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帝国と王国の交声曲《カンタータ》
日の当たる日常
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カチャカチャと食器同士が鳴り響き、泡立った水の中で泳ぎ続ける。
そんな行程を幾度と繰り返し、食器の汚れを落としていく。
次の日、依頼がないかをギルドに確認しに行ったけど相変わらず依頼は無く
体が空いてしまった私は、デューンさん達との約束を果たすべく
レストランでの仕事をこなしていた。
最初はウェイトレスをしようとしたけれど……よく考えたら私はまだ満足に
文字が読めない事を思い出し、雑用の方をさせて貰える様お願いしてみた。
デューンさんは一瞬驚いた顔をしたものの、直ぐに食器洗いの仕事をくれた。
ちなみに他の3人はそれぞれやりたい事があるらしく
ギルドの前で別れてたりする。
「ふぅ、取り合えず一段落と」
お昼時という事もあって、次から次へと増え始める汚れた食器に
若干引き気味になりながらも何とか食器洗いにケリをつける。
「デューンさん、食器洗い終わりましたよ~
次は何しましょう~?」
私は手が空いたことを厨房の奥で調理をしているデューンさんに声をかける。
「ん?もう終わったのかい?思ったより早いね」
デューンさんは調理の手を止めず、視線すらもこちらに向けないまま
私の言葉に返事をする。
料理の事はあんまりよく分からないけど、デューンさんの動きは
恐ろしい程速く目で追うのがやっとだ。
それなりに席数のあるレストランの調理を一手にこなしているだけあって
その動きは効率化され、無駄な動きが一切ない。
………こんな動きが出来るなんて、やっぱりこの人とんでもないね。
「それじゃそこの野菜を全部千切りお願いできるかな?
形は多少不揃いでいいから、出来れば早くお願いするよ」
そう言って山のように積まれた……キャベツに似た野菜に指を指す。
千切りを早くね……そう言う事なら得意分野だ。
とは言え包丁とは言え刃物だ、武器としてカテゴリされてたら私には持てない。
若干恐る恐るだけど包丁に触れ……持てる事を確認する。
………どうやらこれは武器じゃないらしい、となれば!!
「ふっ!!」
刃先に力を籠め、私はキャベツらしき野菜を両断する。
久しぶりの何かを斬る感触、楽しい訳じゃないけど
何か感慨に近いがこみあげて来る。
………ふぅ、どうやら感覚は鈍っては無かったね。
私は一旦包丁を置き掌を開け閉めして感覚を確認し……集中する。
「………!!」
私は全神経を野菜に集中させ、全力で千切りを敢行する。
形は不揃いでも早くとのオーダーだ、ならそれに応えなきゃだよね。
久しぶりの手応えに少し張り切って、次から次へと野菜を切り刻んでいく。
「調子はどうだい………って!?」
ん?今誰か話しかけた?
邪気のない声を不意にかけられて私の集中が切れる。
「………あれ?デューンさん、どうしたの?」
デューンさんが少し眉をひそめて私を見てる、やばっ…なんかやらかしてたかな?
取り合えず千切りされた野菜を見るも特に変な所はない。
我ながら奇麗に切れたかなとは思う。
けど、もしかしてこの世界じゃこの切り方は奇麗って訳じゃなかったり?
