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軌跡への遁走曲《フーガ》

寝床探し

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「昨日も思ったけど、本当に建物が色とりどりね」
「出歩いている人間の数も多めですね…それだけ
 外敵が少ないという事でしょうか」

隣を歩くフィルとリーゼが周囲を眺めながら呟く。
確かに帝国に比べて色の数が多い、王都全体が明るく
煌びやかな印象を受ける、だけど………

「………店の統一感が無いね、これは確かに地図がないと
 目的の物を探すのは大変そうだね」

私はマリスからもらった地図を片手に後頭部を掻きながら呟く。


王国に到着した次の日、早速私達は取り合えずの宿探しに取り掛かった。
昨日はエウジェニーさんの計らいでギルドに泊めて貰ったけど
直ぐに新人冒険者が入るらしく今日中に出て行かないといけない。
と言う訳で手分けして探そうと思ったんだけど………

「ごめ~んレンお姉ちゃん、マリスギルドここでちょ~っとやりたい事があってさ
 寝床探し手伝えないんだ~」

王都の案内を頼もうとしたマリスが朝一番にそんな事を言ってくる。
マリスのやりたい事ねぇ………まぁまた変な事なんだろうけど。
それならばゼーレンさんに頼もうかと思ったけど

「スマンの、儂の方もエウジェニーに頼まれ事をされてしもうたから無理なんじゃ
 折角のデートの誘いじゃのに残念じゃわい」

と、ゼーレンさんにも断られてしまう。
という訳で自力で探さないといけなくなった訳なんだよね。

「取り合えず王都の地図あげるからこれで探しててよ
 あ、お詫びって訳じゃないけどリアの事はマリスが見てるからさ」

マリスはそう言って部屋のベッドで寝てるリアを見ながら地図をくれた。
ちなみにリアは旅の疲れが相当貯まっていたらしく体を洗った後
ベッドに寝っ転がった瞬間にすやすやと寝息を立ててしまい
いつもなら私が起きるとほぼ同時に目を覚ましていたのが
今日は起きる気配すらなかった、やっぱり結構無理してた様だね。
起きてくれる迄待ってようかとも思ってたけど、マリスが見てくれるなら
前みたいなことにはならないだろうし、ちょっと悪い気もするけど
マリスに任せて私とフィル、そしてリーゼは宿探しに王都に出たという状況だ。
とは言え、地図があるとは言え区画がきっちり整理されていた帝都とは違って
街のあちこちに宿があるから全部回るのも結構かかりそうだ。

「う~ん、思ってた以上にバラけてるね
 とは言え手分けして探そうにも、みんな王都には不案内だし
 地図もこれ1枚しかないから………」
「ええ、間違いなく迷子になるわよね」

時間は朝が終わって昼に差し掛かった頃だから人の姿も結構見かける。
この人出で不案内な街を1人で歩いたらフィルは兎も角
地図が読めても文字が読めない私やその逆のリーゼは
ほぼ間違いなく迷子になるだろう。
まぁ最悪ギルドの場所を誰かに聞けば合流は出来そうだけど
宿探しなんてとてもじゃないけど出来そうにないね。

「仕方ない、効率は悪いけど皆で一軒一軒回るかな
 こんな事ならエウジェニーさんにおすすめの宿辺り聞いとけばよかったよ」
「そうね、けど愚痴ってても仕方ないわレン
 取り合えず1番近くの宿に行ってみましょ」

フィルが地図で示した方向へ歩き始める私達。
これは思ったより大変な事になりそうだなぁ………


………



………………



………………………


「………ここもダメね、流石に長期滞在向けの値段じゃないわ」

あれから数時間後、5軒目の宿屋を後にしてフィルが呟く。
分かってた事だけど、私達の条件に合致する宿屋になると
それ相応の値段になってくる、拠点購入用の資金も考えると
余り無駄遣いはしたくないんだけど………

「女5人を男の目につかない部屋で長期滞在希望となるとやっぱり値が張るね
 多少の妥協はしたほうがいいのかな?」
「駄目よ!!|私やリーゼは兎も角、レンを男の下賤な視線に
 晒すなんて我慢ならないわ!!」

私の提案に速攻反対して来るフィル。
理由もらしいっちゃらしいんだけど、どっちかってーと
そんな視線は私よりフィルやリーゼの方に向くような気がするんだけど………

「とは言っても今日中に宿は決めないといけないでしょ?
 最低限のラインは超えないようにして、そこから私達が
 我慢するしかないと思うんだけど」
「それは、そうなんだけど………」

