~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

新たな日常

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「ん、んん………」

朝日が部屋の窓から差し込み、私はいつも通りの時間に目が覚める。
流石に昨日は疲労困憊だったから寝坊するかなと思ってたけど
いつもの習慣はそうそう怠惰を許してはくれないらしい。
ベッドから起き上がり、いつもの様に伸びをしようとすると
若干服を引っ張られる感触がある。

「あっと、そうだった」

私は感触の先に視線を送る。
そこには、すやすやと眠っている女の子………『リア』がいた。




昨晩、自らの名を『リア』と名乗った女の子。
だけど結局はそれ以上の事は思い出せないみたいで
私達の質問にはすべて首を振ってばかりだった。
名前を名乗ったから記憶は失われてないのかなと期待したんだけど
流石にそれは甘かったか。
だけど、デューンさんを見ても若干怖がるだけで取り乱したりもせず
暴行による精神の異常………所謂多重人格みたいな障害を
患っている様子も無く若干ビクビクしがちだけど受け答えはしっかりしていた。
正直、思ってたよりずっと状態はいい。
経験上、心的外傷トラウマに類似した人や物に相対すると
自分でも制御できない感情の渦に囚われて激しく取り乱したりするものだけど
………この子、もしかして見た目の儚さとは違ってずっと心は強いのかな?
私は朝日に反射してキラキラと光るリアの銀髪を撫でながら
昨日の事を思い出していると、くすぐったかったのか
規則正しい寝息が止まり、ゆっくりとリアの目が開いていく。

「おはよう、リア」

私はリアの瞳を覗き込んで挨拶をする。
………何で一緒に寝てたのかと言うと理由は簡単、あれから結局
リアが私を離してくれなかったのだ。
正直かなり体が汚れてたから洗いたかったんだけどリアが絶対に離してくれず
結局濡れた布で簡単に体を拭くだけになってしまった。
その際リアもの体も拭いて行ったんだけど、体中痣や傷だらけで
正直怒りを抑えるので精いっぱいだった。
とは言えリアの目の前で目を吊り上げる訳にもいかず
淡々とリアの体を拭いてるとリアが舟を漕ぎ始め
それに釣られたのか私も一気に睡魔が襲い掛かって来て
そのまま寝てしまったという訳だ。

「…………レン?」

目覚めたばかりでまだぼんやりしてるのか
リアは目を擦りながら私の名前を呟く。
………その様子だとうなされる事なく眠れたようだね、一安心だ。

「うん、よく眠れたようだね
 私は今から顔を洗いに行くけど、疲れてるならもう少し寝てる?」
「………レンと一緒に行く」

寝起きで思考がまだ纏まってないにもかかわらず
私についてくると即答するリア。
………心の奥底から妙な感情が沸き上がってくる、正直可愛い。

「それじゃもう少し頭をはっきりさせてから行こっか
 そのままだと転んでけがをするかもしれないからね」
「ん………」

私の言葉にリアは頭をぶんぶんと振り、意識を覚醒させようとする。
………これは不味い、想像以上に可愛い。

「ん………目が覚めた」

先ほどまでの寝ぼけ眼は消え、はっきりとした表情で私を見つめて来るリア。
………くそ、一々可愛いな。
リアの可愛い仕草に昨日までの心の底にこびりついたままだった
黒い感情が霧散し、心の中がほっこりと温かい雰囲気になって
自然と口角が緩んでくる。

「………どうしたの?」

私のそんな表情が目に入ったのかリアはちょこんと首を傾げ
不思議そうな顔で私を見る。

「何でもない、行こっか」
「ん………」

リアはちょこんと頷き、すぐさま私の手を取ってくる。
私はリアの手を握らせたままにして部屋を出て、外の井戸に向かった。



外の井戸で顔を洗い、私とリアは意識を完全に覚醒させる。
そしてそのまま日課の柔軟を始める為、顔を洗う時以外
手を握りっぱなしのリアに話しかける。

「リア、悪いんだけどちょっと体を動かしたいから
 手を離してくれるかな?」
「………」

私の言葉に不安そうな顔を浮かべて首を振るリア。
ん~~、思ったより精神的に安定してるようには見えるけど
やっぱり昨日の今日じゃ無理もないか。
………仕方ない、ちょっと気持ち悪いけどリアの為に我慢しとこう
リーゼとの鍛錬の前に丹念にやっとけば問題ないかな。
その際、フィルかマリスにリアの事を頼んどかないと。

「分かったよ、それじゃ先にご飯を食べようか」
「ん………」

今度はリアは素直に頷いてくれる。
そう言えば今日の朝ごはん当番はマリスだっけ、あの子は
普通に料理できる癖に何か料理魔法とか開発してたまに怪しげな料理を
繰り出して来るからなぁ………リアが驚かなきゃいいけど。
私は若干の不安を抱えつつリアを連れだって室内に戻った。


