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冒険者の狂想曲《カプリッチオ》

再生する脅威

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「んじゃ、まずは強化魔法いっくよ~
 フィルミールお姉ちゃん、詠唱忘れて無いよね?」
「そこまで記憶力悪くないわよ
 レン、リーゼ、頼むわね!!」

2人が詠唱を始めると周囲から様々な光や紋様が浮かび上がる。
改めて見ると凄いねこれ。

「【強化の刻印】と【リーンフォースメント物質補強】後は
 【防護の結陣】【精霊の加護】も付けちゃえ、大盤振る舞いだよ!!」
「我が内に宿りし根源の理よ、神意に従い定められし職掌宿命を果たし
 彼の者達に神秘なる束縛防護
 【神秘のセイクリッド・防護プロテクション】!!」

フィルとマリスの魔法が発動すると私とリーゼの周りに様々な光が集い
それぞれの形で体に宿っていく。

「これが人間達が使っていた『強化』ですか、悪くはありませんね」
「私も何度もやって貰った訳じゃないけど、自分の力が
 増幅されてるのは分かるよ。リーゼ、行けるよね」
「勿論です。我が力、随意のままに」
「頼もしいね、私が基本かく乱をして足止め役を担うから
 隙が出来たらリーゼは遠慮なく全力攻撃お願い」
「了解です。なれば接敵する寸前に我が牽制をし、敵の動きを阻害します
 マスターはその隙に敵に接近を」
「わかった、それじゃ行くよ!!」

私とリーゼは軽く連携の打ち合わせをし、異形のトロールに突撃する。

「グェオィィアアアアアアアェアアァァ!!」

どんな感覚器を持ってるのか知らないけど、私とリーゼの接近を感知した
異形のトロールは、慟哭にも似た咆哮を上げる。
体中にゾクリと悪寒が走り、私は一瞬だけ怯んでしまう。
これ、何!?
聞いているだけで戦意を喪失しそうな咆哮、激しい生理的嫌悪が私を襲い
体にずんと重みを乗せられた気分になる。
けど足を止める分ける訳にはいかない、そう思い一歩踏み出そうとした時

「ガアアアアアアアアアァァァァ!!」

横にいたリーゼが口を大きく開け、その姿に似つかわしくない
太い声での咆哮を上げる。
その瞬間、私の生理的嫌悪感が嘘のように晴れ、体の重みも消える。

「奴の咆哮は我が打ち消します、マスターは今のうちに接近を!!」

リーゼの言葉に私は1つ頷き、私は異形のトロールに最接近する。
トロールの全身は皮や肉が腐り落ちたように垂れ下がり隙間だらけだ。
その隙間からまるで蛆虫の様に触手が生えてきてる。
正直言って物凄くグロい、これ暫く肉食べるのは無理かも………

「うぇ、これはまたまた凄い絵面の敵だね
 こんなのの傍には居たくないんだけど」

そう愚痴りながら私はトロールの腹部に牽制の一撃を入れる。

 ぐちょり

拳に嫌な感触が広がる、嫌悪感から即座に拳を引くもその瞬間
私の攻撃によって露出した処から触手が延び、私の拳を捕らえようとする。

「うわわっ!!」

慌てて私はその場を飛び退く、私を捕らえられなかった触手はそのまま
体内へと戻っていく。
これは厄介な………今のは牽制程度の攻撃だったから逃れられたけど
打撃を徹す為に打ち込んだら確実に囚われてたね。

「グェオァァェア!!」

気味の悪い咆哮を上げながらトロールが私に左腕を突き出してくる。
私は後方に飛び回避する、それと入れ替わりにリーゼが前進し

「はあああっ!!」

戦斧一閃、ドラゴンの力で振りぬかれたそれは、斬撃の暴風と化して
トロールの体を容赦無く切り裂いていく。

 ズウゥゥン

戦斧の勢いが地面に食い込んで止まり、軽い地響きがする。
斬撃を受けたトロールの体は袈裟けさの部分から反対側の脇腹まで
バッサリ切られ、上部分がそのままずれ落ちる。
想像はしてたけど凄いね、あんなのを受けられる気がしないよ。
普通ならこれで終わりだと思うけど………

「っ!!………リーゼ!!」

私の声に反応したリーゼはすぐにその場から飛び退く、その一瞬後
切り裂かれたトロールの上半身から現れた触手がリーゼいた場所をすくう。
はっとして切り裂かれた下半身の切断面を見ようとするも
既に切断面は無く、上半身は再生されていた。
目標が捕らえられなかった触手は、既に再生が終わった本体に絡みつき
まるで自ら取り込まれるような形で本体に埋没していく。

「斬れることは斬れます、ですが再生速度が異常です
 完全に生物のことわりを無視した化け物の様ですね、マスター」

リーゼはトロールを睨みつけながらもそう告げる。
何と言うかまぁ、どうしたものかれこれは。

「2人共、そこどいて!!」

後方からマリスの叫び声に私とリーゼは即座に左右に飛び退く
その後ろからマリスが放った火球、氷柱、などが飛んでいき
トロ―ルの足元から土の槍が飛び出し、巻き起こる風が切り刻む。

「グォェイアアアァァ!!」

土の槍で動きを封じられたトロールは魔法の波状攻撃をもろに喰らう。
………だけど、マリスの魔法は皮膚の表面を焦がし、切り裂いたのみだった。

「む~、やっぱりトロールには効きが薄い……うわっ!!」

魔法の効果が切れた瞬間、傷口から触手が延びマリスを襲う。
マリスは間一髪避け、ゴロゴロと地面を転がった後立ち上がり

「魔法にも反応して反撃するんだねぇ
 捕まったらあのおっちゃんの様になりそうだし、いやはや厄介だね」

と、不機嫌な顔をしながら口にする。
けど、反撃に移行するまで若干のインターバルがありそうだね、だったら!!

