~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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冒険者の狂想曲《カプリッチオ》

鍛錬と学習

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リーゼの戦斧を手に入れた翌日、私とリーゼはギルド近くの広場で
鍛錬を行っていた。
武器有りでの実戦訓練、勿論リーゼの武器はあの戦斧だ。
ルールはどちらかが体に触れたら勝ち、当然リーゼの戦斧をまともに受けると
私は奇麗な輪切りになる。それを恐れてリーゼは反対したけど
そこは強めに命令して強引にやらせて貰った。
正直、そうしないとリーゼの為にならないからね。

「ふっ!!」 

リーゼが横薙ぎに払った戦斧が、恐ろしい風音を上げながら
私の首に目掛けて迫ってくる。
当たっただけで確実に死ぬ斬撃、正直鍛錬だとしてもすんごく怖い。
けど、そんな恐怖をセンサー代わりにし、私はそれを
体勢を低くして紙一重で躱す。
目の前で見るとホントおっそろしい一撃だね、けどまだまだ甘いよ!!
私は低くした体勢のまま一気にリーゼの懐に潜り込む。

「なっ!?」

予想外だったのかリーゼは驚く、まぁリーゼからしたら一瞬で懐に
入られた様な感じだけど、ドラゴンと言えど視覚に頼っている
以上死角はいくらでもある。
………ちなみに今の駄洒落じゃないからね?

「ほい、これで1本」

リーゼのお腹を軽く小突く、これで通算10勝目だ。

「ま、参りました………龍の時も思いましたが、マスターの回避技術は
 凄まじいです。何か魔法でも使っているのでしょうか?」

リーゼが尊敬の眼差しで私に問いかける。

「魔法なんて私は使えないのリーゼは知ってるでしょ?
 これはただの目くらまし、だまし討ちに近い技術だよ」
「だまし討ち………ですか」
「例えば………」

私は話しながらリーゼの目に合わせた視線を、不意に横にずらす。

「?」

無意識に私と同じ方向に視線を向けるリーゼ、その瞬間に後ろに回り込み

「こういう事だよ~」

隙だらけのリーゼの脇腹をくすぐってみる。

「あはははははは!!ま、マスター!!止めてください
 あははははははは!!」

いわゆる視線フェイントと言う奴だ、有名な日本人ボクサーもやってた
テクニックの1つだね。
まぁ脇腹くすぐりを含めてドラゴンのリーゼに通じるかは疑問だったけど。

「基本は相手の意識を誘導して死角を作り、そこに潜り込むんだよ
 今は視線だけでやったけど、攻撃をするフリをしたり、敢えて隙を作って
 そこに攻撃を誘導させたりとかしたりね
 相手の意識を自分の狙った所に集中させるのがコツかな」
「………成程、という事は我の攻撃は」
「そ、全部じゃないけど半分以上は私が誘導してたよ
 例えば私が不意に立ち止まったりしたら絶対攻撃してたよね、リーゼ
 そんなを躱すのは簡単なんだよ
 リーゼだって『私が正面から攻撃する』って分かってたら簡単に躱せるでしょ」
「………納得です、そして如何に我がマスターが言った通り『戦い方を知らない』
 と言うのを痛感しました………これでは勝てないのも道理ですね」

リーゼは自分の未熟を痛感したのか少し落ち込んだ声色になる。

「ドラゴンがこんな戦い方するかは知らないけど、リーゼが私の誘導に
 引っ掛かるならドラゴン同士の戦いでも有効じゃないかな?」
「そう………ですね、ですがドラゴン同士の戦いにこんなやり取りは無かったです
 大体正面からぶつかり合って力が強い方が勝ちでしたので」
「だったら有効かもね、それとリーゼ、これって逆の事も言えるんだよ」
「逆、ですか?」
「うん、相手がそこにいるって分かってたら事も出来るんだよ」
「………あっ」

一呼吸置いた後リーゼが思い至った様に声を上げる。

「躱される前提の攻撃で相手を誘導し、死角を作り体勢を崩させ本命を入れる
 これは基本だけど、それを意識するだけで命中率はぐんと上がると思うよ
 自在に出来るようになる為には膨大な戦闘経験が必要だけど………
 まぁ、他に足止めが出来る手段があればそれ使ってもいいし方法は色々あるよ
 例えばリーゼは私と違って頑丈だから相手の攻撃を受けて反撃するとかね」

私の講義にリーゼはふんふんと頷き続ける。
自分の教えを真剣に聞いてくれるのは嬉しいものがあるね。
………私を育ててくれたお爺ちゃんもこんな感じだったのかな。 

「取り合えず今日はここまでにしよっか、明日はその辺りを意識した鍛錬かな
 そうそう、時間が空いた時にでもに『自分と相手がどう動くか』を
 イメージしておくと実際に動くときに自分の動きがスムーズになるよ」
「………分かりました、やってみます」
「んじゃギルドに帰ろっか、そろそろいい時間だしね」
「はい、分かりました」

私の提案にリーゼは頷くとギルドへの帰途へ着いた。


………



………………



………………………


「あ、おかえり~」

ギルドに帰ってくるとそこにはいつも通り笑顔のマリスと
何かを書きながらうんうん唸ってるフィルがいた。
マリスはすぐに私達に気付き笑顔で手を振ってくるが
フィルは集中しているらしく私が近寄っても気づく素振りがない。

「ただいま………って2人で何してるの?」

私はそう言いながらフィルが書き込んでいる紙を覗き込む。
えっと、キ………ウマ………。
う~ん、やっぱり読めない。
暇な時は文字の勉強をしてるけど、日本語とは文字の形態や文法が
まるっきり違ってて苦戦中だ。

「祈祷魔法詠唱テスト………と書かれているみたいです、マスター」

リーゼが察してくれたのか代わりに読んでくれる。
祈祷魔法、って確かフィルが使ってた魔法の事だよね。
でもテストって何?