「えーっと、私何かやっちゃいました?」
恐る恐るデューンさんに聞いてみる、イケメンに真面目な顔で
見られるのはちょっと怖い。
デューンさんは私から目線を外すと千切りにされた野菜を手に取り
厨房の明りに透かして見てる。
「………凄いね、この速さでこの薄さだなんて
レン、君はどこかで料理の修行でもしてたのかい?」
デューンさんは唐突にそんな事を聞いて来る。
良かった、何かやらかしてたんじゃなかったんだ。
「いえ、基本的な事が多少出来る程度です。
ただ、少々刃物の扱いには慣れてて………」
私は正直に答える、ここで見栄を張っても仕方ないからね。
「そっか、けどここまで奇麗な千切りが出来るのは大したものだよ
これならある程度の下ごしらえも頼めそうだね」
デューンさんはそう言って微笑む、どうやら合格らしい。
何であれその道のプロに褒められるのは嬉しいものだね。
「それじゃその調子で千切りをお願いね
それが終わったらあっちのキュリットを角切り…って言って分かるかな?」
「はい、分かります」
「助かるよ、じゃあ頼んだよ」
そう言ってデューンさんは自分の作業に戻る。
んじゃ、プロに認められた包丁捌きで頑張りましょうかね。
………
………………
………………………
夜もたけなわ、私達は閉店後の人形達の宴で遅めの夕食を取っていた。
私が今日1日頑張ったお礼にとデューンさんが私達に
まかない料理を出してくれたんだよね。
けどまかないとは言えないほど美味しい、これが食べられるなら
予定のない日はずっとお手伝いをしたいくらいだね。
「へぇ~…良かったじゃないデューン、頼りになりそうな助手が出来て」
食事をしながら今日の様子を聞いてきたマリーさんにデューンさんが
私の働きぶりを話すと、マリーさんは愉快そうに笑いながらそう言った。
「助手って……けど助かったのは事実だよ」
「流石に料理補助は人形じゃ無理だったからね、レンがデューンの
手伝いをしてくれるならウェイトレスしてくれるよりも助かるわね」
そうなんだ、厨房内にも何体か人形がいて皿洗いや食器の整頓はしていたけど
言われてみれば下ごしらえみたいなことはやってなかったね。
「へぇ、レンってそんな事も出来たのね
ふふ、またレンの魅力を1つ知っちゃった」
「あははは、けど話に聞く限りじゃマリスは真似できそうにないねぇ
これは大人しくウェイトレスに専念したほうがいいかも」
「同意です、この植物の切断面を見るに私の斧では
この様な奇麗な切口は不可能かと」
私の事を仲間達がそう褒め称える、いやホント大したことじゃないんだけど。
それとリーゼ、いくら私でも斧でその切口は無理だよ。
「でも、私がお役に立てそうなら幸いです
自分の都合を優先するのは申し訳ないですが、体が空いてる時は
なるべくお手伝いする様にします」
私の言葉にデューンさんは穏やかな笑みを浮かべて
「うん、それでも十分助かるよ
他の子達もなるべくマリーさんを補助して貰えると助かるかな」
「ええ、そう言う約束だものね
予定がない時基本的に手伝うつもりでいるわ」
「マリスも同じかな~
依頼時の他にちょこちょこいなくなると思うけどそれ以外は
基本ウェイトレスさんになってるよ~」
「はい、最初に交わした約束のみならずマリーには色々なお酒を
賞味させて貰いました、この恩は返さねばなりません」
仲間達は口々に手伝いの意思表示をする、それを見たマリーさんは微笑んだまま
「ふふ、なんだか一気に後輩が増えちゃったわね
なら、チーフウェイトレスとしてビシバシ鍛えてあげないとね」
「え~、マリス気が弱いから厳しくされちゃうと泣いちゃうよ~」
「アンタの何処が気が弱いのよ、ドラゴン相手に単身で戦った
図太過ぎる神経の持ち主なのに」
「へぇ~、貴方達ドラゴンと戦った事あるの?信じられないわね………
と言いたいとこだけどこの子がここにいるのが何よりの証拠よね」
「………我が何か?」
みんながみんな、思い思いの事を話しながら食卓を囲んでいる。
………そう言えば、ずっとドタバタしてたから気づかなかったけど
こうやって誰かと楽しく食事するのって久しぶりだね、私………
「ん?どうかしたのレン、食が進んでないけど………」
少し感慨に耽っているとフィルが声をかけて来る。
………ホント、私の事よく見てるよね。
「ううん、何でもないよ
さ、明日もデューンさんのお手伝いだし、しっかり食べるぞー!!」
私は誤魔化すようにわざと元気よく料理を食べ始める。
私の過去なんてこの世界じゃ関係ない、フィル達が
嫌な思いをする必要は無いんだから。
私の様子に少し眉を顰めたフィルだけど何も聞かずに食事を再開する。
………ありがとね、フィル。
賑やかで楽しい食事は続く、だけど何事にも終わりはあるもので………
「ご馳走様っと、デューンさん、食べ終わったお皿は片づけておきますよ」
私の言葉に倣い、仲間達はそれぞれ食べ終わった食器を持ち立ち上がる。
「ああ…お願いできるかな、僕とマリーさんはこれからもうひと仕事あるから
みんなは片づけたら上がって休んでていいよ」
………ん?もうひと仕事?
