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軌跡への遁走曲《フーガ》

現れる力の象徴

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「ん~~~~~っ!!」

窓から差し込む優しい光に照らされながら、私は
ベッドの上で伸びをする。
いやはや流石によく眠れた、使い古されてはいるけど
綺麗に洗濯された上に十分に日干しされた布団で寝れるなんて
帝都から脱出して以来だからホントにぐっすりだった。

昨日はあれからマルティーヌさんに炊事場を教えて貰い
自分達で持ってきた有り合わせの材料で作った夕食を食べた後
マルティーヌさんが沸かしてくれたお風呂にゆっくり浸かって
リアと一緒にベッドにダイブしたら即就寝モードだった。
………知らず知らずのうちに疲れが溜まってたんだねホント。
ちなみに宿の炊事場にあった食糧庫の中身は普通の食材でホッとした。
流石に直接は聞けなかったけど、取り敢えずはマルティーヌさんが
虫料理を主食にしてない事だけは確かなようだ、良かった良かった。

「よっと」

私の横で未だぐっすりモードのリアを尻目に、私はベッドから抜け出し
軽く柔軟をしながら体の各部チェックを行う。
………うん、どこも十全に動く。
体の動きを確認した後、ふと右腕に目を止める。
首無しに取り込まれそうになって斬り飛ばし、フィルに再生して貰った腕だ。
何となく再び動きのチェックをする………違和感はない。
状況的に斬り飛ばした腕をくっつけたんじゃなくて、喪失した腕を
文字通り『再生』させたんだよね、フィルって。
………正直凄いとしか言いようがない、医療技術が発達した元の世界でも
出来ない事をやってのけただなんて、この身に起きなかったら
到底信じられなかっただろう。
つくづくこの世界に来て最初に出会ったのがフィルで良かったと思う。
けど、こんな芸当が出来るフィルが下っ端だなんて教団ってとこは
もっと凄い事が出来る人たちの集まりって事なのかな?
月並みだけど死者の蘇生が出来る人がゴロゴロいたりとか………


「んな訳ないじゃん、あんなことが出来るのは
 フィルミールお姉ちゃんだけだって」
「うわっ!!」


いきなり逆さま状態のマリスの顔が視界に割り込んできて思わず声を上げる。
その声にビックリしたのかリアが飛び起きて周りをきょろきょろし始める。

「おっはよ~レンお姉ちゃん、リア
 機能はぐっすり眠れた様だ~ねぇ」

天井に捕まって逆さま状態のマリスがゆらゆら揺れながら笑顔で挨拶して来る。
………ホント普通に登場できないのかこの子は。

「お、おはようマリス………
 今日も朝から相変わらずだね」

若干引き気味に挨拶を返す、ベッドの上のリアは状況が理解できないのか
私とマリスの顔を交互に見ながら困惑した表情をしてる。
………そう言えばリアはこのマリスの謎ワープを見るのは
初めてだったかな、そりゃ困惑するよね。

「あ~、どうやってるか知らないけどマリスはいつでもどこでも
 いきなり現れてくるんだよ、そういう人間だって
 納得してくれると嬉しいかな」
「いつでもどこでもはちょっと難しいかな、あはははは」

困惑してるリアに説明をする、と言うかマリス
難しいって言ってるけど出来ない訳じゃないんだね………

「………分かった」

表情は困惑したままだけどこくんと頷いてそう言ってくれるリア。
素直な子で助かるよ。

「それで、朝早くに私達の部屋に来たって事は
 何か用事があるんでしょマリス?」

未だ逆さま状態で天井にぶら下がってるマリスに水を向ける。
そんな状態で気持ち悪くならないんだろうかこの子。

「んっふっふ~、まぁ用事と言えば用事だけど
 そんな大したことじゃないよん、今日の買い出しにマリスも
 ついて行くよ~って言いに来ただけ」

ニコニコしたままそんな事を告げるマリス。
確かに昨日の夕食時、手持ちの食糧が切れかけてたから
フィルと買い出しに出かけようって話はチラッとしてたけど。

「それは構わないけど、ホントにそれだけ?」
「それだけだよ~、とは言え先にレンお姉ちゃんの承諾取っとかないと
 あとでフィルミールお姉ちゃんに何言われるか分かんないからさ
 あははははは」

………成程ね、確かにフィルなら文句の1つも言いそう。
私と2人で買い出しってだけでウキウキしてテンション上がってたから
そこにマリスが突然混ざってくると不機嫌になるのは目に見えてるね。

「そういう事だから朝早くお邪魔した訳だよん
 んじゃ、また後でね~」

マリスは笑いながらそう言うと天井から降りて
そのままドアを開けて部屋から出て行ってしまう。
………いや、普通に出て行けるなら普通に入って来ようよマリス。

「はぁ、朝から元気だねホント」

呆れつつも苦笑しながら呟く。
ホント、見てて飽きない子だよねマリスって。

「レン、出掛けるの?」

マリスとの会話を聞いていたのかリアがそんな事を訪ねてくる。

「そのつもりだけど………リアも一緒に来る?
 多分人の多くて騒がしい所に行くことになるけど」

私はリアの方へ振り向いて尋ねる。
リア自身は余り騒がしい所は好きじゃないみたいだけど、どうだろ?

