~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

今後の方針

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「はい、こちらがレンさんとリアちゃんのお部屋になります」

あれから数分後、部屋の準備を終えたマルティーヌさんが戻って来て
宿帳を確認すると私達を部屋に案内してくれた。
フィル達にそれぞれ一部屋づつ、私とリアは2人部屋だ。
ちなみに私の部屋の隣はマリスだった、それがフィルは不満だったみたいで
じーっとマリスをジト目で睨んでたね、後でマリスに
変われって言ってきそうな気がする。
マルティーヌさんに促されて部屋の中に入る、部屋には少し傷が入ってる
小さめのテーブルと使い込まれた椅子が2つ、そしてこれまた古くて
大きめのベットが1つだ、ホテルのシングルベッドを横に少し広げた
くらいの大きさだけど私とリアが寝るには十分な広さだ。
部屋自体は古めだけどきちんと清掃が行き届いてて不潔感は全くない。
正直ギルドで貸してもらった部屋より快適そう、これなら
依頼で疲れて帰って来た時とかも十分に休息をとれそうだ。
しかしマルティーヌさん子供の姿なのにこの清掃の行き届き方は凄い
流石プロと言うべきなんだろうね。
そんな風に思いながら部屋の中を見回してると、マルティーヌさんが

「気に入って頂けたようで何よりです、ふふっ」

嬉しそうに微笑みながらそう言って来る。

「ええ、流石に清掃が行き届いてますね
 私達が汚してしまう事になるのが申し訳ない位」
「ふふっ、遠慮せず汚して頂いて構いませんよ
 それを掃除するのが私の仕事でもありますので」

私の返答にマルティーヌさんは微笑んだまま冗談交じりに返して来る。
とは言え言葉通り汚すのもアレだし、少し気を付けた方がいいかな
何だかんだで冒険者って汚れるのが仕事な面もあるしね。

「それでは私は失礼しますね
 御用があればカウンターに置いてあるベルを鳴らせばお伺いしますので」

そう言ってぺこりと会釈をしてマルティーヌさんは部屋を後にする。

「………ふぅ」

私は一息ついて荷物を下ろし、椅子に腰かけて緊張を解く。
何と言うか、久しぶりに気を抜けることが出来る場所に来れた気がする。
帝都から脱出して息つく暇なかったからね………

「レン、大丈夫?」

リアが傍に来て心配そうな声で聞いて来る。
ありゃ、疲れてる様に見えちゃったかな。

「大丈夫だよリア、ちょっと気を抜いただけ
 リアの方こそ疲れてるでしょ、ベットで寝転んでてもいいよ」
「………ううん、レンの傍にいる」

私の勧めにリアは首を振り、テーブルを挟んだ向かいの椅子にちょこんと座る。
う~ん、気を遣わせちゃってるかな?もう少し年相応に
我儘言ってくれてもいいんだけどな。
さて、気を抜くことが出来るとは言ってもやらないといけない事が
無くなった訳じゃない、取り敢えずは荷物の整理かな。
そう思い椅子から立ち上がろうとした瞬間、ドアを控えめにノックする音がする。
………このノックの仕方はフィルかな?またえらく早いね。

「レン、いきなりでごめんなさい、ちょっといいかしら?
 ちょっとこの先の方針を決めておきたいかなと思って」

ドア向こうでフィルの声がする。
ふむ、たちまちこうして1番の懸念材料だった寝床も確保は出来たし
ここから先の事を決める事は必要だね。

「わかった、ドアは開いてるから入って」

扉越しにいるフィルに向かって声をかける。
するとゆっくりと扉が開き、フィルが部屋の中に入ってくる。
………ってあれ、他の2人は?

