~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

思案の老兵

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「………凄い、本当に倒してしまうなんて」

戦闘跡を見たカルビンを含めた商人のみなさんが驚愕の表情で呟く。
まぁ、いくらゼーレンさんが同行してるとは言え小娘達だけで
こんな魔物を倒したとあっちゃ無理ないよね。

「レン達なら大丈夫だとは思ったけど、相変わらず凄い事するね
 確か相当レベル高かったでしょ?コイツ」
「そうね、確かレベル63だったかしら
 リーゼのブレスを受けても無傷だったのよ、この魔物」
「ふぇ~、そんな奴だったんだ」
 
流石にラミカは驚きの表情はしなかったけど、それでも感心した口調で
呟き、フィルがそれに答える。

「そんな奴の腕をぶち折っちゃったのがレンお姉ちゃんなんだよね~
 いやはや、あんな曲芸見せて貰えるとは思わなかったよ
 これだからレンお姉ちゃん達と一緒にいるのはやめられないんだよね♪」

デカカマキリの解体を終えたマリスがホクホク顔で戻ってくる。
何故かその手に私が捩じ切ったデカカマキリの鎌を持って………

「うわ、ホントに奇麗に捩じ切っちゃってる
 鎌部分に殆ど傷も無いし、これ素材として結構な値段で売れるよ?」

商人の性なのかラミカは鎌を見て一目見ただけでそう言ってくる。

「だよね~、丁度商人さん達もいる事だし
 これ売っ払って王国での生活費の足しにしようかな~と思って持ってきたんだ」

マリスがいつものニコニコ顔でそう口にする。
マリスの言う事は尤もだ、現状困らない程のお金はあるとはいえ
無限って訳じゃない。
王国での物価がどんなものかは分からないけど、拠点の確保や
生活の準備等々でお金はいくらでも必要になりそうだ。
なら稼げるときに稼いでしまわないとね。

「ほ~、確かにこれはブラックマンティスの素材としては上質だ」
「色つやもいいし傷も無い、これはいい武器防具の素材になりそうだぞ」

早速商人さんが集まって来て鎌の見定めをしてる、流石に
商売のチャンスともなれば皆さん行動が早いね。

「ほいほ~い、そんじゃ1番高値を付けた人にこの鎌を売っちゃうよ~
 さてさて、1番太っ腹な人は誰かな~?」
「5…5000!!」
「5500!!」
「6500でどうだ!?」

そして即興でオークションを始めるマリスと商人さん達
商魂逞しいというか強かと言うか………

「やれやれ、マリスは凄いねぇ
 速攻であの人達を手玉に取っちゃうなんて」

その光景を見たラミカが感心半分、呆れ半分な表情で呟く。

「ラミカは参加しないの?」
「無理無理、まだまだ駆け出しの私にはあんな素材を
 取り扱える資金なんてないよ」

私の問いにラミカは苦笑しながらお手上げのポーズをする。
という事はあの鎌は結構な値段で売れそうだね、取り合えず自分が
ダメージを与えられる手段としてあの鎌をもぎ取る事になったけど
これは嬉しい誤算かな。
ちなみにあの大車輪は体が外骨格で強靭なあのデカカマキリだからこそ
出来た事で動物型の魔物相手じゃあんな事は出来ない、仮にやったとしても
人の腕程度なら兎も角太い腕なら精々皮1枚ひっぺがえすのが関の山だ。
そして向こうの方で歓声が聞こえる、どうやらオークションが終わった様だ。
競り落としたらしい商人がマリスと2~3言葉を交わし、お金の入った袋を渡す。
マリスが中身を確認した後、いい笑顔で商人と握手する
どうやら取引成立みたいだね。

「レンお姉ちゃ~ん、あの鎌12000ルクルで売れたよ~」

私の方に駆け寄り貨幣袋の中身を見せるマリス、結構な臨時収入になったね。
とは言えそれをそのまま受け取る訳にはいかない、前は兎も角
今は私達もいっぱしの冒険者だ、ならばゼーレンさんにも分け前を渡さないとね。

「マリス、これ半分にしてゼーレンさんに渡して
 流石に今回はゼーレンさんがいないと倒せなかったろうし」
「そだね~、んじゃほいっと」

私の提案にマリス二つ返事で答えると手際よくお金を二等分し
別の貨幣袋に移してゼーレンさんのとこに持っていく。

「ゼーレン爺ちゃん、分け前だよ~
 ………って、どしたのぼーっとして」

マリスの言葉にふとゼーレンさんの方を見る
何か口に手を当てて考え込んでるっぽいんだけど………どうしたんだろ?

