~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

首無き竜

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私の声に驚き、思わず私の方へ振り向くゼーレンさん達。

「………レン嬢ちゃん、アレが何か知っとるのか?」

ゼーレンさんが重苦しい声で聞いて来る。

「アレが何かは知らない、けど…アレと似た奴なら戦ったことがあるんだ
 あの時はトロールだったけど」
「ちょっと待て、それじゃあ経歴交換の時にみたトロール5匹は………」

私の返答を横で聞いていたユージスさんが驚きの声を上げる。

「うん、その時のトロールだよ
 経過もギルドに報告済み、マイーダさんも大層驚いてたけどね」
「レンちゃん、貴方達って………」

絶句するイメルダさん、いや私達だって好き好んで
こんな奴らと戦ってるんじゃないんだけど………

「攻撃方法は体を使った打撃とさっき体から生えてきた触手
 触手は普通にこっちに向かって伸ばして来るだけじゃなくて
 こっちの攻撃を受けたら距離関係なく反撃して来るよ
 ちなみに触手に捕まると生きたままアレに取り込まれるから注意して
 それと、とんでもない再生能力も持ってる
 体を半分に切り裂いた程度じゃ一瞬で再生するよ」

前回戦った時と特徴は全く一緒とは限らないが、それでも
事前知識はあった方がいい、私は簡潔に特徴を述べていく。

「………分かった、こんな異形を野放しにしておくわけにもいくまい
 じゃがレン嬢ちゃん、そんな化け物をどうやって倒したんじゃ?」

その質問をするって事はゼーレンさんは戦ってくれるみたいだね、よし
至極尤もな質問だ、ユージスさん達も固唾を飲んで私の言葉を待っている。

「前に倒した時は体内にどす黒い魔晶石があったんだよ
 それを何とか破壊したら倒せた、けどリーゼの攻撃ですら傷一つ
 付かなかったから爆発する魔晶石を体内に埋め込んで
 爆発させて倒したんだよ
 相当に固いか、魔法じゃないと傷がつかない特性があるのかも」

私の言葉に少しだけ不機嫌な顔になるフィル。
まああの時は左腕吹っ飛ばしたしね………

「あの嬢ちゃんの馬鹿でかい戦斧ですら傷がつかない魔晶石を破壊かよ………
 それに見てるだけで脂汗が止まらねぇ、こんな化け物とやり合うなんざ
 普段なら御免なんだがな………」

ユージスさんは脂汗を掻きながらも槍を構える。

「正義の味方を気取るつもりはねぇが、こんな奴が王都に乗り込んできたら
 やべぇ事になるのは火を見るよりも明らかだ
 そうなると俺達の仕事も無くなっておまんまの食い上げだ
 それだけは避けねぇとな、イメルダ」
「………そうだね、流石にもう帝国に戻るのは御免かな」

ユージスさんの言葉にイメルダさんも続く。
よし…この2人も戦ってくれそうだ、これでマリスがいない穴は
十二分に塞がってくれた。

「有難うございます、なら私が牽制して相手の的になるからリーゼと
 ユージスさんは触手の切断を、そしてゼーレンさんはアイツの体に穴を
 あけて魔晶石を暴き出したらイメルダさんが全力で魔法攻撃
 フィルは後方で回復と援護………って感じでどうかな?」

私がざっとフォーメーションを指定する、即座に頷くフィルとリーゼ。
本来は若輩者の私が言うべき事じゃないんだろうけど、あまり悠長にしてる
余裕も無いから仕方ない。


「異論はないぞ、むしろあの敵に関してはレン嬢ちゃん達の方が経験は上じゃ
 ならば、儂らは基本レン嬢ちゃんの指示で動くのがよかろうて
 ………尤も、儂は嬢ちゃん達のパーティに厄介になっとるから
 リーダーのレン嬢ちゃんの指示には従うつもりではあるがの」

ゼーレンさんはにぃっと口角を上げて返答してくれる。
これは、流石に私の心境を察してくれたのかな?