「なら、反撃の隙を与えない様に攻撃し続けるよ!!
 リーゼ、さっきの要領で私があいつの隙を作るから攻撃お願い
 マリス、私の事は気にしないでいいからどんどん魔法打ち込んで!!」

私の提案にマリスはぎょっとした顔をする。

「けどレンお姉ちゃん、それだとレンお姉ちゃんが魔法に巻き込まれるよ!!」

マリスがそう考えるのは当然だ、だけど今の処それしか手がないんだよ。

「大丈夫、魔法が発動する瞬間の気配は覚えたから、体勢が悪くなければ
 避けて見せるよ。それにもし被弾してもフィルが治してくれるから」

私の答えに今度はフィルが驚く。
悪いねフィル。けど、手段を選んでる場合じゃなさそうなんだ。

「………正直レンが傷つくのは見たくないけど、そんな事言ってられないわね
 マリス、レンに魔法ぶち当てたら絶対許さないからね」
「無茶苦茶言うなぁ2人共。けど、その無茶苦茶を押し通すのが
 面白いんだよね!!」

無茶苦茶な私の提案を2人は了承してくれた、後は………

「リーゼ、もしあいつに決定的な隙が出来たら遠慮なくブレスお願い
 私を巻き込むとかそんな事は考えないで、いい?」

リーゼにも同じような指示を出す、リーゼも一瞬顔をしかめるけど
こくりと頷き

「………本音では承服しかねますが、命令とあらば従います」

これで意志は通した、後はどこまでやれるか。

「よし、それじゃいくよ!!」

手早く戦闘の方針を決めた私達は再びトロールに肉薄する。
トロールが咆哮し、両手を振り上げて私を攻撃する。
けど、流石にそんな予備動作バレバレの攻撃に当たってあげるほど
私はお人好しじゃない。むしろ攻撃後に私を捕らえようと各所から生えてくる
触手の方が厄介だ。
四方八方からの触手を躱しながら本体の各部へ打撃を当てていく
正直気持ち悪いし、恐らくダメージも無さそうだけど仕方ない
フェイントやフェイクが通じそうにない以上、牽制とは言え攻撃を当てて行き
こちらの注意と反撃を引き付ける必要がある。

「グィェオア!!」

しつこくまとわりつく私に苛立ったのか、トロールは
両手を振り上げ、私を叩き潰そうと振り下ろしてくる。
難なく後方に飛び躱す私、だがその着地の隙を狙って
触手が私に襲い掛かかり、私の右腕と左足を拘束する!!

「レン!!」

私の名前を叫ぶフィル。けど、これは狙い通りだ。
これであいつは

「マスターを、放せ!!」

私が注意を引いている内に背後に回っていたリーゼが
戦斧を唸らせトロールの体を再び両断する。
けど、それで終わりじゃない。

「んじゃ、派手に行くよ!!
 【業火の刻印】【タービュランス乱気流
 んでもって【フォース・フィールド守護の結陣】!!」

マリスの魔法が発動すると、トロールの周囲から炎の竜巻が現れ
それを囲むように光の壁がトロールを包み込む。

「名付けて、【フレア・サークル業火の滅結界】ってね!!
 リーゼ、魔法の効果が切れたらあと宜しく!!」
「了解しました!!」

炎の竜巻は十数秒程トロールの体を蹂躙した後、消え去っていく。
けど、焼き尽くした筈のトロールは多少焦げた程度で原形を留めていた。

「化け物め、ですが我の炎で焼き尽くされよ!!」

すかさずリーゼが大きく息を吸い込み、開いた口から灼熱のブレスを吐き出す。
トロールは身動きする暇もなく、炎に飲み込まれる。

「お願いだから、これで終わってよ………」

フィルが祈るような感じで呟く、恐らくこれが私達に出来る最大の火力だ。
これで倒しきれなければ………

「………申し訳ありませんマスター、仕留め切れていません
 どうやら人化状態でのブレスは元の姿より数段劣る様です」

ブレスを吐き終えたリーゼが悔しそうな口調で吐き捨てる。
ブレスを受けたトロールは、胸元から上を吹き飛ばされ、残った部分も
所々炭化して崩れ落ちて行く有様だ、だが………

「………ダメだね、流石に触手を伸ばしては来ないみたいだけど
 既に再生を始めて………ん?」

その時、私はトロールの左胸辺りに黒く光るモノを見つける。
まるで黒い宝石の様な………けど明らかに宝石ではないモノ。

「ねぇ、トロールの左胸のところで何か黒く光ってない?」

私の指摘に皆がそこに視線を集める。

「あれ、黒く変色してるけど魔晶石だよ」
「嘘でしょ?魔晶石って基本無色透明で水晶状のマナの結晶体じゃない
 それが何であんなどす黒くなって光を発してるのよ!?」
「知らないよ、マリスあんなの見た事ないよ」

私はリーゼに顔を向けるもリーゼは首を振る、どうやらリーゼも
知らないみたいだ。

「まさかとは思うけどあれがトロールの異形化の原因?
 けど、いくら魔晶石でもそんな大層なことは出来なかった筈だけど」

マリスが真剣な顔で呟く。

「なら、確かめてみるまでだよ!!
 リーゼ、あの魔晶石に攻撃を仕掛けるよ!!」
「了解です、マスター!!」

どちらにしても今のままでは倒せる保証はない、なら少しでも
可能性のある方法を試してみるしかない。
私とリーゼは一握の希望にかけて三度トロールに向かっていった。
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