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帝国と王国の交声曲《カンタータ》

非業の巨人

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「マリス、まだ聞く事あったりする?
 正直そろそろ鬱陶しくなってきたから黙らせようかと思うけど」

聞くに堪えない言葉を散々聞かされウンザリ君の私は
これ以上このおっさんの言葉を聞かないようにする為マリスに耳打ちする。

「あ、うんダイジョブだよ~
 これ以上の事を聞き出すのは至高騎士王国のお偉さんの仕事だし
 そろそろ異変を感じて増援が来るかもだからこのおっちゃんに
 かまってる暇無くなりそうだしね~」
「うん、分かったよ」

マリスの許可も得た事だし、さっさとこのおっさん黙らせて脱出しよう。
増援来られても面倒だし、騒ぎになると厄介な事態を
引き起こされる可能性も在る。
男1人リーゼなら余裕で担いで行けそうだし、起こしとく理由は無いね。
そうしておっさんに近づく私。

「く…くそ、こんな理不尽あってたまるか!!
 こうなったら………」

ガディのおっさんはそう吐き捨てると無事な左手で懐をまさぐり
何かを取り出す。
あれは………笛?

「へ………へへ、こうなったらどなろうと構うもんか
 てめぇ等も、俺をこんなとこに押し込めやがったギルドも
 全部ぶっ潰してやる!!」

そうがなり散らすと持っている笛を口に咥えようとする。
増援を呼ぶつもり!?そうはさせない!!
私は一気に詰め寄り笛を蹴り上げようとするが………一瞬間に合わず
地下室内に笛の甲高い音があちこちに反響する。

「えっ、な…何!?」

あまりの反響音に我に返ったのか、俯いて
震えていたフィルが辺りを見回す。
そう言えば怖がらせちゃってたか………ゴメンフィル、嫌なもの見せて。
私は取り合えず心の中で謝ると、地下室の入り口を見る。
恐らくあの笛は増援を呼ぶためのモノだ、外に何人いるか分からないけど
兎に角隙を見て切り抜けるしかない。
建物の規模からして恐らく10人以上は待機しているはず。
その中に手練れがいない事を祈るしかない。

「リーゼ!!戦闘になるよ、構えて!!」
「………っ、了解しました!!」

リーゼは一瞬言葉に詰まったけど即座に戦斧を出し構える。
………まさかリーゼも怖がってた?
な訳ないか、リーゼはドラゴンだ、人間の威圧なんて意に介さないだろう。
私はいつ敵が現れてもいい様に呼吸を整え、構える………が



      バゴオオォォォォン!!



「何!?」

背後から大きな破壊音が木霊し、私達は思わずそちらへ振り替える。


「グゥゥゥゥゥゥ………」


そこには、低い唸り声を上げている赤黒い皮膚の巨人が
壁を破壊して立っていた。
巨人はリーゼの頭2つ分高く、全身にはちきれそうな筋肉を纏い
手には人の頭ぐらいありそうな大きさのハンマーを持っている。
………魔物!?こいつら魔物を使役するの!?

「ヒャハッ、ははははははは!!
 お前らが悪いんだ!!お前らが俺をこんな目に遭わさなければ
 同じ女に殺されることも無かったんだよ!!はははははは!!」

巨人の姿を確認したガディのおっさんが狂ったように喚き散らす。
同じ女………?

「どういう事!?同じ女って………」
「■■■■■■■■■■■―――!!」

フィルのが思わずガディのおっさんに問いかけようとするも
それが呼び水となって巨人が咆哮を上げ、そのままフィルに目掛けて
ハンナ―を振り下ろす!!

「しまっ!!」

とっさの事で反応が遅れる私、巨人のハンマーはそのまま無慈悲に
フィル目掛けて振り下ろされ………



       ガギィィィィィ!!



けたたましい金属音が地下室内に盛大に反響する。
ハンマーがフィルに命中する瞬間、フィルと巨人の間にリーゼが割って入り
間一髪、戦斧の柄でハンマーを受け止めていた。

「………ッ!!フィルミール、早く下がりなさい!!」

ハンマーを受け止めた状態でリーゼが叫び、フィルはすぐさま巨人と距離を取る。

「ぬうううぅぅっ!!」

リーゼはそのまま巨人のハンマーを押し返し、巨人を2、3歩下がらせる。

「………人間の雌が、随分な力を持っているようです
 マスター、如何致しますか?」

いつものように私に指示を求めようとするリーゼの言葉
だけどその言葉の中に、聞きたくない言葉が混じっていた。

「人間の雌………って、リーゼあの巨人が人間ってわかるの!?」
「………はい、どのような経緯でああなったかは不明ですが
 アレは間違いなく人間の雌です。
 過去に対峙した巨人に、あのような体型の者は存在しませんでしたので」

リーゼ巨人と戦った事あるんだ、ドラゴンと巨人の戦いって
なんか特撮ヒーローみたいな絵面だね、リーゼが怪獣側だけど。
………って、そんなこと考えてる場合じゃなくて!!

