上 下
64 / 208
帝国と王国の交声曲《カンタータ》

日の当たらない場所

しおりを挟む
「依頼人………ですか?」

突如訪ねてきた男の言葉をマリーさんは返す。
依頼人?私は依頼をこなしたことはあっても依頼をした記憶は
無いんだけど………そう思いながら男を見る。
黒いフードを被ってる深めに被ってるから細かな表情は分からない
しかもドアから顔を僅かに覗かせてるだけで店に入って
来ようとする気配もないけど、フードから僅かに漏れる眼光は
明らかに一般の人じゃない。
その道のプロ………どっちかって言うとの類の雰囲気に似てる。
正直言って関わり合いになりたくない人達だったんだけど、あの人からは
殺気は微塵も感じない、という事は誰かがこの人に仕事を頼んでたって事?
けど、この手の人間に関わり合いがありそうなのって………

「はいは~い、その人はマリスのお客だよ~
 驚かしてゴメンね~」

横からマリスが場にそぐわない程のんきな声を出す。
えっ?この人マリスの知り合い?

「マリーお姉ちゃん、見るからに怪しい格好の人だけど
 その人は怪しくないからだいじょぶだよ~」
「………大きなお世話だ」

マリスがマリーさんにかけた言葉が聞こえたのか
男が小さな声で呟く。
………何かホントに知り合いみたいだね。

「なかなか面白そうな知り合いがいるわねマリス
 後で紹介してくれないかしら?」
「あはは、まぁマリスの用事が終わってからね~」

マリーさんの言葉を流しながらマリスは男に近づき、話しかける。

「ここに来たって事はそれなりのものが手に入ったって事?」
「………そうだ」
「りょうか~い、んじゃ明日そっちに行くよ
 3人ほど連れがいるけど構わないよね?」
「駄目だ………と言いたい所だがお前の事だ、どうせ聞きはしないだろう
 追加を貰う事になるが、構わないな?」
「構わないよ~、んじゃ明日ね~」

男はマリスとそう言葉を交わすと、私達を一瞥した後ドアを閉めた。

「………マリス、何今の」

いきなりの展開に呆気に取られていたフィルが思わすマリスに問いかける。
するとマリスは少し意地の悪そうな笑いを浮かべ

「んっふっふ~、まだ秘密
 けど安心して、多分レンお姉ちゃんの為になる事だからさ」

そういってくすくすと笑う。
………私の為になる事?一体なんだろ。
マリスの事だからなんか突拍子もない事だろうけど………

「という訳でみんな、明日朝ごはん食べたら予定空けといてね~
 後デューンお兄ちゃん、先に言っとくけど
 もしかしたらマリス達暫く留守にするかも知んないから」
「は?アンタいきなり何言ってるの?」

マリスのいきなりの発言に思わずフィルが聞き返す。

「まぁ明日次第だけど、旅の準備を進めといたほうがいいよん
 さぁ、楽しくなって来たねぇ~♪」

そう言いながらマリスは残りの料理に手を付けていく。
………あの様子だと多分明日までは答えてくれそうにないかな。

「ちょっとマリス、話を………」
「ストップフィル、多分これ以上聞いてもマリスは答えてくれないよ
 とりあえずはマリスの言う通り旅の準備を始めよう」
「けどレン………」

フィルはそう言いかけるも、ため息を1つ吐いて

「分かったわ、レンがそう決めたならそうする
 けどマリス、ほんっとーにレンの為になる事なんでしょうね!?」
「それも明日のお楽しみだよ、あはははは」
「全く、コイツだけは………」

愉快そうに笑うマリスをジト目で睨みつけるフィル。
けど、いきなりの話だし流石にデューンさんに謝っとかないと。

「………すみませんデューンさん、どうやらそう言う事に
 なるかもしれない見たいです」

私の言葉にデューンさんは少し笑みを浮かべて

「ああ、僕たちの事は気にしないでいいよ
 君たちのお陰で大分金銭的にも余裕は出来たし、少し働きづめだったからね
 ちょっとの間お店を休みにして羽を伸ばすとするよ」

