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軌跡への遁走曲《フーガ》
竜目の薊
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「さて、始めよっか
と、言いたい所だけど………」
『偽薊』を直に体験してみたい、と言ったリーゼの頼みを
了承した私はいつも鍛練に使ってる「人形達の宴」の傍にある
空き地にまで来た。
いつもならそこから軽い柔軟をして鍛錬を始めるんだけど………
「………………」
「~~~♪」
ニコニコ顔のフィルと、ずっと私の服を掴んだまま
傍を離れようとしないリアが一緒に来ていた。
「………珍しいね、フィルが私達の鍛錬を見に来るなんて」
意外な事に、フィルは今まで私とリーゼの鍛錬に顔を出した事は無いんだよね。
いつもの様子だと絶対見に来ると思ってたのに少し拍子抜けした記憶がある。
「レンの鍛錬をする姿はずっと見てみたかったのよ
けど、レンの動きって早過ぎて目で追えないんだもの
だから今まで涙を呑んで諦めたんだけど………」
涙を呑んでって………相変わらずフィルは大げさだね。
とは言え目で追えないってのはそうだろうね、自分で言うのも何だけど
私の戦闘時の動きは素人が目で追えるものじゃない。
動きが不規則な上に常に複数の視覚を搔い潜って動くように
お爺ちゃんに鍛えられたからね。
まぁ、お爺ちゃんは目で追うレベルじゃなく気が付いたら
背後に立ってるって感じだったけど………あの動きは未だに真似できない。
なのでフィルが目で追えないって言うのも不思議じゃないんだけど………
「けど、ついこの間マリスから『視覚強化』の祈祷魔法を教えて貰ってね
それでやっとレンの姿を追える様になった訳
何でアイツがそんな事が出来るのかホントに疑問なんだけど
アイツ祈祷魔法は使えない筈よね………なのに何で
アレンジなんかできるのかしら」
………良く分からないけどマリスに教えて貰った『視覚強化』って魔法で
私の姿を見れるようになったって事で来たみたいだね。
だからそんなに機嫌がいいんだ、フィル。
まぁ本音を言えばフィルがここにいてくれるのは助かるんだけどね。
いくら気を付けても鍛練中に怪我はする、その治療を任せられるのは
私としてもすっごく有難い、だけど問題は………
「………………」
無言で私の服を掴んだまま離さないリアの方だ。
正直言って気持ちは凄い理解できる、昨日まであんな状況にいた子だ。
他に頼れる人もいない状況で唯一「味方」だと言い切った私にしか
縋るものが無いんだろう、現にここに来るまでもくっついて離れない状態だ。
………けど流石にそれは少しマズい、情けない話だけど
私はこの子を守りながら戦えるスタイルじゃないしそんな余裕もない。
なのでこういう時は離れて貰わないと困るんだけど………
「………リア、悪いけどフィルの傍にいてくれないかな?
私の傍だと危ないから」
私はリアの前にしゃがみ込み、諭す様に言う。
「………………」
リアは首こそ振らなかったが不安そうな顔で私を見つめる。
首を振らなかったところを見ると理解はしてくれたみたいだけど
やっぱり私から離れるのは不安みたいだね。
………無理もないとは思うけど、さてどうするか。
そんな風に悩んでいると、それを察してくれたのか
フィルがリアに近づき、私と同じようにリアに目線を合わせ
「リア、レンから離れるのが怖いのはよく分かるわ
私もレンから離れるのは絶対嫌、レンが私を置いてどこかに行ってしまうなんて
私じゃ耐えられないもの」
微笑みを浮かべ、リアの心情を分かってあげてる様な事を言ってるフィル。
うん、確かにフィルもそう思ってくれてるとは思うけど
フィルの心情はリアとは似た様で違う気がするのは気のせいじゃないと思う。
「………けど、今レンはリアが傍にいる事でちょっと困った事になってるの
離れるのが怖いのは凄く良く分かるけど、リアはレンを困らせるのは嫌よね?」
