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軌跡への遁走曲《フーガ》

初依頼は竜退治(2回目)

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「レッサー級以上のドラゴン5体だと!?」

タッドさんの返答にユージスさんは問い詰めるかのような口調で
顔を近づけながら言い放つ。

「は…はい!!報告によればルドアニ海の方角から突如飛来してきたらしく
 現在は地上に降りた後ゆっくりと港方面に近づいてるとの事です!!」

ユージスさんの剣幕にタッドさんは焦りながらも状況を説明する。

「王国軍はどうしたの?そんなのが王都近くに現れたら
 冒険者私達じゃなくてそっちの仕事になると思うけど」

興奮気味のユージスさんとうって変わって冷静な声で質問をするイメルダさん。
表情もさっきまでの朗らかな笑顔を引っ込め真剣そのものだ。

「も、勿論動いています!!
 ですが、先日の国境砦でヒュージモススライムが現れて討伐した際の
 事後処理に人を取られていたらしく、しかも悪い事にグレナディーア至高騎士のお三方も
 王都には不在の状況でして、現状軍だけでは対処が難しいそうなんです
 なので軍から我々の所に緊急の依頼として来たんですよ!!」

あら、なんて悪いタイミングで………
マリスの話じゃ王国軍は帝国と比べてそこまで練度が高い訳じゃないらしいし
それをカバーできるグレナディーア至高騎士も不在の時にドラゴン出現じゃ
確かに対処は難しいとは思うけど………

「ならゼーレンは何してるの?あの人なら対処できるでしょ?」

話を聞いていたフィルが口を挟む。
何かエウジェニーさんに頼まれ事をされてたみたいだけど、こんな状況なら
言えば動いてくれそうだけど。

「はい、ゼーレン殿には既に報告して向かって貰っています
 ですが、下級レッサー種なら兎も角中級ミドル種以上になりますと
 流石のゼーレン殿と言えども………」

む、流石にゼーレンさん任せにも出来ない状況か。
となれば………

「リーゼ、その5体のドラゴンの事って何か分かってたりする?」

ドラゴンの事はドラゴンに聞くべきと思い、リーゼに小声で質問する。

「………確かにこの近辺に同族の気配を感じます
 ですが、何かおかしいですね」
「おかしい?」

リーゼは少しだけ眉間に皺を寄せて答える。

「基本的に逆鱗に触れでもしない限りドラゴン我々
 自ら人間に襲い掛かる事はありません
 ………マスターは気分を害されるかも知れませんがドラゴン我々にとっては
 人間など地を這う虫と同等、何をしようと意に介す存在ではありません」

リーゼが淡々と告げる、まぁ確かにリーゼも私達以外は基本話しかけもしないし
会話中もほぼ無言だ、人間が虫の動きを一々気にしないのと
同じ感覚なんだろうね。

ドラゴン我々が人間に対して敵対をするのは
 逆鱗に触れるか傷を負わされた時、後は無断で自らの住処に
 足を踏み入れた時ぐらいでしょうか」

ふむ、その辺りの感覚も虫と一緒だね。
刺されたり家の中に入ってきたりしたら駆除するけど
目につかない所にいるのはあまり気にはしないよね。
という事は、今近づいているドラゴン達は放っておけば
どっかに行く可能性も在るって事だけど………

「断言は出来ませんが、地上に降りてこちらに近づいているという事は
 あの者共はこの人間の町を標的にしている可能性があります」

だけど、その可能性をリーゼは否定する。
言われてみればそうか、王都の先を通過したければ態々降りる必要なんてない。

「標的って、ドラゴンが王都を襲う理由って何があるのよ」

フィルがリーゼに質問する、当然の疑問だね。

「………分かりません、ですが」

リーゼは少し俯き、顔を顰め

「微小ではありますが、この国に入ってから得も言われぬ
 不快感が付きまとっている感じがするのです。
 気にならない程度でありますが、しかし確実に」

そんな事を言ってくるリーゼ。
不快感…か、生憎と私はこの国に来てからそんな不快感は感じては無い。
フィルの方に視線を向けると首を振る、という事は
ドラゴンに対してこの国は何かやってるのかな?
昔ドラゴンに酷い目に遭わされてたみたいだし、何か対策をしてる可能性も
無いとは言えない、それがリーゼが感じてる不快感かも知れない。
もしかしたらだけど、ドラゴン達がこちらに向かってるのと
何か関係がありそうな気もするけど………

