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時越えの詠嘆曲《アリア》

不良聖女・III

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「レン、貴方毎度の事ながら突拍子もない事を考えるわね……」

私の案を聞いたフィルが頭に指を添えて呆れたように吐き出す。

「そんな突拍子もない事だとは思わないよ、現に
 前例が目の前にいる訳だしね」

私はフィルを見つめながらにっこり笑って言う。
それを見てかフィルも苦笑して

「……そうね、と言うか私が1番早く思いつくべき事柄よね」

そう言って息を一つ吐き私に笑いかけてくる。

「じゃが、どうやってあの嬢ちゃんにそれを提案するんじゃ?
 はっきり言って儂らの言う事なぞ毛先ほども信用しそうにないぞ」
「その辺りは……フィルミールお姉ちゃんに期待するしかないね~」

顎髭を撫でながら不安要素を挙げるゼーレンさんの言葉に
すかさずマリスがフィルに笑顔を向けて言い放つ。

「……はい?」

いきなりの事で呆気に取られるフィル、だけどすぐに正気を取り戻し

「いやいや、何故私が!?
 そう言うのはマリスアンタの役目でしょうに!!」

焦りながらもマリスに反論する、まぁいつもならこう言う交渉事は
マリスに丸投げしてるんだけど……

「いや、今回はマリスじゃダメなんだよ
 マリスは魔導士だから、あの人には1番信用されないとおもうよ~」

そうなのだ、出奔したとはいえミァザさんは聖教に属していた人だ。
犬猿の仲の魔導師の言う事など普通に考えたら信用しないだろうね。

「だからって……じゃあレンやゼーレンは?」
「マリス嬢ちゃん程じゃないにしても、あの嬢ちゃんにとっては儂等も
『自分を連れ戻しに来た冒険者』じゃろうから信用はされんじゃろうて」

私達の方へ向いて言って来るフィルをゼーレンさんは首を振って返す。

「けどフィルならだからこの提案をするには
 1番説得力あるんだよ、だからここはフィルが適任って訳」
「だ、だけど……」

フィルは自分が適任だという理由を聞いてもそれでも踏ん切りはつかない。
まぁ聖教自体が冒険者をタブー視してるみたいだからそれを勧誘するのは
気が引けるのも無理は無いけど……
仕方ない、ここはひとつ卑怯な手を使わせて貰おうかな。

「……フィル、お願い
 全てを丸く収めるには、フィルの力が必要なんだよ」

私はフィルの顔をまっすぐ見つめて肩を掴み、真剣な表情で頼み込む。
少し驚いた表情のフィルの顔に赤みが差して来る。
……我ながらズルいよねホント。

「……はぁ、ほんっとにレンってば卑怯なんだから
 そう言われて、私がレンの頼みを断る訳ないじゃない」

視線を外してそっぽを向き、少し拗ねた表情のフィルが
非難じみた言葉を言って来る。

「けど、そんなレンに惚れた私が悪いんだしね
 現に、こうやってレンに頼みごとをされるのが凄く嬉しいんだから」

フィルはそう言葉を続けた後、ふっと微笑んで
ミァザさんの方へ振り向いた。







「……ったく、こんなとこまで追って来るとは
 思ってた以上にしつこいなアイツら」

アタシは差し向けられた追手らしき冒険者を見ながら毒づく。
こんな信仰心のカケラもなく言う事も聞かない女なぞ
さっさと見限ると思ってたんだけどな……

―――物心ついた時、既にアタシは奴隷だった。
両親は知らない、同じ奴隷としてくたばったか、それともはした金の為に
アタシを奴隷商人に売り飛ばしたかのどっちかだろう、恐らくアタシと同じ
ロクな人生は送って無い筈だ。
ミァザと言う名前も奴隷商人からアタシを買った奴がつけた名前だ。
アタシは右も左も分からないままその男に買われ……そして
玩具として好き放題にされた。
そう、その男がアタシを買った理由も労働力為じゃなく、所謂
奴隷娼婦スレイブ・ホア』として玩具にする為だ
しかもまだ10歳にもなってないアタシをね。
正直気持ち悪かった、恐怖と苦痛を感じない日々は無かった。
けど、アタシはそれを受け入れるしかなかった、そうしなければ
生きることが出来なかったから。
他にも同じような境遇の女が沢山いた、どいつもこいつも
アタシと同じ様な目に遭わされたんだろう、無気力な奴らばかりだった。
けどアタシは違った、幸い心と体が図太くできていたのか
男がどれだけアタシの身体を弄ぼうとも反骨審は消えなかった。
『いつかコイツをどうにかして自由になってやる』
それだけを心の支えにして日々の地獄を生き抜いてきた。

