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少女達の輪舞曲《ロンド》
老冒険者ゼーレン
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「あ~~~、すっっっっごく疲れた」
「ふふふ、お疲れさまでした」
私は部屋に入るなり、備え付けてあるベッドに倒れこむ。
ちょっとはしたないけど、流石にこの疲労感は耐え難い。
私のそんな姿をフィルミールさんはニコニコと眺めている。
私達は熊を売った後、日も暮れ始めたので宿を探した。
何か冒険者が多く来ているらしく、何件か回る羽目になったけど
何とか1部屋空いていた宿に辿り着き、一息つくことが出来た。
―――相部屋になるって聞かれた時のフィルミールさんの顔が
物凄く嬉しそうだったのはちょっと引いたけど………
ちなみにお金の方は結局半分しか受け取ってくれなかった。
「それで、改まって聞きたいことは何でしょうか?」
フィルミールさんは部屋のベッドに腰掛け、相変わらずの笑顔で
私に質問を促してくる。
この世界の地理や情勢、店主のお爺ちゃんが言ってた冒険者の事とか
確かに聞きたいことはまだまだ山ほどあるけど、流石に疲れた。
なのでたちまち気になっていた事を聞いて今日は終わりにしよう。
と言うか、これを確認しない事にはいくら疲れてても
眠れる気がしない………
「えーっとさ、フィルミールさんって私の性別を誤解してる訳じゃないよね?」
「………はい?それはどういった意味でしょうか?」
うん、我ながら突拍子もない質問だとは思う。けど「伴侶になりたい」と
言われたし、もし誤解だったら早い内にはっきりさせないとだしね。
「んっと、フィルミールさんさっき私の「伴侶になりたい」って言ったよね」
「ええ、今この瞬間も思ってますよ♪」
「そ、そっか、なら聞くけど、もしかして私の事を男だと
思ってたりは………」
「はい?」
フィルミールさんは心底不思議そうな顔をして首をかしげる。
あ、あれ?なんか予想外な反応なんだけど………
「いや、私鍛えてたから結構筋肉質だし、それに胸もあまりないし………」
そう言いながら私は自分で心をザクザクと抉ってる感覚を覚える。
ううう、胸が無いのはコンプレックスなんだよちくしょー。
「レン様は大変魅力的な女性ですよ、確かに普通の女性と比べて
すらっとはしてますが、逆に体が引き締まっていて大変美しいです♪」
フィルミールさんはそれはもう屈託のない表情で答えてくれる。
あー、うん、ここまではっきりと言われたら私の事男だなんて思ってないね。
でもそれはそれで次の問題が出てきたような―――
そしてそっちの方が厄介のような!?
「あー、うん、それは有難う。だったらもう1つ聞くけど
フィルミールさんって男より女のほうが好きだったり………」
「しませんよ♪」
ニコニコ顔のままフィルミールさんは即答する。
「レン様、私は男が苦手だったり嫌悪感を持ってたりはしませんし
女に特別な感情を抱いたりは今までしてませんよ」
「だ、だったら何故………」
「当然じゃありませんか、レン様に一目惚れしたからに決まっています!!」
ニコニコ顔から一転、自信に満ち溢れたこれ以上ないドヤ顔をして
フィルミールさんは言い放つ。
心なしか「ふんす!」と言う鼻息も聞こえそうだ。
それなのに神秘的な雰囲気が薄れないのは凄いと思う。
「そ、そっか………それなら仕方ないね」
「ええ、ご理解いただけて光栄です♪」
私はあまりの雰囲気に押されて思わずそう答えてしまう。
ま、まぁ、一番の懸念材料が解消したので良かったのかな?
何か疲労感が一気に増した気もするけど。
「ふふふ、こうしてレン様とお話し出来て胸が高鳴りっぱなしです
他にご質問はありますか?何でも答えますよ♪」
「あー、ゴメン。その気持ちは有難いんだけど流石に今日は疲れちゃったかな
出来ればさっさとお風呂に入って寝たいかも」
「お風呂………ですか」
フィルミールさんが思案の表情を浮かべる、思わず言っちゃったけど
この世界ってお風呂の習慣ないのかな?