「そのままの意味だよ~、フィルミールお姉ちゃんって
 魔法の勉強全くしたことないらしくってさ
 今までやってたのも全部見様見真似だったんだよ」

あ、そうえばリーゼとの戦いでそんな事言ってた記憶がある。

「リーゼとの戦いの時に必要な魔法が使えないって露呈して
 ひどく気にしてたみたいでさ、だったらマリスが教えてあげようと思って
 今勉強中なんだよ」
「そうなんだ、けど見様見真似であんな魔法が使えるのって凄くない?
 ブレスで右腕持ってかれた時に治療した魔法なんて
 とてもそうは思えなかったけど」

魔法の事は良く分からないけど、あの治療魔法と出会った時に使ってくれた
強化魔法の【イラストリアス輝かしきブレッシング祝福】は別格だ
あれを見様見真似でできるってとんでもない事じゃないかな?

「そだよ~、ぶっちゃけ魔導士から見たら規格外もいいとこだよ
 だから、一先ずフィルミールお姉ちゃんには祈祷魔法の詠唱を
 丸暗記してもらってるんだ。あの規格外っぷりを見たらたぶんそれで
 使える様になると思うよ~」

不思議な縁で今は一緒に行動して貰ってるけど、フィルって
そんなに凄かったんだ。

「………自分の事を棚に上げておいて、人を規格外扱いしないでよ
 私が規格外ならアンタは化け物でしょうに」

会話が聞こえてたのか、フィルが顔を上げてマリスを睨む。

「え~、マリスはただの美少女魔導士のつもりなんだけどな~」
「ただの魔導士があんな『多重魔法制御』なんて出来るわけないでしょ
 確認しただけでも4つ同時に制御しきってたでしょアンタは」

ん?なんかまた聞きなれない言葉が出て来たね。
リーゼに視線を移すとリーゼも首を振る、どうやら珍しい言葉みたいだけど。

「レン、コイツはね、4してるの。
 魔法を少しかじった人間ならコイツの化け物っぷりはすぐに理解できる程のね」

違う系統の魔法?
確かにフィルの使う魔法とマリスの使う魔法って構えとかが違うから
別物だって理解できるんだけど………

「魔法ってね、大きく分けて6つ系統があるの
 力ある文字を刻んで発動させる【刻印魔法】
 魔力線で陣を描いて発動させる【陣紋魔法】
 一定の言霊を唱えて発動させる【詠唱魔法】
 精霊の力を借りて発動させる【精霊魔法】
 宝石や魔晶石を触媒にして発動させる【触媒魔法】
 そして私が使ってる、神に祈祷する事で発動させる【祈祷魔法】
 それぞれ発動の手順も違うし、発動させるのにある程度の集中も必要だし
 当然発動に必要な分の魔力が無ければ出来ないの」

フィルは一息つくとチラッとマリスを睨み

「けどソイツはそれを同時にやって見せてるのよ
 ………言うなれば右手で文を書きながら左手で絵を描いて歌を歌いながら
 頭の中では他人と会話してる様なモノなのよ
 そんな事、普通の人間なら混乱して何1つまともに出来ないわよね」

………確かにそうだ、マルチタスクもびっくりな並行作業だ。
私は単純な人間だから1つの事に集中するのが精いっぱいだ。
そう考えると、そんな事を事も無げにやってるマリスは確かに凄いね。

「器用だねマリス、私単純だからそんな事無理だよ」
「大したことないよ、それを言ったら武器も持たずにドラゴンと対峙して
 生き延びたレンお姉ちゃんのほうが凄いよ。
 マリスだったら速攻潰されておしまいだよ、あははははは♪」
「………確かに、それを考えたらレンが1番凄いわよね」
「我も同意見です、マスター」

ちょっ、この流れで何で私を褒め殺す事になってるの!?
正直照れ臭いから止めて欲しいんだけど!!

「クスクス、何か楽しそうなお話をしてますね」

話を聞いていたのか、アイシャちゃんが笑いながら私達の机にやって来る。

「あ、アイシャちゃん、もしかして今の話………」
「ええ、聞いてましたよ。レンさんが皆さんに
 好かれてるのがよく分かりました」

うぁ~、恥ずかしいなぁもう。
まさかこれを見越して3人が結託してたって事は無いよね?

「もう少し聞いていたかったんですが、少しお邪魔しますね
 実は皆さんに受けて貰いたい依頼がありまして………」

アイシャちゃんはそう話すと1枚の依頼書を私達の前に出す。

「えーっと何々、トロールの殲滅?」

どうやらお仕事らしい、はてさて今回は無事に済んでくれるといいけど。
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