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帝国と王国の交声曲《カンタータ》

過去の幻影

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「よっ……と」

私は無造作に積まれてる女性達の遺体を1人づつ丁寧に運ぶ。
………正直気分のいい作業じゃない、当然ながら五体満足で綺麗な遺体なんて
ある筈も無く大抵が腐敗、欠損していて白骨化しているのもざらだ。
綺麗な部分でさえもあちこちに切り傷、刺し傷、鞭で打たれたような跡等
多くの傷跡が刻まれている。
どこの世界でもタガの外れた人間って奴は………
それに良くこれで伝染病とか蔓延しなかったよ、ペストとかコレラとか
この世界にないのかな?
そんな事を考えながら遺体を運び並べて行き、安置した後手を合わせる。
異世界式だけど許してほしい、どうか死後は安らかに………

「ん、そんじゃこのご遺体も昇天させて貰うよ~」

マリスはいつもの口調を崩さず、だけど表情は真剣に
何か印を結ぶような感じの動作をする。
すると遺体は柔らかな青白い炎に包まれ、静かに燃えていく。

「本職じゃなくてゴメン、だけどキチンと
 ティアリス女神様の元へ送り届けるから安心して昇って行ってね」

マリスがそう呟き燃えている遺体を見つめる、遺体は煙も上げず燃え続け
直ぐに僅かな灰を残し燃え尽きる。
マリスはすぐにその灰を集め、何処からともなく取り出した瓶に入れていく。

「………ほい、16人目完了
 貴方の体も故郷へ帰れるからね」

マリスは位牌の入った瓶に向かってそっと呟き、静かに床に置く。

「レンお姉ちゃん、後何人くらいいそうかな?」

その光景をじっと見つめていた私にマリスが静かに話しかける。

「………体が残っていたのは今の人で最後だよ
 後は………一部しか残っていない遺体ばかりだね」

私は感情を抑えながら静かに答える。
私がマリスの前に持って行った遺体は欠損し腐敗していても
人の形を残している人のみなのだ。
牢の中にはまだ腕のみが残ってたりもはやどこの部分か分からない骨とかも
結構な数散乱している有様だ。

「………そっか、なら仕方ない
 後は纏めてフィルお姉ちゃんに埋葬してもらおっか
 無縁墓みたいな形になっちゃうけど、せめて本物の神官が埋葬するって事で
 勘弁して貰うしかないね」

マリスは少し悲しそうな口調で吐き出すと、そのまま牢の奥に向かい
散乱している遺体を拾い始める、私もそれに倣い別の牢へ入る。

「………ん?」

入った牢の奥に布が被った小さな盛り上がりを見つける。
どうやら暗い上に隅っこにあったため見逃してたみたい。
盛り上がりは小柄な人くらいの大きさだ、私はそれに近づき
被されていた布をゆっくりとめくってみる。

「………!?」







  



    ――――そこには薄汚れながらも奇麗な銀の髪を伸ばした
                   小さな女の子が倒れていた――――








「女の………子?」

私は驚いてその子を見つめる、背格好からして10歳前後くらい
攫われてきた女性達と比べて随分と幼い印象の女の子だ。
けど、他の女性達と同じ様に体の様々な所に傷跡が生々しく刻まれている。



「………っ!!」



一瞬景色がぐらりと歪み、眩暈を引き起こす。








………忘れられない遠い過去の記憶、







「………………全く」

私は頭を振り、沸き上がった過去の記憶を振り払う。
今はそんな事を思い出している場合じゃない、この子もきちんと埋葬してあげないと。
気を取り直し私は女の子を抱き抱えようと近いた瞬間、微かだけど呼吸音が私の耳に届く。

「………って、この子!?」

私は女の子の口元に耳を近づける。
………うん、今にも消えそうだけど確実に呼吸音が聞こえる
この子、まだ生きてる!!

「フィル!!こっちに来て!!
 まだ生きてる女の子がいる!!」

牢獄内で大声で叫ぶ私。
この子は確かに呼吸している、けどそれは今にも消えそうな程微かなモノだ
ならば急がないと!!
私はフィルが来るまでの間、僅かに生存率を上げようと女の子を仰向けに寝かせ
ゆっくりと顎を上げ、気道を確保する。
心なしか呼吸音が大きくなった気もするけど、今にも消えそうなのは変わりない。
このままじゃマズい、何とかしてこの子を助けないと。
もう二度と、のは御免だ!!


