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少女達の輪舞曲《ロンド》

護衛の心得

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次の日、自称普通の魔導士、マリスを加えた私達は
依頼人との待ち合わせ場所の城門に向かった。

「それでフィル、依頼の詳しい内容ってどんな感じなの?」

私は確認の為に依頼書を持っているフィルに尋ねる。

「えっと、依頼人は商人の【ラミカ=ネフィティス】
 主に帝都で商売してるみたいだけど、必要があれば帝国各地に行くみたい。
 今回は商談の為にジダの村まで行くみたいね」
「ジダの村かぁ~、確かあそこは帝国にしては珍しく農耕が盛んだったね。
 となると食料の買い付けって感じかな?」

フィルの答えにマリスが乗っかる、一瞬フィルがむっとした顔をするが
直ぐにいつもの表情に戻す。
流石に昨日の今日で仲良くは出来ないか、一先ず話を広げるために
質問を続けよっか。

「えっと………イヴェンス帝国だっけ、ここって農業は盛んじゃないの?」
「そうね、どちらかと言うと工業と魔導技術が発達した国って話だけど………」
「正確に言うと帝国の領土は海に面してない上に川も少ないから
 肥沃な土地がそんなになくて農業が発展しにくいんだよ。
 その分北を中心に山脈に囲まれてるから鉱物資源は豊富な上にマナが濃い目でね
 だから工業と魔導技術が発展したって訳」

再びフィルの答えにマリスが乗っかるも、思いのほか詳しくて
フィル共々唖然とする。
えっ、この子もしかして思ってたよりずっと頭がいい?

「………偉く詳しいね」
「それなりに旅してきたし、魔導士にとっては知識は栄養のようなモノだから
 このくらいは当然だよ。
 お姉ちゃん達も、聞きたい事があれば遠慮なく聞いていいよ~」
「………私はあんたに聞きたい事なんてないわよ」
「そっかな~、国家間の情勢とか主な街道の繋がりとか冒険者には必要な知識
 なんだけど、フィルミールお姉ちゃんは直ぐに答える事できる?」
「むっ………ぐっ………」

あれま、フィルがやり込められてる。
まぁ神官ってあまり外に出ないイメージだしその手の事は詳しくないのかな。

「レンお姉ちゃんも、分からない事があったらどしどし聞いちゃってね~
 こう見えて微妙に役に立ちそうにない知識は豊富だからさ、あはははは♪」

それってトリビアレベルの事しか知らないって事じゃないの?
確かに知識は豊富っぽいけど、あまり役に立ちそうにないなぁ
………まぁ、この子の冗談って事にしとこう。

「とりあえず今回の依頼はラミカって人をその村まで護衛すればいいのかな」
「そういう事ね、仕方ないとは言え駆け出しの私達に振るって事は
 複雑な依頼ではないと思うけど」
「分かんないよ~、いきなり魔王が襲い掛かってきたりして」
「何でただの商人に魔王が自ら襲い掛かるのよ………」

魔王………また新しい単語だね。
イメージからして人類の敵っぽいけど、まぁ異世界人の私には関係ないかな。
っと、そうこうしてる内に城門に辿り着いたね。さて、依頼人を探さないと
確か馬車に若い女性が1人乗ってるだけだからすぐ分かるって
マイーダさん言ってたけど………

「ん………あれじゃない?レン」

フィルの示した方向に向くとそこには確かに小さめの馬車に
1人だけ乗ってる女性がいる。
念のために周囲を確認すると該当する馬車はあれ1つのみだね
なら、早速接触しよう。

「こんにちは、依頼人のラミカさんですか?」
「はい、冒険者の方ですか?」

驚かせない様穏やかな口調で話しかける。
直ぐに女性は振り向きながら答え、私を少し見つめた後

「わ~、ホントに若い女の子の冒険者だ~
 ダメ元でマイーダさんに頼んでみたけど、こんなに早く対応してくれるなんて
 しかも3人も手配してくれるとは思わなかったよ~」

そう言って物珍しそうに私達を見てくる。
ここまで珍しそうにされるってホントに女性の冒険者っていないんだね。

「おっと、ごめんなさい。
 私が依頼をした【ラミカ=ネフィティス】です
 まさか同年代の女の子が来るとは思わなかったからびっくりしちゃった」

そう言ってラミカさんはにっこりと笑う。
おっと、こっちも自己紹介しないとね。

「私の名前はレン=キミヅカです、冒険者になりたてですが仕事は
 最後までやり切るので宜しくお願いします」
「フィルミール=ルクヴルールです、パートナーのレンと共に
 宜しくお願いします。」
「マリス=ベドゥルナだよ~、宜しくねラミカお姉ちゃん」
「レンさんとフィルミールさんとマリスちゃんね、こちらこそ」

ラミカさんが笑顔のまま手を出してきて、それぞれ握手をする。

「それじゃ早速で悪いけど出発出来るかな?
 日程はまだ余裕あるけど早く到着するに越したことはないからね」
「はい、大丈夫です」
「そっか、それなら出発しよっか
 後、確かに依頼主と請負人の立場だけど同年代の女の子だし
 堅苦しいのは無しで行きたいかな。
 私の事は呼び捨てで構わないし敬語もなしでお願い」

結構気さくな人だね、ラミカさん。
あまりなぁなぁにするのもアレだけど、本人がそう望んでるならそうしよっか。

「了解、私の事もレンって呼んでくれるかな、ラミカ」
「依頼主がそう言うなら、私も呼び捨てで構わないわ」
「私はちゃん付け希望かな~、何か新鮮な感じだし」
「あはははは、ありがと。んじゃ、出発するよ~」

ラミカが馬に鞭を入れ馬車を動かし始める。
さて、出来れば道中が平穏でありますように。



………



………………



………………………



「キシャアアアァァ!!」

厳つい大猿のモンスターが涎を振りまきながら私に向けて
左前足を振り下ろしてくる。
振りは早いけど予備動作が大きく簡単に躱し、空振りしたせいで
下がってしまった顔面に向かって肘打ちを打ち込む!!

