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帝国と王国の交声曲《カンタータ》

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「リーゼ!!」

作戦の打ち合わせを終え、その為の詠唱準備に入ったフィル達から離れ
私は未だデカスライム相手に戦線を維持しているリーゼに駆け寄る。
うわ、スライムまみれで服が溶かされて、目のやり場に
困るような格好になっちゃってるねリーゼ………
けど本人は全く気にしていない様子で、いつもの恐ろしい刃音を
響かせながら容赦なく炎を纏った戦斧をデカスライムに叩きつけてる。
………傍から見てると凄い絵面だねこれ、と言うかホントに
スライムの溶解攻撃は全く効いてないっぽいね。
それならこのまま持久戦に持ち込んでも何とかなりそうな気配だけど
余り楽観的に考えない方がいいのが戦いの鉄則だ。

「マスター、如何致しました?」

私に気付いたリーゼは攻撃の手を止めずに私に問いかけて来る。

「大丈夫なのリーゼ、スライム付きっぱなしだけど」
「問題ありません、スライム如きに我が竜燐が傷つく道理などありません
 ブレスで一掃できないのが手間ですが、このまま討伐は可能かと」

よく見たら、リーゼのスライムがくっついてる箇所の皮膚が鱗状になってる。
リーゼこんなことも出来るんだ、もしかしなくてもリーゼってかなり器用?
とは言え、王国の人にこの鱗を見られると厄介な事になるっぽいし
取り合えずスライムを排除しとかないと。

「リーゼ、このままでも大丈夫そうだけど一応くっついたスライム排除するよ
 左手の炎で燃やしちゃうけどリーゼ自身は火傷したりする?」

前にリーゼと戦った時、マリスの魔法が殆ど効かなかったので
大丈夫だろうとは思うけど一応リーゼに聞いてみる。

「問題ありません、マスターのお望みのままに」

そう言ってリーゼは攻撃の手を止め、すっと体を差し出して来る。

「………ありがと、熱かったらゴメンね」

私はそう言いながらリーゼにくっついているスライムに火を着ける。
スライム達は次第に燃え上がりリーゼはあっという間に火達磨になる。
………うわぁ、さっきは自分自身だから良く分からなかったけど
これかなり衝撃的な絵面だね、大丈夫だと分かってても心臓に悪い。

「リーゼ、ホントに大丈夫?」
「はい、この程度の炎など痛痒に値しません
 弱体化しているとはいえ、私のブレスはこれ以上ですので」

あ~そう言えばそだったね、リーゼのブレスって直撃じゃなくても
平気で私の腕をボロ炭に変えてたしね、つくづく凄いねドラゴンって。
数秒ほどでスライム達は燃えつき、リーゼの火達磨状態は解除され
それに合わせて戦斧を構え直し攻撃を再開しようとする。

「あっとリーゼちょっと待って、張り切ってるとこ悪いけど
 リーゼには一旦下がって欲しいんだ」
「………命令とあらば従いますが、何故でしょうか?」

私の言葉が意外だったのかリーゼは戦斧を振りかぶったまま問いかけて来る。

「このまま消耗戦してても勝てるだろうけどリーゼの負担が大きいしさ
 一気に決着をつけようと思うんだ」
「マスター、如何なさるおつもりですか?」
「マリスから渡された槍あるよね?あれって今フィル達がいる位置からぶん投げて
 スライムの核まで届く?」
「可能ではあります、ですが現状ではあの巨大な粘体に阻まれるかと」

ふむ…射程距離的には問題無いって事ね、なら。

「今から私があのスライムのどてっ腹に攻撃を仕掛けて穴を開けてみるから
 リーゼは核に届きそうと判断次第槍をぶん投げて
 それでおそらく倒せると思うから」

私の言葉にリーゼは少し驚き、そして困った顔を向け

「マスターのお言葉を疑いたくはありませんが、如何様にするのですか?
 失礼を承知で申し上げますが、マスターの攻撃力では
 いくらマリスの援護をもらったとて………」

まぁリーゼがそう思うのも当然だよね、私は今まで自分の攻撃で
敵を倒した事なんて数える程しか無いんだし。

「現状だとそうだね、けどそろそろ………」

そう呟いた瞬間、周囲に妙な気配が発生した後
私の足元に巨大な魔法陣が展開される。

「マスター!?」

いきなりの事態に驚き、駆け寄ろうとするリーゼを手で制する。

「だいじょぶだよリーゼ、これはフィルとマリスの魔法だから」

いつもの様に魔法陣がから光が走り、私に向かって収束する。
さて、2人とも上手くやってよ………
やがて光が収まり、私に対しての魔法が効果を発する。







――――そこには、全身を炎に包まれた私がいた。







「なっ、マスター!?」

余りの光景に声を上げるリーゼ。
まぁ確かに驚くよね、目の前でいきなり炎に包まれちゃ。
そんなリーゼを横目に私は一先ず自分の体のチェックをする
両手両足問題無し、炎の揺らめきが多少邪魔になるかなと思ってたけど
視界もすこぶる良好、左手と同じく熱も感じない
………よし、成功かな。