……幸いと言うか何と言うか、数年も経つと男はアタシ達に飽きたのか
アタシを含む数人がある日突然外に連れ出され、そしてここ『下民街』に

むせかえる程の悪臭、薄暗く陰鬱な雰囲気、そして所々に転がる
腐乱死体と白骨、そんな処に捨てられた他の女たちは
絶望し、そのまま動かなくなる奴らが殆どだった。
……けどアタシは違った、こんな所で死んでやるかと
軋む体を無理矢理動かし、動かなくなった奴らが身に纏っていた
ボロ布を剥ぎ取り、その場を後にした。
だけど正直、下民街でも男の元にいた時とそう変わりは無かった。
弱い者が搾取されて死んでいき、強い者が生き残る弱肉強食の世界。
アタシは力ない小娘という事で搾取される側に回される。
地獄から追い出された先は、また地獄だったとと言う有様だった。
……だが、幸いにもアタシは男の所で無理やり叩き込まれた『技術』があった。
それを駆使して群がってくる男共を出し抜き、手なづけ
骨抜きにしてアタシはこの地獄をも生き延びることも出来た。
……いつかこの地獄からをも抜けだす事だけを考えて、必死にあがき続けた。

だけど、何時しかこんな地獄にもアタシを慕ってくれる奴らが現れた。
いつもの様に男共を出し抜き、戦利品としていくばくかの食料を手に入れ
隠れ家に戻る途中、ふと視界の隅に死にかけたガキが映った。
普段なら見慣れた光景だ、ガキこの街に流れ着いた時点で
身ぐるみはがされてくたばるのが日常だ、何の事は無い。
だけど……どうしてだかアタシはそのガキを見捨てる気にはなれなかった。
幸い隠れ家が近かったのでそこへ連れて行き、手に入れた食料を与えた。
今でもあの時何でそんな事をしたのかは分からない、食料が手に入って
上機嫌だったのかそんな些細な気まぐれだったと思う。
それからなんやかんやあって、結局はアタシはそのガキと一緒に暮らす事になり
食い扶持は増えたけど人手が増えたせいかアタシの『仕事』もやりやすくなって
そのガキ自身も自分の食い扶持はどうにか出来るようになる迄になり
相変わらずその日生きるのが精一杯な状態ではあったけど
少しだけ心に余裕が出来てきた時期でもあった。
それと、何だかんだで人手が増えると楽という事ををったアタシは
出来る範囲で捨てられたガキ達を拾い、助ける事にした。
ガキ達はもれなくアタシに懐き、アタシの為に働くようになり
人間不信だったアタシも流石にそこまでされたら愛着の1つも沸くようになって
ガキ達の姉貴分としてふるまう様になり、何と言うか
ここでこいつ等と暮らしていくのも悪くないかと感じる様になった。
……だが、やっぱりそれも限界ってモンがある訳で
段々と周囲の奴らから警戒されるようになり、アタシの『仕事』も
簡単にはいかなくなってきて、ガキ達を食わせるのも難しくなってきた。
今までのアタシなら、ガキどもの事は平気で見捨ることが出来たんだけど
どうにもそれが出来なくなってしまった、なので動きづらくなった
下民街から抜けだす事も考えていた。
そんな矢先……警戒され『仕事』が上手くいかなくなったアタシは
苛立ちながら帰路についていた。

「……ふむ、まさかこんな所に候補がいたとはな」

不意に後方から聞こえた声、アタシは思わす「誰だ!!」と叫びながら
後方へと振り向く。
そこには真っ白く長い服を着たジジイ数人と、目深にフードをを被っていながら
まるで白い下着姿の様な恰好の女共がアタシの方を見つめていた。
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