~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

文字の大きさ
上 下
139 / 208
軌跡への遁走曲《フーガ》

首無き竜

しおりを挟む
私の声に驚き、思わず私の方へ振り向くゼーレンさん達。

「………レン嬢ちゃん、アレが何か知っとるのか?」

ゼーレンさんが重苦しい声で聞いて来る。

「アレが何かは知らない、けど…アレと似た奴なら戦ったことがあるんだ
 あの時はトロールだったけど」
「ちょっと待て、それじゃあ経歴交換の時にみたトロール5匹は………」

私の返答を横で聞いていたユージスさんが驚きの声を上げる。

「うん、その時のトロールだよ
 経過もギルドに報告済み、マイーダさんも大層驚いてたけどね」
「レンちゃん、貴方達って………」

絶句するイメルダさん、いや私達だって好き好んで
こんな奴らと戦ってるんじゃないんだけど………

「攻撃方法は体を使った打撃とさっき体から生えてきた触手
 触手は普通にこっちに向かって伸ばして来るだけじゃなくて
 こっちの攻撃を受けたら距離関係なく反撃して来るよ
 ちなみに触手に捕まると生きたままアレに取り込まれるから注意して
 それと、とんでもない再生能力も持ってる
 体を半分に切り裂いた程度じゃ一瞬で再生するよ」

前回戦った時と特徴は全く一緒とは限らないが、それでも
事前知識はあった方がいい、私は簡潔に特徴を述べていく。

「………分かった、こんな異形を野放しにしておくわけにもいくまい
 じゃがレン嬢ちゃん、そんな化け物をどうやって倒したんじゃ?」

その質問をするって事はゼーレンさんは戦ってくれるみたいだね、よし
至極尤もな質問だ、ユージスさん達も固唾を飲んで私の言葉を待っている。

「前に倒した時は体内にどす黒い魔晶石があったんだよ
 それを何とか破壊したら倒せた、けどリーゼの攻撃ですら傷一つ
 付かなかったから爆発する魔晶石を体内に埋め込んで
 爆発させて倒したんだよ
 相当に固いか、魔法じゃないと傷がつかない特性があるのかも」

私の言葉に少しだけ不機嫌な顔になるフィル。
まああの時は左腕吹っ飛ばしたしね………

「あの嬢ちゃんの馬鹿でかい戦斧ですら傷がつかない魔晶石を破壊かよ………
 それに見てるだけで脂汗が止まらねぇ、こんな化け物とやり合うなんざ
 普段なら御免なんだがな………」

ユージスさんは脂汗を掻きながらも槍を構える。

「正義の味方を気取るつもりはねぇが、こんな奴が王都に乗り込んできたら
 やべぇ事になるのは火を見るよりも明らかだ
 そうなると俺達の仕事も無くなっておまんまの食い上げだ
 それだけは避けねぇとな、イメルダ」
「………そうだね、流石にもう帝国に戻るのは御免かな」

ユージスさんの言葉にイメルダさんも続く。
よし…この2人も戦ってくれそうだ、これでマリスがいない穴は
十二分に塞がってくれた。

「有難うございます、なら私が牽制して相手の的になるからリーゼと
 ユージスさんは触手の切断を、そしてゼーレンさんはアイツの体に穴を
 あけて魔晶石を暴き出したらイメルダさんが全力で魔法攻撃
 フィルは後方で回復と援護………って感じでどうかな?」

私がざっとフォーメーションを指定する、即座に頷くフィルとリーゼ。
本来は若輩者の私が言うべき事じゃないんだろうけど、あまり悠長にしてる
余裕も無いから仕方ない。


「異論はないぞ、むしろあの敵に関してはレン嬢ちゃん達の方が経験は上じゃ
 ならば、儂らは基本レン嬢ちゃんの指示で動くのがよかろうて
 ………尤も、儂は嬢ちゃん達のパーティに厄介になっとるから
 リーダーのレン嬢ちゃんの指示には従うつもりではあるがの」

ゼーレンさんはにぃっと口角を上げて返答してくれる。
これは、流石に私の心境を察してくれたのかな?

