~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

盗賊の災難

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「ま、マリーさん!?」

完全に予想外の人物の登場に狼狽える私。
いや、確かにマリーさんと接触してくれと依頼はしたけど連れて来るなんて………
一体何があったのかとダスレさんをちらっと見る。

「………お前等、コイツの何処がただのウェイトレスだ
 部下に接触させたらそいつを操ってここまで乗り込んで来やがったぞ
 乗り込んできたら来たで問答無用でギルド全員を拘束してしまいやがるし
 俺の手足迄操りやがって………」

ダスレさんは憎々し気に私を見て吐き捨てる
いやいや、私もマリーさんがそんな事出来るなんて知らなかったよ!?
よく見るとダスレさんの手足に極細のピアノ線みたいなものが
巻き付いてる、もしかしてあれで手足を操ってるって事!?

「御免なさいね、普段ならこんな手荒な真似はしないんだけど
 朝早くから無礼な輩に絡まれてて少しイライラしてたの
 そんな時にレンにあげた首飾りを持った怪しい男が私に近づいてきたから
 何かあると思ってね」

そう言ってマリーさんはいつもの瀟洒な笑顔を浮かべる。
………戦闘向きじゃ無いとは言え荒事に慣れた男達を余裕であしらえるなんて
この人も中々にとんでもないね。

「マリー、貴方人形だけじゃなくて人も操れたの?」

余りの事態の推移にフィルが絶句気味に言葉を絞り出す。

「まぁね、正直人形を動かすのとそんなに手間は変わらないもの
 当然だけど人形と人って構造は似たようなモノだし
 魔力の込め方さえ変えてやればこんな風にね」
「うおっ!?」

そう言ってマリーさんは右の人差し指で空中に横線を描く。
その瞬間ダスレさんの腕がくいっと前に伸ばされる。

「てっ…てめぇ………」

身体を勝手に動かされたダスレさんが人をも殺しそうな視線で
マリーさんを睨みつけるもマリーさんは何処吹く風だ。

「それで、いきなり店を抜け出してこんな所でかくれんぼだなんて
 中々に楽しそうな事をしてるわね
 ま、店に置手紙はあったしここに来るまでに色々あったから
 事情はある程度察したけど、一言も無しだなんて水臭いじゃない」

マリーさんは笑顔のまま、けど少しだけ寂しそうな雰囲気で言ってくる。
置手紙…そう言えば文字が書けないから完全に考えから抜けちゃってたけど
事情を説明するならその手もあったんだった、用意したのはマリスかな?

「念の為だったけどね~、本当はマリーお姉ちゃん達と合流する予定だったし
 けど、その様子だとそっちにも冒険者達が行ったんだ」

何時の間に起きたのやら、マリスがマリーさんに話しかける。

「ええ、デューンと店に向かってたらいきなり囲まれてね
『賞金首達をどこに隠した!!』とか訳分からない事を言ってきたのよ
 何の事?と言っても賞金首を出せ!!の一点張りだったし武器も抜いてきたから
 デューンが全員しばき倒したわよ」

む、やっぱり店から出た後直ぐに冒険者達が押しかけてたんだ。
けどそこに私達はいなくて持ち主であるデューンさん達の所に行ったって事だね。

「流石にこれは何かあると思って店に行ったらフロアに手紙1枚あるだけで
 もぬけの殻だし、そんな最中にいきなり怪しい男に話しかけられて
『レンの使いだ』と言われてペンダントを見せられても流石に信用できないわ
 だから少し手荒な真似をさせて貰ったのよ
 御免なさいね、盗賊さん」

