上 下
180 / 208
時越えの詠嘆曲《アリア》

時を放浪せしモノ

しおりを挟む
「ん……」

浮遊感に揺られながら、転移魔法によって一瞬だけ飛ばされた意識が覚醒する。
何これ、一体どこに飛ばされたって言うの?
慣れない感覚に戸惑いながらも目を開ける。

「えっ……」

目の前に広がる光景に絶句する。
青みがかった暗闇が空間に満ち、所々に無数の光が点滅してる。
その光景に思い当たるものがある、けどそれって……

「嘘でしょ、ここは宇宙?」

そう、映画とかで見た宇宙空間にそっくりな光景が目の前に広がっていた。
これなら浮遊感も納得だ、だけどそれだとしたら
1番の問題が浮かび上がってくる。

「呼吸、出来る……」

ここが宇宙空間としたら私は2分と持たずに窒息か減圧症で死んでしまうだろう。
生身で宇宙空間に放り出されると、体が破裂したり血液が沸騰したりして
死んでしまうって言うのが有名だけどアレはあくまでフィクションらしい。
まぁどの道直ぐに死んでしまう事は変わりないけど。
けど、ここでは普通に呼吸出来て減圧症の初期症状も出ていない、という事は
ここは似た様な空間、いわゆるプラネタリウムみたいな空間なのかな?
……無重力のプラネタリウムって聞いた事は無いけど。
一先ず生命の危険はないと判断し、ホッとするも直ぐに周囲の警戒を始める。
マリスが言ってたけど、ここに私を送り込んだ者がいる。
この空間に連れて来た意図は不明だけど、ここにその張本人がいる確率は
高い筈、油断はしない方が賢明だ。
浮遊感に手こずりながらも直ぐに戦闘態勢に映れるように構え
周囲を見渡す、すると――

「そんなに警戒せずとも大丈夫ですよ」

空間の何処からか落ち着いて優し気な声が響く。
まるで敵意の無い声、けど反響しているのか場所が特定できない。

「誰!?」

周囲を見渡しながら反射的に叫ぶ、いくら敵意を感じられない声だからって
それで警戒を緩めるのは馬鹿のやる事だ、世の中には友好的な態度のまま
脇腹を刺してくる輩もごまんといるからね。

「ふふっ、流石と言うべきですね
 あのような平和な国に生まれ落ちているにも拘らず
 そこまで戦い慣れしているのは」

コイツ!?
私の中で警戒度が跳ね上がる。
今の言葉は私の住んでいた世界のみならず、私が
だ。
私はフィル達にも自分の過去は話してない、正直気分悪くなるというレベルの
話じゃないし、話したところでプラスになるような物じゃない。
けど、この声の主はそれを知っている? という事は……

「貴方が……私をこの世界に連れて来たの?」

頭に浮かんだ疑念を口にする、遠隔からひと一人を転移させるような輩だ
今まで会った人物の中でその可能性が1番高い。

「……いいえ、貴方をこの世界に連れて来たのは私ではありません
 貴方をこの世界に連れて来たのは、貴方の助けを必要とする者です」

……は? どういう事?
その時ふと思い出す、この世界に飛ばされる前に聞こえた微かな声。
あれは、私に助けを求める声だったと言うの?
けど、正直ちょっと戦えるだけの小娘に何を期待して……
っと、興味深い話だけど今はそんな事を話してる場合じゃない。

「そうなんだ、と言いたい所だけど
 いきなりこんな所に連れてきて姿も見せない輩の言う事なんて
 とてもじゃないけど信用なんて出来ないんだけど」

先ずは相手の姿を確認するのが最優先だ、その為に少し挑発してみる。

「……これは大変な失礼を
 人前に姿を見せる事など久しくなかったもので失念しておりました」

私の挑発にも声色を変えず、優しげな雰囲気を崩さない声の主。
さて、何が出てくるやら……
不意に少し先の風景がぐにゃりと歪み始める。
何事!? と思いそちらに向き直す、するとその歪んだ所から
ゆっくりと人の様な輪郭が浮かび上がってくる。
何これ……正直理解が出来ないんですけど。
余りに理解の範疇外の風景に呆気に取られていると
浮かび上がっていた人の輪郭が徐々に厚みを帯び、そして
人の姿を成していく。