そんな私の考えを横目に、フィルはリアに語りかけ続ける。
その言葉にリアはこくんと頷く、その反応にフィルはお得意の
神秘的な笑顔を浮かべ
「いい子ね、ならどうすればいいか…リアはもう分ってるわよね」
フィルの語りかけにリアは少し躊躇いがちながらもぎゅっと握っていた
私の服を手放し、フィルの隣に行く。
「よくできました、レンより頼りにはならないかも知れないけど
私の傍にいるときは私が守ってあげるからね」
フィルはそう言ってリアの頭を撫で、すくっと立ち上がる。
………手慣れてるって言うだけあるね、あっという間にリアを説得しちゃった。
リアが比較的安定した精神状態ってのもあるけど、心的外傷を植え付けられた
子供を縋ってる対象からいとも簡単に引き離すことが出来るなんて
正直言って見事なものだ。
「言ったでしょ?子供の扱いには慣れてるって
聖教には訳ありの子も沢山引き取られてたから」
フィルは得意げな顔でそう言ってウィンクをして
リアを促しながら離れていく。
………よし、これで気兼ねする事は無くなったね。
「リーゼ、悪いけどもう少し待っててね」
無言でこっちの様子を見守っていたリーゼに声をかけ
私は準備運動を始める。
朝は出来なかったから、入念にしとかないとね………
体の各部を伸ばし、捻り、柔軟に動けるようにストレッチをする。
「よっ…と、リーゼお待たせ、それじゃ始めるよ
ルールはいつも通りどちらかの攻撃が当たったら負けで
そうじゃないと………この鍛錬に意味はないからね!!」
体をほぐし、準備が整った私はリーゼの為に頭の中のスイッチを片方ONにする。
………さて、このフェイントの嵐を見事切り抜けてみせてね、リーゼ!!
「■咲ノ漆………偽薊」
私は名を呟き、技を発動させる。
龍の眼前に、膨大な数の欺瞞攻撃が姿を現す――――
「………………!?」
マスターが何か呟いた後、その雰囲気が一気に様変わりする。
いつも朗らかな表情を崩さなかったマスターが、突き刺さるような殺意を纏い
我を直視して来る。
その雰囲気に一瞬だけ飲まれそうになるも、気を張りマスターを見返す。
「………いくよ」
マスターの右腕が僅かに動き、それに反応して我も戦斧を構える。
しかしその腕は直ぐに止まり、今度は左足を踏み込もうとする。
それを目に止めた瞬間、今度はその片隅で左手が動くのが見える。
「くっ………」
目に入ってくるマスターの動き、傍から見れば無為な動きにしか
見えないかも知れないが、対峙して改めて感じる。
それ1つ1つが明らかに攻撃の意志が込められ、欺瞞攻撃だと切って捨てるには
余りにも危険すぎる代物だ。
この鍛錬は一撃貰えば負け、となればこの動作全てが
必殺の一撃という事になる、否が応でも意識をせざるを得ない。
それが我の思考を阻害し、緊張を一気に高めて来る。
「…………はあっ」
緊張状態を和らげる為に大きく息を一つ吐く、だが視界内に映るマスターのは
それを見越していたかのように呼吸に合わせた攻撃の動作をする。
その行動が1つで和らげようとした緊張をさらに強くする。
「つっ………」
これは………凄い
力でも魔法でもなく、その動きのみで竜の我をここまで追い込むとは………
だが…対峙してみて理解もする、確かにこれは知性のある者にしか通用しない。
マスターの動き1つ1つが攻撃であると理解できなければ効果は全くないのだ。
となれば………我は体勢を低くし、戦斧を横薙ぎの構えに持ち替え
足を前後に開き、後ろ脚に力を籠める。
その姿を見てマスターはにやりと笑い
「気づいたようだね、けどそんな分かり易い体勢だと
簡単に迎撃されるって事も理解してるかな?」
それは承知の上だ、その上であの騎士の人間がやったように
マスターの攻撃より早くこちらの攻撃を当てるしか方法はない。
「マスターの絶技、感服致しました
しかもそれで不完全とは………完全なモノは想像がつきません」
我は戦斧を握る手に力を籠める。
「ですが、竜として生まれた以上簡単に敗北を認める事などできません
マスター、お覚悟を」
「分かった、全力で来なよ……リーゼ!!」
