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帝国と王国の交声曲《カンタータ》

手掛かりへの旅路

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「いってらっしゃい、土産話楽しみにしてるわよ♪」
「………気を付けてね」

盗賊ギルドから情報を得た私達は『勇者が最後に姿を確認された場所』に
向かう為、3日程旅の準備を進めていた。
マリスの話だと、帝国との国境から王国の首都リゼーンって所まで
徒歩だと軽く1週間以上かかるらしく、しかも道中は弱いながらも
魔物の出現地域を横切らないといけないみたいで、入念な準備が必要だった。
まぁ、荷物自体はフィルとマリスのインベントリ・キューブが
大活躍だったから大助かりだったけどね。
4人で1週間以上の旅ってなると1人頭の荷物が結構な事になるからね………
それと並行して、冒険者ギルドに行ってマイーダさんに話を
通しておくこともいなければならなかったんだよね。
私が行った時は生憎マイーダさんは留守だったんだけど、アイシャちゃんに
事情を話して言伝を頼んでおいた。
アイシャちゃん自身は王国行きを伝えた瞬間目を輝かせて
『お話楽しみにしてます!!』って言ってた。
………さてはて、アイシャちゃんが喜びそうなお話になるといいんだけど。
けど、そうなったら面倒なトラブルに巻き込まれてるって事なんだよね。
マリスはすごく喜びそうだけど。

そうして全ての準備が整った次の日、私達は王都に向かって出発した。
出発の日にデューンさんとマリーさんがわざわざ見送りに来てくれたのは
ちょっと嬉しかったかな。
………『いってらっしゃい』なんて言われて見送られるのはほんと
久しぶりだったからね。
2人に見送られて帝都を出発し、リーゼの背に乗って国境付近まで飛んでいく。

「いや~、ホントにリーゼの存在って有難いね~
 本来なら帝都から国境に行くだけでも結構かかるのに
 こうやって1時間もかからず到着できるなんてさ」

国境近くの森の中でリーゼを降ろし、人間になったリーゼが服を着てる間に
マリスがリーゼの荷物を整頓しながら呟く。

「そ、そうね………それに関してはアンタと同意見なんだけど………」

フィルは相変わらず高いとこは苦手のままで
降りて5分以上経った今でも私にしがみ付いて小刻みに震えてる。

「フィル、やっぱりまだ慣れない?」
「うん…早く慣れないといけないとは思ってるんだけど、どうしても………」

う~ん、この辺りもどうにかしてあげないといけない気もするけど
高所恐怖症を治す方法って私知らないんだよね………
私の場合、恐怖を感じる前にお爺ちゃんに何度も高いとこから落とされてたから
全く参考にならないし、多分同じ事したらフィルはショック死して
しまいかねないしね。

「お待たせしましたマスター。それとマリス、荷物の整頓有難う御座います」
「終わった?それじゃ出発しようか」

リーゼの着替えが終わり、私達は国境を管理してる関所に向かう。
取り合えず出国は普通に出来そうだから、何もないとは思うけど………


………



………………



………………………


「………冒険者証を確認した、通っていいぞ」

数10分後、帝国側の関所に着いた私達は国境越えの手続きの為
駐在している帝国兵士に身分証の提示を求められていた。
国境を渡る為の関所はどうも帝国側と王国側にそれぞれあるらしく
両方で手続きをしないといけないみたいだった。
まぁ、この辺りは元の世界でも同じような物だね、ヨーロッパの方では
1つにまとまってるとこもあるみたいだけど。
取り合えず言われた通り冒険者証取り出した瞬間、少し顔をしかめられるも
何事も無く手続きは終わったようで、冒険者証を返してくれる。

「しかしこの状況で冒険者が王国にね………しかも女4人と来た
 何かあったんじゃないかと思いたくもなるな」

兵士は横を向きため息を吐きながら呟く。
………ん?何か妙な事を言ってるね。

「どったのおっちゃん、王国で何か変な事でも起きてんの?」

その呟きに興味を惹かれたのかマリスが物怖じせず兵士に話しかける。

「ん?ああ、噂だが最近王国が冒険者を集めてるようでな
 その影響か王国側の関所がピリピリしてるみたいなんだよ
 と言うか、アンタ達も王国の募集に乗っかった口じゃないのか?」

王国が冒険者を集めてるねぇ………まぁ今の私達には関係ないかな。

「いんや、私達はちょっとした用事があってね
 けど、そんな話は初耳だねぇ」
「そうなのか?帝国からもそこそこ冒険者が入国してたから
 てっきりアンタ達もそうだと思ってたんだが………」

そうなんだ、という事は王国で何か起こってるって事なのかな?

「ふむむ、何だか面白そうな気配だ~ねぇ
 おっちゃん、貴重な情報ありがとね」

そう言ってマリスは兵士に何かを握らせる
良くは見えないけど………あれはお金かな?

