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時越えの詠嘆曲《アリア》

不良聖女・I

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「ま、予想はしてたけど瞬殺だったね~」

地面に寝転がって気絶している暴漢達を眺めながらマリスが
しみじみとした口調で言う。
私達を包囲して襲ってきた暴漢達は即座に反応したリーゼの咆哮……
龍の咆哮ドラゴニック・ハウル】だっけ、をまともに受け
耳をやられてのたうち回ってる間に私が1人を残して速攻で気絶させた。
ほぼノーモーションで出るから反応さえ出来れば不意打ちされようと
速攻で足止めできるから強いよねリーゼの咆哮。
ちなみに1人残してるのは話を聞く為だ、動けない隙に
腕を取って捩じり上げ、うつ伏せに倒しその上に勢い良く座り込む。
こうすると余程の体格差でもない限り人は起き上がれなくなる。
……私が重いんじゃないからね?そりゃ筋肉ついてるから
平均よりはちょっと上だけどさ……

「がああっ!! は、放せ!!」

恐らく一瞬のうちに拘束されたので混乱しているんだろう
暴漢は拘束から抜け出そうと必死にもがいてる。
ん? よく見るとこの暴漢子供じゃないか。
年はマリスよりちょっと上っぽく、大体小学5~6年生くらいの見た目だ。
他の気絶している暴漢達を見回すと、背格好は様々だけど
みんな同年代の男の子達ばかりだ。
まぁこんなとこに住んでるなら暴漢がこんな事子供達でも不思議じゃないか。
私は一つ息を吐き、未だもがく男の子に話しかける。

「残念だったね、女とお爺ちゃんばかりだったから行けると思った?
 駄目だよ~見た目で判断したら、もうちょっと相手を見る目を養わないと
 今度は殺されちゃうかもしれないから……ねっ!!」

教訓を込めて私は捩じり上げてる腕を極めて関節の逆方向へ力をかける。
別にお仕置きする訳じゃない、この子達は他者から略奪でもしないと
生きていけない環境なんだろう、その点に関しては同情する。
なのでせめて生き残る可能性が高くなる様「見た目で判断しない」という事を
身を持って思い知って貰おうと少し痛い目に遭ってもらってる。
ま、伝わるかどうかは分からないけどね。

「いででででででで!! お、折れる折れる折れる!!」

今度は痛みから逃れようともがき出す男の子、だけど腕が完全に極まってる上に
上から体重をかけられてるため起き上がる事すらできない。

「大丈夫大丈夫、この程度じゃ折れないからさ
 ところで聞きたい事があるんだけど、それに答えたら止めてあげるよ?」
「わ、分かった!! 何でも答える!!
 だから止めてくれええぇぇぇ!!」

おやま……意外と素直だね、もうちょっと反抗するかと思ってたけど。
そんじゃ関節への力を緩め、だけど動けない様にきっちり極めておく。
こういう時に油断すると逃げられるからね。

「ちょっとレン、こんな子供に容赦無さすぎない!?」

傍から見れば児童虐待にしか見えない光景を目にしたフィルが
焦り気味に言ってくる。
私が危ない事をしてる時なら兎も角、フィルが私に
文句言ってくるなんて珍しいね。

「武器持って襲い掛かってきた輩には容赦しないよ私
 一歩間違えたらこっちが殺されるんだし、この程度で済ませてるんだから
 優しい方だと思うんだけど?」
「そ、そうだけど……」

私の返答にフィルは口ごもる、大人の男にはつんけんな態度が多いフィルだけど
子供に対しては甘い所があるねぇ、まぁ子供の世話してたとも言ってたし
リアに対しても態度は柔らかめなので子供好きなんだよね、フィルって。

「まぁ抵抗しなければこれ以上の事をするつもりは無いから安心して
 それじゃまず……」
「待ちな!!」

フィルを安心すさせる為に笑いかけ、そして下で何か震え始めてる
男の子に問いかけようとした瞬間、建物の中から大きな女の声が聞こえた。

「誰!?」

フィルが反応して声のした方向へ向き、その前に即座にリーゼが
立つ、私が動けないときはまずフィルを守れってリーゼには
指示してたけど、きっちり指示通りに動いてくれたね。
しかしこの状況でこちらに声をかけてくるか……となると
この子達の仲間って事になるんだろうけど。