そう言ってくれる、う~ん話の分かる大家さんだ。

「どこで何をするか分からないけど、土産話楽しみにしてるわよ♪」

マリーさんも笑顔のままウィンクをしてそう言ってくれる。
………ほんと、いい人たちだよね。

「取り合えず全ては明日だね
 食事が終わったらマリスの言う通り旅の準備をしようか」
「分かったわ」
「了解です、マスター」

私の言葉にフィルとリーゼが頷く。
さてさて、明日何がある事やら。


………



………………



………………………


次の日、朝食を摂った後マリスに誘われるがままに帝都を歩いていく私達。
商業区と工業区の境目に差し掛かった頃、マリスは1件の家の前で足を止める。

「ほい、とうちゃ~く」
「到着って………何よここ、何の変哲もない家じゃない」

フィルの言葉通り多少年代は行ってるっぽいけど何の変哲もないただの家だ。
看板か何かかかっているのかと見回してみるもそんなものは何処にもない。
何か、マリスが偉く勿体ぶった割には期待外れの様な………

「あははは、まぁその印象は正解かな、けどまぁもう少しマリスに付き合ってよ
 悪いようにはならないからさ」

私達の反応が予想通りなのか、マリスはにっと歯を見せて笑う。

「あ、それと悪いんだけど中に入ったら暫くみんな黙ってて欲しいかな」
「は?何でよ?」
「入って暫くしたら分かるからさ、んじゃ入るよ~」

フィルの問いかけも受け流し、マリスは家のドアを開けて中に入っていく。

「………どうする?レン」
「………仕方ないね、取り敢えずはマリスの言う通りにしよっか」
「はぁ………分かったわ」

私はそう言ってマリスに続いて家に入る。フィルはため息を吐き
店に入ろうとする私の後に付いてくる。その後をリーゼがついて来くる。
さて、この家に何があるのやら………



家の中は薄暗く、微妙に埃のにおいが鼻につく。
どうやら一応商店の様で、何か商品らしきものが陳列されているようだけど
どれもこれも長年陳列されてるようで色あせていて埃が積もってる。
商品自体も良く分からない物だらけ、正直言ってまるっきり商売する気が
ない様にしか思えない状態だ。
………綺麗好きのフィルが微妙に顔をしかめてる、まぁ無理も無いよね。
そんな店内の奥で、先に入ったマリスと誰かが話してる。
この店の主なんだろうか………

「やっほ~、約束通り来たよ~」
「フン…お前か」

店の主っぽい初老の男性はマリスを見るなりそう言い捨てた後
後ろにいる私達を睨みつける。

「………そいつらが言っていたお前の仲間とやらか?」
「そだよ~、構わないよね?」
「フン、好きにしろ」

そう言って店の主は私達から目を離し、店の奥に歩いていく。

「みんな、マリスについて来てね~」

マリスはそう言うと店の主について行く、その後を私達が追うと
店の最奥らしき開けた場所に出る。
乱雑に物が置かれた店内とは違って、やけに整頓されてる場所だ。
けど、何か妙な違和感があるような………

店主はつかつかと奥の壁に向かいおもむろに壁に触れる。
すると突然、がこんっと大きな音が店内に鳴り響き
店の床が振動を始める。

「ちょっ!?なっ!?」
「………静かにしてろ」

思わず声を上げたフィルを睨みつけながら店の主はそう吐き捨てる。
フィルはむっとした表情をするがそれ以上は何も言わない
黙っててくれって言うマリスの指示に従う様だ。
振動と共に金切り音がする。これ、機械的な何かが作動してる音?
すると床の1部がスライドをし始め、そこから階段が姿を見せる。
………隠し階段か、という事はこの先はアンダーグラウンド系の何かが
あるって事かな?

「中でお待ちだ、さっさと行け」

店の主は顎で階段の先を指し、私達に行く様に促す。

「ほ~い、ありがとね~」

マリスは躊躇いも無く階段を下りていく、私とフィルは一瞬顔を見合わせた後
マリスの後について行く。

「マリス、何よここ………と言うか何でアンタこんなとこ知ってんのよ」
「んっふっふ~、まだ内緒だよん。けどまぁすぐに分かると思うよ~」

フィルの問いかけに意味深な笑顔を浮かべ答えるマリス
ホント謎が多い子だね、もうそろそろマリスが何をやっても驚かなくなりそうだ。
そうこうしている内に階段は終わり、目の前に扉が姿を現す。
マリスはそれをノックも無しに開け、部屋の中に入っていく。
………さてさて、何が出て来るやら、私達も続けて扉を潜り部屋に入る。
そこは地下にしては少し広い部屋だった、その部屋の中にガラの悪そうな男が
数人立っている。そしてその中心にぽつんと1つだけある机に
ひと際目つきの悪い男が座っている。

「………フン、時間通りに来やがったか
 相変わらず言動に似合わんことをする奴だ」

男はマリスの姿を姿を見るなりそう吐き捨てた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...