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時越えの詠嘆曲《アリア》

協会の惨劇・I

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マリスは渋々ながらも話す事を了承してくれた。
さて、そう言う事なら……

「ありがとマリス、そしてユージスさん
 流石にこんな所で出来そうな話じゃなさそうですから……」
「そうだな、俺んとこのギルドハウスで続けた方がいいな」
「ありがとうございます」

私の言いたい事を察してユージスさんが提案してくれる。
後は……

「リア、悪いけど心の宿り木でマルティーヌさんと
 留守番しててくれないかな
 ちょっとリアには怖すぎるお話をするから……ね」

未だイメルダさんの腕の中にいるリアに話しかける。
マリスやイメルダさんの言い方からして、気分が悪くなる
話になること請け合いだ、流石にリアに聞かせる訳にはいかない。
下手をすればトラウマが再発しかねない、と言うかその可能性が高い。

「……分かった」

リアは一瞬だけ不満そうな顔をするけど、素直に頷いてくれる。

「ゴメンね、後でなるべく怖くならない様に話すからね」

私がそう言ってリアの頭を撫でると、ちょっとだけくすぐったそうに
目を細めた後、イメルダさんの腕の中から出る。

「あ……」

その様子を凄く残念そうな顔で見るイメルダさん。
いやどんだけ小さい女の子好きなのさ。

「……なら、私はリアちゃんと一緒に心の宿り木に行ってるよ
 みんなに話すならマリスちゃんだけで十分だし、それに私から
 リアちゃんに話しておいた方が手間が少なくなるからね
 ね、ね、いいよね!?」

だけどイメルダさんはそんな事を言いながら私に詰め寄ってくる。
いやホント、どんだけリアと一緒にいたいのさこの人は……

「え、ええ……リアの傍に誰かいてくれるのは有難いですけど……」
「いいんだね!? なら決定!!
 それじゃ行こリアちゃん、私が怖くない様に話してあげるからね♪」

再び上機嫌に戻りリアの手を取るイメルダさん。
そんな様子を見てリアは若干不安そうな顔を私に向ける。

「悪いけど、リアが嫌じゃなかったら付き合ってあげて
 イメルダさんならリアが嫌がる事は絶対しないから、ね」
「……分かった」

私の言葉に素直に頷いてくれるリア。
……若干の不安はあるけど、リアの事はイメルダさんに任せておこう。

「そんじゃ、俺達のギルドハウスに行くか
 気分のいい話なら俺の料理を振舞うんだが、そう言う話には
 ならなそうだしな」

そしてユージスさんも若干残念そうに言う。
いやいや、ある意味マリスの話とは合いそうだけどそんな事をしたら
私はともかくフィルが確実に精神的に死んでしまう。

「ま、少なくとも食事中にする様な話じゃないから
 今回は遠慮しといたほうがいいかな」

マリスが苦笑しながら答える、流石にマリスもマズいと思った様だね。

「残念だが仕方ねぇ、俺の料理はまた今度だな」
「ええ、また今度で」

顔が引きつるのを我慢しながら笑顔で返事をする私。
ユージスさんには悪いけど、そんな機会が永遠と来ない事を願うよ。
そんな事を思いつつ、私達はリアをイメルダさんに任せ
ユージスさん達のギルドハウスへと向かった。


………



………………



………………………


「そんで、そのバレリオって魔導士がどんな事をやらかしたってんだ?」

ユージスさんはギルドハウスに付き、みんなに飲み物を配るや否や
マリスに問いかける。

「……とても悪趣味な事だよ
 人でなしの魔導士が『人でなし!!』って叫ぶくらいのね」

マリスはさっきと同じ様子のまま淡々と答える。
……はっきり言ってマリスのこの様子は異様だ、リアを助け出す時だって
おちゃらけは鳴りを潜めてたけど軽い口調なのは変わらなかった。
そんなマリスがこうも淡々と答えるなんてよっぽどのことがあったに違いない。