「俺達も異論自体はねぇが………レンは大丈夫なのか?
 グレーター上位種を請け負った時も思ったが、流石に自ら進んで
 危険な役割を請け負い過ぎなんじゃねぇか?」

ゼーレンさんとは対照的にユージスさんは心配そうな表情で答える。
この状況下で私の事を心配するなんて人がいいなぁ。

「………口惜しい事ですけど、今の私ではこれしか出来なんですよ
 もう1人の仲間がいたら話は変わってくるんですが」

とは言え現状私が出来る事はそれしかないからそうせざるを得ない。
マリスがいたら私も火力支援に回れるんだけど、まぁこればっかりは
どうしようもない、あの魔法はマリス独自の物だって言ってたし
イメルダさんには恐らくできないだろう。

「なので、もし私がしくじって触手に捕らえられたりしたら
 早めに助けて貰えると幸いですかね」

私はわざと軽い口調で言う。
ここで私に対して必要以上に気負ってもらって欲しくは無い
戦いにおいてそれは致命的な隙になりかねない、私の事ならなおさらだ。
私の様子に少しだけ面食らった様子のユージスさんだけど
直ぐに意図を理解してくれたのか、表情を引き締め

「………分かった、だが無理だけはするなよ」
「努力はしますよ」

お互いにそう言葉を酌み交わし、相手を見据える。
後はイメルダさんの方だけど………そっちの方へ視線を向けると
既に詠唱を始めてて集中モードだ。

「全く…相変わらずこういう時に覚悟を決めるのははえーな
 頼もしいったらありゃしないぜ」

ユージスさんが苦笑しながら呟く、外見のイメージ的には
ユージスさんの方がイメルダさんを引っ張ってそうなイメージだけど
実際は逆だったりするのかもね。
それは兎も角これで全員の意志は通した、ならば後は目の前の異形を倒すのみ。
そうこうしている内に相手………首無しの融合も終わった様だ。
うわ…もう殆どドラゴンの原形を留めてない、体自体がねじれた様に歪み
整然と並んで生えていた鱗もあちこち剥がれて不規則な並びになり、極めつけは
胴体からから4つの口………恐らく取り込んだレッサー下等種のモノだろう
それが顔を見せて涎を垂らしながら開閉してる。
完全に化け物だね、それもエイリアンみたいな映画に出て来そうな
とびっきりグロい奴、正直直視はしたくないかな。

「な、あ……あ……」

多分首無しがレッサー下等種を取り込むところを一部始終見ていたのだろう
鎧の男………金輝騎士団だっけ?今にも馬から落ちそうな程震えてる。
これはゼーレンさんの言った通り修羅場を潜った事が無いひよっこだね。
守る義理も無いけど、この人達が生きたまま首無しに取り込まれるのを
見るのも寝覚めが悪い。

「そこの貴方!!今すぐ王都に戻って救援を呼んで!!
 そんな震えてたらすぐアレに生きたまま取り込まれるよ!!」
「なっ!?」

正気に戻させる為、わざと大声で鎧の男に指示を飛ばす。
何も考えずに指示を聞いてくれる程のプライドの高さが無ければいいんだけど。
ここで指示に従わない様なら流石に見捨てるしかなくなる、さて………

「わ…分かった
 おい!!今すぐこの事を王都に伝えに戻るぞ!!」

団員にそう言い放ち即座に踵を返す。
そのまま私達の方へ振り返りもせず全速力で離脱していく。
余りの逃げっぷりの速さに一瞬呆気に取られる私。

「まぁしょうがなかろうて、彼奴等は騎士団とは名ばかりで
 貴族の子供達に肩書をつける為の所じゃ
 ロクにレベル上げもせず威張り散らすしか能のないボンボン達じゃからな」

うん、立ち振る舞いからしてそんな気はしてたけどね。
妙に声も子供っぽかったし下手すれば私より年下じゃないんだろうか。
まぁ…今はそんな事はどうでもいい、言い方は悪いけど
邪魔者がいなくなってくれて有難い限りだ、これで周囲を気にせず戦える。




「グエエェァィェエェィゥィァアアィイェエゥィアアアア!!」



鎧の男達の撤退が引き金になったのか、首無しはもはや咆哮とは言い難い
不快な鳴き声を失ってる筈の口から喚き散らす。
いつ聴いても不快感しか無い叫び声だね、けどそんなものは怯まないよ!!

「よし、それじゃ行くよみんな!!」

首無しの咆哮をかき消さんとばかりに大きな声で号令をかけ
そのまま私は異形の怪物へと肉薄する――――
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