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冒険者の狂想曲《カプリッチオ》

名を冠するモノ

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「………!?
 コイツ、こんなとこに生息してたの!?」

マリスが異形のポイズンライノを見て言い放つ。

「マリス、あれのこと知ってるの!?」

私はマリスに問いかけながら反射的に構えを取り、相手との間合いを図り始める。

「うん、あいつはポイズンライノの【名在り魔物ネームドモンスター】だよ!!
 ギルドに名付けられた名は【二つ角のツインホーン・破壊槌ラムブック
 ポイズンライノ達のボスって噂されてた奴だよ!!」
「………っ!!
 こんなとこに【名在り魔物ネームドモンスター】ですって!?
 そんな話、ギルドでも聞いてなかったわよ!?」

マリスの言葉にフィルが悲鳴に似た声を上げる。

「【名在り魔物ネームドモンスター】?
 見るからに他の奴とは違うけど、コイツもポイズンライノなの!?」
「分類上はそうだよ
 けど、コイツはギルドが『名前を付ける』ほど強力なモンスターなんだよ
 滅多に人前に姿を現さない奴なんだけど、同族の血の匂いを嗅ぎつけたのか
 それともたまたまこの近くにいただけなのか………何にしろ、ついてないね」

マリスの言葉にいつもの余裕はない、という事は本当に強いモンスターなんだろう
こちらにコイツと戦う理由は無い、となれば逃げるが最善なんだけど………
二つ角のツインホーン・破壊槌ラムブックと呼ばれたポイズンライノは完全にこちらを補足してる
今は様子を見てるだけっぽいけど、恐らくこちらが何かしらのアクションを
起こしたら即座に突っ込んでくるだろう。特に私は完全に目が合ってる
視線を外しただけでも突っ込んで来そうだね。
奴との距離は約20m、けど奴の体格からしてそのぐらいの距離は1秒もかからず
到達するだろうね、同じような体格のサイが時速50キロで走るって言うし
最低でもそのぐらいの速度は見積もった方がいい。
という事はリーゼを変身させて離脱するのもほぼ無理だね、となると………

「やるしかないようだね………幸い今の咆哮でも他のポイズンライノは
 起きてこないし、今のうちに何とか隙を作って離脱を図るべきかな」
「やるって………レン、貴方あれと戦う気なの!?」
「やりたくはないけどそうするしかないんだよ、あいつは完全に私達に
 敵意を向けている、同族を殺されてるから当然なんだろうけど………」

奴との目線を外さないまま話すとにフィルはチラッと奴を見て

「………どうやら、そうするしかないみたいね」

その様子から逃げられない事を悟る、察しがよくて助かるよ。

「さて、どうしようかね
 軽く打ち合わせ出来る余裕があればいいんだけ………ッ!!」

そう言って少し離れているマリスとリーゼに意識を向けた瞬間、猛烈な勢いで
二つ角のツインホーン・破壊槌ラムブックが突っ込んでくる!!

「危ない!!」

私は反射的にフィルを抱き抱え、全力で右方向へ飛ぶ。
その瞬間列車風の様な風にあおられ、私達は結構な速度で吹っ飛ばされ
地面を転がっていく。

「レンお姉ちゃん!!フィルミールお姉ちゃん!!」
「マスター!!」

マリスとリーゼが叫びながらこちらに向かって来る。

「大丈夫、何とか避けれたよ。フィルも無事」

私は地面から顔を上げて無事を伝える。

「流石レンお姉ちゃん、フィルお姉ちゃんを抱えたまま良く回避間に合ったよね
 撥ねられたかと思って本気で焦ったよ」
「………ご無事で何よりです」

いやはや、想定したより突進の速度が遅くて助かった。
後0.1秒でも早かったら確実に撥ねられていただろうね。

「とは言え、安心するのはまだ早いよ
 みんな、直ぐに戦闘態勢を………ってフィル?」

私の腕の中で一向に動かないフィル、まさか着地の時変な処にぶつかったの!?
そう思い腕の中のフィルを覗き込むと………

「ふふふ、やっとレンが抱きしめてくれた
 このままの状態がずっと続けばいいのに………」

非常事態だというのに一気に脱力しそうになる私。
あのねフィル、今そんな事やってる場合じゃないの分かってる?

「あはははは、こんな事態だってのにフィルミールお姉ちゃんはブレないね~
 けど、そのままだとレンお姉ちゃんにべっとり涎がついちゃうけどいいの?」
「ふへぇっ!?」

マリスの言葉にフィルは飛び起き、口元を服の裾で拭う。
まぁ、当然涎なんかついて無かった訳で………

「ま、マリス………あんた!!」
「ほいほ~い、立ったなら戦闘態勢早くね~
 これ終わったらいくらでも脳内リピートしていいから
 今はちょっとシリアス頑張ろうね~」
「むっ…ぐっ………」

マリスに完全に言い負かされ、顔を真っ赤にしながらも表情を引き締めるフィル。
ホント、仲いいよねこの2人。
そんな漫才をやってる間に二つ角のツインホーン・破壊槌ラムブックは向きを変え
再び私達を轢殺しようと突っ込んでくる!!

