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冒険者の狂想曲《カプリッチオ》

人形達の宴

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「依頼って………ゼーレン
 もしかしていかがわしい方面の事じゃないでしょうね」

ゼーレンさんの言葉にジト目で返すフィル。
いや、いくらゼーレンさんが女好きだからってそんな事はしないと………
思いたいなぁ。

「いくら嬢ちゃん達が器量良しばかりだからと言ってそんな事は
 勧めはせんよ、むしろ冒険者とやっていけている嬢ちゃん達に
 そんな事させるのは勿体なさすぎるわい」

ゼーレンさんは心外そうに首を振る。

「それに、フィルミール嬢ちゃんには詭弁に聞こえるかもしれんが
 あの手の商売も必要だからあるんじゃよ
 力のない女性が生き抜く為の術として、な」
「………フン」

フィルは不愉快そうに首を背けるが、ゼーレンさんのいう事も一理あるんだよね。
私はたまたま戦闘技能を身に着けていたおかげでこうして冒険者になってるけど
もしそれが無かったらその手の仕事で糧を得る事になってた
可能性が高いんだよね。
………まぁ、こんなちんちくりんな女に需要はあるかどうか怪しいとこだけど。

「大丈夫だよレンお姉ちゃん、十分に需要はあるからさ♪」

マリスが私の肩に手を置きとてもいい笑顔でとんでもない事を言ってくる。
いやそんなの嬉しくないから。つーかマリス私の心読んでない!?

「………話が逸れたの
 嬢ちゃん達に請け負って貰いたい依頼は「食材調達」じゃ
 儂の知り合いが経営しとるレストランに頼まれての、特殊な食材を
 調達してきて欲しいとの事じゃ」

ふぅん、特殊な食材ね。
それって滅多に手に入らない食材みたいなものかな。

「特殊な食材の調達………ね
 どうするのレン、差し当たってお金を稼ぐ必要性はあるけど………」

フィルが私に判断を委ねて来る。
取り合えずやる事もないし、フィルの言う通り住処の為の貯金もしないとだし
ゼーレンさんには義理もあるから受ける理由は十分だけど………

「やってみたいのは山々だけど、その依頼ってゼーレンさんの腕を見込んでだよね
 そうなると依頼の難易度も結構高い気がするんだけど」
「流石に儂も無茶な依頼は回したりせんよ
 恐らくいつも通りの物じゃろうから、嬢ちゃん達でも十分にこなせる筈じゃ
 いつもなら片手間でこなすんじゃが、今から【レフィエルド王国】へ
 向かわねばならなくなったのでな」

ふむむ、そう言う事なら断る理由は無いね。

「分かったよゼーレンさん、その依頼引き受けさせて貰うね
 みんなもそれでいい?」
「ええ、構わないわ」
「マリスも了解だよん」
「マスターのご随意に」

この状況でみんなが断るとは思ってないけど一応聞いてみる。
仲間とは言ってもみんなはあくまで私の我儘に付き合って貰ってるだけだから
みんなの意志の尊重はしないとね。

「引き受けてくれるか、恩に着るぞ嬢ちゃん達
 依頼の詳しい内容は儂が言うよりも本人に直接聞きに行った方がええじゃろ
 儂の代理と言ってこれを見せれば信用してくれるじゃろうて」

そう言ってゼーレンさんは懐からペンダントの様なものを取り出し
私に渡してくる。

「大した価値のあるもんじゃないが儂からの前金と思ってくれんかの
 儂の代理だと証明した後は売り払うなり好きにしてくれて構わんよ」

ゼーレンさんはそう言うが、これ、素人目から見ても随分価値のあるものに
見えるんだけど………

「へぇ~、黒曜石を魔石化したペンダントねぇ。
 ゼーレン爺ちゃんってば偉く珍しい物を持ってるね」
「確かに、マナの含有率が低いから黒曜石は魔石化には適していないんだけど
 これは十分なマナを保有した魔石ね」

フィルとマリスがペンダントをしげしげ見つめて呟く。
何か相当珍しい物みたい、こんなの貰っちゃっていいのかな………

「まぁ確かに珍しいもんじゃが、買取り屋に出してもいいとこ
 1000ルクルの物に過ぎんよ」
「う~ん、確かにそんな感じだね
 レンお姉ちゃん、くれるって言うんだから貰っとくといいよん」

う~ん、宝石っぽかったから若干気後れしたけどそう言う事なら貰っておこう。
あまり遠慮してもゼーレンさんに失礼だしね。

「分かった、それじゃ遠慮なく貰っておくことにするよ
 それで、依頼を出したレストランってどこなのかな」
「ここから西に少し行った所にある【人形達の宴】と言う
 名前のレストランじゃよ。看板はでとるしそこそこの人気店じゃから
 周辺の人間に聞けばすぐ分かると思うぞ」
「あ、そこマリス知ってる
 確かに料理は美味しいし面白いレストランだよね」

おや、マリスが知ってるお店みたいだね。
マリスが「面白い」と言うレストランなら、多分普通の
レストランじゃないんだろうね。

「そうか、なら道案内は不要じゃな
 それでは嬢ちゃん達、悪いが頼んだぞい」

そう言ってゼーレンさんはギルドを後にする。
………ホントに私達の様子を見る為だけにギルドに寄ったっぽいね。
何と言うか、私達の事を気にかけてくれたのは素直に嬉しいね。