「……お待たせいたしました、そして失礼をお詫び申し上げます」

完全に人の姿が浮かび上がり、その人物は微笑みながら私に話しかける。
……見た目は完全に女性、しかも想像を絶する美女だ。
膝裏まである長い金髪は光が差していないこの空間でも光輝いて見える。
そして緑を基調とするまるで狩人のような服装、何より目を引くのが
逆三角形を象ってる長い耳……そう、まるで



             「……エルフ?」



思わず呟いてしまう、無理もない。
その姿は映画や漫画とかでよく見かけるエルフと言う種族にそっくりだった。

「エルフ……ですか
 確か貴方がたの世界に架空の物語の種族として
 私に似た者が存在してるのでしたね」

エルフみたいな女性は微笑みながらそう言う。

「ですが、私はエルフと言う種族ではありません
 そもそも貴方の世界と同じく、エルシェーダにもエルフと言う種族は
 存在しないのですから」

エルフみたいな女性は自分の事をエルフじゃないと否定する。
……どういう事? しかもエルシェーダにもエルフはいないって
だったらこの人は一体……



「……自己紹介が遅れましたね、私の名は『セレナ』
時喰いときはみ』を追い続け、時間を漂い続けるただの放浪者です」



セレナと名乗ったその人?は微笑みながら勝者に礼をする。
……また訳分かんない単語が出て来たなぁ、時喰いときはみ
しかも時間を漂い続けるって……詩的過ぎて意味わかんないね。

「それはまた壮大な事をなさっている様ですね
 その様子ですと私の事は知っているみたいですから
 自己紹介は省かせて貰っても構いませんね?」
「ええ、構いませんよ『公塚蓮』さん」

皮肉を込めた返事を笑顔で返すセレナさん。
……私の名前を敢えて日本読みで言うか、この上なく『あなたの事は存じてます』
と言う意思表示だね、ならば

「それはどーも、それで私に何の用ですか?
 こんな一方的に呼びつけてくるなんてさぞかし重要な事柄なんでしょうけど」

皮肉を込めた言動を続ける、いくら害意は無いという雰囲気を見せても
それで信用するかどうかは話は別だ、更に言えば私の意志とは関係なく
こんな所に連れてきてる時点でとてもじゃないけど信用なんて出来る訳がない。

「……不躾な行為をして申し訳ありません
 ですが、少し急ぎの忠告でしたのでこうしてお呼び立て致しました」

セレナさんは申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。

「急ぎの忠告ね……それならこんな真似しなくても
 私の前に現れればいいと思うんですけど?」

私は彼女の意図を探る為に質問をする。
セレナさんは急ぎの忠告と言ったが、それならばあんな拉致同然な
真似をしなくても私達の前に姿を現して告げればいい筈だ。
それをせずに私をここに連れて来たという事は何か理由がある筈。

「ええ、それが出来ればそうしました
 ですが、理由は申せませんが今は貴方がたの前に出ることは叶わないのです
 なのでこの様な手段を取らせて頂きました」

ふむ、まぁそんな処だろうね。
理由を言えない、と言う所に少し引っかかるけど律儀な人と言う印象を受ける。
そもそも理由は言えない、なんて事を私に言う必要は無いからだ。
取り敢えずは警戒を解いてもいいだろう。

「理由は分かりました
 ……それで、急ぎの忠告とは何でしょうか?」

少し声を和らげて水向ける。
私が警戒を解いたのを察したのか、セレナさんは微笑みを向けた後
真剣な表情に変え

「貴方が受けた依頼の目的地に、オルテナウスと言う町があります
 そこに向かうのは止めて頂きたいのです」

セレナさんは静かに、だけどはっきりとした声でそう言い放った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...