~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

思惑外れ

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「おお~~~っ」

ロテールさんの宣言にどよめく騎士団の子達。
さっきまで耳を貸さなかったのが嘘の様にロテールさんの言葉を
食い入るように聞いている。
いや………ホントに何でなの?
現時点での実力ならロテールさんの方が遥かに上だし、強くなりたいなら
素直にロテールさんの言う事を聞けばいいだけなんだけど………
この子達はいったい私に何を期待してるのかが全く読めない。

「それでは、レン殿に挨拶をして貰う
 ………それではレン殿、宜しく頼みます」

ちょっ、いきなり何言ってるんですか!?
内心焦る私に向かい恭しく一礼してその場を譲るロテールさん。
目が合った瞬間にやりと笑いかけてくる。
………ロテールさん、もしかして楽しんでる?
騎士にしてはフランクな人だとは思ってたけど、結構お茶目だったりするのかな?
っと…そんな事はどうでもいい、取り敢えずはこの無茶振りを何とかしないと。
とは言え挨拶か………ただ単に挨拶するだけじゃ駄目だよね。
それに私の聞きたい事はある、考えようによってはいい機会かな。
いつまでも困惑してる訳にもいかない、呼吸を一つ入れ、心を落ち着かせる。

「ロテール殿から紹介いただきました、レン=キミヅカです
 今日は1日、貴方達の指導を依頼されました、宜しくお願いします」

まずは無難に挨拶の科白を述べ、ベコリと頭を下げる。

「………さて、ロテール殿から説明は受けておりますが
 貴方達は私の戦い方に興味がおありの様ですね」
「「「「「はい!!」」」」」

さりげなく質問したつもりが、その場にいる全員の全力返答で返される。
………ホントに何なんだろ、私そこまで派手な戦い方したかな?

「………正直、驚愕でした
 あんな化け物が相手なのに武器も持たず、まるで舞う様に
 化け物の攻撃を避けながら戦う姿が、冒険絵巻の主人公の様で
 頭から離れないのです!!」

騎士の1人が興奮気味で言うと、他の子らも一斉に頷く。
冒険絵巻の主人公?何それ………

「成程、そう言う事か
 それならば彼らが君に憧れるのも納得だ」

だけどロテールさんは得心が行った様で頷きながら呟く。

「我が国の絵巻には、ドラゴンを討伐するものが多数あるんだけど
 その中の1つに、剣を失いながらも諦めずに己が肉体を駆使して
 討伐するものがあるんだよ
 流石に武器もなしに討伐したなんて、無茶苦茶すぎて子供ですら一笑に
 付してしまう無い様なんだけど………」

ドラゴンを討伐と聞いてリーゼが少しだけ眉を上げる。
………成程、異形化してるとは言え私がその絵巻と同じ様に
見事ドラゴンを討伐しちゃった、という訳か。
それでこの子達は私を羨望の眼差しで見つめるようになったと。
これはアレかな、テレビとかのヒーローがやってる事を現実にやってる人がいて
それを教えて貰おうとしてる子供、って感じなのかな?
う~ん、納得はしたけどかと言ってこのまま羨望の眼差しのままって言うのも
むず痒い、何度も言ってるけど私の徒手空拳ははっきり言って真似事だ。
教えるのは構わないんだけど、多分彼らの想像してる様な強さを
発揮することは出来ない、その辺りはきちんと言っておかないと。

「えっと、私の事をそんなに買ってくれるのは嬉しいのですが
 この戦い方はあくまで間に合わせに過ぎません」
「間に合わせ………ですか?」

私の発言に戸惑いの声が上がる。
まぁそうだろう、本来戦いの型って言うのは自分に合ったものを模索して
伸ばしていくものだ、例外はあるにしろ敢えて合わない型で
戦っていく必要などないし、そんな事をすれば死ぬ危険性が高いだけだ。
だけどまぁ私にはのっぴきならない理由がある訳で………