マリーさんがそう言いながら手を握り締めるとダスレさんに巻き付いていた
糸がまるで生きている蛇の様に解けて行き、マリーさんの掌に消える。

「………ったく、てめぇ等のお陰で酷い目に遭ったぜ」

ダスレさんは手首をさすりながら私を睨みつけて吐き捨てる。
う~ん、良かれと思ってやったことが完全に裏目に出ちゃったね。

「悪かったね、まぁ迷惑料として報酬を少し上乗せするから
 それで勘弁して欲しいかな」
「フン………」

ダスレさんは私を睨み続けるもそれ以上文句は言ってこない。
なら了承って事で話を進ませて貰おう。

「で、手紙には帝都を脱出して王国に行くって書いてたけどどうするの?
 お金の件は私と合流で来たから解決だけど今の帝都から脱出するのは
 少々骨が折れそうよ」

マリーさんは自身のインベントリ・キューブを出し、私達が預けていたお金を
取り出しながら訪ねて来る。

「骨が折れそうって、もうそこまで冒険者が私達を狙ってるの?」
「みたいね、ここに来るまでに走り回ってる冒険者をちらほら見かけたわよ」

フィルの問いにマリーさんは肩をすくめて答える。

「クックック………まぁ全員ひっ捕らえれば20万ルクル超えの大金が
 転がり込んでくるからな、俺も依頼主の件が無ければ全力で
 お前さん達を追ってたと思うぜ」

ダスレさんが心底愉快そうな顔で笑いながら言ってくる。
となれば地上に戻るのは得策じゃない、どこか抜け道らしいものを探して
脱出できればいいんだけど………

「言っておくが、この地下通路に帝都から出る道はないぜ
 元々は有事の際に貴族らが逃げ出す為に作った道らしいんだが、あまりに
 広大に作り過ぎて金が尽きて頓挫したんだとさ」

そんな私の考えを読んだのか、ダスレさんが口角を吊り上げたまま言う。
む、流石に考えが甘かったか………となるとどうするべきか。

「協力してあげたいとこだけど、私が出来る事と言えば
 精々10人くらいの足止めかしらね」

マリーさんがそう言いながら再び肩をすくめる………って
冒険者を10人も足止めできるって凄くない!?

「精々10人って………そう言えばマリー、貴方店にいるとき
 認識疎外の魔法を使ってたわね、アレは使えないの?」
「無理よ、アレは店を起点とした結界だもの
 準備に時間がかかるし、そもそも移動は出来ないのよ」

フィルの思い付きにもマリーさんは首を振って返事をする。
そう言えばそんな事もやってたね、とは言え出来ないなら仕方ないか。

「参ったね、これはリーゼに頼らないといけないかな」

そう言って私はリーゼを見る。
正直リーゼをドラゴンに戻せば帝都を脱出する事自体は簡単だ。
けど、そうなればリーゼの正体がバレて面倒な事になるのは目に見えてる。
帝国に二度と戻らないならそれでもいいけど、帝国内に元の世界に戻る
手掛かりがある可能性は0じゃない、となれば帝国自体に目を付けられるのは
避けた方がいいんだけど………

「んっふっふ~、それならいい案があるよん」

と、横でマリスが何時もの様に胡散臭げな笑いを浮かべてる。
あ………これまたとんでもない事やらかす気だよマリス。

「アンタ、また何やらかす気よ………」

同じ感想を持ったフィルがマリスを睨みつける。

「あははは、まぁここはマリスに任せといてよ
 そんじゃリーゼ、ちょっとだけやって欲しい事があるんだけど………」

マリスはそう言ってリーゼに何か耳打ちをする。

「………その行動に何の意味があるのですか?」

リーゼが不信感を露にしてマリスに質問するも、マリスはあっけらかんとしたまま

「まぁまぁ、そんな手間な事じゃないでしょ?
 それにこうした方がレンお姉ちゃんの為になると思うよん」
「はぁ………」

リーゼは気の抜けた返事の後「如何致しましょう?」
と言う感じの視線を私に投げかけて来る。
何をしようとしてるかは知らないけど、まぁマリスだし変ではあっても
無意味な事じゃないだろう、なら言う通りにした方がいいかな。

「マリスの言う通りにしてあげて、別に難しいとか嫌な事じゃないんでしょ?」
「………了解致しました」

私の返事に少し逡巡するも、直ぐに了承してくれるリーゼ。
しかしマリスはリーゼに何頼んだんだろ。

「んっふっふ~、いや~ワクワクしてきたねぇ♪
 そんじゃマリスがやらかす事を説明するね~」

マリスは上機嫌な笑みを浮かべ、私達に説明を始める。
って、自分でやらかすって言ってちゃ世話ないよマリス………
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