「人でなしが人でなし……ね
 魔導士が人でなしの自覚はあったのね」

そんなマリスにフィルが何時もの様に棘のある発言をする。

「まぁね、魔導士は魔法の追及が至上命題だから
 それが達成できれば基本他人がどうなろうが知ったこっちゃないし
 平気で命を弄ぶ人でなしだよ」

だけどマリスはそんなフィルの言葉を何でも無い様な口調で返す。
そんなマリスの様子が気に入らないのかフィルは
眉を吊り上げるけどそれ以上は何も言わない。
……アレはフィルもマリスの様子がおかしい事に気付いてるね。

「だけど、そんな人でなしたちも一応ルールってモノがあってね
 人を材料にする時は国から支給された罪人か敵対者のみとか
 大規模な実験をする時は基本隠蔽しやすい所にするとか
 そう言うものだけどね」

マリスはひたすらに淡々と説明する。
……確かに一般的な倫理観からは外れたルールではあるっぽいけど
ある程度の秩序はあるって感じかな、恐らくは国家に睨まれない様に
するための物っぽいけど。

「当然それらを破ったら制裁はあるよ
 まぁ大抵はお偉いさんが集団でフルボッコにした挙句
 自分の研究成果どころか肉体まで奪われた挙句、魂を燃料にされたり
 もしくは実験材料にされたりって感じだけどね」

うわ、それはちょっとえげつないね。
でもそれだけの事をしないと自分本位な魔導士達を
纏めるなんて出来ないんだろうけど。

「けどソイツ……バレリオはそれを平気で破った
 マリスもたまたま近くにいて目撃したって感じだから詳しくは知んないけど
 ソイツは人を攫って実験したり、周りの被害を顧みないで
 無茶苦茶な実験したりと好き放題やってたみたいなんだよね」

……そう言う事か、そのバレリオって人だっけ? マリスが協会から追い出された
とは言ってたけど自分達のルールを犯したらそりゃ追い出されるよね。
とは言え冗談抜きで自分の研究が進めば後はどうでもいい、むしろ
研究を進める為の材料って感じの考えの人っぽいね。
……成程、確かにこれはマリスの言う通り胸糞悪くなりそうだね。

「んで、例によってお偉いさんが徒党を組んでソイツをフルボッコに
 しようとしたんだけど、ソイツはそれを予見してたみたいで
 先手を打ってお偉いさん達に攻撃を仕掛けたんだよね
 ……まぁ、その攻撃方法が激しくえげつない事柄だったんだけど」

マリはそこまで話すとふっと一息を吐く。
激しくえげつない、ね。
確かその人の研究って『命の保存』だっけ、となれば
死なない化け物でも量産してけしかけたとかって感じかな。
……材料を考えると確かにえげつないね、これ。
けど、その後のマリスの言葉は私の想像した物ではなく……

「ソイツがやった事は2つ
 先ずは『生物を変異させる病気』を蔓延させた事」

マリスは口調を変えないまま、事実だけを言い放つ。
生物を変異させる病気? 魔法じゃないの?

「ソイツは魔法を発動させるそぶりも見せず、ただただ近寄っただけで
 人間どころかあらゆる生物を変異させていったんだよ
 その変異も様々でさ、若返ったり年を取ったり性別を変換させたり
 ……元が分からない様な悍ましい生物に変わったのもいたね」

生物の変異……成程、確かにそれはユージスさんが言った
王国で人が変異していった事柄に似てる、マリスが
関連性があるかもと言っても不思議じゃない。

「……成程な、そんな事をやらかした奴なら
 王国で起こってた変異事件もやらかしてんじゃないかって思うわな」

ユージスさんが不愉快そうに吐き捨てる。
それに化け物にまで変異させてたって、それって帝国で戦ったトロールや
ついこないだのドラゴンもそんな感じだったよね。
となるとあれらもその人が作ったって可能性が高いのかな?
けど、その人がやらかした事ってそれだけじゃないんだよね?




「……そしてもう1つの方が更にえげつなくてね
 ソイツはその変異した生物を……『取り込んで』行ったんだよ
 まるで吸い込むようにね」




マリスは調子を変えず、だけど不愉快そうに吐き捨てた。
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