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軌跡への遁走曲《フーガ》

同業者達

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「到着、ここが私達パーティが住んでるギルドハウスだよ」

イメルダさんについて行くこと十数分、王都のメインストリートから
離れた郊外にあるギルドハウスに辿り着く。
見た目は2階建ての普通の家だね、イメルダさんのパーティが
何人かは分からないけど大体4~5人くらいが住めそうな感じだ。
家のベランダには洗濯物が干してあり、庭には薪割り用らしき
木の台に斧が刺さってる、当然だけど生活臭さが滲み出てるね。

「何か、ギルドハウスって大層な名前で呼んでるけど
 要は冒険者用の借家っぽいわね」

フィルがボソッと呟く、まぁ私も同じ感想だ。
とは言え生活して行くには十分すぎるぐらいに立派な家だ。
1年以上のベテラン限定とはいえこれを貸し出してくれるのは
確かに冒険者としての1つの指針にはなりそうだよね。

「ふふっ、思ったより普通の家でガッカリしたかな?」

私達の表情から読み取ったのかイメルダさんが微笑みながら言ってくる。

「いえ、確かに普通の家だなとは思いましたけど
 これを貸し出してくれるなら有難いですね」

私はお世辞抜きにそう返答する。

「まぁ、これに住むのがベテラン冒険者の証の1つだしね
 ここに住む資格を貰うの結構大変なんだよ」

まぁそれはそうだろうね、日本とは土地事情が違うとはいえ
家なんてそうそうポンポン貸し出せる訳は無いよね。

「取り合えず中に入って、お茶でも飲みながら話しよっか」

イメルダさんはギルドハウスの扉を開けながらそう言って
上機嫌で中に入っていく。
………あの様子だと大丈夫かな、あれが演技なら大したものだけど。
そんな事を思案しながらイメルダさんの後を追う。


ギルドハウスの中に入るとこれまた生活感あふれるリビングが目に入る。
綺麗に整頓されてるようで若干散らかってる感じが何ともはや。
奥の方にはかまどっぽいものが見えるね、となるとここで食事がメインなのかな。
リビングを見回していると唐突に隣の部屋らしき扉がガチャリと空き

「ふわぁ………誰か帰って来たのか?
 って何だイメルダか」

そう言いながら大柄の男性がぬっと姿を現す。
一瞬驚いた表情をするフィル、まぁ私達が特殊なだけで
冒険者のパーティなんて基本男女混合だよね、となればここに住んでる
男性冒険者もいるのは当然かな。

「あれ?ユージス出かけたんじゃなかったの?」
「ん~…なんか気分が乗らなくてな、さっきまで寝てた」

イメルダさんの問いに男性は頭をぼりぼりと掻きながら答える。
改めて見ると確かに寝起きの様だ、服はパジャマっぽい格好で頭はボサボサ
まだはっきりと目覚めた訳じゃない様で私達の存在には気付いてないっぽいね。

「って、ちょっとユージス
 女の子達の前でその格好はあんまりだと思うんだけど………」
「あぁ?」

イメルダさんの指摘に疑問の声を上げた男性…ユージスさんが
寝ぼけ眼のままイメルダさんの視線の先を追って行き………私達に辿り着く。

「………えーっと、誰だこの子達?」

未だ状況が掴めてないユージスさんがイメルダさんに問いかける。

「それは後で説明するからまずはその格好を何とかして来てほらほらほら
 ………あ、レンちゃん達はそこの椅子にでも座って待ってて頂戴」
「お…おい」

イメルダさんはそう言いながらユージスさんの背を押して
部屋の中へ押し込んで行き、部屋のドアを閉めてしまった。

「偉くだらしのない男ね」

その様子を一部始終見届けた後、フィルが呆れたように呟く。

「まぁ、ギルドハウスここって冒険者が普通に生活する場だし
 多少の気のゆるみは仕方ないよ
 フィルだって前に寝ぼけて私の前に………」
「そ、それは忘れてって言ったでしょ、レン!!」

