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少女達の輪舞曲《ロンド》

帝都グランゼル

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あれからさらに3日、私達は特に大きなトラブルもなく帝都とやらへ着いた。
目の前には10mくらいの高さの城壁がそびえ立ち、城壁に付けられた門の前には
兵士が数人と、帝都に入る為の手続き待ちの列がずらりと並んでいる。
私達はその列の最後尾に並び、順番を待つ。

「へぇ~、結構立派な城壁だね
 まぁ、魔物が跋扈する世界だからこのぐらいは無いといけないだろうけど」
「どちらかと言うと魔物の防衛より人との戦争の為じゃがな」

私の感想にゼーレンさんが苦笑しながら答える。

「この世界でも人同士の戦争はあるんだ………」
「その様子だと嬢ちゃんの世界もあるようじゃな。まぁ人が集まれば
 諍いが起こるのはどの世界も同じという事じゃな」
「そうだね、尤も私の住んでた国では戦争なんてもう
 70年以上起こってないけどね」
「ははは、それは結構な事じゃて」
「成程ね、そんな平和な国に住んでいたから今まで会った異世界人は
 戦いになると怯えたり混乱するしたりしてた訳なのね
 けど、それならレンは何故戦闘慣れしてるの?」

私とゼーレンさんの会話に、フィルが疑問をぶつけてくる。

「私は色々あってそんな風に育てられただけだよ
 異世界人でも珍しい存在だと思っといて」
「ふぅん、そっか」

私の言葉に何かを察したのか、フィルはそれ以上何も聞いてこない。
―――育てられた事自体は大した話じゃないけど、それに至った経緯は
あまり人に話したくは無いんだよね、気分のいい話じゃないし。
そうこうしているうちに瞬番がくる、門番らしき兵士は私達を一瞥し

「通行税1人300ルクルの支払いと身分証の提示をしてくれ」

と、事務的に言い放つ。
通行税と身分証提示か………税の金額自体は大した事は無なさげで少し
ホッとしたけど、身分証なんて持ってないんだけどな。

私が少し困った表情をするとゼーレンさんが1歩前に出て
身分証らしきカードを提示し

「この嬢ちゃん達は儂の連れじゃ、故あって1人は身分証を持ってはおらんが
 済まんが今回だけ通してくれんかの」
「身分証を持ってない者を通すわけにはいかん、紛失したのならば手続きをして
 発行するまで外で待つのが決まりだ」

まぁそうだよね、そんな簡単に顔パスなんかされちゃ治安維持も出来ないだろうし
なにより敵国のスパイも入る混む可能性だってある。
思ってたより規律はしっかりしてる国そうだね、拠点の候補としては合格かな。
しかし異世界人の私に身分証なんて発行してくれるのかな?

「無理を言うとるのは分かるがの、今回だけは見逃してくれんか?」

あら?意外にもゼーレンさんが食い下がってる。
とは言えあの兵士も頑固そうだし、あまり食い下がったら捕まりそうな気も
するんだけど………

「規則は規則だ、身分証が無ければ例え貴族でも入れない様に命ぜられている
 あまりしつこいと連れ共々捕まる事に………!?」

兵士は眉をひそめて強めに言い返しながらゼーレンさんの身分証を見る。
その瞬間表情が変わり、みるみる顔色が青ざめていく。

「なっ………し、神弓のゼーレン………だって!?」

兵士はゼーレンさんの顔を見て気の毒なほど震え始める。
ん?なんかまた新しい単語が出て来た様な………

「お主の言い分は尤もじゃ、じゃが申し訳ないがこの嬢ちゃんは少し訳有りでの
 出来れば今回だけは身分証なしで通してやりたいんじゃ
 勿論この嬢ちゃんが騒動を起こしたら儂が責任を取る、それで
 勘弁願えんじゃろうか?」

狼狽している兵士にゼーレンさんが畳みかけるように話す。
すると兵士はビッと真っ直ぐに立ち、深々とお辞儀をする。

「し、失礼致しました!!
 皇帝陛下からお話は伺っております、どうぞ連れの方と共にお通り下さい!!」
「無理を言うてすまんの、それじゃ嬢ちゃん達、行こうかの」

えっ、な、何?
いきなりの展開に驚く私。
ちらとフィルを横目で見るとフィルも呆然としてる。
貴族も通さないって言ってた兵士があっさり通してくれる様になるなんて
ゼーレンさんって結構偉い人?

「この国の皇帝に少しばかり貸しがあってな
 ちょっとした融通は効かせて貰えるんじゃ」

呆然としている私達にゼーレンさんはにやりと笑って言い放つ。

「神弓のゼーレン、まさかとは思ってたけど本人だったなんてね」

フィルが真剣な表情で言う。
どうやらやっぱり結構な有名人らしい。

「フィル、ゼーレンさんってそんなに有名なの?」
「ええ、この世界で5本の指に入るほどの凄腕冒険者で
 たった1射で戦争を止めたとか、過去に魔人を討伐したとか
 果ては条件次第では【グレナディーア】とも互角に渡り合うって噂の人よ」
「あくまで昔の話じゃよ、今はただのジジイな冒険者に過ぎんよ」

フィルの言葉にゼーレンさんは笑いながら答える。
けど、昔の話って言って否定はしなかったからおそらく事実なんだろうね。
やっぱり、最初に会った時に感じた気配は間違いじゃなかった。
あれは間違いなく――