「ミァザ姉ちゃん!! こっち来ちゃだめだ!!
 今の内に早く逃げて!!」

途端に下の子が再び藻掻き、喚き散らし始める。
……ん? ミァザ姉ちゃん?
それって確か聖女候補の……

「アンタ達の目的はアタシだろう?
 そのガキは関係ない、さっさと放してやりな」

そんな事を言いながら1人の女の子が建物の中から姿を現す
肩まである赤みがかった茶色の髪を風に揺らし、あちこち破いた跡のある
白い服を身に纏った女の子は、その容姿に似合わない鋭い目つきで
私達を睨みつける。

「全く、聖教の奴らは冒険者迄雇ってアタシを連れ戻しに来るとはね
 けど、アタシは殺されたって聖教に戻る気はないよ
 連れて行きたければ殺すんだね」

女の子は間髪入れずに言葉を続ける。

「……マスター、辿った魔力の元はあの人間から発せられたモノです」

すかさずリーゼが私達にそう告げる。
……どうやら、ビンゴだったみたいだね。
そして予想できた状況でもある、連れ去られたのじゃなく自分から
下民街ここに来たって事は聖教から抜け出したかったからって訳だ。
けど、連れて帰ろうとするなら殺せ……か、中々に過激な事を言う聖女候補だね。

「それはまた異な事を言う嬢ちゃんじゃの
 儂等はお主達『聖女候補の保護』を依頼されて嬢ちゃんを保護しに
 来た訳なんじゃが……」
「保護ぉ? 保護ねぇ……まぁ聖教にとってアタシは貴重な人材みたいだし
 是が非でも手元に置いておきたいからんな事を言ってるだけなのは
 見え見えなんだよ!!」

聖女候補……確か名前はミァザだっけ、彼女は敵愾心を隠そうともせず
大声で言ってくる。
ふ~む、随分と聖教に不信感を抱いてるねぇ。
聖女候補って言うのは聖教では貴重な人材だしもっと丁重に
扱われてるものだと思ったんだけど。
フィルの方をちらっと見てみる、けどフィルはいつも通りの表情のままだ。
ん~、実質聖教を罵倒されてるのにも等しいのにフィルの表情も変わらない。
何か段々聖教が怪しく思えて来たなぁ、まぁ宗教なんて
どこも後ろめたい事の1つや2つはあるものだけど。
そんな事を考えながらフィルの横顔を眺めてると一瞬だけ目を閉じ
ミァザさんに向かって口を開く。

「……という事は、貴方はアレを見たのね?」

フィルは真剣な表情でミァザに問いかける。
アレ……アレって何だ?

「ッ!? 神官の冒険者!?
 ……それを聞いて来るって事は、アンタも見たのか」

それまで激高気味に言葉を発していたミァザさんがフィルの姿を見て
驚愕の表情になり、そして急に冷静になったかのように静かに問い返す。

「ええ、だから私は聖教から出奔して御覧の通り冒険者をやってるの
 冒険者なら聖教の目を誤魔化せるし、仮に上に見つかっても
 あの人達は冒険者を忌み嫌ってるから手を出してこない
 尤も、冒険者をやってる理由はそれだけじゃないけどね」

ミァザさんの質問に頷き、淡々と答えるフィル。
……もしかして出会った時にフィルが暗殺者らしき一団に
狙われてたのはそれが理由?
何か聖教の秘密を知ってるみたいだし考えられない話じゃない。
でもあの時、フィルってばゼーレンさんに冒険者に誘われてたのに
渋ってたよね、結局私に付き添うような形で冒険者になった訳だけど。
冒険者になる他に姿をくらませる方法でもあったのかな?

「……成程、冒険者となった神官はほぼ破門の扱いらしいって話だな
 まぁあのお偉いさん方なら納得だ、あんな狂信者共なら
 神官が冒険者になったって聞いただけでも憤死ものだろうな」

フィルの返答を聞いてにやりと笑うミァザさん。
……どうやら冷静にはなってくれたようだね。

「だが、結局はアタシを連れ戻すのが依頼だろう?
 それならさっきも言った通りお断りだ、そいつを離してさっさと帰んな」

ミァザさんは再び私達を睨みつけるとそう吐き捨てた。
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