私の指摘に一瞬で真っ赤になって声を上げるフィル。
そんなに恥ずかしかったんだ、あれ。

「一先ず言われた通りに座って待ってようか」
「………そうね」

流石に人の家で勝手する訳にもいかないので、言われた通り
リビングの椅子に座って待つことにする私達。
扉の奥で何かドタドタ聞こえるけど気にしないでおこう。




「いや~、見苦しいものを見せて悪かったな嬢ちゃん達
 まさかイメルダが客を連れてくるとは思わなくてな」

数分後、部屋でのドタドタ音が聞こえなくなり
その直後に部屋からイメルダさんと身なりを整えたユージスさんが出てきて
苦笑いをしながらそう言ってくる。
ボサボサ頭をきちっとオールバック気味に整え、清潔感のある服装に
着替えただけだけどそれだけで爽やかそうなイメージになってるね。
背は高く180㎝以上はありそう、体つきは引き締まっていて
いかにも荒事に向いてますって感じだね。

「いきなりレンちゃん達を連れて来た私も悪いとは思うけど
 ギルドハウス内だからと言ってだらけ過ぎじゃないかなユージン」
「あはは、面目ない」

呆れ顔のイメルダさんに苦笑で返すユージスさん。
冒険者仲間だろうから当然なんだろうけど、気心の知れた2人みたいだね。

「着替えてる最中にイメルダから大体の事は聞いた
 取り合えず自己紹介からさせて貰うぜ」

ユージンさんは私達に向き直して、白い歯を見せてにぃっと笑い

「俺の名前は『ユージス=ゲルナイド』
 王国の冒険者で主にイメルダと組んで活動してる、宜しくな」

そう言って私の前に手を出して来る。

「レン=キミヅカです
 よろしくお願いしますね、ユージスさん」

私はその手を取って握手をしながらユージスさんに微笑みかける。
何事も第一印象が肝心だ、嫌悪感や不信感を持たれるより好感を持たれた方が
ずっといいのは当然だしね。
………何かフィルがジト目でこっちを見てる気がするけど気にしないでおこう。

「フィルミール=ルクヴルールと申します」

続いてフィルが礼儀正しく頭を下げて簡単に名を告げる。
………相変わらず男の人には少し態度が冷たいね。
そんな態度のフィルにもユージスさんは気を悪くした様子も無く
興味深くフィルを眺めた後

「へぇ、神官の冒険者なんて珍しいな
 聖教は冒険者にも風当たりが強いのによく許したもんだ」

そんな事を呟くユージスさん、そう言えば前にそんなこと聞いた気がするね。

「聖教は関係ありません、私が冒険者をしているのは
 全てレンの為、ですから」

ユージスさんの呟きにきっぱりと答えるフィル。
もう何度も聞いた科白だけど、本音を言えばそう言いきってくれるのは
嬉しかったりする。

「そうか、えらく惚れ込まれてるなそっちの嬢ちゃんは」
「ええ、羨ましいでしょう?」
「ははは、確かにな」

ユージスさんの言葉に冗談を交えて返し、ユージンさんは
笑いながら言葉を返す。
ふむ、この人は冗談が通じそうな人だね。

「それで、こっちの嬢ちゃんは………」

次に視線をリーゼに移すユージスさん、フィルと同様に
興味深そうな視線で眺めて………ある1点で一瞬止まる。

「ユージン、何処見てるのかな?」

その視線の先にあるモノを感じ取ったイメルダさんが1段低い声で
ユージンさんに声をかける。

「あ、あ~……スマン嬢ちゃん
 あまりにも立派だからつい………ぐっ!?」

ユージンさんはバツの悪い表情をしてそう言った後
脇腹にイメルダさんの肘を喰らってる。
まぁ、セクハラの罰としては穏当な所だろうけど………
多分リーゼは気にしてないよね、事実表情は全く変わってないし。

「そしてこの子がリーゼ、こう見えてウチのパーティでの
 1番の力自慢なんですよ」

そしてリーゼの紹介をする、その言葉に合わせて
リーゼが小さく頭を下げる。

「あと2人仲間がいますけど、機会があったら紹介しますね」

そう言って私は自己紹介を締めくくった。
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