~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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帝国と王国の交声曲《カンタータ》

救出

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「なっ………何!?」

突然の事態にフィルが驚いた声を出す。
それはこっちが聞きたい、何でガディのおっさんが
いきなり爆弾みたいに弾け飛んでんの!?
地下室内に濃密な血煙が充満してせそうになる。

「………レンお姉ちゃん、どうやらあっちもそうなったみたいだよ」

そんな中、マリスが真剣な表情で指を差す。
その先にはバラバラになった人の破片が飛び散っている。
あそこにあったのは………おっさんの仲間の骸だね。

「それとこっちも」

次に指差したところは………巨人女性達の遺体があった場所だ。
こっちも同じような有様だ、お陰で血煙が濃くて口の中が粘ついてくる。

「証拠隠滅………これ以上追わせないつもりね」

そんな惨状を見てレティツィアさんは呟く。
成程、ここまで男達の骸や巨人女性達の遺体を粉々にされたら
痕跡を調べて犯人の手掛かりを掴む、という事は到底出来そうもない。
………現代日本ならできそうだけど、いくら魔法があるとはいえ
この世界エルシェーダでは無理だろう。

「………っ」

余りのグロい光景にフィルがえずく、まぁ無理もないか。

「………せめて故郷で、安らかに眠って貰おうと思いましたが
 それすらも踏み躙りますか」

レティツィアさんは砕け散った巨人女性達の遺体の跡を眺めながら
悔しそうに吐き捨てる。
………そうだね、出来ればそうしてあげたかったね。

「ん~、これはまたまた………」

沈痛な雰囲気の中、マリスが砕け散った骸の破片を見ながら呟く。

「マリス?」

何かを調べてるんだろうか、私はマリスに声をかける。

「何とまぁ、ご丁寧に条件指定式の呪いを仕込まれてたっぽいねぇ
 その条件は…一定時間身動きを取らなかったって感じかな?
 後は何か設定された言葉を言った、もしくは頭の中に思い浮かべたか………」
「呪い?」

私の声かけに気付いてないのかぶつぶつ呟くマリス。
その中に不穏な単語が出て来たので思わず尋ねてみる。
呪いって………なんだか穏やかじゃないね。

「ん?ああ、ちょっと気になってざっと調べてみたんだよ
 そしたら独特の魔力の残り香を見つけて、どーやらおっちゃん達や
 あの巨人女性達は誰かに『呪い』をかけられてたっぽいんだよね」
「………それは本当ですか?」

マリスの返答を聞いたレティツィアさんが冷静を装いながらも
少し怒気の籠った声で聞き返す。
そりゃそうだよね、自国民が攫われて改造されて呪われてたってなったら
国民を守る立場のレティツィアさんは心穏やかには居られないだろう。

「見せられるような証拠は無いけど、恐らくほぼ確実にね
 となると、ちょっと急がなきゃいけないかな」

そう言ってマリスは部屋の奥………ガディのおっさんが言ってた
攫われた女性を捕らえていると言っていた方向を見る。

「………まさか!!」

レティツィアさんが驚愕の声を上げる、と同時に私も同じ考えに至る。
この惨状が証拠隠滅の為だとしたら、最悪の場合囚われてる女性達も………

「………っ、急ごう!!
 ゴメンフィル、もう少し頑張れる?」

私は口を押え青い顔をしてるフィルに声をかける。
最悪の場合かどうかは兎も角、狭い部屋に閉じ込められて体力的にも
精神的にも疲弊している女性達を救出するにはフィルの治癒魔法が必要だ。

「ええ…大丈夫、急ぐわ」

顔色は悪いもののフィルは立ち上がって歩こうとする。
とは言え無理はさせられない、私はひょいっとフィルをお
姫様抱っこの要領で抱き上げ

「無理はしないで、攫われた人達を助けるにはフィルの力が必要なんだから」

そのまま走り出す私、それに仲間達やレティツィアさんも追従する。
フィルの顔は赤くなりつつも、心なしか嬉しそうだった。


………



………………



………………………


いくつかの部屋を抜けた先、恐らく地下の最奥にあたる場所に
まるで牢獄そのものな場所に出た。
これはなんとまぁ………まるで刑務所だね。
一方的に攫ってきてこんな所に監禁するなんて、人を人だと
思ってない事が良く分かるね、虫唾が走るよ。

「何………この臭い」

流石にお姫様抱っこは恥ずかしかったのか、直ぐに降りて自らの足で
歩いていたフィルが再び青い顔をしてそう呟く。

「………」

何とまぁ次から次へと嫌な事を思い出させてくれるね、ここは。
この場に漂ってるのは所謂「死臭」………人が死んで腐っていくときの匂いだ。
………何度体験しても慣れないね、この臭いは。


――――牢の内の1つに近づく、そこには鎖でつながれ
蹲っている複数の女性達がいた。

「………大丈夫、ですか?」

その姿を見たレティツィアさんが牢に近づき、1番近くの女性に
そっと囁きかける。

「………えっ?」

反射的に顔を上げる女性、明らかに生気が無く目も虚ろ気味だ。
レティツィアさんの顔を眺めているが、状況が呑み込めていないのか
それとも精神が摩耗しきっているのか反応が薄い。