「神弓のゼーレンが向かってるとすれば、ドラゴン5体でも
 何とか出来そうだが………イメルダ、どうする?」

そんな事を思案している私を他所に、ユージスさんが
イメルダさんに問いかける。

「どうするも何も行くしかないよ
 このままここにいてもドラゴンに襲われる可能性は高いし
 なら、当てにできる戦力が他にいる時にどうにかしてしまわないと」

イメルダさんは冷静な声色のまま答え、タッドさんに向き

「私達以外で対応できそうな冒険者は他にいる?」

戦えそうな他冒険者の事を聞く、だけどタッドさんは首を振り

「いえ…現状ゼーレン殿を除けば
 現状貴方達ぐらいしかドラゴンに対応できそうな冒険者は………」

申し訳なさそうに現状を伝えるタッドさん、その言葉を聞いた
ユージスさんはチッと舌打ちをする。

「クソ、厄介な事になりやがった………」

そう吐き捨てる、イメルダさんも真剣な表情のままだ。
………ゼーレンさんも向かってるみたいだし、これは
放って置く訳にもいかないかな。

「………レン、何考えてるの?」

私の表情の変化を読み取ったのか、フィルがそう言ってくる。

「フィルの考えてる通りだよ、可能なら私達も依頼を受けようかとね」

私がそう口にすると、フィルは頭を押さえ大きくため息を吐き

「………だと思った、ほんっとレンはトラブルに首を突っ込むのが好きね
 アイツマリスから悪影響受けてるんじゃない?」
「そんな事は無い………と思うんだけど」

フィルの吐いた言葉に、ちょっと自信なさげに返答する私。

「まぁいいわ、レンが行くって言うなら私も行くだけだし
 それにゼーレンとリーゼもいるから何とかなるでしょ」

おや、フィルにしては珍しく楽観的な意見だね。
さて、フィルの同意も貰った訳だけど………依頼を受ける前に
1つ確認しておかないといけない事がある。

「ありがとフィル
 ………で、リーゼ1つ確認したい事があるんだけど」
「何でしょうか?」

私は真剣な眼差しを向け、1つの事柄を問いただす。

「分かってると思うけどリーゼ、これから私達は貴方の同族と戦おうとしてる
 それでも………私に力を貸してくれるのかな?」

流石にこれだけは聞いておかなければいけない、ドラゴンの価値観が
どんなものかは分からないけど、同族との戦闘がタブーとされてるなら
無理矢理リーゼを連れて行く訳にはいかない、我ながら甘いと思うけどね。

「無論ですマスター、マスターの前に立ち塞がるのであれば
 ドラゴン同族だろうが関係ありません、全て打ち倒すのみです」

だけどリーゼは私の目を見据えたまま即座に返答する。
その視線には揺るぎない強固な意志を感じる、心の底から
そう思ってくれてるのだろうとその視線で私は確信する。

「………ありがとリーゼ」
「礼など不要です、マスターの敵は我にとっても敵、それだけの事ですから」

そう言ってリーゼは少しだけ微笑んでくれる。

「リーゼも問題なさそうね、後はあのアイツマリスだけだけど………
 アイツなら呼ばなくても来そうな気がするわね」

フィルが少しだけうんざりした表情で呟く、まぁ確かにマリスなら
何処からともなく現れそうだけど………

「そだね、けど今回は私達から呼ぶことはしない
 マリスを呼んだらリアも絶対に来ちゃうだろうしね
 ………後で2人には拗ねられそうだけど」

流石にドラゴンとの戦いにリアを連れて行くことは出来ない。
とてもじゃないけどリアを庇いながら戦って勝てる相手じゃないだろう。
なので悪いけど2人共留守番して貰おう。
………けど、フィルも言ってたけどどこからともなく現れそうだなぁマリス。

「よし、それじゃ私達も依頼を受けるよ
 中々にハードな戦いになるかもしれないから、気合入れてかないとね」

私は言葉通り気合を入れる為に両頬を叩き、タッドさんに話しかけた。
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