マスターが声を上げる、その視線に含まれた殺意が膨れ上がる。
我はその濃厚な殺意を切り裂くべく、マスターに向かって足を蹴った。
と、言いたい所だけど………」
『偽薊』を直に体験してみたい、と言ったリーゼの頼みを
了承した私はいつも鍛練に使ってる「人形達の宴」の傍にある
空き地にまで来た。
いつもならそこから軽い柔軟をして鍛錬を始めるんだけど………
「………………」
「~~~♪」
ニコニコ顔のフィルと、ずっと私の服を掴んだまま
傍を離れようとしないリアが一緒に来ていた。
「………珍しいね、フィルが私達の鍛錬を見に来るなんて」
意外な事に、フィルは今まで私とリーゼの鍛錬に顔を出した事は無いんだよね。
いつもの様子だと絶対見に来ると思ってたのに少し拍子抜けした記憶がある。
「レンの鍛錬をする姿はずっと見てみたかったのよ
けど、レンの動きって早過ぎて目で追えないんだもの
だから今まで涙を呑んで諦めたんだけど………」
涙を呑んでって………相変わらずフィルは大げさだね。
とは言え目で追えないってのはそうだろうね、自分で言うのも何だけど
私の戦闘時の動きは素人が目で追えるものじゃない。
動きが不規則な上に常に複数の視覚を搔い潜って動くように
お爺ちゃんに鍛えられたからね。
まぁ、お爺ちゃんは目で追うレベルじゃなく気が付いたら
背後に立ってるって感じだったけど………あの動きは未だに真似できない。
なのでフィルが目で追えないって言うのも不思議じゃないんだけど………
「けど、ついこの間マリスから『視覚強化』の祈祷魔法を教えて貰ってね
それでやっとレンの姿を追える様になった訳
何でアイツがそんな事が出来るのかホントに疑問なんだけど
アイツ祈祷魔法は使えない筈よね………なのに何で
アレンジなんかできるのかしら」
………良く分からないけどマリスに教えて貰った『視覚強化』って魔法で
私の姿を見れるようになったって事で来たみたいだね。
だからそんなに機嫌がいいんだ、フィル。
まぁ本音を言えばフィルがここにいてくれるのは助かるんだけどね。
いくら気を付けても鍛練中に怪我はする、その治療を任せられるのは
私としてもすっごく有難い、だけど問題は………
「………………」
無言で私の服を掴んだまま離さないリアの方だ。
正直言って気持ちは凄い理解できる、昨日まであんな状況にいた子だ。
他に頼れる人もいない状況で唯一「味方」だと言い切った私にしか
縋るものが無いんだろう、現にここに来るまでもくっついて離れない状態だ。
………けど流石にそれは少しマズい、情けない話だけど
私はこの子を守りながら戦えるスタイルじゃないしそんな余裕もない。
なのでこういう時は離れて貰わないと困るんだけど………
「………リア、悪いけどフィルの傍にいてくれないかな?
私の傍だと危ないから」
私はリアの前にしゃがみ込み、諭す様に言う。
「………………」
リアは首こそ振らなかったが不安そうな顔で私を見つめる。
首を振らなかったところを見ると理解はしてくれたみたいだけど
やっぱり私から離れるのは不安みたいだね。
………無理もないとは思うけど、さてどうするか。
そんな風に悩んでいると、それを察してくれたのか
フィルがリアに近づき、私と同じようにリアに目線を合わせ
「リア、レンから離れるのが怖いのはよく分かるわ
私もレンから離れるのは絶対嫌、レンが私を置いてどこかに行ってしまうなんて
私じゃ耐えられないもの」
微笑みを浮かべ、リアの心情を分かってあげてる様な事を言ってるフィル。
うん、確かにフィルもそう思ってくれてるとは思うけど
フィルの心情はリアとは似た様で違う気がするのは気のせいじゃないと思う。
「………けど、今レンはリアが傍にいる事でちょっと困った事になってるの
離れるのが怖いのは凄く良く分かるけど、リアはレンを困らせるのは嫌よね?」
そんな私の考えを横目に、フィルはリアに語りかけ続ける。
その言葉にリアはこくんと頷く、その反応にフィルはお得意の
神秘的な笑顔を浮かべ
