~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

心の宿り木

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………あれから2時間後、マリスの光球に興奮した子供達が落ち着くのを待ち
子供達から目的地の「心の宿り木」の詳しい場所を教えて貰った。
と言うか、実は目と鼻の先だったってオチが付いたんだけど………

「こんな近くにあったなんて、あの騒ぎは何だったのよ………」

フィルが脱力気味に溜息を吐きながらそう吐きだす。

「まぁまぁいいじゃん、これでマリス達の事が怪しい冒険者じゃないって
 知られた訳なんだし」
「子供に知られてどうするのよ、むしろ子供に変なモノを渡す奴って
 怪しまれる材料にしかならないじゃない」

あっけらかんと言い放つマリスにフィルがジト目で言い返す。

「そこまで不審がられはしないとは思うけど………仮に
 この宿に長く滞在する事が出来たならご近所にも私達の事を
 知って貰わないといけないし、その時に子供達に面識があるのは
 悪い事じゃないとは思うよ」

一先ずマリスのフォローをする、多分マリスもそこまで考えてでの
行動なんだろうし。
私の言葉を聞いたマリスがこちらに視線を向けてにやりと笑う。
どうやら正解だったみたいだね。

「………分かってるわよ、そんな事は
 それに、マリスソイツの行動がきちんと意味のある物だって事もね」

フィルが私の方へ向き苦笑しながら言って来る。
何だかんだでフィルもマリスの事は認めてくれてる。
だけどやっぱり神官として魔導士と仲良くするのは難しいみたいだ。
イメルダさんに対してもあえて事務的に接してたしね。
フィルの言葉に私は微笑みで返すと改めて目の前にある建物に目を向ける。
………木造2階建てで、公民館やお爺ちゃんに付いて行った商工会議所くらいの
大きさな感じだ、まぁその位ないと宿屋としては小さすぎるかもしれないけど。
外観も少し年期は入ってそうだけど大きく壊れた所は無い。
流石に壁に少しヒビが入ってたりはするけど、逆にそれがいい感じの
アクセントになってこの建物のおもむきを引き立てているような感じだ。
………勝手なイメージだけどもっと質素な木賃宿みたいなイメージだったから
少々意外だ、ユージスさんのお母さんが1人で切り盛りしてるって
聞いてたからそんなに規模は大きくないと勝手に思い込んでたみたいだ。

「思ったより大きな宿だね~、外観も中々に奇麗だし
 開店休業なのが不思議なくらいだね~
 こんな宿を1人で経営してたなんてユージス兄ちゃんの
 お母さんって結構やり手なのかな?」

マリスも同じ感想を抱いたんだろう、感心したような口調で呟く。
確かに、この規模の宿を1人で経営するのは大変だろう。
女将さんは無理をして体を壊してしまったってイメルダさんが言ってたけど
無理もない話だとは思う。

「一先ず中に入ろっか、イメルダさんの話だと一応営業はしてるみたいだけど
 ここに泊まれなかったら急いで他の宿を探さないといけないし」
「そうね、そうしましょ」

私の言葉にフィルは頷き、そのまま宿の扉を開け中に入る。
宿の中はすぐ横に受付らしきカウンターがあり、その先に
広めの廊下が伸びていてその先に大きな机といくつかの
椅子が並べられた部屋が見える、アレは食堂かな?
室内も古めかしい雰囲気の木造建築だ、だけど埃っぽくは無く
きちんと清掃が行き届いており、乱雑に物が置かれてたりはしていない。

「へぇ……いい雰囲気じゃない
 古い建物だけど奇麗で物静かな感じね、ここに泊まれるなら嬉しいんだけど」

フィルが顔をほころばせながらそう呟く、どうやらお気に召したみたいだ。
リアも室内をきょろきょろと見回している、今まで騒がしかったり
埃っぽい所ばっかりで寝泊まりしてたからこういう雰囲気の場所が
珍しいんだろうね。

