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冒険者の狂想曲《カプリッチオ》

「宴」の人々

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「えーっと、すみません。お店の方………ですよね?」

人形達が動き回る店内で、私達に話しかけてきた女性に問いかける。
………と言うか恰好を見れば一目瞭然だよ、何ボケた事言ってるの私。

「ふふふ、この格好で店の人間じゃないと言っても説得力は無いわね
 ええ、私がこの店の人形を取り仕切ってる【マリーガゼッタ=イリナ】よ
 ちょっと呼びにくいと思うから『マリー』って呼んで頂戴」

そう言って従業員さん………マリーさんはくすくすと笑う。
何か上品で瀟洒しょうしゃな人だなぁ、何か大人の女性って感じがする。

「成程、まさかとは思ってたけどお姉さん【人形遣いドールマスター】だね
 こんな近くにこんなレアな魔導士がいるとは私もまだまだだねぇ」

マリスはマリーさんを見ながらにって笑う。
マリスの何時もの笑顔なんだけど………何か印象が違って見えるのは
気のせいかな?

「ふふっ、一応この店の方針で基本私は表に出ないし
 出ても気づかれない様にしてたからね
 今もほら、貴方達以外は私の存在に気付いていないでしょ?」

マリーさんの指摘に私は周囲を見回す。
………ホントだ、店の入り口で堂々と話してるのに誰も見向きもしない。
いつの間にやら周りの喧騒も耳に届かなくなって、マリーさんの声も
はっきりと聞こえるようになっている

「気配遮断の魔法?
 いえ、どちらかと言えば相互認識疎外の結界って所かしら」

フィルが店の様子を見て呟く。
名前とお客の様子からしてお客と私達の認識を互いに外させてるみたいだけど
魔法ってそんなことも出来るのね。

「そちらの子も、神官にしては詳しいわね
 聖教にとってはこの手の魔法は邪道ではなかったかしら?」
「………今の私は、冒険者ですから」

マリーさんの問いにフィルが対人モードを展開して答える。
うーん、マリスの時も思ったけど神官と魔導士ってホントに仲悪いんだね。

「それなら良かったわ、流石に聖教に目を付けられるのは面倒だもの
 流石にゼーレンがそんな人間を寄こしてくるとは思わないけどね」

マリーさんは笑顔を崩さずそう口にする。
何と言うか、ホントに大人の余裕にあふれた人だね。

「それで、確認だけど貴方達がゼーレンの代わりに
 仕事を受けてくれるのかしら?」
「あ、はい。と言うかもう話が行ってるんですね
 ゼーレンさんはこのペンダントを見せろと言ってたんですが………」

そう言いながら私は懐からペンダントを取り出そうとしたんだけど
何故かマリーさんはそれを遮って

「見せるまでも無いわよ、そのペンダントは私がゼーレンに
 報酬としてあげたものなんだから、貴方が持ってるってすぐに分かったわよ」

へぇ~そうなんだ、ってゼーレンさんそんなものを私達に報酬として
渡して来たの!?

「ああ勘違いしないで頂戴、元々気に入った人間にあげて頂戴って言って
 ゼーレンに渡したものだから何も問題は無いのよ
 そもそも、そんなデザインのペンダントがゼーレンに似合うと思う?」

マリーさんがくすくすと笑いながら言う、改めてペンダントを見ると
確かに女性向きのデザインでゼーレンさんには似合わないよね………

「そのペンダントを渡すって事はゼーレンは貴方達の事を相当気に入ってるわね
 尤も、女の子だらけのパーティだからって部分も多大にあるでしょうけど」
「と言うか多分それが理由の大半かと」

マリーさんの言葉をフィルがバッサリと切り捨てる。
ゼーレンさんが女好きなのは認めるけど多分それだけじゃないと思うよ?フィル。

「さて、それじゃ早速依頼の詳しい話をしたいとこだけど
 今お店はこの通り忙しくてね、うちの料理長兼オーナーも手が離せないの
 出来れば落ち着くまで時間を貰えると助かるのだけれど」
「ええ、それは勿論………って
 マリーさんがこのお店のオーナーじゃないの!?」
「ふふふっ、違うわよ。私は只の雇われチーフウェイトレスに過ぎないわ
 この店のオーナーは別にいるわよ。
 あ、彼は魔導士じゃないから安心してね、神官さん」

そう口にしながらフィルに向かってウィンクをするマリーさん。
人形遣いドールマスターなんてマリスが言ってたからてっきりこの店のオーナーかと思ってたよ。
だけど、マリス達の話からするとマリーさんって
結構凄い魔導士の様な気がするんだよね。
そんな人を雇ってるここのオーナーって一体どんな人なんだろう。
彼って言ってるから男の人だと思うけど………

