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軌跡への遁走曲《フーガ》

経歴交換

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「自己紹介はこんな所かな、それで………良かったらだけど
 冒険者証の経歴交換しない?」

お互いに自己紹介を終えた後、イメルダさんはそんな事を言ってくる。
はて、経歴交換って何?
フィルに視線を送るも小さく首を振る、一体どういう事だろう?

「えっと、冒険者証の経歴交換って何ですか?」

取り合えず聞いてみる私、まぁイメルダさんの口調からして
気軽にできるような事なんだろうけど………

「えっ?嬢ちゃん達経歴交換やったことないのか?」

ユージスさんが驚いて聞き返して来る。
えっ?もしかして冒険者同士では常識的な事なのかな?

「あ~~、そういう事
 レンちゃん達帝国にいたから冒険者同士の交流って殆どしたこと
 無かったみたいだね」

イメルダさんが納得したような顔で言ってくる。
冒険者同士の交流?言われてみれば確かにそんな事した覚えは無いね。
ゼーレンさんとは冒険者になる前に会ったし、マリスもほぼそんな感じだ。
他の冒険者達は私達を侮蔑や悪意、そして邪魔者扱いの目でしか見てなかったから
交流なんて出来るような雰囲気じゃなかったね。

「言われてみればそうですね、よく考えたら帝国にいた時は
 他の冒険者とゆっくり話した事なんてほぼ無いですね」
「やっぱりね、あそこは未だに女性差別が根強い国だから
 男社会の冒険者業に女が入ってくるのを極端に嫌うんだよね」

イメルダさんが机に頬杖をついて苦笑する。
そう言えばイメルダさんも帝国出身って言ってたね、となるとこの人も
色々不愉快な目にあってきたんだろう。

「イメルダから聞いてはいたが、帝国ってのはそんなに女を見下すとこなのか
 んな事して何の意味があるんだか」

ユージスさんが若干不愉快そうに鼻を鳴らして吐き捨てる。
………なんか新鮮に感じる反応だね、まぁ王国ではこれが当然なんだろうけど。

「そういう事なら納得だ、先輩冒険者として教えておかないとな」

ユージスさんは直ぐににぃっと歯を見せて笑い、そう言ってくる。

「経歴交換ってのはいわば冒険者同士の挨拶の様なモンだ
 こうやって冒険者証を相手に出して互いの経歴を見せ合う感じだな」

ユージスさんは懐から冒険者証を取り出し、私に差し出して来る。

「こうする事でお互いの経歴を確認し合うの
 勿論教えたくなければ断ることも出来るんだけど、特別な事情が無い限り
 断ったらあまりい印象は持たれなくなっちゃうんだよね」
「まぁ、冒険者にとっては自分の腕前を自慢するいい機会だし
 逆に特別な理由が無いのに教えないって事は何かやましい事があるか
 自分に自信が無い臆病者って印象になっちまう感じなんだよ」

ユージスさんに続いてイメルダさんも冒険者証を差し出して来る。
ふむふむ、なんか名刺交換みたいなイメージかな?
そういう事なら従った方がいいね、情報を提示するのはちょっと気が引くけど
特に不都合な事がある訳じゃないし、帝国みたいに悪意に晒されるよりは
よっぽどましだ。
若干心配なのはリーゼだけど、ギルド自体にはリーゼの事情は
伝わってるみたいだからその辺りは考慮してくれてるかな。
エウジェニーさんもそんな感じな事言ってたしね。

「そう言う挨拶があったんですが、それならばどうぞ」

私は懐から冒険者証を出し、2人の冒険者証を受け取る。
それに倣ってフィルとリーゼも2人に冒険者証を手渡し、私の手元の
冒険者証を覗き込む。

「これは………この人達ベテランもいい所ね
 イメルダさんがレベル57、ユージスさんがレベル59
 魔物の討伐数も300体を超えてるし、名在り魔物ネームドモンスター
 下級竜レッサードラゴンの討伐も複数回やってる
 ゼーレン程じゃないけど、この人達もなかなかの実力者よ」

文字が読めない私の為にフィルが内容を説明してくれる。
ふむ…確かにユージスさんからには実力者っぽい気配は感じてた。
イメルダさんは魔法使いみたいだから良く分かんないけど
少なくともマリスよりレベルが高いから相当な使い手なんだろう。
………あまり敵に回したくはない人達かな?
そんな感想を抱いてふと2人の方に視線を送ると………なんか絶句してる?
 
