く気なんて無かったんだよね
 尤も、あちらさんも進んで教えてくれる訳じゃないけど……」

マリスが少し困ったような顔をして答える。
そうなんだ、まぁ協会って所も秘密主義みたいな感じだしね。

「でもあの魔晶石を提供したのはマリス達だしね
 協会に行って聞けば教えてくれるとは思うよん」

けど、そんな考えとは裏腹にマリスはあっけらかんと言って来る。

「え? 教えて貰えるの?」
「そだよ、協会はあくまで学問を収める所
 流石に全部が全部とは言わないけど、基本聞かれた事には
 答えるスタンスなんだ」

意外な答え絵に思わず問い返しちゃったけど
マリスはさも当然の様に答えてくれる。
言われてみればマリスもイメルダさんも聞いた事は基本答えてくれてたよね。
研究室に籠ってるイメージが先行してて何だか
秘密主義みたいな感じに思ってたよ。

「となれば、その魔導協会に行った方がよさそうかな?
 でもマリス、前に『首無し』を引き渡した時連絡を取ったって言ってたよね
 それを使えば行く必要はないのかな?」

私はあの時の事を思い出しながらマリスに聞く。
あの時マリスは何らかの手段で協会に連絡をつけて
首無しを引き取るよう段取りをつけてたよね。

「ん? あれの事?
 アレは『転移トランシジョ文字ン・レター』って魔法で、予め決めた相手の目の前に
 文字を映し出す魔法だから会話みたいなやり取りには向かないんだよ
 文字数もそんなに多く送れないし、他の人には見えないしね」

私の質問にマリスは苦笑しながら手を振って答える。
そんな魔法があるんだ、と言うかメールみたいだねそれ。

「協会に行く……ね
 レンが行くなら私も行くけど、正直遠慮願いたいわ」

そしてフィルが露骨に嫌な顔をする。
まぁ神官は魔導士が嫌いなのがデフォらしいし当然の反応だろう。

「協会としては歓迎すると思うけどね~
 対話してくれる神官なんて貴重だし、聖騎士クルセイダーなんかと目が合ったら
 基本問答無用で殺しにかかってくるからね、あははは」

だけど魔導士達はそこまで神官達に悪感情を抱いていない事を
いつもの調子に戻ったマリスが告げる。
……ってちょっと待って、今聞き捨てならない事をサラッと言ってないマリス!?

「……ちょっと待ちなさいマリス、アンタそれを知ってて
 あの時聖騎士クルセイダーの前にいたの!?」

同じ事を思ったフィルが焦った様子でマリスに迫りながら問い質す。

「あははは、あの時は流石に焦ったよ
 まぁ向こうさんもマリスに関わってる余裕なんて無さそうだったし
 旨くフィルミールお姉ちゃんが関心を引いてくれて命拾いしたよ」

そんなフィルの様子にも動じず、あっけらかんと答えるマリス。

「こ、コイツは……」

あまりにもあっけらかんと言う様に怒る気力を根こそぎ奪われたのか
呆れたように頭を抱えて声を絞り出すフィル。
……いや、いくらトラブルが大好きだからって
そんな命の綱渡りみたいな事を楽しそうに言うのはどうかと思うよマリス。
非常にマリスらしいっちゃらしいんだけれども……
……けど、そんなマリスがシリアス一辺倒になって話す
あのバレリオって魔導士の危険性が際立ってくる。
ユージスさん、無茶しなきゃいいけど。
取り合えず、聖教とは逆に協会へフィルが行っても揉め事は起こら無さそうかな
フィルは嫌がってるけど……ここは我慢してもらうしかないかな。
気を遣ってリアと一緒に留守番して貰おうと言ったら逆に私が怒られかねない。

「なら、たちまちは準備を整えて協会へ向かうのがいいのかな?
 マリス、協会ってどこにあるの?」

取りあえずの行動方針を決め、マリスに協会の場所を聞くも
マリスは少しだけ気まずそうな顔をして

「……ゴメン、聞けば教えてくれるって軽く言ったけどさ
 今マリス達が協会に行くことは難しいんだ」

そんな事を言って来るマリス。

「どうして?」

思わず聞き返す、するとマリスは苦笑をして

「いや、協会ってここからだと帝国内を通らないと行けない場所にあるんだよ
 帝国の西、あの変異トロールと戦ったシェリンの町をさらに西に行った
 砂漠のど真ん中にあるんだよね」

マリスはやれやれと言った口調でそう答える。
……それなら確かに難しい、帝国内では私達は未だにお尋ね者状態だ。
王国から出てリーゼに乗って行けば可能かもしれないけど
帝国から脱出する時にリーゼの竜形態は見られてしまってる
見つけられたら即座に攻撃を仕掛けられるだろう。
リーゼの事だから滅多な事では落ちはしないだろうけど、それでも
無いとは言い切れない、マリスの言う通り現状では難しいね。
更に言えばリアの事もあって王国から長期的に離れたくはない。
何か決定的な情報が手に入るまでは遠出は控えた方がいいだろうね。
弱ったな、いきなり行動指針が挫かれてしまった。
どうずるべきかと、私は再び次の行動をどうするか思案を巡らせることにした。
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