「おっ、悪いな………
 よし、アンタ達の顔は覚えた。帰るときは俺に声をかけてくれれば
 手続きなしで通してやるぜ」
「宜しく~、んじゃ行こっか」

マリスは何事も無かったように開かれた門を潜りぬけていく。

「あっ、ちょっとマリス!!」

フィルもさっきのマリスの行動を見ていたのだろう、呆気に
取られてたようだけど慌ててマリスを追いかけていく。
………しょーがない、ここは流れに乗っとこうかな。

「それじゃ、帰りは宜しくお願いしますね」

私は一礼し2人の後を追いかける、リーゼもそれに倣い兵士に頭を下げた後
私についてくる。

「おう、気をつけてな~」

兵士の言葉を背に、私達は関所を抜けていく………



「ちょっとマリス、アンタ一体何やってんのよ!!」

関所からある程度離れた場所で、フィルがマリスに怒鳴りつける。

「ん?何って見たまんま賄賂だよ、王国から帰ってくる時の手続きが面倒だから
 お金握らせて無しにして貰ったんだよ」

賄賂って………まぁそうかなとは思ってたけど
それを平然とやるマリスと平然と受け取るあの兵士ってどうなの………

「話を聞く限り王国での手続きは面倒になりそうだからね
 省略できるところはちゃっちゃと省略した方が効率的だよね~」

全く悪気無しで言いのけるマリスを見てフィルは絶句をする。
清廉潔癖を信条とする神官なフィルにとっては衝撃的過ぎる光景だったろうね。

「何と言うか、手慣れてるねマリス
 もしかして1人で旅してた時もこんな感じだったの?」
「うん、大体こんな感じだったよ~
 ぶっちゃけ主要都市以外じゃこんなもんだよ、非常事態でも起こらない限り
 帝国が入出国を制限する意味はあまりないからね」

私の問いにいつもの調子で答えるマリス。

「そうなの?」
「うん、帝国の食糧事情は前に説明したよね?
 現皇帝になってだいぶマシになったとはいえまだまだ自給率は低いからね
 輸入に頼らないといけないから入出国を厳しくする訳にもいかないんだよ」

成程ね、とは言え最低限の防衛はしないといけないから
あんな形になってるんだね
という事はあの兵士達は最前線送りと言うより閑職に回されたって感じか。
そりゃ腐敗はしていくかな。

「あと、帝国が王国に攻める理由はあっても王国にはそこまで無いのも理由だね
 技術提供なら魔導協会から受けれるし、王国が帝国を攻めても国力を無駄に
 下げるだけであまり旨味はないからね」

そうなんだ、なら益々閑職扱いにもなりそうだね。

「………まぁ、今の国王ならやりかねないって噂もあるけどね~
 何か我儘放題で臣下も苦労してるって噂をちらほら耳にするからね」

何その不吉な噂は………
正直王国に行っても厄介事は勘弁して欲しいんだけどなぁ。

「という訳でフィルミールお姉ちゃん、そろそろ割り切って欲しいかな~
 多分王国側だとさらに手続きが面倒な上にゴタゴタする可能性も在るから
 ぶっちゃけ賄賂で済むならそうしたいんだよね~」

マリスはそう言って不機嫌な顔のフィルに話しかける。
まぁ、基本真面目なフィルにこの手の事は受け入れがたいのは
分かってるんだけど、マリスの言う通りなら無駄な時間を費やすよりは
いいとは思う、だから………

「フィル?」

少々ズルいと思いながらも私はフィルの顔を覗き込みながら呼びかける。
こうすれば私の意図を察してくれるのがフィルだ、そして………

「はぁ、分かったわよ
 レンが乗っかるつもりな以上、私に拒否権なんて無いんだもの」

そう言って苦笑する、ゴメンねフィル。

「マリス、自分でやり出したんだからその手の事はアンタが全部やりなさいよ
 私はあくまで見ないふりをするだけ、それが精一杯の妥協点よ」
「りょうか~い、任せといてよ♪
 んっふっふ~、さてさて次はどんな手で行こうかな~」

渋い顔のフィルと対象に、この上なく楽しそうな顔のマリス。
やれやれ、ほんっとうに対照的な2人だよね。

「マスター、王国の関所とやらが見えて来ました
 何か準備をするのでしたら今のうちに済ませておく方が宜しいかと」

先頭を歩いていたリーゼが王国の関所を見つけたらしく私に報告して来る。
さてさて、ここでは何が起こるやら。

「それじゃ頼んだよマリス、なるべく穏便にお願いね」
「おっけ~い、さてさてどんな楽しい事が待ってるかな~」

ウキウキしながらリーゼを抜かし先頭を歩き始めるマリス。
その姿に頼もしくも不安を少し感じながら、私達は王国領土へ足を踏み入れた。
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