「あれ?フィル1人?」

思わずそんな事を聞いてしまう、今後の方針を話すなら
当然マリスやリーゼも一緒だと思ってたんだけど………

「一応声はかけたけど、マリスは何か部屋の中で
 怪しい事をし始めてるみたいで返事は無かったわ
 リーゼは『マスターの方針に従います』ですって
 私もレンの決めた方針には従うけど、それでもレンは
 私達に相談したいかなと思って」

成程、私が気を抜いてる間にフィルは明日以降に向けての話し合いの準備を
直ぐに始めてくれてたんだね、流石と言うか何と言うか
と言うかマリス、マルティーヌさんとの交渉の時は静かにしてたけど
部屋に入って早々何やってんの………相変わらず行動が謎過ぎる。
………まぁマリスの事だし何時もの様にいきなり姿を現して
会話に割り込んでくるだろうからほっといてもいいかな。
取り合えずフィルと2人で今後の方針を固める事にしようか。
そんな雰囲気を感じたのか、誰に言われるまでも無くリアは椅子から立ち上がり
とてとてとベッドに向かって腰かける。

「ありがとリア、少しレンを借りるわね」

フィルはリアに微笑みかけ、そしてリアの座っていた椅子に腰を下ろす。

「それで、改めて確認するけど
 王国に来た理由ってレンが元の世界に戻る手掛かりを探す為に
 2か所ある『勇者の足跡』に行く事よね?」

フィルの言葉に私は頷く。
大分遠回りをさせられてる気がするけど基本方針は変える訳にはいかない。
とは言えまだまだ先は長そうな気もするけど。

「まぁ、そこへ行く為には王国内を自由に移動できる様にならないといけないから
 たちまちは依頼をこなして私達のギルド内評価を上げる
 と言うのが基本的な方針かな、それと………」

フィルの言葉に続けた後、ちらりとリアに視線を送る。

「………そうね、あの子の身元も探し出さないとね
 いくらあの子の意志だからと言っていつまでも私達と一緒に
 いる訳にもいかないだろうし」

私の視線の意味に気付いたフィルが口にする。
今までもそうだったしこれからも私達といる事でリアには必要のない
苦労をかけてしまうだろう、その為にもなるべく早く
リアを家族の元に帰してあげないと。

「たちまちはその2つかな、まぁそうは言っても
 やる事は依頼をこなしながら地道に情報収集って感じになるだろうけど」
「そうね………はぁ、レンの望みが叶うのはいつになる事やら」

フィルはそう言ってため息を吐く、この世界に来て結構な時間が経つけど
未だに元の世界に戻る方法の手掛かりすら掴めないのが現状だ。
このまま戻れない………なんて可能性も十分にある、私と同じ異世界人の
『勇者』が『魔王』とやらを倒して元の世界に戻ったなんて確証は
何処にもないんだからね。
そうなった場合、私はこのままフィル達と一緒に………

「レン?どうしたの?」

フィルの言葉にハッと我に返る。
いけないいけない、は考えちゃダメだ。
私は元の世界に戻る、それだけは絶対に譲っちゃいけない。
でないと付き合ってくれているフィル達にも申し訳ない。

「ん?ああフィルと同じくいつになる事やらって思ってね
 まぁ急いでる訳でも無いし気長にやっていくよ」

私は誤魔化す様に苦笑しながら答える。
フィルはそう、と一言だけ言ってそれ以上追及はしてこない。
微妙な雰囲気の沈黙が訪れる、リアも何も言わずこちらをじっと見たままだ。
基本方針自体は決まったけど、このままフィルと細かい方針迄
決めてしまった方がいいのかなと考え始めた時、おもむろに
フィルが椅子から立ち上がる。

「さて、それじゃいい時間だし夕飯の支度でも始めるわね
 マルティーヌさんに炊事場の場所を聞かないと」

そう言えばもうそんな時間だ、何だかんだでここに来るまでに
時間を取られたからね。

「それなら私も行くよ、食事当番は今まで通り3人で持ち回りだろうし」
「いいけど………少し急がないといけないかも知れないわよ
 食事は用意できないって言ってたからホッとしたけど
 もしかしたら歓迎の意味で今日は作るつもりなのかもしれないし」

妙に切羽詰まった表情でフィルが言う、何を焦ってるんだろ?

「えっと、マルティーヌさんが食事を用意してくれるのに
 何か不都合でもあるの?」
「レン、あの人はだってこと忘れて無い?」

フィルの指摘に一瞬にして背中に冷たい汗が流れ始める。
………そーだった、あの人がユージスさんの母親なら
ギルドハウス内で披露したを作る可能性だって
十分にあり得るんだよ!!
正直あの光景は流石に何度も見たくない、フィルが急ぐのも納得だ。

「それは急いだ方がいいね、直ぐに向かおう」
「ええ、私達の精神安定の為にも」

私とフィルは頷き合い、急いで部屋から飛び出した。
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