 がすっ!!

いい手応えが返ってくる、だけどあまり効果は無く大猿は
右前足をそのまま振り下ろす。
それも難なく躱す、う~んやっぱり体重差が大きいなぁ。
やはり魔物相手だと徒手空拳は相性が悪い、武器が使えたらいいんだけど
相変わらず何故か持てないし、仕方ないので仲間に頼るしかないか。

「レンお姉ちゃ~ん、魔法ぶっ放すから上手く避けてね~」

マリスがそう言った瞬間、私の背後から異様な気配が膨れ上がる。
私は反射的に左へ飛び退き、対面の大猿から離れる。

「んじゃ、どっか~ん」

マリスの気の抜けた声と同時に、両手と背後から無数の火の玉が
大猿に向かって飛んでいく。
それを見た大猿はとっさに横跳びで躱そうとするも………

「ほい、アースクロウ大地の爪

マリスが足踏みをした瞬間、大猿の立っている地面に幾何学模様が現れる
と同時に爪のように尖った土が大猿の足元から生えてきて足に突き刺さり
動きを封じる。

「ガアアアアアアアアアアァァァ!!」

回避を邪魔された大猿はマリスの火炎弾の直撃を受け
真っ黒になって倒れる。
ふぇ~、凄いもんだね魔法って。

「へぇ~、みんな女の子なのにやるものだねぇ」

後方に退避してたラミカが感心したように呟く。

「んっふっふ~、いや~それ程でもあるよん」

マリスがこれ以上ないドヤ顔で返事をする。
けど、確かに言うだけの事はあるね。

「レン、大丈夫?」

フィルが駆け寄って来ると私の全身をくまなくチェックして
怪我がないかを確認する。

「かすり傷だけね、良かった」

そう言ってフィルは私の傷を治していく。
ちょっと大げさかもしれないけど、直ぐに治せるなら治した方がいい。
そう思って私は黙ってフィルの治療を受ける。

「フィルミールの治療魔法も結構な物だし、何よりレンの動きは凄いね
 あんな魔物の攻撃をひょいひょい躱しながら直接手や足で叩いてるなんて」
「あははは、何故か武器防具が持てないから仕方なくだけどね」
勿体もったい無いなぁ。そうじゃなかったら私が良い武器を仕入れてくるのに」
「うん、必要になったらお願いするね」
「あ~、レン達がもうちょっと早く冒険者になってくれたら
 あんな嫌な思いしなくて済んだのに」

そう言えばラミカって前の依頼の時男冒険者に嫌な思いをさせられたんだっけ。
まぁ、ラミカも結構な美少女だし、しつこくナンパでもされたんだろうね。

「よっと、ほい魔晶石げっと
 ラミカお姉ちゃん、これいくらで買い取ってくれる?」

私とラミカが話してる横でマリスが手際よく魔物から
魔晶石を抜いてラミカに見せる。

「ん~、ちょっと大きいけどあまり純度はないね
 いいとこ100ルクルってとこかな」
「そっか、んじゃ報酬に追加って事でお願い~」
「は~い、しかしマリスちゃん手慣れてるね」
「ま、それなりに旅してきたからね~」

正直、マリスに同行して貰ったのは正解だった。
魔法で私の火力不足も補ってくれるし、ナイフの持てない私やフィルに代わって
率先して魔物の後処理もこなしてくれる。
個人的にはこのままパーティに入って欲しいけどフィルがいい顔しないかなぁ。

「レン達のお陰で今日中にはジダに着けそうだよ
 予定よりずっと早く着きそうだし、これは報酬を上乗せしないといけないね」
「そうなの?だったらいつもはどれくらいの日数がかかるのよ」
「う~ん、商隊の規模や魔物との遭遇度合いにもよるけど大体3~4日かな
 それを僅か1日半で来れたから旅費がだいぶ節約できたよ」

フィルの質問にラミカが嬉しそうに答える。
確かに通常の半分の時間で到着出来たなら商人としては嬉しいだろうね。

「っと、そんな事言ってたらそろそろ村が見えて来たよ
 いや~、こんな楽な道のりは初めてだったよ。同性で気兼ねをしなくていいって
 言うのはやっぱり大きいね」
「あははは、そう言って貰えると依頼を受けた甲斐があったよ」

確かに男性との旅となると色々面倒な事も多いだろうし、それを気にしながら
旅をするというのも結構なストレスだろうね。

「うん、決めた。
 レン達さ、村での滞在費や追加の依頼料も払うから帰りもお願いできるかな?」
「ん?それってマリス達にラミカお姉ちゃんの仕事が終わって帝都に帰るまで
 依頼を延長したいって事かな?」
「そう言う事、どうかな?」

う~ん、別に帝都まで急いで帰る用事もないし、村での滞在費も負担してくれる
って言うなら断る理由はないかな。

「私は構わないよ、むしろ好都合だし」
「レンが構わないなら私も異議は無いわ」
「マリスもだいじょぶだよ~」
「ありがと、それじゃ帝都に帰るまでお願いね」

そんな話をしながら、私達は村へと入っていくのだった。
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