「私は至高騎士グレナディーア第3位、レティツィア=ブルグネティ
 あなた方を助けに来ました」

女性がそんな状態にもかかわらず、レティツィアさんは名を名乗り
安心させる為か優しく微笑む。

「レティツィア………様?」

レティツィアさんが名乗った瞬間、女性の瞳に少しだけ光が灯る。
そして女性の声に反応してか他の女性達も顔を上げる。

「ええ、あなた方を守れなかった上に長く苦しませて申し訳ありません
 ですが、もう大丈夫です
 あなた方を苦しめていた輩は私が打ち倒しました、安心してください」

レティツィアさんは優しい口調ながらも、牢獄全体に通るような声で
はっきりと声にする。
その声が聞こえたのか、虚ろだった女性の瞳に光が戻り
奥の女性達もレティツィアさんの方へと向かって来る。

「レティツィア様………本当にレティツィア様なのですか?」
「ええ、そうですよ
 そして、あなた方の苦しみの日々も今日で終わりです」
「あ………あああああああああああ!!」

レティツィアさんがそう告げると、自分達が助かると確信を得たのか
牢の中の女性たちが一斉に泣き崩れる。
………相当辛い思いをしてたようだね、本当に。

「苦しい思いをさせてしまって申し訳ありません
 直ぐにここから出してあげますからね」

泣き崩れる女性の背中をさすりながら、レティツィアさんはこちらを向く。
それが合図かの様にマリスは女性に近づき、じっと体を見つめる。

「………強力な奴じゃないけど、呪いをかけられてるね
 内容は専門外だから詳しくは分かんないけど、恐らくは逃亡防止用かな
 呪いの強さ的にさっきのおっちゃんみたいなことにはなりそうにないけど
 強引に連れだしたらちょっとマズいね」

マリスは女性に聞こえない様に控えめの声で私達に伝える。

「けど、フィルお姉ちゃんがいるならどうとでもなりそうだね
 フィルお姉ちゃん、こないだ【解呪イレイス・カース】教えたげたよね
 それでこの人達の呪いは解けるよ」
「………やってみるわ」

マリスの言葉にフィルは女性に近づき、目を閉じて祈り始める。

「我が内に宿りし根源の理よ、神意に従い定められし職掌宿命を果たし
 彼の者に悪しき束縛自由からの解放戒めを」

フィルが詠唱を終えて女性に向かって手をかざすと、柔らかな光が包み
それと同時に女性の周りに黒い霧のようなものが現れて、直ぐに霧散する。
………雰囲気的に今の黒い霧のようなものが呪いって事かな?

「成功したの?」
「うん、ばっちり。まぁフィルお姉ちゃんなら出来て当然だけどね」

私の問いにマリスが答え、フィルがほっとした表情をする。

「神官………様?」

泣き崩れていた女性が顔を上げ、フィルを見つめる。
………どうやら呪いが解けた事が分かってたみたい。
どんな事かは分からないけど、その呪いとやらも
彼女達を苦しめていた一因の様だね。

「あなた方を蝕んでいた邪悪な束縛は私が打ち払います
 ですので安心してください
 レティツィア様の仰る通り、あなた方は助かるのですよ」

フィルはそう言うとにっこりと微笑む。
神官の本領発揮だね、神秘的な雰囲気も相まってまるで聖女みたい。
普段はあんまり神官っぽくなくなってきてる気がするけど………

「それじゃリーゼ、片っ端からこの牢を破壊して頂戴」

次はリーゼの出番だ、リーゼの力ならこんな鉄格子くらい
簡単にぶち破れるよね。

「了解しました、ですがマスター
 死体しかない牢もある様ですがそれも破壊するのですか?」

リーゼの言葉に私は直ぐに頷いて返す。
そんなこと、考えるまでも無い。

「うん、死んでも尚こんな所に閉じ込められてるのは流石にね
 せめて安らかに眠れるよう解放してあげないと」
「………了解しました」

リーゼは頷くと目の前の鉄格子に手をかけ、まるで暖簾を開くかの様に
事も無げに曲げて行く。
それを見た女性達が驚いてる顔をしてるけど………今は説明してる暇はない。

「マリス、フィルが手いっぱいだから私達で埋葬してあげよう
 この世界のやり方は分からないから教えてくれる?」

私の提案にマリスはこくりと頷き。

「りょーかい、任せてよ
 流石に専門フィルミールお姉ちゃんには敵わないけどマリスも似た様な魔法使えるから
 それで勘弁して貰おうかな
 レンお姉ちゃんは遺体を並べてあげて、1人1人埋葬していくよ」

マリスは牢の奥を眺めながらそう私に伝える。
………そっか、あそこに積まれてるって事だね。
流石に無縁仏みたいにいっぺんに埋葬するのは酷だ
1人1人丁寧に埋葬してあげないと。

「うん、分かった
 それじゃお願いするね」

私はマリスにそう返事をして牢の奥へ向かった。
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