私の説得に逡巡するフィル、とは言えこのまま探しても
見つかりそうにないのは事実なんだよね。
今思い返せば帝国ではホント運がよかったんだよなぁと痛感する。
流石にあんな事は2度も3度も無いだろうね。
とは言え流石に行き詰まってきた感があるかな、ここらで1つ
休憩を入れた方がいいかも、丁度お昼時だ。

「取り合えずそろそろお昼時だしご飯にしようよ
 一息ついてまたどうするか考えてようよ」
「………そうね、結構歩いたから私もお腹空いて来たわ」

私の提案に今度はすぐに同意するフィル。
となれば今度は食事が出来そうな店探しだ、リーゼもいるから
お酒を取り扱ってる店の方がいいかな?まだ昼間だけど。
そんな感じでお店を探し始める私達、流石食の国と言われるだけあって
辺りを見回すだけで色んな飲食店らしき看板が目についてくる。

「レン、あそことかいい感じの店じゃない?」

フィルが目ぼしい店を見つけたらしく指を差す。
ふむむ、白を基調とした外装の店でいかにもフィル好みの装いだ。
元の世界だと食堂と言うより喫茶店やケーキ屋みたいな雰囲気だね。
まぁ、生憎この世界に来てからケーキやコーヒーなんて言う
嗜好品は見た事ないんだけど………
フィルが行きたいって言うなら反対する理由はないし、そこに行ってみようかな。

「それじゃそこにしよっか、リーゼが飲むお酒があればいいんだけど」
「我にお気づかいは無用………と言いたい所ですが
 マイーダやマリーに『王国の美味しかった酒をお土産にヨロシク』と
 依頼されてますので、酒が頼めれば幸いです」

リーゼが表情を変えないままそんな事を言ってくる。
あの飲兵衛2人、いつの間にリーゼにそんなこと頼んでたの………
いや確かに私達の中でその手の事を頼めるのはリーゼしかいないんだけど。

「そ、そっか…いいお酒があるといいね」
「はい、我自身も少々楽しみです」

私は若干脱力しながらもリーゼに言葉を返し、リーゼは少しだけ
表情を緩めて頷く。
これでお酒を取り扱ってないとかだったらリーゼガッカリそうだなぁ。


………



………………



………………………


「ふぅ、満足満足」
「そうね、値段の割に美味しいお店だったわね」

小一時間後、フィルの見つけた店で食事を終えた私達は
予想以上に美味しい料理にありつけた事に満足しながら店を出た。

「………あの2人の言う通り、人間の国によって酒の味はこうも違うものですか
 これは、人間への見識を相当変えねばならないですね」

そしてリーゼはお店で飲んだお酒に何か相当ショックを受けたらしく
しきりに頷きながら呟いている。
流石に懐の事情もあるからメニューの内の3種類しか頼めなかったんだけど
それでもリーゼにとっては相当な衝撃らしい、残りのお酒の種類を確認しながら
名残惜しそうに店を何度も振り返ってた。

「そんなに王国のお酒が美味しかったの?リーゼ」

普段あまり表情を変えないリーゼがここまでくるくる表情を変えるのは珍しい。
当然ながらお酒って飲んだこと無いけどそこまで美味しいのかな?
少し興味も出て来たのでリーゼに聞いてみる私。

「美味しい…と言う感覚は未だにはっきりとは分かりませんが
 同じ酒と言うものでもこうも違うものか、と衝撃を受けていました」

私の問いに少しだけ興奮した様子で返答するリーゼ。

「何と表現すれば適切なのか不明ですが………
 強いて言えば帝国の酒は固くて切れ味が鋭い感覚で、王国の方は
 柔らかく包み込むような感覚………と言えば理解して頂けるでしょうか?」

うん、リーゼには悪いけど全く分かんない。
とは言えリーゼがここまで喜んでるみたいだし、付き合ってあげたい気もするけど
流石にまだ抵抗感の方が強いかな。

「そっか、ならもっといろんなお酒を飲めるように稼がないとね」
「ドラゴンがお酒を飲むためにお金稼ぎをするって
 言うのもなんかシュールよね………」

リーゼへの私の言葉に、呆れ半分にフィルが言葉を重ねる。
まぁリーゼが喜んでるならいいんだけどね。

「さて、取り合えず食事も終わったし宿探しを再開して………」
「あーっ!!、貴方昨日の!!」

えっ、何!?
いきなり近くで声を上げられ思わず振り向く。

そこにはいかにも魔導士っぽい杖を持って白い帽子を被った1人の女性が
驚いた表情で私達を見ていた。
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