「それじゃその【人形達の宴】とやらに行ってみましょうか
 あのスケベ爺の紹介する店だから変な店じゃないといいけど………」
「その点は大丈夫だよ~
 と言うかむしろフィルミールお姉ちゃん好みのお店だと思うよ~」
「は?何よそれ………」
「それは着いてみてからのお楽しみ、それじゃしゅっぱ~つ」

テンションも高く、マリスは先頭を切って歩き出す。
私達は若干疑問に思いながらも、マリスの後をついて行った。


………



………………



………………………


十数分後、マリスに連れられた私達はレストラン【人形達の宴】に到着した。
丁度お昼時だったので店内の喧騒が外にまで聞こえてくる。

「へぇ、繁盛してるのね
 マリスが面白いって言ってた店だから変な店を想像してたけど」

フィルが店の外観を眺めながら呟く。

「変わった店ではあるのは間違いないけどね~
 料理もそうだけどここの売りは『接客』なんだよね」

接客が売り………ね。
店の喧騒からして高級ホテルの丁寧な接客じゃないっぽいし
特徴的な店員さんでもいるのかな?

「しかしタイミングが悪かったね、丁度お昼時で忙しそうだよ
 依頼の話を出来そうな感じじゃないし、一旦出直しした方がいいかな?」
「ん~、ならここで食事してかない?
 料理の味は保証するし、何より入ったらフィルミールお姉ちゃんは
 気に入ると思うよ」
「何よそれ………」

う~ん、確かにお昼頃だしお腹も空いてると言えばそうだけど
リーゼを連れて行くのは少し可哀そうなんだよね………
リーゼはドラゴンだから基本食事はいらない、食べようとすれば
出来なくもないらしいけど味覚が鋭敏じゃないから何食べても
一緒みたいなんだよね。何故かお酒の味は分かるみたいだけど。
私達が食事をしている横でじっと待たせるのもアレだし、かといって
横でお酒のみを飲ませ続けるのもどうかと思うし………

「マスター、私に気を使っていただく必要はありません
 最近はマイーダにお酒と一緒に出される『つまみ』を食べる様に勧められまして
 実際お酒と同時に食してみた所、お酒の味が色々変わって大変楽しめました
 ですので、少し食に関しても興味が出て来たところなのです」

ふむむ、私達では宴会状態のマイーダさんの相手は出来ないから
リーゼに丸投げしてたけどそれなりに楽しんでくれてるようだね。
と言うかマイーダさん、リーゼを完全に酒飲みの道へ引きずり込もうとしてるよね。

「リーゼ、安心していいよ
 ここのチーフウェイトレスさんは結構な大酒飲みだから
 その影響で色んな珍しいお酒も置いてるみたいなんだ」
「ほう………それは」

リーゼの表情に興味の色が見え始める。
訂正、マイーダさんはリーゼを立派な酒飲みにしちゃってるよ。

「まぁリーゼなら昼間から飲んでも酔わないでしょうし
 店側に迷惑をかける事もないでしょ
 正直私もお腹空いてきたし、ここで食事をするのは賛成よ」

ふむ、フィルもそう言ってるしリーゼも楽しめるなら入らない理由は無いかな。

「んじゃ入ろっか
 マリス、ここのおすすめの料理は………」

私はそう言いながら扉を開けた瞬間、目の前の光景に驚愕する。




そこには食事をしながら談笑している客と
所狭しと給仕をしている全く同じ姿の少女達の姿があった。




「えっ………何これ」

フィルも私と同じ感想を抱いたようだ、客の姿は当然まちまちだが
給仕をしている少女達の姿が姿なのだ。
背格好や容姿は勿論、着ている服や靴まで全く同じに統一されている。
正直言って、また別の異世界に来てしまったと思えるほどだ。

「これは………人の形をした別の何か、ですか」

リーゼの呟きにはっとする、確かこの店の名前は【人形達の宴】だ。
という事は………

「んっふっふ~、レンお姉ちゃんは気づいたようだね
 これがここのレストランの売りの1つ
 だったりするんだよね~」

成程ね………確かにこの子達が全て人形なら姿形が統一されてるのも納得できる。
けど、この子達はパッと見人形には見えないほど精巧に作られていて
動きも人形っぽいぎこちなさは無く、人間とほぼ変わらないほど滑らかだ。

「これは………凄いわね
 どうやってこんな事をしてるのか想像も出来ないわ」

フィルが驚いた表情のまま感嘆を呟く。
これ、魔法……だよね、こんな事元の世界でもとてもじゃないけど
出来ない事だよ。





「ふふふ、お褒めの言葉痛み入るわ
 それにしてもゼーレンったら、代わりを寄こすって言ってたけど
 まさかこんな可愛いお嬢さん達だったなんてね」

いきなり右の方で声がし、思わず振り向く。

そこには波の様に広がる金の髪を肩上で切り揃え
人形達と同じ給仕服を着た女性が立っていた。
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