「ふむふむ、この感じだと宿を閉めてるって感じじゃないね
 とは言え物音がしないから他のお客はいないっぽいけど」

マリスが周囲を見回してそう呟く。
ふむ…どうやら開店休業状態なのは事実っぽいね、なら好都合だけど
女将さんらしき人の姿も見えない、取り敢えず声かけてみようかな。

「すみませ~ん!宿をとりたいんですけど~!」

受付らしきカウンターに向かって声をかける、するとカウンターの奥の方から
パタパタと軽い感じの足音が聞こえてくる。
ん?女将さんかな?けどその割には足音が軽い様な………
そんな疑問が頭に浮かんだ瞬間、カウンター奥の扉がガチャリと開く。

「は~い、お待たせして申し訳ありません」

そしてカウンターから声がする………けど姿が見えない。

「???」

人の気配は確かにする、だけど姿が見えない
どういう事かなと思わずカウンターを覗き込むと………



そこには小さな女の子が営業スマイルを浮かべて立っていた。



「女の子?」

予想外の事態に混乱する私。
えーっと、確かこの宿ってユージスさんのお母さんが1人で
切り盛りしてるって話だよね?なのに何で小さな女の子が………
もしかしてユージスさんの妹さんなのかな?
だけど何となくだけど違和感を感じる、どういう事?

「ゴメンなさい、奥の部屋を掃除してまして………よいしょっと」

女の子はそう言うとカウンターの傍にあった椅子を持ってきて
ちょこんと座り、営業スマイルを浮かべる。
見た目はマリスやリアと同年代………それより少し上ぐらいかな
栗色の髪を伸ばして胸の所でおさげにして、柔らかい雰囲気の女の子だ。
けど何かが心の中で引っかかってる、何だろこの感覚?

「え、えっと………ここに泊まりたいんだけど
 お母さんは今出かけてるのかな?」

少し面喰いつつもフィルが優し気な口調で話しかける。
女の子はフィルの言葉に一瞬きょとんとするも、すぐさま
営業スマイルに戻り



「そうですか、遠路はるばる当宿にお越し頂き有難う御座います
 私が当宿『心の宿り木』の主、マルティーヌ=タリガードで御座います」



そう言って椅子に座ったまま奇麗なお辞儀をする。
………はい?どういう事?
目の前の状況が分からず混乱する、確かイメルダさんはユージスさんの
切り盛りしてるって言ってたよね、名前もマルティーヌさんって言ってたし………
だけどこの子、どう見たって子供を産んでるような歳には見えないよ!?

「えーっと、一体どういう事?」

フィルも同じ様に混乱してるらしく思わず素の状態に戻っちゃってる。
状況が飲み込めない、仮に見た目通りの歳でユージスさんを産んだとしても
ユージスさんは優に20歳を超えている立派な大人だ、そうなれば少なくとも
この人は30台を過ぎているはずなんだけど………とてもそうは見えない。

「へぇ~、成程ね
 こりゃ確かに体を壊したとしか表現できないか
 それと何でユージス兄ちゃんが冒険者やってるのかも大体想像ついたよ」

混乱する私達を尻目にマリスがマルティーヌさん?ちゃん?を
しげしげと見つめながら呟く。

「あら、ユージスをご存じなのですか?」

マリスの言葉にマルティーヌさん?が少しだけ驚いて聞き返す。

「まぁね、そのユージス兄ちゃんとパーティ組んでる
 イメルダお姉ちゃんの紹介で来たんだ~」
「そうですか………暫く連絡は無かったけど、元気でやってるみたいね」

マリスの返事にマルティーヌさん?が少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべる。
………その表情を見た瞬間、まるでパズルのピースがはまった様に
この人がユージスさんのお母さんだと理解してしまう。
あんな表情、見たまんまの歳の女の子が出来る表情じゃない。
間違いなく離れた家族の無事を知ってホッとしてる母親の表情だ。
だとすると何でこんな小さな女の子の姿に………
一体どういう事なんだろう、マルティーヌさん?の寂しげな笑顔を眺めながら
本来の目的も忘れて、思考の迷路に囚われてしまった。
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