「………いい」

予想通り首を振って答えるリア。
となるとリーゼに宿に残って貰ってリアの事は任せた方がいいかな。
そう思ったけど、この組み合わせは若干不安な気がする。
ドラゴンのリーゼに人間の子守って出来そうな気がしないし
リア自身も自己主張をあまりしないタイプだから
お互いに何も言わずお見合い状態になりそうな予感がする。
一応マルティーヌさんに一言お願いした方がいいっぽいね。
あと、リア用にお弁当を用意した方がいいかも。

「そっか、それじゃリーゼに宿に残って貰う様頼んどくから
 2人でお留守番してて」

私の返答にこくりと頷くリア、一先ずリアの事はこれで安心かな。
さて、それじゃ何時でも出かけられるように準備しておきますか。

「んじゃそろそろ朝ご飯だし着替えよっか」

リアにそう告げて、私は着替える為にパジャマを脱ぎ始めた―――



………



………………



………………………



「んっふっふ~、やっぱり王国は食材が豊富だ~ねぇ
 お…これってニヴェスの干物じゃん、この時期でも獲れるんだねぇ
 おっちゃ~ん、これ10個頂戴~」

あれから朝食を食べ、リーゼとマルティーヌさんにリアの事をお願いして
私とフィル、マリスの3人は王都の大通り1つ、『リシア通り』と呼ばれる
区画を東西に横切る大通りを歩いていた。
通りの両端には様々な露天、店が立ち並び商人達が威勢のいい声で
商品のアピールをしている、帝国とは違ってかなり騒がしい雰囲気だ。
まぁ商業区画ってこっちの雰囲気が一般的だろうけど。
そんな通りをマリスはちょこちょこと動き回り、得体の知れない果実や
動物の肉、干し魚等を買っていく。
今マリスが買った干し魚らしきものは頭が2つあって虫の翅っぽい物の生えた
ちょっと食べるのに勇気がいりそうな不気味な魚?だった………
まぁマリスの事だから食べられないものじゃないんだろうけど。

「アンタ、ホントにそんなのを食べる気なの?」

フィルが嫌そうな顔をしながらマリスに問いかける。

「見た目はアレだけど結構美味しいんだよコレ、栄養も豊富だし
 と言うかこの国では一般的な食べ物の1つだよん、聖教でも普通に
 食べられてるものだし、多分フィルミールお姉ちゃんも
 食べた事あるんじゃないかなぁ」
「………知りたくなかった事実だわ」

フィルがげっそりとした表情で答える。
驚かなかったところを見ると心当たりはあるんだろう、まぁスープとか
切り身状態しか見た事ない感じでとかで元の姿を知らなかったみたいだけど。
まぁ食べ物にはままある事だよね。

「よしよし、いい感じに食料げっとできてるね~っと
 あ、フィルミールお姉ちゃんこれもお願いね」

次から次へと食料を買い込んでいくマリス、それをフィルの
インベントリ・キューブの中に遠慮なく放り込んでいく。
フィルのキューブは中に入れたものの時間経過が停止する。
なのでいくら生ものを入れても絶対に腐らない優れものなんだよね。
だから必然と食料の管理はフィルが担当になっちゃってるけど………

「ちょっと、乱雑に放り込むんじゃないわよ!
 後で整理するの大変なんだからね!」

そんなマリスに抗議の声をぶつけるフィル、いつもの光景だ。

「ホント、仲がいいねあの2人は」

そんな2人を微笑ましく見つめながら周囲を見回す。
雑多な並びの店の露店、見た事も無い果実や使用用途の分からない道具など
見慣れないものばかりが並んでる所を見ると改めて異世界に来た事を
認識させられる、そんな風景を楽しんでいると………



ある露店に置かれているが目に飛び込んでくる。



「………!?」

思わず目を向いてを見る。
驚きながらも急速に頭が冷えていく………私達の世界で剣に成り代わり
力の象徴になった代物が、そこに鎮座されている。



「この世界にも、これがあったんだ………」



私の視線の先には、白く塗装され金色の装飾を施された
一丁の長銃ライフルがあった――――
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