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時越えの詠嘆曲《アリア》

変異の王国

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「行ったら死ぬか……聞けば聞くほど現実味を帯びて来たね」

ユージスさん達の情報を聞いて私はぼそりと呟く。

「まぁそうだろうな、俺達もあそこには近づく気にもならねぇ
 あそこにお袋の手掛かりでも無ければ……な」

私の呟きにユージスさんが呼応した様に言う。
ん? ユージスさんのお袋さんって確かマルティーヌさんだよね?

「お袋の手掛かり……って、マルティーヌさんやっぱり何かあるんだね」

何気なく聞いてみる私、他人のプライベートには
深く関わり合いになるべきじゃないけど、流石にあのマルティーヌさんは
異端にも程がある、世話になってる事だし
何か力になれるなら聞いておくのもいいかもしれない。

「……まぁな、レン達はこの国に来たばかりだから知らねぇだろうが
 1年前から王国内で妙な事が起こり始めてんだよ」
「妙な事……まぁマルティーヌさんを見てたら何が起こってるかは
 大体は把握できるけど」
「それだけじゃないんだよ、フィルミールちゃん」

ユージスさんの言葉にフィルが反応するも
それを即座に否定するイメルダさん。
……どういう事かな?

「ああ、妙な事って言うのは王国の人間の姿形……と言っても
 人間から変わる訳じゃねぇんだが、ある日を境に大人が子供になったり
 男が女になったりとか、兎も角それまでの姿から一変するんだよ」

ユージスさんが真剣な表情のまま言葉を続ける。
人の姿が変わる……ねぇ、まるで漫画の世界だ。
身体は子供、頭脳は大人とか何らかの条件で性別が反転するとか
昔よく見た気がする。
まぁ漫画とかだから娯楽で済んでるけど、それが現実に起こってたら
混乱は必須だろう。

「おんや、マリスが王国にいない間にそんな事になってたとはねぇ」

マリスが興味深そうな表情で呟く。
……と言うかマリスも見た目に対して分不相応に知識を持ってるよね?
でもマリスがこんな反応をしてるって事はマリスは関係ないのかな。

「けど、そんな事が起こってる割に騒ぎになって無いじゃない
 普通はもっと混乱すると思うんだけど」

フィルが尤もな疑問を口にする。
確かにそうだ、そんな事が起こっているのにもかかわらず
王国の雰囲気は平穏そのものだ。

「……姿形が変わると言ってもまるっきり別人になるって訳じゃねぇし
 それ以外に何か実害があったって訳じゃねぇんだよ
 最初の1か月ぐらいはまぁ混乱はあったが、それ以降は
 慣れてしまってる奴らが大半なんだよ、うちのお袋を含めてな」

ユージスさんが若干悔しそうに吐き捨てる。
確かにマルティーヌさんも慣れてしまってる様だったね。
けどユージスさんから見たら自分の親がある日突然子供の姿になったなんて
心中穏やかではいられないんだろう。

「成程ね~、それでその変異とやらは
 今も起こってるのかな?」

今度はマリスが疑問を口にする。
その言葉にユージスさん達は首を振り

「ううん、半年前位はそれなりにあったみたいだけど
 今は起こってないみたい、変化させられた人は元に戻ってはいないけど」

マリスの疑問にイメルダさんが答える。
……ふぅむ、これまた何だか妙な事件? だね。
人の姿を変える事自体も妙だけど原因はまるで想像できない。
自然に起きた事ならあまりにも効果が限定的過ぎるし、人が起こした事なら
目的が分からない、強いて言えば何かの人体実験か?