「………ッ!!」

4人共それぞれの方向へ飛び退く、今度は距離があるから回避は容易だ。
だが、二つ角のツインホーン・破壊槌ラムブックは回避されると
制動をかけ体の向きを無理矢理に変え、三度私達に突撃して来る!!

「不味いねこれは、モンスターと体力勝負なんて人間私達に勝ち目はないよ
 何とかしないといけないけど………」

マリスの言葉に私は周辺を見渡す、周囲に崖か大きな岩があれば
突っ込ませるんだけど生憎と周辺にそんなものは無い。
回避時に側面を攻撃しようにも風圧が強く恐らくまともな打撃は与えられない。
迎え撃つにもあれだけの巨体を正面からどうにかするのはリーゼでも無理だね。
さて、どうする………?

「マスター、ここは私に任せて退避を」

リーゼはそう言いながら戦斧を構えて私達の前に立つ。
………って、正面から迎え撃つつもり?

「リーゼ、貴方アレを正面から止められるの!?」
「どうでしょう、力比べなら他の種族に引けは取らないと自負できますが
 勢いをが付いたあの巨体を力で止めるのは難しいかと」
「ならどうするつもり?」
「………マスターの教えをそのまま実践するのみです。
 !!」

二つ角のツインホーン・破壊槌ラムブックの突撃がリーゼの眼前に迫り、私達は反射的に飛び退く。
だけどリーゼは戦斧を構えたまま左に僅かに飛び、野球選手のバッティングの様に
戦斧を横薙ぎに振り抜く!!


 ギャギャギャギャギャギャギャギャ!!


まるで金属同士が激しく擦れ合うような音が響き、私達は思わず耳を塞ぐ。
数秒後、交差した場所には戦斧を振りぬいた格好のリーゼと、その数m後方に
側面から血を流している二つ角のツインホーン・破壊槌ラムブックがいた。

「すごい………あんな無茶苦茶な迎撃、リーゼじゃないと出来ないわよ」

全くだ、私はリーゼにあんな無茶をする戦い方を教えたつもりは無いよ。
けどリーゼの無茶のお陰で奴は足を止めた、なら再び走り出す前に
畳みかけないと!!

「リーゼ!!動けるなら追撃して!!
 フィル!!マリス!!私も突っ込むから援護お願い!!」

私は2人の返事を待たずに突っ込む、リーゼも大したダメージは無いのか
すぐに追撃に移る。
リーゼがつけてくれた傷、あそこを集中的に攻撃すれば
私でもダメージが与えられる筈。
そう判断し、傷口に向かってあと数歩まで差し掛かった時………

 ぐらっ………

「えっ…な………」

いきなり視界が歪む、猛烈な倦怠感と眩暈に体がよろめき始める。

「マスター!?」

私の異常事態にリーゼが駆け寄って来る、体に力が入らず立っていられなくなり
地面に倒れこもうとする瞬間、後方から叫び声が聞こえる。

「リーゼ!!動けるならレンお姉ちゃんをこっちに運んで!!
 おそらくそれはだよ!!」
「………!!」

マリスの言葉にリーゼは私を抱えようとする。
だけど、それをさせる訳にはいかない。

「リー…ゼ、下がっちゃ…ダメ
 今私達が下がる…と、また…突進が……来る
 今度は………避け…られない」

言葉を放つだけで体がぐらついて来るが、それでも言わないといけない。
突進している一瞬とは言え、さっきまで平気だったのに
今は1歩踏み込んだだけで私が毒に侵されているとなると
おそらくは奴の血液が毒なんだろう。
それが揮発してなのか振りまかれただけなのか分からないけど
その状態で突進なんかされたら毒の範囲が広がってしまう。

「リーゼは…平気………なの?」
「………大丈夫です、戦うのに支障はありません」

流石ドラゴンのリーゼだ、こんな毒でも何ともないらしい。

「なら…悪いけど………1人で前線を…お願い
 毒が何とかなったら…私も向かうから」
「ですが、このままではマスターが!!」
「うん…手間をかけるけど………フィルのとこまで…ぶん投げて」
「………ッ!!」

リーゼは一瞬躊躇するも、それしか方法がないと判断して私を抱え
後方のフィルに向かって私をぶん投げる。

「レン!!」
「任せて!!」

マリスが空中に文字を書く、すると地面に激突する寸前だった私の周りに
風が集まり、まるでクッションの様に受け止める。

「………こんな毒、直ぐに治して見せるわ
 だからもう少し我慢してて、レン」

フィルが詠唱を始める、それを守るかのようにマリスの周りに魔法陣が現れ
周囲に光の壁を作る。

「リーゼ!!レンお姉ちゃんの事は任せて!!
 だから、思いっきり暴れちゃって!!」

「………言われるまでもありません」




二つ角のツインホーン・破壊槌ラムブックはゆっくりと旋回し
その大きな目でリーゼを見据える。
自らの毒にも怯まぬ姿を見たは自らの敵だと認識し
怒りの唸り声を上げる。
それに応えるかの様にリーゼは毒に染まっている空気を吸い込み、刮目する。
に、この程度の毒など効かないと誇示する様に。

「そう言えば貴方も人間達に『名前』を貰っていましたか
 なら…勝負と行きましょうか、どちらの名在りネームドが強いかを!!」
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