「いい子ね、ならどうすればいいか…リアはもう分ってるわよね」
フィルの語りかけにリアは少し躊躇いがちながらもぎゅっと握っていた
私の服を手放し、フィルの隣に行く。
「よくできました、レンより頼りにはならないかも知れないけど
私の傍にいるときは私が守ってあげるからね」
フィルはそう言ってリアの頭を撫で、すくっと立ち上がる。
………手慣れてるって言うだけあるね、あっという間にリアを説得しちゃった。
リアが比較的安定した精神状態ってのもあるけど、心的外傷を植え付けられた
子供を縋ってる対象からいとも簡単に引き離すことが出来るなんて
正直言って見事なものだ。
「言ったでしょ?子供の扱いには慣れてるって
聖教には訳ありの子も沢山引き取られてたから」
フィルは得意げな顔でそう言ってウィンクをして
リアを促しながら離れていく。
………よし、これで気兼ねする事は無くなったね。
「リーゼ、悪いけどもう少し待っててね」
無言でこっちの様子を見守っていたリーゼに声をかけ
私は準備運動を始める。
朝は出来なかったから、入念にしとかないとね………
体の各部を伸ばし、捻り、柔軟に動けるようにストレッチをする。
「よっ…と、リーゼお待たせ、それじゃ始めるよ
ルールはいつも通りどちらかの攻撃が当たったら負けで
そうじゃないと………この鍛錬に意味はないからね!!」
体をほぐし、準備が整った私はリーゼの為に頭の中のスイッチを片方ONにする。
………さて、このフェイントの嵐を見事切り抜けてみせてね、リーゼ!!
「■咲ノ漆………偽薊」
私は名を呟き、技を発動させる。
龍の眼前に、膨大な数の欺瞞攻撃が姿を現す――――
「………………!?」
マスターが何か呟いた後、その雰囲気が一気に様変わりする。
いつも朗らかな表情を崩さなかったマスターが、突き刺さるような殺意を纏い
我を直視して来る。
その雰囲気に一瞬だけ飲まれそうになるも、気を張りマスターを見返す。
「………いくよ」
マスターの右腕が僅かに動き、それに反応して我も戦斧を構える。
しかしその腕は直ぐに止まり、今度は左足を踏み込もうとする。
それを目に止めた瞬間、今度はその片隅で左手が動くのが見える。
「くっ………」
目に入ってくるマスターの動き、傍から見れば無為な動きにしか
見えないかも知れないが、対峙して改めて感じる。
それ1つ1つが明らかに攻撃の意志が込められ、欺瞞攻撃だと切って捨てるには
余りにも危険すぎる代物だ。
この鍛錬は一撃貰えば負け、となればこの動作全てが
必殺の一撃という事になる、否が応でも意識をせざるを得ない。
それが我の思考を阻害し、緊張を一気に高めて来る。
「…………はあっ」
緊張状態を和らげる為に大きく息を一つ吐く、だが視界内に映るマスターのは
それを見越していたかのように呼吸に合わせた攻撃の動作をする。
その行動が1つで和らげようとした緊張をさらに強くする。
「つっ………」
これは………凄い
力でも魔法でもなく、その動きのみで竜の我をここまで追い込むとは………
だが…対峙してみて理解もする、確かにこれは知性のある者にしか通用しない。
マスターの動き1つ1つが攻撃であると理解できなければ効果は全くないのだ。
となれば………我は体勢を低くし、戦斧を横薙ぎの構えに持ち替え
足を前後に開き、後ろ脚に力を籠める。
その姿を見てマスターはにやりと笑い
「気づいたようだね、けどそんな分かり易い体勢だと
簡単に迎撃されるって事も理解してるかな?」
それは承知の上だ、その上であの騎士の人間がやったように
マスターの攻撃より早くこちらの攻撃を当てるしか方法はない。
「マスターの絶技、感服致しました
しかもそれで不完全とは………完全なモノは想像がつきません」
我は戦斧を握る手に力を籠める。
「ですが、竜として生まれた以上簡単に敗北を認める事などできません
マスター、お覚悟を」
「分かった、全力で来なよ……リーゼ!!」
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