もう店の営業時間は過ぎてるよね?
「何かお仕事が残ってるんですか?それなら私達も手伝いますけど」
「あ~、その気持ちは有難いんだけどね………」
私の言葉にデューンさんは困ったような声を上げる。
デューンんさんにしては歯切れが悪いね、私達がいたら
都合が悪い事でもあるんだろうか
「デューン、隠したって意味ないわよ
この子達は2階に住んでるだし、いつか絶対に気付くわよ」
マリーさんが諭すようにデューンさんに言葉を投げかける。
隠し事?少し興味はそそられるけど無理に首を突っ込むのは駄目だよね。
「いえ…マリーさん、私達は住まわせて貰ってる立場ですから
私達が邪魔でしたら遠慮なく言ってくれれば………」
私がそう言うと言葉を遮るようにマリーさんは首を振り
「あ~、そう言う事じゃないの
実は今から少しだけ特別なお客が来るんだけど
ちょっと年頃の女の子にはきついお客なのよね」
年頃の女の子にはきつい客?
「ん~?それってもしかして………」
マリスが何か思い当たった様に口を開こうとした時、店のドアが遠慮がちに開き。
「こんばんは………お食事はまだ大丈夫ですか?」
そう言って女性達が顔を覗かせている。
………話の流れ的にこの人達の事?何か派手なアクセサリー
付けてるみたいだけど別に変な風には見えない。
「ああゴメンなさい、準備は出来てるから大丈夫よ
さ、入って入って」
マリーさんが扉の所まで行き、ドアを開けて中に入るように促す。
女性達はおずおずと入ってくるなり私達を見るも直ぐに視線を外し
空いたテーブルに着く。
………身なりは派手だけど何か覇気がない、何か疲れ切ってる印象の人達だね。
「………成程ね、確かにこれはレンお姉ちゃんや
フィルミールお姉ちゃんにはきついね
となるとマリス達はとっとと2階に上がった方がいいかな」
マリスは合点が行ったかの様に呟く。マリス何を知ってるの?
「マリス、君は知ってるのかい?」
「まぁね、とは言っても話で聞くぐらいだったけど」
「そっか、ならレン達への説明は任せてもいいかな?」
「うん、ここで説明なんかしたらあの人達にも悪いしね
んじゃみんな、ここは2人に任せてとっとと2階へごーだよ」
デューンさんと二、三言葉を交わしたマリスは何かを察したのか
私達を2階へと追い立てて行く。
「ちょ、ちょっといきなり何なのよアンタ」
「い~からい~から、2階で説明したげるから今はちゃっちゃと上がって頂戴な」
私達はそのままマリスに追い立てられるように2階に上がって行き
各部屋へ繋がる廊下で立ち止まる。
「………で、いきなり何なのアンタ
別に少し疲れた普通の女性客の様だけど、あの人達が何だって言うのよ」
「うん、まぁ普通と言えば普通かな
ただ…あの人達のしてる仕事が少し特殊でね、特にフィルミールお姉ちゃんは
聞けば絶対怒りそうだったからとっとと上がって貰ったんだよ」
「はぁ?何よそれ………」
フィルは胡散臭げにマリスを見てる、確かにマリスの言い方はっきりしない
言い方だけど、マリスの事だから意味も無くそんな言い方はしないと思う。
あの女の人達の身なりとそれに不釣り合いな疲れ切った様子と言い
もしかして………
