~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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帝国と王国の交声曲《カンタータ》

拠点探索

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「さっさと入れ!!」

馬車から引きずり降ろされた私達は乱暴に腕を引かれ
格子の付いた一室に連れて来られた。
私達は叫びも抵抗もせず、男の言われるまま部屋の中に入っていく。

「フン、攫われたって割には随分大人しいな
 普通の奴隷ヤツなら泣き叫んだり抵抗するもんだが………」

ありゃ、この後の事を考えて体力温存の為に従順な振りをしてたけど
過ぎて若干怪しまれたかな?

「まぁいい、その様子なら俺達も余計な仕事をしなくて済む
 ぎゃあぎゃあ騒ぐ奴隷メスを黙らせるのも一苦労なんでな
 お前達も死にたくなかったらそのままで大人しくしてろ
 どうせお前達が国に帰ることなどもう出来ないのだからな」

男はそう吐き捨てると部屋を出てドアを閉め施錠をし
どこかへと去っていく。
………あれま、思ったより扱いが温いね?
てっきりすぐさま心をへし折りに来るのかと思ってたけど………

「ん~、憶測だけど極力傷つけたくないんじゃない?
 どっちの意味かは分かんないけどね」

男の気配が無くなった事を確認したマリスは演技を止めて
いつも通りの口調で喋り、手元をカチャカチャと動かし始め
直ぐにぱきんと音がして手枷が外れる。

「それにしたって見張りも置いてないのも意外ね
 もう少し厳重に見張ってるものかと思ってたけど」

それに続き、フィルも話しながら手枷を外す。
………当然ながらこの手枷足枷はフェイクだ、怪しまれない様
本物ではあるけど細工をしていて、決められた手順で外せるようになっている。

「見張りを置くだけの人材がいないか、出口が1ヶ所のみで
 そこに見張りを立ててるか、そもそも普通の女性じゃ脱出できない様になってて
 見張りを立てる必要が無いか………そのどれかだけど
 取り合えずは助かったかな」

想定した状況では手枷を付けたまま扉と見張りを
何とかする予定だったけどこれなら好都合かな。
手枷をしたまま周りに気付かれない様見張りを倒すのは
ちょっと難儀しそうだったし。

「それで…これからどう致しますか、マスター」

手枷足枷を取り、自由になったリーゼが私に問いかける。
尤も、リーゼにとってはこんなもの無いも同然なんだろうけど………

「取り合えずはこの部屋から脱出して辺りの探索かな
 囚われた人達が何処にいるかも確認しときたいし」
「そだね~、セオリーなら1番最初に脱出口の確保なんだけど
 それは最悪リーゼが壁吹っ飛ばせばどうにかできそうだし」
「まぁそれは最後の手段かな、と言うか何でマリス潜入のセオリー
 なんか知ってるの?」
「まぁ昔色々とやってたしね~、よっと」

マリスはそう言いながら自分のインベントリ・キューブから
みんなの冒険用の装束を取り出し次々と並べていく。

「たちまちは着替えよっか、この格好も悪くは無いんだけど
 荒事になったら流石に不利だしね~」

マリスの言葉に私はこくりと頷き、自分の装束を手に取る。
あ~やっとこの格好から解放されるよ、動きやすさは兎も角
女としてのプライドをガリガリと削られていくのは
精神衛生上よくなかったしね。
………なのにどうしてフィルは不満そうな顔をするのかな?
突っ込むと面倒な事になりそうなので一先ず気付かない振りをして
マリスの出してくれた冒険者装束に着替え始めた。


………



………………



………………………


「よし、お着換え完了っと
 そんでレンお姉ちゃん、これからどうしよっか」

全員の着替えが終わり、行動開始の準備が整ったところで
マリスが私に尋ねて来る。
ふむ、こういう時のセオリーはっと―――

「とりあえず最優先は囚われてる人達の場所を確認する事かな
 あ、その際だけど囚われてる人達に気付かれない様にかな」
「どうして?助けに来たって教えてあげないの?」

フィルが若干不満そうな声で聞いて来る。

「………きつい言い方なんだけど、下手に希望を持たせないためだよ
 変に希望を持たせると勝手な行動をしてこっちの想定外の事態を
 引き起こされる可能性があるからね」
「………」

そうなのだ、人って絶望的な状況で希望が見えると
自分でも何とかしようとアグレッシブになてしまう場合が多い。
漫画やドラマとかではそれが主人公たちのピンチ時にいい方に転がって
事態打開になる事も結構あるけど大抵は捕まったりして悪化する
パターンがほとんどなんだよね、そうなると私達の命も危険になる
流石にそんな事態を引き起こしたくはないからね。

「そだね~、ロテールお兄ちゃんの話だと軽く10人以上は捕まってるっぽいし
 その人たちを守りながら脱出………なんてリーゼを元の姿に戻すぐらいしか
 方法は無いしね~」

マリスが私の言葉に続く。

「それはあくまで最終手段にしたいかな、そうなると確実に帝都中騒ぎになるし
 下手すれば『ドラゴンが人を攫った!!』って誤解されて
 討伐隊を組まれる可能性があるしね」

