~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

刻まれたもの

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「ふぅ~、取り敢えずは何とかなって良かったよ」

抱え上げて貰ってるリーゼから降り、体中の痛みに耐えながら
息を吐いてそのまま座り込む。
何とか人心地着いた気分だ、まぁ目の前にある
グロいオブジェを気にしなければだけど………
じっと見るけど動きだしそうな気配はない、完全に宝石の中に埋め込まれて
動きどころか再生すら封じられちゃってる状態だね、このまま
魔導協会に持って行って貰っても問題は無さそうだ。
不意にフィルに治してもらった右腕を見る、数十分前に
リーゼに触手ごと斬り飛ばして貰ったとは思えないほど完全に元通りだ。
痛みを堪えながらも動作確認をするけどちゃんと動く、無くした腕すら
完全に復元してしまうってフィルの魔法って凄いね、ホント。

「あ、あの………腕は大丈夫…なのか?」

不意に思わぬ方向から声をかけられる、思わずそちらに向くと
豪奢な甲冑姿が目に入ってくる、そう言えばまだいたんだっけ
さっきまで修羅場過ぎて完全に存在を忘れてたよ。

「ん?見ての通りだよ
 私には心強い仲間がいるからね、多少の怪我ならこの通りだよ」

私はそう言って右手を上げて掌をプルプルと振る。
結構な激痛が走るけどやせ我慢、この手の輩は弱みを見せると
そこを徹底的に突いてくるからね。
………っとそうだ、そう言えばこいつ等って龍の死骸を
寄こせって言ってなかったっけ。

「残念だけど、貴方達が欲しがってた素材はあの有様だよ
 何か魔道協会が欲しがってるみたいだから、どうしても欲しければ
 そことこ交渉して貰う事になりそうだけど?」
「い、いや!!その事はもういい!!
 あんなものを持ち帰ったとなったら父上に何と言われるか………」

私の言葉に鎧の男は慌てたように両手を振りながら答える。
それにしても父上ね、まぁ中身は貴族のボンボンって話だし
これ以上関わり合いになるのも御免かな。

「それならもうここには用は無いんじゃない?
 手柄も欲しがってたけど、それだとまた同じような奴が現れた時に
 貴方達に真っ先に戦う様に言われると思うけど?
 ちなみにその時は私達は一切助力しないからそのつもりでね」

私はそう言い放つと鎧の男は一瞬ハッとしたかと思うと
小刻みに震えだし鎧を鳴らす、分かり易いね全く。

「い、いや…それもいい!!
 と言うかお前達が討伐したという証言もする、だから………」
「次回も私達でどうにかしろって事でしょ?
 まぁ善処はするよ、だから安心して頂戴」

私はそう言って鎧の男から視線を外す。
そろそろやせ我慢も限界に近い、本音を言えば痛みで転げ回りたいぐらいだ。

「………う」

鎧の男は何かをボソッと呟いた後、踵を返して仲間達の元へ戻って行く。
少々冷たかったかなとちらっと思ったけど直ぐに打ち消す。
あの手の輩の対応は媚び過ぎず、少し強気で行く方がいい。
でないと逆らわない奴だと認識されて次から次へと
無茶な事を言って来るのか常だからね。

「流石のあのボンボン共もこんな修羅場を見せられては毒気も抜かれるか
 これで少しはあ奴らの性根もまともになってくれればいいんじゃがな」

鎧の男が戻って行く様を見ながらゼーレンさんが呟く。

「さてどうだろうな、俺は時間が過ぎてばまた元に戻る方に賭けるぜ」
「それは同感だね」

その呟きにユージスさんとイメルダさんが呆れ気味に言い放つ。
この2人はあの騎士団に結構な迷惑を被ってそうだね、言葉の端々に
刺々しい物が見え隠れする。

「それでは儂等も王国に戻るとするか、流石にギルドも
 この件に関してやきもきしてるじゃろうからな」

ゼーレンさんがふっと一息ついた後そう言ってくる。
まぁこれ以上ここにいる理由も無い、首無しのオブジェに関しては
マリスが魔道協会に連絡をして回収してくれる手筈になってるだろうし
そろそろ日が暮れる時間帯だ、そうなると他の魔物が寄ってくるかも知れない。
流石にこれ以上の戦闘は勘弁願いたい。

「確かレン嬢ちゃんは馬に乗れんかったな、なら儂の後ろに乗るとええ
 フィルミール嬢ちゃんはリーゼ、お前さんが運んだ方がええじゃろ
 マリス嬢ちゃんは………」
「あ、マリスの事なら気にしなくてもいいよん
 どの道協会の連中がここに来るまで待ってなきゃいけないから」