「まさか、あの人達って………娼婦なの?」
私は思わずマリスに問いかける。
マリスは少し驚いた顔をするも、直ぐに真面目な顔になり
「………うん、けどあの人達はただの娼婦じゃない
いわゆる奴隷娼婦だよ」
と、想像以上にひどい事実を告げた。
そんな行程を幾度と繰り返し、食器の汚れを落としていく。
次の日、依頼がないかをギルドに確認しに行ったけど相変わらず依頼は無く
体が空いてしまった私は、デューンさん達との約束を果たすべく
レストランでの仕事をこなしていた。
最初はウェイトレスをしようとしたけれど……よく考えたら私はまだ満足に
文字が読めない事を思い出し、雑用の方をさせて貰える様お願いしてみた。
デューンさんは一瞬驚いた顔をしたものの、直ぐに食器洗いの仕事をくれた。
ちなみに他の3人はそれぞれやりたい事があるらしく
ギルドの前で別れてたりする。
「ふぅ、取り合えず一段落と」
お昼時という事もあって、次から次へと増え始める汚れた食器に
若干引き気味になりながらも何とか食器洗いにケリをつける。
「デューンさん、食器洗い終わりましたよ~
次は何しましょう~?」
私は手が空いたことを厨房の奥で調理をしているデューンさんに声をかける。
「ん?もう終わったのかい?思ったより早いね」
デューンさんは調理の手を止めず、視線すらもこちらに向けないまま
私の言葉に返事をする。
料理の事はあんまりよく分からないけど、デューンさんの動きは
恐ろしい程速く目で追うのがやっとだ。
それなりに席数のあるレストランの調理を一手にこなしているだけあって
その動きは効率化され、無駄な動きが一切ない。
………こんな動きが出来るなんて、やっぱりこの人とんでもないね。
「それじゃそこの野菜を全部千切りお願いできるかな?
形は多少不揃いでいいから、出来れば早くお願いするよ」
そう言って山のように積まれた……キャベツに似た野菜に指を指す。
千切りを早くね……そう言う事なら得意分野だ。
とは言え包丁とは言え刃物だ、武器としてカテゴリされてたら私には持てない。
若干恐る恐るだけど包丁に触れ……持てる事を確認する。
………どうやらこれは武器じゃないらしい、となれば!!
「ふっ!!」
刃先に力を籠め、私はキャベツらしき野菜を両断する。
久しぶりの何かを斬る感触、楽しい訳じゃないけど
何か感慨に近いがこみあげて来る。
………ふぅ、どうやら感覚は鈍っては無かったね。
私は一旦包丁を置き掌を開け閉めして感覚を確認し……集中する。
「………!!」
私は全神経を野菜に集中させ、全力で千切りを敢行する。
形は不揃いでも早くとのオーダーだ、ならそれに応えなきゃだよね。
久しぶりの手応えに少し張り切って、次から次へと野菜を切り刻んでいく。
「調子はどうだい………って!?」
ん?今誰か話しかけた?
邪気のない声を不意にかけられて私の集中が切れる。
「………あれ?デューンさん、どうしたの?」
デューンさんが少し眉をひそめて私を見てる、やばっ…なんかやらかしてたかな?
取り合えず千切りされた野菜を見るも特に変な所はない。
我ながら奇麗に切れたかなとは思う。
けど、もしかしてこの世界じゃこの切り方は奇麗って訳じゃなかったり?