確かに1番手っ取り早い方法ではあるんだけど1番厄介な事態を
引き起こしかねない諸刃の剣な方法なんだよね、どう見たってドラゴンが
建物破壊した上に人を攫ってる絵面にしかなんないしね。

「兎に角、先ずは囚われてる人達を見つけるのを優先しよう
 巡回してる見張りもいるかもしれないから見つからないようにね
 ちなみにマリス、姿を消したり音を出さなくする魔法とかあったりする?」
「ん~、近いことは出来るけど正直やってもバレバレだと思うよ。
 姿は消せるけど動いたら景色が変な風に歪むから
 何かいるってすぐ分かっちゃうからあんま意味無いんだよね~
 音に関しても同じようなモノかな」

ふむ、少し期待したけど駄目だったか。
まぁないものは仕方ない、素直にかくれんぼしながら行きましょうか。

「そっか………それなら仕方ないね
 それじゃみんな、なるべく音を立てず体勢を低くしてついて来て」
「オッケ~、んじゃさくっと鍵開けしちゃおうかな
 ほいほいほいっと」

私の提案にマリスは二つ返事で答えた後、何処からともなく
折れ曲がった針金数本を取り出し、手慣れた手つきでピッキングを始める
………っておい、魔法とかで開けるんじゃないんかい。

「あ、アンタ………一体何やってんのよ」

フィルも同じ事を思ったらしく、絶句しながら
マリスに問いかけてる。

「ん~、鍵開けるのってこれが1番手っ取り早いんだよね~
 開錠アンロックの魔法より便利そうだったからダスレのおっちゃんに
 教えて貰ったんだよね、吹っ掛けられたけど………っとよし、開いたよん」

そうこうしているうちにマリスは鍵を開け、扉を開く。

「ホント、コイツって何なのよ………」

フィルが頭を抱えながら呟く。
うん、もうマリスの事は気にしない様にした方がいいね
ホントビックリ箱だよこの子は。
次にマリスが何をしても驚かない事を心に決めながら
私は周囲にの気配を探り、扉を潜った………
 

………



………………



………………………


薄暗い建物内を息を殺して進む私達。
余り入り組んだ建物じゃないけど、それでも安全を確認しながら
進むとなると時間がかかる、それ故に長丁場を覚悟してたんだけど………

「………この部屋も何もなし、かな」

気配を探り、部屋の中に人の気配がない事を確認したを私達は
部屋を探索するも何も見つからずじまいだった。
これにて5部屋目、どこも生活感のない部屋ばかりで
囚われた女性どころか人っ気の1つも無く、全く手掛かりの無い有様だった。

「また外れね………広さ的に調べ尽くした筈だけど
 何もないどころか人もいなかったわね………
 私達を連れて来たあの男も姿を消したままだし、どうなってるのかしら」

フィルきょろきょろと部屋を見回しながら呟く。

「多分だけど隠蔽の準備やら何かやってるんだと思うよ
 そりゃあんな事やってるなんて隠すに決まってるしね~
 ぶっちゃけ大っぴらになったら帝国と王国の両方から追われるんだもん」

そんなフィルの疑問をマリスがさも当たり前のように答える。
それはそうか、王国のみならず帝国にとってもこの事柄は
戦争になりかねない大問題だ、首謀者を捕らえて王国側に引き渡し
事を穏便に済ませようと考えてる人がこの依頼を出したのかもしれないね。

「となるとどこかに隠し通路みたいなものがあるのかな?
 だとしても私達をそこに直接連れて行かなかったのが疑問だけど………」
「ん~、色々理由は考えられるけどその辺りは詮索しても意味はないかな~
 どうせロクな事じゃないだろうし………っとここかな?」

私達と会話をしながら何やらごそごそと床を調べていたマリスが
その一部分に目を止めて呟く。

「ここって………何も無いじゃない」

その言葉に私達は覗き込むも特に変な所はない、どう見ても
ただの張り板の床だ。

「んっふっふ~、確かにそう見えるよね~
 けどね、ほらっ………と」

マリスは得意そうな笑みを浮かべながら張り板の繋ぎ目に爪をかけると
そのままくいっと開くような動作をする。

「………!?これって」

フィルが驚きの声を上げる、そこには地下への階段が姿を現した。
どこかに有るとは思ったけど、まさかこんな変哲も無い
床の下にあったなんて私も若干驚く。
確かそこ、私も歩いたけど空洞の感覚なんかしなかったんだけど………

「中々見事な隠蔽だ~ねぇ、ただ歩いてたりちょっと叩いただけじゃ
 全く分からないようにできてるよ、多分ダスレのおっちゃんレベルじゃないと
 わかんない位の巧妙さだね~」

それって盗賊ギルドマスターくらいの腕が無いとみ破れないって事じゃないの?
それをあっさり看破してのけたマリス、もう何でもありだねこの子。

「だから何でそんなのが分かるのよアンタは………」

もう慣れてしまって驚く事もないのか、フィルも呆れ気味の声で呟く。

「ま、昔色々やらかしたからね~
 そんでどうするレンお姉ちゃん、このまま降りてみる?」

マリスの問いに考えるまでも無く、私は頷き返し
警戒しながら階段を下りて行った………
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