「それじゃ、悪いけど空いてる席に座って待ってて頂戴
 あ、食事がしたかったら人形達に言ってくれれば受け付けるわよ
 割引はしないけどね♪」

そう言ってマリーさんは店の奥へと消えていく。
それと同時に店内の喧騒が再び聞こえ始め、人形達が忙しく駆け回っている。

「何と言うか、凄い人だったね
 大人の余裕って言うか、今の私じゃ逆立ちしても
 あんな余裕は出せそうもないよ」
「魔導士としても相当な使い手だね~
 こんな精巧な人形をこれだけの数制御して尚且つ結界まで維持してるんだもん
 今のマリスだと秒殺されちゃうね、あはははは♪」
「しかし、何でそんな人間がレストランで雇われウェイトレスしてるのかしら?
 お金を稼ぐなら他にいくらでも方法はあるでしょうに」

色々と疑問は尽きないけど、余計な詮索はしない方がいいよね。
待って頂戴と言われたんだから素直に待つとしよう。

「それじゃ、折角だし何か注文しよっか
 えっとメニューはっと………」

私達はテーブルに着き、立てかけてあるメニューに目を通す。

「………ゴメンフィル、まだ読めないから代わりに読んで」
「ふふっ…ええ、喜んで」

1か月も勉強してるのに未だに文字が読めない私って………
まぁもともと勉強は得意な方じゃなかったけど。
そしてフィルさん、文字読んで貰うだけなのにどうして椅子を寄せて
ぴったりくっついてくるんですかね?

注文も決まり、近くの人形を呼ぶフィル。
ちなみにメニューの内容は読んで貰ってもさっぱりだったので
フィルに任せる事にした。
そう言えば某コーヒーチェーン店行った時もメニューの意味が分からなくて
苦労した記憶がある。
どうも私はその手の感性に疎いらしい、ずっとお爺ちゃんと2人暮らしだったから
仕方のない面もあるんだろうけど。

「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」

フィルに呼ばれた人形がテーブルの前までトコトコ歩いて
ぺこりとお辞儀をした後、笑顔を作り流暢な言葉で注文を聞いて来る。
………凄いねこれ、人形って聞いてなかったら全然分からないレベルだよ。

「凄いわね………人形遣いドールマスターってこんな精巧な人形をここまで人間と
 同等な動きで制御できるのね」
「いや、ここまで出来るのは多分マリーお姉ちゃんだけだと思うよ~
 他の魔導士が見たら卒倒するんじゃないかな、あはははは♪」

フィルの感想にマリスが口を挟む。
聞けば聞くほど凄い人っぽいね、ホントに何でウェイトレスしてるんだろ。


………



………………



………………………


その後、注文した料理が運ばれ私達は舌鼓を打った。
相変わらず何の材料か分からないけど美味しい、どちらかと言うと
フレンチっぽい味付けだね、まぁレストランだし当然だろうけど。
ちなみに昼はお酒は提供していなくてリーゼはしょんぼりしていた。
ゴメンリーゼ、帰ったら何かお酒を買ってあげないと。

「如何でした?当店自慢の料理は」

食事も終え、店が落ち着くのを待っていると店の奥から
エプロン姿の若い男性が姿を現し、私達に声をかけて来る。


―――その瞬間、私の背筋に冷たいものが走る。


「っ!!」

思わず反応して振り向く、そこには少し線の細い黒髪の青年が立っていた。

「どうかしましたか?」

青年は驚くような仕草も見せず、たおやかな笑顔を浮かべながら私を見つめる。
その様子は一見穏やかさに満ち溢れ、結構な男前も手伝って
さぞかし女性にモテるだろう………けど

―――間違いなくこの人………強い。

この人に微塵も殺気は感じない、私達は敵対関係にある訳じゃないから当然だ。
それでも私の勘が『戦うな』と警鐘を鳴らす。
という事は、私とこの人では天と地ほどの差があるという事。
いやはやこの世界は凄いね、こんな人がゴロゴロいるんだもの。
今のところこんな実力者と戦う様な事態にはなってないけど、この先
同様の戦闘能力者と対峙する可能性もあると考えたほうがいいかもしれない。
とは言え武器が扱えないんじゃ話にもならなそうだけど………

「あら、この子は鋭いわね
 ゼーレンの見込みは間違っていなかったって事かしらね、デューン」

私が思考を巡らせていると店の奥からマリーさんが
楽しそうに微笑みながら姿を現す。

「………そうだね、女の子ばかりだから少し心配になったけど
 どうやら僕の目が曇っていたようだ、マリーさんの言う通りだったよ」

デューンと呼ばれた青年はマリーさんに苦笑を返す。
そして私達に向きなおし、アルカイックスマイルを浮かべながら

「初めまして、冒険者の皆さん
 僕が当レストラン【人形達の宴】のオーナ兼料理人
 【デューン=オズロフ】です」

と、穏やかな口調で私達に告げた。
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