ゼーレンさんの言葉にマリスはいつも通りの調子で返す。
流石に教会に投げっぱなしという訳にはいかない様だ、ここにマリスを
1人残しておくのはちょっと心配な気もするけど、まぁマリスだし
自力て何とか出来るんだろう、意味不明なワープも出来るしね。

「そっか、それじゃ先に戻ってるねマリス」
「ほいほ~い、早く戻ってリアを安心してあげてね~」

そう言って笑いながら手を振ってるマリスを後にして、私達は
王国への帰路に就いた―――


………



………………



………………………


「………状況は理解したわ
 まさかドラゴン5匹がただの前座になる事態とは思ってもみなかったけど」

私達の報告を聞いたエウジェニーさんが困惑気味の表情でため息を吐く。
まぁそりゃそうだろうね、ドラゴン5匹の来襲だけでも大騒動なのに
それがさらにとんでもない化け物になったなんて想像なんて出来ないだろう。



首無しとの戦闘を何とか無事に終わらせ、魔導協会との引継ぎの為に
その場にマリスを残して王国に帰還した私達は
未だ魔力切れの為に目を覚まさないフィルを宛がわれていた部屋に寝かせて
リーゼにその場を任せ、ゼーレンさん達と共にエウジェニーさんの元へ
報告に赴いていた。

「ついさっき金輝騎士団の方からも連絡があってね
 今裏付けの為に現地に人をやってるんだけど………正直信じたくは無いわね」

エウジェニーさんは頭に手を当てて吐き出す。
見た目はダンディな中年男性が物憂げな雰囲気を醸し出してる様に見えるんだけど
相変わらず喋り方の違和感が凄い、もう少し女っぽい仕草をしてくれれば
若干違和感も薄まるんだろうけど、この人の立ち振る舞いは男そのものなんだよね。

「とは言えこれが現実じゃ、ちなみにレン嬢ちゃん達にとっては2回目の遭遇じゃ
 流石にこれは少しばかり手を打たねばいかんかもしれんの」
「仰る通りだけど、流石にまだ情報が少なすぎるわね
 何が原因でそんな事態が発生してるか全くわかって無いんだもの
 精々冒険者達に注意喚起をするぐらいしか出来そうに無いわ」

ゼーレンさんの提案にエウジェニーさんが乗っかるも少し難色を示す。
確かに対策は必要だけど現状あのトロールや首無しが
どうやってあんな状態になってるかが分からない以上具体的な対策なんて
出来るわけが無いのは当然だ。
怪しいのは体内にあった黒魔晶石だけどそれ自体も謎な代物だし
そもそも魔晶石って魔物の体内にある代物だから確認しようも無いしね。

「注意喚起っつったってあんなバケモンに対応できる冒険者なんて
 ゼーレン位なもんだろ、今回はたまたまうまくいったが
 もう1回アイツと戦うなんて正直御免だぜ、下世話な話しだが
 苦労の割に実入りも少ないと来たら誰もやりたがらないと思うぜ
 いっその事国に丸投げした方がいいかも知れねぇな」
「まぁ、その方が賢明かも知れないね
 流石にあの規模の敵となると至高騎士グレナディーアが動かざるを
 得ないだろうし………」

ユージスさんとイメルダさんがそれぞれに意見を言う。
冒険者からしたら死ぬ可能性が高い上に手に入るものがギルドからの
報奨金のみだとしたらやってられないだろう。
正直私だってやりたくはない、アレと戦う度に文字通り
腕が吹っ飛んでるんだもの。
けど、アレと向き合うと「ここで絶対に倒さないといけない」的な
妙な焦燥感に苛まれるんだよね、私の相棒も逃げるなと警鐘を鳴らすし。
一体何なんだろ?

「その辺りは王国側と話をするしか無いわね
 ………向こうは向こうでこっちに丸投げしそうな気もするけど」

エウジェニーさんは眉を顰めたままそう言い放つ。
まぁ国としても厄介事は冒険者こっち達に押し付けたいよね、そもそも
それを稼ぎにしてるのが冒険者って職業だし。

「兎に角、予定とはだいぶ違った事態になったけど依頼完了よ
 レンちゃん達も王国に来て早々お疲れ様
 流石に今から宿を探すのは無理だろうし今日もギルドの部屋を貸してあげるから
 ゆっくり休んで頂戴な」

エウジェニーさんはそう言ってダンディな笑みを浮かべた。
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