「レン!!」

私の叫びを聞いたフィルが血相を変えて駆け寄って来る。
その後ろから仲間達とレティツィアさん、そして動ける
生存者たちも寄ってくる。

「フィル!!この子まだ生きてる!!
 助けてあげて、お願い!!」

私の必死な様相に若干驚いた様子のフィルだけど直ぐに女の子に駆け寄り
魔法の詠唱を始める。

「あれま、この様子だとちょっとマズいね
 フィルミールお姉ちゃん、マリスの魔力も貸すから思いっきりやっちゃって」

後からやって来たマリスが女の子の様子を見るなりフィルの肩に手を置き
何か魔法を詠唱し始める。
その瞬間、フィルを包んでいた魔法の光の勢いが増していく。

「あ、アンタ………ちょっと!?」
「いいからいいから、フィルミールお姉ちゃんは魔法に集中して
 制御はこっちでやるからさ」

また何かマリスがやらかそうとしてる様だ、とは言え逆に言えば
そうしないとあの女の子はマズい状況らしい。

「こんな幼子迄容赦なくいたぶるとは………、断じて許せません」

その様子を見ているレティツィアさんが怒りを込めた言葉を呟く。
………うん、全く同感だね。
私はこの子が生き延びる事が出来る事を祈りながらフィル達を眺めていた。


………



………………



………………………


「………ふぅ」

女の子に治癒魔法を掛けて数分後、魔法の光が消えて
フィルが一息つく。

「………何とかなったわ、レン
 尤も、コイツマリスが横槍を入れなければ危ない所だったけど」

フィルはそう言いながら私に笑顔を向けた後、直ぐにマリスをジト目で睨む。

「いやはや、間に合ってよかったよ~
 流石に生命力自体が枯渇しかかってたから治癒魔法だけじゃ無理だと思って
 とっさに生命力変換の術式を割り込ませたんだよね~」

マリスが笑いながら意味不明な事を言う。
フィルの治癒魔法って生命力を回復させるものじゃないの?

「レンも経験あるでしょ、左手吹っ飛ばした時私が治療したら
 凄く疲れたわよね、治癒魔法はかけられた人間もある程度の体力が必要なのよ」

そう言えばそうだった、あの時は歩く事さえ厳しいほど
体力を持っていかれたんだっけ、となるとその子は………

「その生命力をコイツマリスが魔力で肩代わりしたって訳
 全く、相変わらず無茶苦茶するわね」
「あははは、何とか間に合ってよかったよ~」

相変わらず魔法の理論は良く分かんないけどこの子が助かりそうなら一安心だ。
ほっと胸を撫でおろす私。

「取り合えずその子はレンお姉ちゃん抱いてて
 固い石畳に寝かせっぱなしなのも可愛そうだしさ
 遺体集めはリーゼに手伝ってもらうから」

マリスは女の子をひょいっと抱き抱えると私に渡す。
………さっきに比べて呼吸もしっかりしてる、これなら大丈夫そうだね。

「遺体集めなら私も手伝います
 フィルミールさん、埋葬の準備をお願い致します」

レティツィアさんもそう言って牢の中に入っていく。

「レ…レティツィア様、私達も手伝います!!」

それを見ていた比較的元気な生存者さん達も後に続き、遺体集めを始める。
その場に残される私とフィル、ふぅ…っと一息ついたフィルは
埋葬の儀式らしきものを始める。

「………フィル、ありがとね
 この子を助けてくれて」

儀式の準備を始めたフィルの背中にに向けて私は礼を告げる。
………フィルがいなかったらこの子は助からなかった、そうなった場合
私は恐らく
それを防いでくれたフィルに、心からの感謝を伝える。

「………私の役目はレンをサポートする事、レンが礼を言う必要は無いわ
 けど、一番に私に助けを求めてくれたのは嬉しかったわ」

フィルは背を向けたままそう返事をする、だけどちらりと覗く頬は
少し赤みがかっていた。
うん、本当にありがとうねフィル、そして………








         「――――助かってくれて、有難う」








規則的な呼吸を取り戻した女の子に、私はそっと囁いた。
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