「お~い、ゼーレン爺ちゃ~ん
 そんなとこ見てても女の子のお尻はないよ~」

返答の無いゼーレンさんにマリスがつんつんと脇腹をつつきながら話しかける。

「ん?おお…すまんすまん、ちと考え事をしておったわ」

ゼーレンさんはそう言いながらマリスの差し出した貨幣袋を受け取る。

「む………嬢ちゃん達
 流石にこれは儂の取り分が多いぞ」

中身を確認したゼーレンさんは渋い顔をしながらそう言ってくる。
まぁそりゃそうだろうね、普通に考えたら人数分で割るのが筋だ。

「いや、あのブラックマンティス………だっけ?
 アイツはゼーレンさんがいなかったら多分倒せなかっただろうしね」
「む、そうかも知れんが流石に儂が半分持っていくのは………」
「マリス達はそんなにお金に固執してないしね~
 取り合えず生きていければいいだけのお金があれば十分だし」
「む………」

私の言葉になおも反論しようとするゼーレンさん、しかしマリスが言葉を遮る。
マリスの言葉に思案するゼーレンさん、ちょっと押し付けがましすぎたかな?

「………分かった、今回は嬢ちゃん達からの評価と
 感謝の気持ちという事で受け取ろう
 じゃが次回からはきちっと等分してくれ、儂としても
 報酬は余計な遠慮は無しで受け取りたいからの」

そう言ってゼーレンさんは貨幣袋をしまう、何とか受け取ってくれてよかったよ。

「ところでゼーレン爺ちゃん、ボケッと考え込んでどしたの?
 どっかにマリス達以外のいい女でもいた?」

マリスがゼーレンさんに問いかける
そう言えばゼーレンさん何か考え込んでたね。

「いや、ブラックマンティスがこんな所に子連れでいた事が少々気になっての
 さっきも言った通りアレは基本森の奥深くに生息しとる魔物じゃ、しかも
 あのレベルだと付近一帯の魔物のボスとして君臨しててもおかしくない強さじゃ
 それが何でこんな開けた場所に追ったのか………ちと引っかかってるんじゃ」

そーなんだ、この世界の生態は全く分からないから何とも言えないけど
ゼーレンさんがそう言うなら異常な事なんだろうね。

「住んでた森により強い魔物が住み着いたからとかじゃない?
 それなら追い出されてこんなとこにいるのも不思議じゃないでしょ?
 事実、リーゼが住み着いてた山には魔物がいなくなってたしね」

フィルが自分の考えをゼーレンさんに告げる。
まぁ普通に考えたらそうなんだろう、元の世界でも外来種によって
住処を追われた在来種が町中に出てくるなんて話もたまにあったしね。

「まぁ普通に考えればそうなんじゃが………あのブラックマンティスを
 追い出すとなるとそれこそドラゴンレベルになってくるんじゃよ
 そんな魔物がこの近辺にいるとなると面倒事になりそうな気がしての」

そう言ってゼーレンさんは少し心配そうな顔をする。

「とは言っても今考えても仕方ない事だとは思うよん
 ただ単にお引越ししてただけかも知んないし」
「………そうじゃの
 やれやれ、年をとると悲観的になっていかんわい」

マリスの言葉にゼーレンさんは表情を崩し、いつもの雰囲気に戻る。
………けど確かに気になる話ではあるんだよね、帝国でも
普段いないところにトロールが出てきて、それがとんでもない
化け物だったって事もあったし、気に止めておいた方がいいかも知れない。
とは言え今の私達の目的は王都への到着だ、先ずはそれに集中しよう。
取り敢えずはラミカ達の商隊に同行させて貰えるか交渉してみようか
私達は兎も角リアはそろそろ疲れが溜まって来てる事だろう、護衛をする代わりに
リアを荷馬車に乗せて貰えるか頼んでみよう。

「ラミカ、商隊の人達にちょっと頼みがあるんだけど………」

先ずは話を通して貰える様、私はラミカに声をかけた。
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