「益々妙ね、それに今は起こって無いから原因を探るのも難しい
 ギルドや国、それに聖教も色々動いたんでしょ?」
「ああ、だが結果は空振りさ
 王国はまだ調査をしているみたいでそれ関係の依頼がたまに来るが
 聖教は完全に手を引いちまってる、まぁあっちはあっちで忙しいだろうから
 無理もねぇが」

フィルの質問にユージスさんが吐き捨てる様に言う。

「……だが、このままって訳にはいかねぇのも確かだ
 普通じゃ考えられねぇ事が起こってんだ、このまま平穏無事に済む訳はねぇ
 その前に何とかしねぇとな」

ユージスさんは真剣な表情を崩さず、そして決意を秘めた目で言う。
家族の為……か、私の家族はもういない。
私を産んでくれた父さん母さんも、育ててくれたお爺ちゃんも
そして血を分けた兄弟も、私が恩を返す前にみんな死んでしまった。
死んでしまっては何も返せない、そしてそれが大きな後悔になる。
……そんな想いを他の人にさせる訳にはいかないよね。

「そうですね、マルティーヌさんには私達もお世話になっています
 ……丁度体も空いている事ですし、私達でよければいつでもお手伝いしますよ」

私の心で苛む後悔を押し殺しつつ、きわめて軽い口調でユージスさん達に告げる。

「レン……?」

私の言葉にフィルが少しだけ訝しげな表情でこちらを向く。

「丁度依頼も無くなったし、それに特に急いでる用事も無いしね
 マルティーヌさんに何かあったら私達も困るんだし、ここは
 手伝えるなら手伝った方がいいと思ったんだけど」

そう言いながらフィルの方へ向く。
また変な事に首を突っ込むと怒られるかと思ったけど、フィルの表情は
怒ってる様子じゃなく、むしろ私を心配しているような感じだ。
……これは、後悔を押し殺してるのを見破られたかな?
私の事には異常に察しがいいフィルの事だ、恐らく私が無意識に
表情を曇らせたのを察知したんだろう。
……やれやれ、ホントにフィルには敵わないな。
とは言えそれを表に出すつもりはない、これは私の心の問題であって
今更どうこう出来ない過去の事柄なんだから。

「レンがそう言うなら……いつも通り私はそれに従うだけよ」

一瞬だけ見合った後、フィルはふっと微笑みかけてくれる。
気を遣わせちゃったかな、けどやっぱりフィルのこの言葉は嬉しい。

「それがマスターの決定であれば、我はそれに従うだけです」

リーゼのいつも通りの返答、リーゼに関してはもう少し
自分の事に心を向けてもいいとは思うけど……
まぁ、その忠誠心に甘えちゃってる私が言う言葉ではないかな。
仲間2人はいつも通りの返答……ってあれ?

「……」

いつもならこんな厄介そうな事柄に率先して首を突っ込むマリスが
何やら真剣な表情をして考えこんでる……珍しいね。

「マリス、どうしたの?」

流石に少しだけ心配になって声をかける、何処か体調でも悪いのかな?

「ん? ああゴメンゴメン、ちょっと考え事してたんだよ
 うん、ユージスお兄ちゃん達のお手伝いをする事はマリスも異論無しだよ」

私の声掛けにすぐに顔を上げて答えるマリス。
けど、マリスが考え事をするって事は……

「マリス、この件について何か心当たりがあるの?」
「何っ!? そうなのかマリス!?」

私がマリスに問いかけると私を押しのける勢いで
ユージスさんがマリスに顔を近づける。

「ちょ、ちょっとユージス!?」

思わず席から立ち上がりユージスさんを止めようとするイメルダさん。
……それでもリアを抱き締めたまま離さないのは流石だ。

「心当たりがあるならどんな事でもいい、教えてくれ!!
 礼ならいくらでもする!!」

そんなイメルダさんの制止も聞かず、ユージスさんは
まるで噛みつかんばかりにマリスに詰め寄る。
けど、マリスはそんなユージスさんに対しても慌てるようなそぶりは見せず

「ん~~~、心当たりといえばそうかな
 マリス、そんな事をやりそうな魔導士大馬鹿を知ってるんだ
 まぁ、王国の件にソイツが関わってるかまでは分かんないんだけど」

さらっとそんなとんでもない事を言ってのけるマリス。

「な……何だってええぇぇぇぇ!!」

ギルドにユージスさんの説教が木霊する。
自ら首を突っ込んだとはいえ、これはまた厄介事の予感がして来たね。
私は心の中で軽く溜息を吐くと、マリスの次の言葉を待った。
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