「驚かせちゃってごめんね、さっきリーゼのスライムを焼き払った様に
 自分にも同じことをしてたんだよ。で、その時に熱くなかったから
 もしかして全身に炎を纏うことが出来るんじゃないかなーと思ってさ
 即興で出来るかマリスとフィルに頼んでみたんだよ」
「な…成程、そう言う事………ですか」

リーゼは呆気に取られたまま返事をする、まぁ流石に人の身で
炎に包まれようという発想をした人間はそうはいないから当然だね。

「これなら防御もほぼ考えなくて済むし、何より奴の粘体に潜り込んで
 中から燃やすことも出来る、我ながらいいアイデアでしょ?」
「………確かに
 ですが、その様な役目は私に任せて頂きたかったかと」

リーゼは少し不満げに言葉を発する。
まぁリーゼならそう言ってくれると思ってたし、何より
普通に炎に耐えれるから適任と言えば適任なんだけど。

「流石にあんな大きい核を素手で壊す自信はないかな~
 となると決め手を持ってるリーゼがトドメ役になるのは必然だよ
 いくら燃やして空間を作って行っても戦斧を振り回す
 スペースなんて無いだろうし、いくら力自慢のリーゼでもあの
 粘体に阻まれながら戦斧を振り回すのは難しいでしょ?」
「そう、ですが………」

リーゼは数秒葛藤するも、直ぐに私に目を合わせ

「了解しました、マスター
 命令を実行します」

納得してくれたかの様にひとつ頷き、後方へ下がっていった。
………さて、ここからが踏ん張りどころかな。
そう思い一気に距離を詰める為左足に力を込めた瞬間

「おうい!!そこの冒険者………ってうわ!?」
 
えっ、何!?
いきなり声を掛けられ思わず足を止め声のした方へ振り向く。
そこには王国兵らしき男の人が驚きの表情で立っていた。

「お、おい!!大丈夫か!!」

おっとそう言えば私火達磨状態だ、こんなもの傍から見たら
驚くに決まってるよね。

「あ~っと、大丈夫です。これは仲間の魔導士がかけてくれた魔法なので
 あ、一応本物の火なので気を付けて下さいね」

私の返答に王国兵は驚きの表情のまま恐る恐る近づいてきて
私が纏っている火に手をかざす。

「確かに本物の火だ、こんなものを身に纏わせるなんて
 魔法とは言え恐ろしいものだな………」

王国兵は驚き半分、感心半分で呟いてる。

「えーっと、私を呼び止めたという事は
 何かそちらの方で動きがあるのでしょうか?」

取り合えず戦闘中なのであまり悠長にも出来ない。
私は王国兵に水を向ける。

「っとそうだった、お前達がヒュージモススライムを引き付けてくれた
 お陰でこちらの火矢の準備が整った、それを知らせ、退避を促す為に
 私が来たのだが………」

お、それは朗報だね。王国側も手を貸してもらえるなら有難い。

「有難うございます。
 ですが、見ての通り私に火矢は効きませんので構わず
 攻撃を開始して頂けると有難いです」

私は若干の噓を交えながら王国兵に伝える。
恐らくだけどこの炎は火矢を防げないだろう、あくまで私が燃えてないのは
マリスが調節してくれた魔法の炎だからね。
とは言え即興で軍と連携できるはずもない、ならば少しでも火力が欲しい現状
軍には遠慮なく攻撃して貰って私がアドリブで動いていくのが最上だろう。

「確かに、その姿を見れば納得できる。
 それにお前達がそのままヒュージモススライムを
 引き付けてくれるのならこちらとしても都合がいい」
「………決まり、ですね」

意志の疎通が出来た、それを確認するためにお互いに頷く。

「あと少しだけ持ちこたえてくれ
 そうすればが直ぐにカタを付けて下さる」
「あのお方、ですか」

ふむ、どうやら軍の方にも決め手を撃てる人物がいるみたいだね。
決め手は何通りあってもいい、あればあるだけ勝率は上がっていくからね。

「分かりました、こちらも一応策はありますが
 それがしくじった場合、後をお願い致します」
「ああ、任せてくれ」

王国兵はそう言って外壁の方へ走り去っていく。
よし、思わぬ援護も来てくれたしそろそろケリをつけようかね!!
私は気合を入れなおし、炎をたなびかせながらデカスライムに向かっていった。
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