「という事は、あの巨人も攫われた………」
「だろうね、恐らく魔術的に無理矢理肉体を強化された女性だよ
 昔似た様な研究をしてた魔導士を協会にいた頃に見た事あるんだよね
 まぁ、その魔導士は実験の失敗で帝国に被害を出しちゃったっぽくって
 帝国にフルボッコにされて行方不明になってるけど」

フィルの呟きにマリスが答える。
ってちょっと待った、それだと帝国がその研究成果を
手に入れてる可能性も………

「恐らくはレンお姉ちゃんが思ってる通りだと思うよ
 ………やれやれ、胸糞悪い事してくれるね全く」

私の考えを察したのかマリスはそう吐き捨てる。
となればあの巨人女性を何とかして………

「残念だけど、助ける方法なんて多分ないよ
 ………あそこ迄肉体を変化させられたら、もう戻れない
 あの様子だと人格もほぼ残ってないだろうから、本能のままに
 暴れ続けるだけだろうね」
「そんな………」

再び私の考えを察したマリスの残酷な言葉にフィルが絶句する。
………胸糞悪い現実は何度も見て来たけど、今回のはそれに勝るとも劣らないね
ホント、人間の悪意って奴は………

「ひゃははは!!そうだ、女に余計な人格があるのが悪い!!
 そんなものが無ければこんな目に遭わずに済んだのにな!!
 ひゃははははははは!!」

………煩い、さえずるな下郎。
冷静さを取り戻した頭に再び冷たい思考が流れ込む。
この男は生かしちゃ置けない、確実に■■してしまわないと………

「ストップ、気持ちは分かるけどおっちゃんは生かしとかないと駄目だよ
 まぁ、個人的にはここで死んだほうがマシだと思うけどね~」

マリスはそう言うと意地の悪い笑みをおっさんに向ける。
ホント、人の思考を読むのが上手いねマリス。
もしかして読心術とか持ってるんじゃないだろうか。
いや………私が単純なだけか。
お陰で頭も再び冷えた、現状も把握した。
………気は進まないけど、あの巨人女性を救うにはそれしかないのなら!!

「リーゼ、何時もの様に私が足止めするから隙が出来たら全力で攻撃して
 ………室内という事は頭に置いておいてね」
「了解致しました、マスター」

私の指示にリーゼはすぐさま返事をする。
リーゼの武器は長物だ、この室内だと取り廻しが悪くなる。
だけどその辺りの鍛錬はやってなかった、これは私の落ち度かな。
一応気にする様に釘は刺してみたけど、さて………

「フィル、リーゼの回復優先に後方支援お願い
 多分私はあの巨人女性の攻撃には耐えれないと思うから
 私の防御は捨てて、速度重視の援護を」
「………ッ、分かったわ
 けど、レンが少しでもダメージを受けたらそっちの回復を優先するわよ
 これだけは絶対に譲らないからね」

フィルへの指示とその反応も………まぁ予想通りかな。
私が被弾しない限り指示通り動いてくれる筈。
そもそもフィルに言った通り私は巨人女性の攻撃に耐えられないだろう
当たれば即死、引っ掛けただけでも大ダメージだ。
ならばいつも以上に回避に集中しないとね。

「レンお姉ちゃん、マリスに指示はないの?」
「マリスは………うん、好きに動いて
 ただまぁ、室内だから炎や爆発系の魔法は控えてくれないかな」
「りょーかい、流石に今回はシリアス気味で行かせて貰うよ!!」

マリスに関しては好きに動いてもらうのが得策だ。
正直言って未だにマリスが出来る事の全容が掴めてないから指示の出しようもない
常に予想外な事をしてくるビックリ箱の様な子だからね。
仲間達に指示を出し終え、私は巨人女性を見据える。
………ゴメン、けど全力で行かせて貰うよ!!

「▪………■■■■■■■■■■■―――!!」

私の視線に反応し、巨人女性は盛大に咆哮する。

――――地下での死闘が幕を上げた。
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