「えーっと、私何かやっちゃいました?」
恐る恐るデューンさんに聞いてみる、イケメンに真面目な顔で
見られるのはちょっと怖い。
デューンさんは私から目線を外すと千切りにされた野菜を手に取り
厨房の明りに透かして見てる。
「………凄いね、この速さでこの薄さだなんて
レン、君はどこかで料理の修行でもしてたのかい?」
デューンさんは唐突にそんな事を聞いて来る。
良かった、何かやらかしてたんじゃなかったんだ。
「いえ、基本的な事が多少出来る程度です。
ただ、少々刃物の扱いには慣れてて………」
私は正直に答える、ここで見栄を張っても仕方ないからね。
「そっか、けどここまで奇麗な千切りが出来るのは大したものだよ
これならある程度の下ごしらえも頼めそうだね」
デューンさんはそう言って微笑む、どうやら合格らしい。
何であれその道のプロに褒められるのは嬉しいものだね。
「それじゃその調子で千切りをお願いね
それが終わったらあっちのキュリットを角切り…って言って分かるかな?」
「はい、分かります」
「助かるよ、じゃあ頼んだよ」
そう言ってデューンさんは自分の作業に戻る。
んじゃ、プロに認められた包丁捌きで頑張りましょうかね。
………
………………
………………………
夜もたけなわ、私達は閉店後の人形達の宴で遅めの夕食を取っていた。
私が今日1日頑張ったお礼にとデューンさんが私達に
まかない料理を出してくれたんだよね。
けどまかないとは言えないほど美味しい、これが食べられるなら
予定のない日はずっとお手伝いをしたいくらいだね。
「へぇ~…良かったじゃないデューン、頼りになりそうな助手が出来て」
食事をしながら今日の様子を聞いてきたマリーさんにデューンさんが
私の働きぶりを話すと、マリーさんは愉快そうに笑いながらそう言った。
「助手って……けど助かったのは事実だよ」
「流石に料理補助は人形じゃ無理だったからね、レンがデューンの
手伝いをしてくれるならウェイトレスしてくれるよりも助かるわね」
そうなんだ、厨房内にも何体か人形がいて皿洗いや食器の整頓はしていたけど
言われてみれば下ごしらえみたいなことはやってなかったね。
「へぇ、レンってそんな事も出来たのね
ふふ、またレンの魅力を1つ知っちゃった」
「あははは、けど話に聞く限りじゃマリスは真似できそうにないねぇ
これは大人しくウェイトレスに専念したほうがいいかも」
「同意です、この植物の切断面を見るに私の斧では
この様な奇麗な切口は不可能かと」
私の事を仲間達がそう褒め称える、いやホント大したことじゃないんだけど。
それとリーゼ、いくら私でも斧でその切口は無理だよ。
「でも、私がお役に立てそうなら幸いです
自分の都合を優先するのは申し訳ないですが、体が空いてる時は
なるべくお手伝いする様にします」
私の言葉にデューンさんは穏やかな笑みを浮かべて
「うん、それでも十分助かるよ
他の子達もなるべくマリーさんを補助して貰えると助かるかな」
「ええ、そう言う約束だものね
予定がない時基本的に手伝うつもりでいるわ」
「マリスも同じかな~
依頼時の他にちょこちょこいなくなると思うけどそれ以外は
基本ウェイトレスさんになってるよ~」
「はい、最初に交わした約束のみならずマリーには色々なお酒を
賞味させて貰いました、この恩は返さねばなりません」
仲間達は口々に手伝いの意思表示をする、それを見たマリーさんは微笑んだまま
「ふふ、なんだか一気に後輩が増えちゃったわね
なら、チーフウェイトレスとしてビシバシ鍛えてあげないとね」
「え~、マリス気が弱いから厳しくされちゃうと泣いちゃうよ~」
「アンタの何処が気が弱いのよ、ドラゴン相手に単身で戦った
図太過ぎる神経の持ち主なのに」
「へぇ~、貴方達ドラゴンと戦った事あるの?信じられないわね………
と言いたいとこだけどこの子がここにいるのが何よりの証拠よね」
「………我が何か?」
みんながみんな、思い思いの事を話しながら食卓を囲んでいる。
………そう言えば、ずっとドタバタしてたから気づかなかったけど
こうやって誰かと楽しく食事するのって久しぶりだね、私………
「ん?どうかしたのレン、食が進んでないけど………」
少し感慨に耽っているとフィルが声をかけて来る。
………ホント、私の事よく見てるよね。
「ううん、何でもないよ
さ、明日もデューンさんのお手伝いだし、しっかり食べるぞー!!」
私は誤魔化すようにわざと元気よく料理を食べ始める。
私の過去なんてこの世界じゃ関係ない、フィル達が
嫌な思いをする必要は無いんだから。
私の様子に少し眉を顰めたフィルだけど何も聞かずに食事を再開する。
………ありがとね、フィル。
賑やかで楽しい食事は続く、だけど何事にも終わりはあるもので………
「ご馳走様っと、デューンさん、食べ終わったお皿は片づけておきますよ」
私の言葉に倣い、仲間達はそれぞれ食べ終わった食器を持ち立ち上がる。
「ああ…お願いできるかな、僕とマリーさんはこれからもうひと仕事あるから
みんなは片づけたら上がって休んでていいよ」
………ん?もうひと仕事?