「まぁ、儂の昔話など嬢ちゃん達に比べれば些細な事じゃ
 それよりも………」

ゼーレンさんはこちらに振り返って私を見る。

「レン嬢ちゃんは初めて来たからちょいと説明しとくぞ
 ここが【イヴェンス帝国】の首都【グランゼル】じゃ
 見ての通り城塞都市で、主に工業と魔法技術が発達した国じゃな」

帝国か………そう言えばさっき皇帝がどうとか言ってたよね。
帝国って言われると私の世界では軍事国家の印象が強いけどどうなんだろ。

「今儂らがいる場所は商業区、冒険者ギルドもここにある。
 後は大まかに工業区、魔導区、貴人区、行政区と5つの区がある」

ふむふむ、商業によって区画整理されてる訳ね。
この辺りは異世界に行っても同じような物みたいだね。

「冒険者が主に行くのは商業区と工業区、偶に魔導区ぐらいじゃな
 残り2つは依頼でもない限り行くことは余りないじゃろ。
 特に貴人区の方は下手にうろつくと面倒な事になる可能性が高い
 ましてや嬢ちゃん達ならなおさらじゃの」

あ~、この世界の貴族もやっぱりそういう感じなんだ。
私は映画やアニメでしか見た事ないけど、近づかない方が無難だね。

「国の情勢や細かな事は登録を終わらせてから徐々に覚えていけばいいじゃろ
 それではギルドに行こうかの」

説明を終え、ゼーレンさんは踵を返し歩いていく。
はてさて、これから何が起こるのやら。


………



………………



………………………



冒険者ギルドに着くと、そこには結構な人数の冒険者らしき男達いた。
誰も彼も武器を所持し、談笑なり掲示板らしきものを見ていたりする。
ゼーレンさんの言う通り男だらけだなぁ、女性の姿はちょっと確認できないね。
気にせず中に入ると冒険者たちが一斉にこちらを向き、ひそひそと話始める。

「おい、あのジジイ神弓のゼーレンじゃねーか?」
「何?という事はあの依頼を終わらせて来たってのか!?マジかよ………」
「と言うかあの後ろの女2人は何なんだよ」
「待て、片方は聖教の神官じゃねーのか?」
「もう片方は何だ?レベル0?《SystemError》って何だ?」
「クソ、若い女2人侍らせていいご身分だぜ………」

何と言うか、嫉妬やら値踏みやらの視線であまりいい気はしないね。
ちらっとフィルの方を見ると無表情の様だけど眉間に皺が寄ってる。
うーん、私はある程度慣れてるけどフィルはそうでもないみたい
さっさと登録を終わらせて退散したほうが無難かな。

「ん?珍しくアイシャ嬢ちゃんはおらんのかい」

ゼーレンさんは受付カウンターらしき場所に着くと同時に
係員の男性に問いかける。
嬢ちゃんって事はここの受付担当は普段は女性なのかな?

「ゼーレンさん?もう依頼を終わらせたのですか?」
「終わらせたのは儂じゃないがな、ほれ討伐証」

驚く係員にゼーレンさんは名刺大の紙を渡す。
あれって確か熊を倒した時に私達が貰ったものだったよね。
冒険者じゃないと意味が無いって言われてゼーレンさんに預けてたけど。

「………確かに、しかしこれは事実ですか?」
「討伐証が偽造出来んのはお主等が1番良く知っておるじゃろ
 だからこそこの2人を連れて来たんじゃ」
「………分かりました、ギルドマスターに報告しますので少々をお待ちください」
「マイーダには儂も話があるから一緒に行かせて貰ってもいいかの?」
「ええ、ゼーレンさんなら構わないかと」
「済まんが嬢ちゃん達、少しの間待っててくれんか?」

ゼーレンさんはギルドマスターに話があるようだ。
特に断る理由も無いので私達は頷く。
フィルは眉間に皺を寄せっぱなしだけど………

「男臭いところで済まんの、アイシャ嬢ちゃんがいたら
 嬢ちゃん達の話し相手になって貰ったんじゃが………」
「アイシャさんは昨日の片づけで遅れてるみたいですね」
「またか………マイーダのアレにはアイシャ嬢ちゃんも苦労させられるな」
「ははは………」

そう言いながらゼーレンさんと係員はカウンターの奥へと消えていく。
それを見届けた私達は近くのテーブル席に座る。

「思ってた以上に男臭いわね、ここ」
「ははは、まぁこの手の所はこんなものだよ」

荒事を生業とする職業は男の比率が多く、雰囲気も似たようなものだ。
私のは気のいいおじさんが大半だったけど、ここは
不躾な視線が多いかな。
まぁ、男所帯に女が入ってくることを良しとしない人は一定数いたけど………

「早々にお金を貯めて2人きりの住処を見つけないとね、レン♪」
「いや2人だときついってこの間言ったでしょ、まずは一時的にでも
 パーティメンバーを増やさないと」

いやはやレンはブレないね、私の何処に魅力を感じているのやら。
私を苦笑しつつも言葉を返す、すると………

「ほ~う、こんなヒョロい女が冒険者ねぇ~」

いきなり声を掛けられ私達は反射的にそちらに向く。
そこには下卑た笑いを浮かべた冒険者の男が数人立っていた。
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