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時越えの詠嘆曲《アリア》

突然の転移

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「よっと……頼まれた分はこれで全部かな?」

それなりの量の荷物を前に、ラミカが伝票に
書き込みながら言って来る。

「そうだね、無茶言ってゴメンねラミカ」

荷物の中身を確認しながら返答する。
ふむ、中身に過不足なしと……結構無茶言った気がするけど
それでも揃えて来てくれるのは流石だね。


『聖女候補の捜索』の依頼を受けた私達は早速準備を始めた。
とは言え今回の依頼は行方不明者の捜索って言ういつまでに
終わるとも分からない依頼だ、準備に念入りにするに越した事は無い。
取り合えずゼーレンさんに依頼の受諾と内容の詳細を聞きに
行って貰っている間に私達は準備をしてる、と言う感じだ。
その為にラミカに連絡を取り、なるべく急いて必要な物資の
調達をお願いしたんだけど、流石と言うか何と言うか
食料を始めとする必要な物資を僅か1日で調達してきてくれた。
……ラミカってホントに駆け出しの商人なんだろうか?
そんな疑念も沸いてくる様な手際の良さだった。

「あははは、大したことじゃないって……と言いたい所だけど
 これを揃えたのは殆どカルビンさんなんだよね」

カルビンさん……王都に行くときに同行した商隊にいた人だね。
マリスが王国で拠点になる物件を探して貰ってたけど、結局心の宿り木に
腰を落ち着ける事になってそのお話は流れちゃったんだよね。
流石に筋を通さないとマズいって事で謝りに行ったんだけど
カルビンさんはよくある事だからと笑って許してくれた上
何か必要な物があれば何時でもご用意いたしますよと言ってくれた。
……いい人なんだけど商人としてはちょっと優しすぎる気がするねカルビンさん。
流石に悪い気がしたので、腰を落ち着ける際に必要になった日用品を
ラミカを通じてだけどカルビンさんに頼んだ……って経緯があったけど
まさか今回の事も対応してくれるとはね。

「そっか、なら出発前にカルビンさんにお礼を言っとかないとね」
「それは私の方で伝えとくよ、あの人には私も世話になってるし」
「そうなんだ、それじゃお願いするよ」

ラミカの提案は有難い、義理は通したいけどゼーレンさんの話次第では
直ぐに出発になる可能性だってある、そうなるとお礼を言う暇が
無くなりそうだしね。 

「レンお姉ちゃ~ん、こっちもオッケ~だよん」

他の荷物を確認していたマリスがこちらに向かって手を挙げて言って来る。

「私の方も終わったわ、後は整頓してキューブに入れたら準備完了かしら」

同じく荷物の確認をしてたフィルがこちらに向かいながら言う。
……聖教関連の依頼だというのに、あれからフィルに変わった様子は無く
いつもの調子のままだ。
その様子にちょっと引っ掛かるものがあるけど、フィルが何も言わない以上
私が知る必要は無い事柄なんだろう、そう思いながらラミカの方へ振り向き

「んじゃラミカ伝票の記入終わったら見せて
 直ぐに支払っちゃうから」
「毎度あり……ってレン文字読めるようになったんだね」
「まぁね、私物覚えが悪いから時間かかっちゃったけど」
「そうなんだ、あはははは♪」

他愛もない話をしながら僅かな疑念を振り払う。
余計な雑念は危険の元だ、今は目の前の事に集中しないと。

「全部で5万ちょっとか、思ってたよりも安いね
 ……それじゃこれ」

何とか読めるようになった伝票に目を通し、提示された金額を
確認した後、ラミカに金貨袋を渡す。
ラミカは近くにあった机に金貨袋を置き、物凄い速さで
金貨を積み重ねて行く。
こりゃ凄い、あっという間に金貨の塔がいくつも出来上がっていく。
一通り金貨の塔を積み上げた後、ラミカはこちらに営業スマイルを向け

「金額の確認完了っと
 毎度御贔屓にありがとね~」

そう言いながらジャラジャラと金貨を袋の中に戻す。

「しっかし今回はえらく大荷物になってるね
 そんなに大変な依頼なの?」

金貨を袋にしまい終えたラミカが何気なく聞いて来る。

「ん~、大変と言えば大変かな
 王国内を色々と回らなきゃいけないから」

流石に依頼内容に緘口令が敷かれてる事柄も含まれてるので
敢えてぼかした感じで答える。

「そっか、冒険者も大変だねぇ」

それで察してくれたのかラミカはそれ以上何も聞かず
金貨袋を持って、再び私達に営業スマイルを向ける。

「ご利用、ありがとね~
 いやはや、レン達のお陰で王国に来ても色々順調だよ」
「こっちこそ、気兼ねなく色々頼めて助かってるよ
 また無茶言うかもしれないけどその時は宜しくね」
「あはは、まぁお代次第で善処するよ
 それじゃ、依頼頑張ってね~」