もう店の営業時間は過ぎてるよね?
「何かお仕事が残ってるんですか?それなら私達も手伝いますけど」
「あ~、その気持ちは有難いんだけどね………」
私の言葉にデューンさんは困ったような声を上げる。
デューンんさんにしては歯切れが悪いね、私達がいたら
都合が悪い事でもあるんだろうか
「デューン、隠したって意味ないわよ
この子達は2階に住んでるだし、いつか絶対に気付くわよ」
マリーさんが諭すようにデューンさんに言葉を投げかける。
隠し事?少し興味はそそられるけど無理に首を突っ込むのは駄目だよね。
「いえ…マリーさん、私達は住まわせて貰ってる立場ですから
私達が邪魔でしたら遠慮なく言ってくれれば………」
私がそう言うと言葉を遮るようにマリーさんは首を振り
「あ~、そう言う事じゃないの
実は今から少しだけ特別なお客が来るんだけど
ちょっと年頃の女の子にはきついお客なのよね」
年頃の女の子にはきつい客?
「ん~?それってもしかして………」
マリスが何か思い当たった様に口を開こうとした時、店のドアが遠慮がちに開き。
「こんばんは………お食事はまだ大丈夫ですか?」
そう言って女性達が顔を覗かせている。
………話の流れ的にこの人達の事?何か派手なアクセサリー
付けてるみたいだけど別に変な風には見えない。
「ああゴメンなさい、準備は出来てるから大丈夫よ
さ、入って入って」
マリーさんが扉の所まで行き、ドアを開けて中に入るように促す。
女性達はおずおずと入ってくるなり私達を見るも直ぐに視線を外し
空いたテーブルに着く。
………身なりは派手だけど何か覇気がない、何か疲れ切ってる印象の人達だね。
「………成程ね、確かにこれはレンお姉ちゃんや
フィルミールお姉ちゃんにはきついね
となるとマリス達はとっとと2階に上がった方がいいかな」
マリスは合点が行ったかの様に呟く。マリス何を知ってるの?
「マリス、君は知ってるのかい?」
「まぁね、とは言っても話で聞くぐらいだったけど」
「そっか、ならレン達への説明は任せてもいいかな?」
「うん、ここで説明なんかしたらあの人達にも悪いしね
んじゃみんな、ここは2人に任せてとっとと2階へごーだよ」
デューンさんと二、三言葉を交わしたマリスは何かを察したのか
私達を2階へと追い立てて行く。
「ちょ、ちょっといきなり何なのよアンタ」
「い~からい~から、2階で説明したげるから今はちゃっちゃと上がって頂戴な」
私達はそのままマリスに追い立てられるように2階に上がって行き
各部屋へ繋がる廊下で立ち止まる。
「………で、いきなり何なのアンタ
別に少し疲れた普通の女性客の様だけど、あの人達が何だって言うのよ」
「うん、まぁ普通と言えば普通かな
ただ…あの人達のしてる仕事が少し特殊でね、特にフィルミールお姉ちゃんは
聞けば絶対怒りそうだったからとっとと上がって貰ったんだよ」
「はぁ?何よそれ………」
フィルは胡散臭げにマリスを見てる、確かにマリスの言い方はっきりしない
言い方だけど、マリスの事だから意味も無くそんな言い方はしないと思う。
あの女の人達の身なりとそれに不釣り合いな疲れ切った様子と言い
もしかして………
「まさか、あの人達って………娼婦なの?」
私は思わずマリスに問いかける。
マリスは少し驚いた顔をするも、直ぐに真面目な顔になり
「………うん、けどあの人達はただの娼婦じゃない
いわゆる奴隷娼婦だよ」
と、想像以上にひどい事実を告げた。
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