………



………………



………………………


リアを連れだって室内に戻り、マリスがいつの間にか空き部屋の1つを利用して
造ったダイニングキッチンに向かう。
そこに着くとテーブルで食事を待っているフィルとそれに付き合う様に座っている
食事の不必要なリーゼ、そして奥のキッチンで楽しそうに
料理をしているマリスがいた。
………今日は普通に料理してる様だね、良し。

「おはよマリス、今日は普通の料理だね」

キッチンに背を向けたままのマリスに声をかける。

「おっはよ~、まぁ流石のマリスもそこまで空気読めない真似はしないよ~」

マリスは調理する手は止めずこちらを向いて答える。
まぁ流石にリアがいるからそこまで変な事はしないか。
マリスって油断してるとすぐに変な料理作って来るんだよねぇ、虫料理とか………
私はイナゴの佃煮とかお爺ちゃんに食べさせられたりしたから
まだマシだったけど、虫だって知ったフィルは思いっきり悲鳴上げてたんだよね
まぁ無理も無いけど………

「おはよフィル、リーゼ」

一先ずフィルとリーゼに挨拶してフィルの横に座る私
その隣にいつの間にやら用意されていた小さめの椅子にちょこんと座るリア。

「おはようございます、マスター」

挨拶を返してくるリーゼ
………ってあれ?いつもなら真っ先にフィルが挨拶して来るんだけど
不思議に思ってフィルの方を向いてみると………なんか不機嫌な表情で
そっぽ向いてるんだけど!?

「フィル?どうしたの?」

またマリスがやらかしたのかな………そう思いフィルに話しかけるも
返答どころかこっちへ振り向く素振りすら見せない。
………あれ?もしかしてフィル私に怒ってる?

「えーっと………フィル?」

恐る恐るフィルに話しかける私。
私何かフィルを怒らせるようなことしたっけ………と思い返すも心当たりがない。
フィルが怒る時って大抵私が後先考えない事で大怪我した時だから
今回は怪我もしてないしフィルを怒らせるような事を
やらかした記憶は無いんだけど………
だけどフィルはそっぽを向いたまま返事をしてくれない。

「フィルミールは今朝方から常にその状態です
 何があったのか我にも分かりませんが………」

そんな様子を見たリーゼが私に教えてくれる。
朝起きてからずっと機嫌が悪いって、益々心当たり無いんだけど。
確か昨日の夜は普通だったし、リアの名前を聞いた後は直ぐに寝ちゃったし
フィルの機嫌を損ねる行動とる暇すらなかったんだけどな………

「あはははは、ダイジョブだよレンお姉ちゃん
 フィルミールお姉ちゃんはずっとレンお姉ちゃんと一緒に寝たかったのに
 それをリアに先こされて拗ねてるだけだから」

困惑してる私に調理を終え朝ごはんを持って来たマリスが
心底楽しそうに笑いながら言ってくる。

「なっ!!ちょっ………あ、アンタ!!」

その言葉を聞いた瞬間、フィルは顔を真っ赤にし
ガタンと席を立ちマリスを睨みつける。
それに驚いたのかリアはビクンと体を震わせ、すぐさま
私の傍に来て背に隠れてしまう。

「いやはや可愛いよね~
 とは言えこんなちっちゃい女の子に嫉妬するのはどうかとも思うけど」

マリスは朝ごはんを置き、テーブルに座って両肘で頬杖をつき
意地悪そうな笑みを浮かべてフィルを見つめている。
そんなマリスを恨みがましい目で睨み返すフィル。
………はぁ、何だそんな事だったんだ。

「フィル、リアが怖がるからそんな目でマリスを睨みつけちゃだめだよ
 マリスも、フィルをからかって楽しんでるのは分かるけど
 流石にフィルが可愛そうだからもう少し自重して欲しいかな」

一先ずこのまんまの雰囲気だとリアが怖がって困るので仲裁する。

「は~い、まぁそういう事だから安心ていいよレンお姉ちゃん」
「………………」

直ぐに返事をしていつものニコニコ顔にマリスと
一応マリスを睨むのを止めてくれたけど相変わらず何も言わずに
こっちを向いてくれないフィル。
フィルの不機嫌の理由は分かった、本音を言えばちょっと恥ずかしいけど
流石にここはフィルの望みをかなえてあげないといけないよね。

「暫くの間はリアも一緒だと思うけど、それでも良かったら
 一緒に寝よっか、フィル」

私は若干の恥ずかしさを抑えながらフィルに語りかける。
その言葉におずおずとこちらに顔を向けてくるフィル
顔は物凄く真っ赤っかだ。

「………いいの?」
「流石に毎日は駄目だけどね」

躊躇いがちに聞いてくるフィルにちょっと釘を刺しながらも肯定する。
その瞬間フィルはぱあっと顔を煌めかせ

「じゃ、じゃあ今日はお願いするわね、レン!!」

若干興奮気味ながら、とても嬉しそうな笑顔でそう言った。
 
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