「………少し剣を貸して貰えますか?」
「あ、はい…どうぞ」

1番前の子に声をかけ、剣を貸してもらう。
何気なく差し出される剣、だけど持とうとした私の手は
するりとすり抜けてしまう。

「なっ!?」

騒然とする騎士の子達、その少し後ろでロテールさんも驚いた顔をする。

「この通り、どういう理屈か分かりませんが私は武器を持てません
 なので仕方なく本来とは違う戦い方をしている訳です
 ………はっきり言います、無理に自分の身体のみで戦う事を模索するより
 武器を使って戦う方が何倍も強いのが事実です
 格闘………私の戦い方は体格差、いわゆる体の大きさの差が
 致命的なまでに響きますので」

憧れの視線を浴びながらちょっと気は引けるけど騎士の子らに事実を突きつける。
………正直言って魔物相手に素手で戦うのは馬鹿の極みだ、散々戦って来て
何だけど私の結論はそこに行きつく。
フィルやマリスの強化魔法が無ければ私の拳なんてとっくに潰れてるだろう。
それだけ魔物の身体は固く、そして体重差が大きすぎるので
人間の拳打なんて少しのダメージにもなりはしない。
その辺りはしっかり認識して貰わないと。

「………少し、実践してみましょうか
 リーゼ、悪いけど一発受けて貰えるかな?」
「分かりました、マスター」

リーゼは私の頼みを了承すると前に立つ。
………リーゼに受けさせるのはちょっと反則かも知れないけど、取り敢えずは
現実を知って貰わないとね。

「今からこの子を攻撃します
 ………打撃と言うものには体格差が死活問題、と言うのがこれで分かると思います」

そう告げてリーゼに向かい構えをとる。
緊迫した空気が流れ始め、ざわついていた騎士の子達が静まり返る。
息を吸い、吐く………そして一拍後、右足に力を入れて踏み込み
棒立ち状態のリーゼに肉薄する!!

「はっ!!」

踏み込みからの全力踏鳴を入れ、勢いを上半身に伝え
腰を回して肩を突き出し、リーゼの腹部目掛けて拳打を打ち込む!!
ズン、と重い音が周囲に響き、衝撃がリーゼの後方に突き抜ける感覚が
拳に伝わってくる、けど………

「………」

私の全力拳打を受けているのにも関わらず、リーゼは表情一つ変えない。
まぁ当然だ、見た目はリーゼの方が頭一つ大きいだけだけど
本来のリーゼは小山1つの大きさのドラゴンなんだから、そんなリーゼに
拳打を入れた所で効く訳がない。
けど、それを知らない騎士の子らから見れば私が凄く非力に見えたろう。
………これで幻滅してくれればいいけど。
教える事自体は構わないけど、私自身真似事に過ぎないし
下手をすれば生兵法になる可能性も在る、自分の体を使って攻撃するから
怪我も多いしね。
そんな訳で諦めさせる為にリーゼに拳を打ち込んだけど………
何か思ってたような雰囲気じゃない。
正直失望や幻滅の視線に晒されるのと思ってたけど、そんな視線は一切無く
騎士の子らは何か余計に目を輝かせてる様な………

「凄い、手を突き出しただけであんな音が出るなんて
 まるで重い物を思いっきり地面に叩きつけたような音だったぞ」
「攻撃が当たった瞬間に目の前が一瞬揺れたわ!!
 あんな攻撃を自分の身体のみで出せるなんて………」
「あんな音を出す攻撃なのに、あっちの女もびくともしなかったぞ
 もしかしてこの人達って見せてるレベルよりも凄いんじゃ………」

………あれ?あれれ?
何か失望させるどころか余計に興味引いちゃってるみたいなんですけど。
いやいや女の子一人にも通用しない攻撃だよ!?そう見えたでしょ!?
予想外の反応に再び困惑する私、そんな様子を見てロテールさんは笑いながら

「いやはや、見事な物だよ
 武器も使わずにあれだけの衝撃を出せる人間がタダ者の筈がないよ
 それに彼らの目もそこまで節穴じゃない、何だかんだで騎士達の訓練を
 間近で見て来てる訳だしね」

む…そう言って来るって事は意図を見透かされてたか。
そして私はこの子達を侮ってたという事でもある様だ、見た目に惑わされず
攻撃の本質を見抜くだけの実力はあるって事だね。
そうとなれば仕方ない、依頼をされている訳だし教えるしかないか。
魔物相手には威力不足なのは事実だけど、だからと言って
全く役に立たない訳でも無いしね。
私は思考を切換え息を1つ吐き、騎士達の前に向き直った。
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