「これ、ホントなの!?」
古代竜エンシェントドラゴン撃退と名在り魔物ネームドモンスター撃破だと?
 嬢ちゃん達ホントにレベル20台の冒険者なのか?
 しかもこのレベル0《SystemError》何なんだ?」

何かすんごい驚かれてるけど、そんなに大層な事なのかな?
ちらとフィルを見ると『当たり前でしょ?』と言った感じの視線を返して来る。
え~、マリスは兎も角私はそんな非常識なことした覚えは無いんだけどなぁ。

「こりゃエウジェニーが浮かれ気味になるのも分かるぜ
 こんな嬢ちゃん達が王国に来てくれるんだ、ギルドとしては大歓迎な人材だろうさ
 イメルダ、お前さんが興味を惹かれるのも分かる」
「私は大まかな事を聞いてたからね、だけどこの経歴は予想外かな」

2人は驚いた表情のまま呟き、そして私達に向き直す。

「正直驚愕だ、こんな線の細い嬢ちゃん達があんな経歴の持ち主だったとはな
 そうとも知らずに先輩風吹かして悪かった、済まない」

ユージスさんはそう言うとおもむろに頭を下げる。
それを見て驚くフィル、まぁ男性冒険者にはさんざん偉そうな態度取られたから
こう謙虚な態度に出られると驚くのは無理はないかも。

「謝られる必要はありません、実際ユージンさん達の方が
 冒険者として先輩なのは事実なんですから
 実際、私達は冒険者同士の挨拶も知らなかった若輩者ですしね」
「………そう言ってくれると助かる」

私の返事にユージスさんは頭を上げ、苦笑いを向けてくる。

「なので、物を知らない後輩に冒険者の礼儀や
 王国での立ち回り方を教えてくれると助かります、先輩♪」

私は若干の茶目っ気を含んで言葉を続け、ウィンクをする。
それを見て噴き出すイメルダさん、あはははと笑った後

「これは貴方の負けだね、ユージス
 こうなった以上存分に先輩風を拭かさないとみっともないよ?」
「確かにな、やれやれ厄介な後輩が出来たもんだ」

ユージスさんはそう言ってから私と見つめ合い、お互いに笑いだす。
………うん、この人達とはいい関係が築けそうだ。

「それで、後輩はこの先輩に何を聞きたいんだ?」

ひとしきり笑った後、ユージスさんはにやりと口角を上げてそう言ってくる。
よし、ならばまず聞きたい事は………
と…頭に浮かんだことを声に出そうとした瞬間、ギルドハウスの
扉が乱暴に開け放たれる。

「何!?」

驚いて声を上げるフィル、その場にいた全員が虚を突かれ
みんなの視線が開け放たれた扉に集中する。
そこには、冒険者ギルドの制服を着た男性が肩で息をしながら立っていた。

「どうしたタッド、そんな慌てて………何かあったのか?」

驚いた表情のままギルド員らしい青年に話しかけるユージスさん。
けど、直ぐに何かを察したのか目つきが真剣なものに変わる。

「お2人だけ………ですか?他の方は!?」

タッドと呼ばれた男性は息も絶え絶えながらギルドハウス内を見回し
ユージスさんに質問をする。
他の方って…イメルダさんのパーティって他にも仲間がいるみたいね。

「今は私達2人だけしかいないよ、他の仲間はファアル連邦からの
 商人達の護衛依頼をしてる、予定より遅いから少し心配してるんだけど………」

イメルダさんが少し心配そうな声色で答える。
ファアル連邦って確かラミカが王国に来る前にいた国の名前だった様な
そう言えばあの商隊も元は護衛がいたんだっけ、デカカマキリに
恐れをなして逃げたっぽいけど………まさかね。

「そんな………どうしてこう冒険者が出払ってる時に限って」
「だから何があったんだ、言ってみろ!」

失意に項垂れそうになるタッドさんの肩を掴み、何があったか
問い質すユージスさん、これはまた厄介な事が起こった様だね。

「ドラゴンが5体、王都近くに姿を現したそうです
 種族は確認中ですが、恐らくレッサー種以上なのは確実かと………」

ユージスさんに促され、タッドさんは重々しく迫りくる脅威を伝えて来た。
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