でも、町の人達はそこまで不衛生な感じはしなかったからどうなんだろ?
そんな考えに耽ってると突然フィルミールさんがずいっと顔を近づけ私の腕を取り
「分かりました、そこまでお疲れでしたら私にお任せください
レン様の疲れをお風呂で徹底的に癒して差し上げます♪」
「えっ?ちょっ!?」
そのまま私を引きずってお風呂場に向かおうとする。
流石に私は恥ずかしくなって首を振り
「い、いいって!!流石にそこまでして貰わなくても」
「女同士ですし恥ずかしがる必要などありませんよ
さぁさぁ、行きましょう♪」
「ちょっ、そういう事じゃなくてえええぇぇぇぇぇ」
その細腕のどこにそんな力があったのか、フィルミールさんは鼻歌を歌いながら
抵抗する私を引きずりお風呂場へ向かっていった。
――――ちなみに、フィルミールさんの癒し効果はとんでもなかったのか
私が意識を取り戻したのは宿屋のベッドの上だった。
朝起きたらフィルミールさんの顔が妙につやつやしてたのは
気のせいだったと思いたいなぁ。
………
………………
………………………
次の日の朝、私達は宿の食堂で朝食を摂っていた。
材料は相変わらずよく解らないけど結構美味しい。
材料を気にしないで何でも食べられるようになったのは
お爺ちゃんに好き嫌いを徹底矯正されたおかげだと思うけど。
「………」
フィルミールさんは私の横で食事に手を付けずにずっとジト目で
目の前を睨んでる。
神秘的な印象の人だけどこんな表情もするんだね、まぁ人間だから当然だけど。
そんなフィルミールさんの視線の先にいるのは――――
「どうした神官の嬢ちゃん、食が進んでない様じゃが体調でも悪いのか?」
昨日熊を売った時にいた、確か…ゼーレンって呼ばれてたお爺ちゃんだった。
「………何で貴方がここにいるんですか?」
初めて聞くフィルミールさんの不満そうな声、奇麗な人が奇麗な声で
こんな言い方すると迫力あるなぁ。
そんな雰囲気でも弓のお爺ちゃん、確か「ゼーレン」って呼ばれてたっけ。
ゼーレンさんはにこやかに私達と同じテーブルで食事を摂りながら
「嬢ちゃん達と一緒に食事したかったからに決まっておろう
いやはや、同じ宿だったのは幸運じゃったわい、ははは」
………フィルミールさんもそうだったけどこの人も距離感の近い人だねぇ。
この世界の人達ってみんなそうなのかな?
「昨日店で顔を合わせただけなのに随分と気安いわね」
どうやらそうでもないみたい、フィルミールさんは敬語も取れて
完全に警戒状態だ。
私はと言うとこのお爺ちゃんにそこまで警戒心はなかったりする。
敵意も殺気も感じないし、うちのお爺ちゃんにちょっと似てるからかな。
「奇麗な女性とお近づきになりたいと思うのは男として当然じゃろう?
