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軌跡への遁走曲《フーガ》

アンダーグラウンド

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「………で、ここはどこなのよ」

賞金狙いの冒険者から逃げおおせる為
マリスの案内で隠されてた地下通路を進む私達。
あまり使われてない通路なのか空気が淀んでおりカビ臭く
照明も無いため真っ暗だ。
先頭を歩くマリスが魔法で出したらしき光の玉を手のひらに載せ
ずんずんと奥に進んでいく。

「見た通りあまり使われてない地下通路だよん、何処に繋がってるかは
 まぁ後のお楽しみって事で」

マリスはいつも通りの飄々とした態度で言い放つ。
それなりに入り組んでるみたいだけど変なとこに繋がってないよね、ここ
下水道とかならフィルが卒倒しそうなものだけど。

「周囲に人間の姿はありませんね
 小型の魔物は存在しているようですが…遠巻きに様子を窺ってるのみです
 あの様子ですと住処を荒らさなければ襲って来る事は無いでしょう」

目のいいリーゼが周囲を索敵してくれる。
魔物が住み着いてるんだ………まぁ襲ってこないなら
こちらから相手する事は無いかな。

「帝都の地下にこんな通路があって、それが隠されてるなんてね………」

フィルが口を押えながらも周囲を見回しながら呟く。
地下通路自体は古く長年使われていないものみたいだけど
造り自体はしっかりしてて崩れそうな心配はない。
………これ、見た目よりずっと人とお金がかかってる通路だね。
それが隠蔽されてたという事は、有事の際の緊急脱出用通路って所かな
しかも偉い人専用みたいな感じの。
けど、そうだったら何でマリスがその場所を知ってるんだろ。
マリスってもしかして帝国のお偉いさんとの血縁だったり?
そんな事を考えながらマリスについて行くと、いくつもの分岐や曲がり角を
越え、やがて行き止まりに辿り着く。
何の変哲もない袋小路だ、けどマリスがここに連れて来たという事は………

「よし到着っと、んじゃ後は………」

マリスはそう呟くと壁をコンコンと叩きながら石畳をダンッと強く踏みならす。
その音が反響して通路内に響き渡る。

「ッ!!」

その音に腕の中のリアがビクッとして反射的なのか私の服をぎゅっと掴む。
………そう言えばリアはずっとこんな地下に閉じ込められてたんだった。
昔の事が思い出されてあまり長くいたくない筈だ、それでも私の腕の中で
大人しくしてくれている。
御免ねリア、出来るだけ早くこんなとこから出るから。
マリスは暫く壁を叩いたり撫でたり良く分からない行動を繰り返してたけど
やがてズン!!と通路内に重い音が響く。

「やれやれ、やっと動いてくれたよ
 全く、面倒な仕掛けを作ってくれちゃったものだよね~」

マリスが腕で汗を拭く動作をしながらやり切った表情で呟く。

「そんじゃ、さっさとここから出ようかね~
 いや~、花の乙女がこんなかび臭いとこ
 長居しちゃだめだよね、あはははは♪」

そう言いながら踵を返し、袋小路を背にして再び私達の先頭を歩いていく。

「何なのよ一体………」

フィルが胡散臭そうに呟く、でもまぁリアの為にもこんな所を
さっさと出るのは同感だ、とは言えマリスは何処に向かっているのか
皆目見当もつかないけど、今はマリスを信じるしかない。
私達は再びマリスの後をついて行く………


………



………………



………………………


いくつかの角を曲がりつつ、30分くらいマリスの後について地下通路を歩き回る
そろそろかび臭いのにも慣れてきた頃、目の前に扉が現れる。

「やれやれ、やっとここまで来れたよ~
 リーゼがいるから魔物達が襲ってこないとは言え、流石にちょっと
 面倒な道のりだったねぇ」

マリスがいつもと変わらない口調で独り言ちる。
まぁそんな狭い場所にドラゴンがいたら魔物達は逃げるよね。
通路の大きさから言ってそんな大きな魔物はいなさそうだしね。