お互いに軽口を言い合った後、ラミカは金貨袋を自分のキューブの中に入れ
笑いながら手を振って私達の元を後にする。
相変わらずサバサバとした態度だね、まぁ商人らしくて好感が持てるけど。

「さて、それじゃさっさと荷物の整理を終わらせて出発しないと」

そう呟きながら荷物の整理をしている仲間達に向かおうとすると―――




『それは少し困りますね、貴方にはこれ以上綱渡りをして欲しくは無いのですが』




不意に透き通った声が耳に届く。

「誰!?」

思わず声に出し周囲を見回しながら気配を探る。
……何もいない、気配も感じない。
気のせい?と思った瞬間―――

「レン!!」

フィルの叫び声が聞こえる、それと同時に私の周辺に
金色の光の柱が立ち昇り始める。
これ……何かの魔法!?

「嘘ぉ、術式起動の気配はなかったよ!?
 それに時限式でもない、明らかに遠隔発動させてる!?」

マリスが珍しく焦った声を出す、その時点で
これがとんでもない事態だと判断する。

「……っ、出れない!?」

何とか魔法の範囲外に出ようとするも光の柱に遮られて外に出ることが出来ない。
閉じ込められた!?

「マスター!!」

リーゼが即座に戦斧取り出し、光の柱目掛けて薙ぎ払う!!
しかし、リーゼの膂力をもってしても光の柱は揺るぎもせず
音も無しにリーゼの全力攻撃を止めてしまう。

「なっ!?」
「リーゼ駄目!!離れて!!」

マリスが叫び、リーゼは地面を蹴って距離を取る。

「マリス、これ……何の魔法なの!?」

魔法に閉じ込められた私はマリスに向かって全力で叫ぶ。
一体何が起こってるの!?

「それは転移魔法だよ!! しかも物凄く高度な奴!!
 誰かがレンお姉ちゃんを何処かに飛ばそうとしてるんだよ!!」
「何処かって、何処!?」
「分かんない!! けどもう発動は止められない!!
 出来るだけそこの中心にいて!! でないと術者の意図しない所に
 飛ばされちゃうから!! 下手するとその衝撃で体を切断されるよ!!」

マリスの声を聴いて慌てて中心に移動する、リーゼを退かせたのもその為か
……何処の誰だか知らないけど、何て危険な魔法を仕掛けてくんだよ!!

「マリス、アンタ何とかしなさいよ!!
 早くしないとレンが……」
「出来るならとっくにやってるよ!! 悔しいけどこの術者は
 マリスより遥かにレベルが高くてマリスじゃ太刀打ちできないんだよ!!」

余裕がないのかフィルの文句に怒鳴り返すマリス。
マリスがああいうならもう手立ては無いんだろう、なら……
腹を決めるしかない。

「止められないんじゃ仕方ない、相手の思惑に乗ってみるしかないかな
 マリス、ここに立ってれば危なくは無いんだよね?」

落ち着きを取り戻しマリスに語りかける、仲間達は驚いて一斉にこっち向き

「レン、何言ってるの!?」
「い、いや……そうなんだけど転移先はマリスには分かんないんだよ?」

フィルが血相を変えて叫び、マリスは狼狽えながら答える。

「なら行って来るよ、マリスが手出しできない魔法を使える相手なら
 多分勝てる相手じゃないだろうし、私をどうかしたいなら
 わざわざこんな事をしなくても簡単にどうにかできるんじゃないかな?」
「う……うん、転移魔法を遠隔発動できる程の魔導師なら多分造作もないよ
 転移魔法は最高峰の難度を誇る魔法だから、それを遠隔発動出来るって事は
 とんでもない実力者だと思う、もしかしたら人間じゃない可能性が……」
「まさか、魔族!?」

マリスの答えにフィルが驚いて声を上げる、そう言えば王国内で姿を見たって
話も聞いたけど、その辺りは行ってみないと分からないかな。

「マスター……力不足により救出できず申し訳ありません
 ……この体たらくで、何か最強種か」

リーゼは申し訳なさそうにして膝まづき、そして頭を垂れた後
歯を食いしばって地面に拳を突き立てる。

「気にしちゃダメだよリーゼ、ま……なるようにするしかないね」

膝まづいたまま悔しそうに震えるリーゼに声をかけ、私は残りの仲間に向き直す。

「ま、相手がどんな意図か分かんないけど取り合えず行って来るよ
 もし戻ってこれなかったら……ま、好きにしてて」

敢えて軽い口調で皆に告げる。
そして次の瞬間、周囲の光の柱が太くなり始め私の体を包む。

「レン!!」

フィルは私の名前を叫ぶ、それが聞こえた瞬間
体中が浮遊感に包まれ、そして飛ぶような感覚を残したまま
私の意識は途切れた。
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