それが2人もとなればそれを見逃す手はあるまいて」
………訂正、うちのお爺ちゃんはこんなに軟派じゃなかった。
愛情をもって育ててくれたのは確かに感じてたけど、相当厳しかったよ。
それでもまぁ、警戒心を抱くほどではないかなぁ。
「女漁りね、生憎私は心に決めた方がいるから
貴方にこれっぽっちも興味はないわよ」
「この年でそんな事しても仕方ないじゃろ
儂はただ奇麗な嬢ちゃん達と一緒に食事をしたいだけじゃよ」
フィルミールさんも取り付く島がないけどこのお爺ちゃんも強者だね。
しかしながら敬語なしでつっけんどんな態度なのに神秘的は雰囲気が
ちっとも薄れないフィルミールさんは凄いね、どうやらこっちが素の様だけど。
とりあえず、このままの雰囲気でご飯は食べたくないしちょっと仲裁しようかな。
「まぁまぁフィルミールさん落ち着いて、そんなに警戒してたら失礼だよ」
「ですがレン様………」
「このお爺ちゃんに敵意は感じられないから大丈夫だよ、それに………」
私はお爺ちゃんに向き、言葉を続ける。
「この人、私達よりずっと強いから。その気になったら
私達なんてあっという間に殺されてると思うよ」
「えっ!?」
私の言葉にフィルミールさんは絶句し、お爺ちゃんは笑顔のまま
すっと目を細める。
「ほう?レベルを隠してるジジイに何故そう思うんじゃ?」
お爺ちゃんはまるで私を射抜くような視線を送りながら問いかける。
顔は笑顔のままだけど目は完全に笑ってない、むしろ威圧感バリバリだ。
うん、こんな目をするってことは完全にあっち系の人だね。
普通の人だったらこんな目で見られたら竦み上がって動けなくなる程の凄味だ。
事実、視線に晒されていない筈のフィルミールさんでさえ
少し怯んだ表情を見せている。
けど、生憎と私は慣れちゃってるんだよね。
「歩いた時の体幹とか立った時の足の配置や腕の動きとか色々あるけど
何より気配だね、流石にそんな気配を出せる人に今の私じゃ勝ち目はないよ」
私は臆せずただ単に事実だけを述べる、ここで強がったって意味はないしね。
こう言う彼我の差を正確に見抜く事もお爺ちゃんに叩き込まれた事なんだよね。
………これが出来ないと早死にするって脅されて必死こいて覚えたものだよ。
私はそう言って目の前のお爺ちゃんを見つめ返す、私の返答が想定外だったのか
お爺ちゃんは一瞬驚いた顔をするも………大きな声で笑いだした。
「ははははは!その年でそこまで見抜くとは大したな嬢ちゃんじゃな。
見た瞬間から只者じゃないとは思っておったが、これはこれは………
いやはや、レベルに惑わされてる冒険者共に爪の垢を煎じて
飲ませたいくらいじゃ」
そう言ってひとしきり笑った後、私に向きなおす
………ふぅ、どうやら認めてもらえたみたいかな。
そうして今度こそ、にっこりとほほ笑みを私に向け
「儂の名は【ゼーレン=グローネフェルト】と言う
見ての通りただのジジイじゃが、良ければ嬢ちゃん達の名前も
教えて貰んじゃろうか?」
お爺ちゃん………ゼーレンさんはそう名乗って私達の名前を聞いてきた。
まぁ、向こうが名乗って来たからこっちも名乗らないといけないよね。
「公塚 蓮って言います、ちなみにファーストネームは蓮の方なんで
そっちで呼んでくれるかな、そしてこちらは………」
「………フィルミール=ルクヴルール」
と、私は営業スマイルで、フィルミールさんは不服そうに名乗った。
「レン嬢ちゃんにフィルミール嬢ちゃんか、2人ともいい名前じゃな
しかしこんな街に異界の少女と【ブランディア聖教】の神官殿との
組み合わせとは中々珍しいの」
ゼーレンさんは顎髭を撫でながら興味深そうに言葉を放つ。
特に説明もしてないのに私の事を異世界者だって言うのは
やっぱりその手の人が多いのかな、フィルミールさんも一目でそう言ってたし。
けど………ブランディア聖教?フィルミールさんの事かな?