「………で、ここは何処に繋がってるのよ」

長時間かび臭さい所にいて若干うんざりしたのか、口を押えたまま
フィルが不機嫌そうにマリスに問いかける。

「フィルミールお姉ちゃんも来たことがあるとこだよ
 多分マリス達にとって帝都内で1番安全な場所じゃないかな~」
「私も来たことあるって………アンタまさか」

………成程、そういう事か。
それならばこんな入り組んだ地下通路に来たことも納得だ。
驚くフィルを尻目にマリスが扉を開ける、そこには―――







「………フン、思っていたよりも早かったな
 まさかそこを知っているとは予想外だったが」

不敵な笑みを浮かべ、出会った時と同じ様に
机に腰かけているダスレさんの姿があった。









「なかなか楽しい事になってる様だな、上は冒険者が走り回ってて大騒ぎだぜ」

ダスレさんは心底愉快そうな笑みを浮かべて言ってくる。

「ま~ね~、さっきも追っかけっこして来たよ
 いや~、欲に目がくらんだ人の表情っていつ見ても変な顔で面白いよね~」
「フッ、大いに同感だ」

マリスの言葉にダスレさんはさらに口角を上げる。

「しかしまぁ、次から次へと騒動を起こすなお前達は
 ま、俺達にとってはメシの種が増えて嬉しい限りなんだが」
「望んでやってる訳じゃないんだけどね、個人的には平穏無事に
 生きていたい所なんだけど」

ダスレさんの軽口に私は少しだけおどけた口調で返す。

「とは言え、盗賊ギルドにも私達の現状がすでに知られてるって事は
 もう帝都中にお触れが回ってるって解釈していいのかな?」
「そう思ってくれていい、どうも貴族のお偉いさんが血眼になってるみたいでな
 派手に金や人脈使ってお前さん達を探してるみたいだぜ」

ふむ、どうやら奴隷娼婦スレイブ・ホアを解放した事は
黒幕にとっては結構な痛手みたいだね、まぁ向こうからしたら
私達は邪魔者以外の何物でもないだろうし。

「それ、アンタ達が私達の情報をその貴族とやらに渡したからじゃないわよね?
 レンは貴方達を何故か信用してるけど、盗賊なんてそういう事を
 平気でやりそうな気がするんだけど」

フィルが訝しげな表情でダスレさんに言葉をぶつける。
まぁ盗賊ってイメージからしてフィルがそう思うのも無理は無いだろうけど………

「ま、そう思われるのも当然だとは思うが情報を流したのは俺達じゃあない
 確かにアンタ達の情報は金になるが、前にも言ったが俺達は帝国の飼い犬でね
 流石に飼い主の意向に逆らうような真似はしないさ」

フィルの辛辣な物言いにもダスレさんは微笑で返す。
ま、この人達は自分に利益がある以上裏切りはしない人種だ。
国に所属していると言っている以上、国の依頼をこなした私達を
黒幕に売り渡したりはしないだろう、国に従った方が利益が大きいからね。

「まぁおっちゃん達ならそうだろうと思ったからこそここに逃げ込んだんだけどね~
 ところでおっちゃん、マリス達の手配書って誰が出したか分かる?
 そこをたどれは黒幕の正体も掴めそうなんだけどさ」

マリスの言葉にハッとする。
そう言えばそうだ、ダスレさん達が私達を捕まえようとしない以上
手配書自体は帝国の意志じゃない可能性が高い、ならば
その貴族とやらが権力を使ってやってるんだろうけど………

「その線は洗ってみたが無理だな、複数の貴族の連名で発行されている
 どうもやっこさん、こんな事態も予想して他貴族たちにも奴隷娼婦スレイブ・ホア
 提供してたみたいだぜ」

ダスレさんが肩をすくめて答える。

「依頼主としてはお前さん達の身柄を黒幕に抑えられるのは面白くないだろうから
 手配書の取り消しに動くだろうが………流石に複数の貴族が関わってるとなれば
 直ぐにとはいかないだろう、少なくとも数か月…下手すりゃ年単位に渡って
 手配され続ける事になるかもしれないな」

ふむ、帝国にも色々と思惑やしがらみが渦巻いてるね。
よくある事だけど、人間って異世界でも権力持つとめんどくさくなるね………
一先ず黒幕の件は後回しだ、今は帝国から脱出する事に全力を注がなきゃいけない
となれば………

「ダスレさん、1つ頼みがあるんだけど」
「何だ?聞くには聞いてやるが、俺達に頼み事をするって事は
 それなりの報酬が必要になるぞ」

私の言葉に予想通りの言葉を返すダスレさん。
その言葉を返すって事は報酬さえ用意すれば動いてくれるって事だね、なら………

「うん、報酬弾むからちょっと使いっぱしりしてくれないかな?」

私はそう言葉をつづけた。
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