「俺達も異論自体はねぇが………レンは大丈夫なのか?
 グレーター上位種を請け負った時も思ったが、流石に自ら進んで
 危険な役割を請け負い過ぎなんじゃねぇか?」

ゼーレンさんとは対照的にユージスさんは心配そうな表情で答える。
この状況下で私の事を心配するなんて人がいいなぁ。

「………口惜しい事ですけど、今の私ではこれしか出来なんですよ
 もう1人の仲間がいたら話は変わってくるんですが」

とは言え現状私が出来る事はそれしかないからそうせざるを得ない。
マリスがいたら私も火力支援に回れるんだけど、まぁこればっかりは
どうしようもない、あの魔法はマリス独自の物だって言ってたし
イメルダさんには恐らくできないだろう。

「なので、もし私がしくじって触手に捕らえられたりしたら
 早めに助けて貰えると幸いですかね」

私はわざと軽い口調で言う。
ここで私に対して必要以上に気負ってもらって欲しくは無い
戦いにおいてそれは致命的な隙になりかねない、私の事ならなおさらだ。
私の様子に少しだけ面食らった様子のユージスさんだけど
直ぐに意図を理解してくれたのか、表情を引き締め

「………分かった、だが無理だけはするなよ」
「努力はしますよ」

お互いにそう言葉を酌み交わし、相手を見据える。
後はイメルダさんの方だけど………そっちの方へ視線を向けると
既に詠唱を始めてて集中モードだ。

「全く…相変わらずこういう時に覚悟を決めるのははえーな
 頼もしいったらありゃしないぜ」

ユージスさんが苦笑しながら呟く、外見のイメージ的には
ユージスさんの方がイメルダさんを引っ張ってそうなイメージだけど
実際は逆だったりするのかもね。
それは兎も角これで全員の意志は通した、ならば後は目の前の異形を倒すのみ。
そうこうしている内に相手………首無しの融合も終わった様だ。
うわ…もう殆どドラゴンの原形を留めてない、体自体がねじれた様に歪み
整然と並んで生えていた鱗もあちこち剥がれて不規則な並びになり、極めつけは
胴体からから4つの口………恐らく取り込んだレッサー下等種のモノだろう
それが顔を見せて涎を垂らしながら開閉してる。
完全に化け物だね、それもエイリアンみたいな映画に出て来そうな
とびっきりグロい奴、正直直視はしたくないかな。

「な、あ……あ……」

多分首無しがレッサー下等種を取り込むところを一部始終見ていたのだろう
鎧の男………金輝騎士団だっけ?今にも馬から落ちそうな程震えてる。
これはゼーレンさんの言った通り修羅場を潜った事が無いひよっこだね。
守る義理も無いけど、この人達が生きたまま首無しに取り込まれるのを
見るのも寝覚めが悪い。

「そこの貴方!!今すぐ王都に戻って救援を呼んで!!
 そんな震えてたらすぐアレに生きたまま取り込まれるよ!!」
「なっ!?」

正気に戻させる為、わざと大声で鎧の男に指示を飛ばす。
何も考えずに指示を聞いてくれる程のプライドの高さが無ければいいんだけど。
ここで指示に従わない様なら流石に見捨てるしかなくなる、さて………

「わ…分かった
 おい!!今すぐこの事を王都に伝えに戻るぞ!!」

団員にそう言い放ち即座に踵を返す。
そのまま私達の方へ振り返りもせず全速力で離脱していく。
余りの逃げっぷりの速さに一瞬呆気に取られる私。

「まぁしょうがなかろうて、彼奴等は騎士団とは名ばかりで
 貴族の子供達に肩書をつける為の所じゃ
 ロクにレベル上げもせず威張り散らすしか能のないボンボン達じゃからな」

うん、立ち振る舞いからしてそんな気はしてたけどね。
妙に声も子供っぽかったし下手すれば私より年下じゃないんだろうか。
まぁ…今はそんな事はどうでもいい、言い方は悪いけど
邪魔者がいなくなってくれて有難い限りだ、これで周囲を気にせず戦える。




「グエエェァィェエェィゥィァアアィイェエゥィアアアア!!」



鎧の男達の撤退が引き金になったのか、首無しはもはや咆哮とは言い難い
不快な鳴き声を失ってる筈の口から喚き散らす。
いつ聴いても不快感しか無い叫び声だね、けどそんなものは怯まないよ!!

「よし、それじゃ行くよみんな!!」

首無しの咆哮をかき消さんとばかりに大きな声で号令をかけ
そのまま私は異形の怪物へと肉薄する――――
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。 1日2回 7:00 19:00 に更新します。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

処理中です...