まぁ、露出度は高めだけどそれっぽい雰囲気の格好だし、やっぱり
宗教関係の人なんだね。
「………私がレン様に同行してるのがおかしいと?」
けど、フィルミールさんの機嫌はさらに悪くなる。
もはや嫌悪感も隠さずにゼーレンさんを睨みつけてる。
「そうは言わんよ、ただまぁ、勇者でもない異世界人に神官を付けるのは
あの聖教らしくないと思うてな」
むむ、また新しい単語が出てきたね。
今度は勇者かぁ、確かこれも男子が話してたゲームの話題にあった記憶がある。
レベルと言いますますゲームっぽくなってきてるなぁ。
もしかしてここってゲームの中の世界だったり?
「私の行動に聖教は関係ないわ、レン様に付き従ってるのは私の意志よ」
「そうか、どうやら野暮なことを聞いた様じゃな、済まなかった」
2人はそうやって会話を打ち切る。
う~ん、結構気になる単語があったけど聞かない方がいいのかな?
そう言えばフィルミールさんの事も何一つ聞いてなかったけど
あの様子だと無理に聞かない方がいいっぽいね、聞けば話してくれるかもだけど。
「それで、嬢ちゃん達はこれからどうするつもりじゃ?」
話題を変えたかったのか、ゼーレンさんは私に水を向ける。
「どうするも何も、私は昨日この世界に飛ばされてきたばっかりなんだよね
だから、フィルミールさんに色々教わってたところ。
そういう訳だから行動指針を決めるのもまだ情報が足りなさすぎるかな
一先ずの目的は元の世界に帰る方法を探す事だけど」
「ふむ………」
ゼーレンさんは私の言葉に考え込むようにして顎髭を撫でる、そして………
「なら嬢ちゃん、冒険者になってみてはどうじゃ?」
「はぁ!?」
ゼーレンさんの言葉に、フィルミールさんが驚嘆の声を上げる。
そう言えば昨日も聞いたけど、冒険者って………何?
「ふふふ、お疲れさまでした」
私は部屋に入るなり、備え付けてあるベッドに倒れこむ。
ちょっとはしたないけど、流石にこの疲労感は耐え難い。
私のそんな姿をフィルミールさんはニコニコと眺めている。
私達は熊を売った後、日も暮れ始めたので宿を探した。
何か冒険者が多く来ているらしく、何件か回る羽目になったけど
何とか1部屋空いていた宿に辿り着き、一息つくことが出来た。
―――相部屋になるって聞かれた時のフィルミールさんの顔が
物凄く嬉しそうだったのはちょっと引いたけど………
ちなみにお金の方は結局半分しか受け取ってくれなかった。
「それで、改まって聞きたいことは何でしょうか?」
フィルミールさんは部屋のベッドに腰掛け、相変わらずの笑顔で
私に質問を促してくる。
この世界の地理や情勢、店主のお爺ちゃんが言ってた冒険者の事とか
確かに聞きたいことはまだまだ山ほどあるけど、流石に疲れた。
なのでたちまち気になっていた事を聞いて今日は終わりにしよう。
と言うか、これを確認しない事にはいくら疲れてても
眠れる気がしない………
「えーっとさ、フィルミールさんって私の性別を誤解してる訳じゃないよね?」
「………はい?それはどういった意味でしょうか?」
うん、我ながら突拍子もない質問だとは思う。けど「伴侶になりたい」と
言われたし、もし誤解だったら早い内にはっきりさせないとだしね。
「んっと、フィルミールさんさっき私の「伴侶になりたい」って言ったよね」
「ええ、今この瞬間も思ってますよ♪」
「そ、そっか、なら聞くけど、もしかして私の事を男だと
思ってたりは………」
「はい?」
フィルミールさんは心底不思議そうな顔をして首をかしげる。
あ、あれ?なんか予想外な反応なんだけど………
「いや、私鍛えてたから結構筋肉質だし、それに胸もあまりないし………」
そう言いながら私は自分で心をザクザクと抉ってる感覚を覚える。
ううう、胸が無いのはコンプレックスなんだよちくしょー。
「レン様は大変魅力的な女性ですよ、確かに普通の女性と比べて
すらっとはしてますが、逆に体が引き締まっていて大変美しいです♪」
フィルミールさんはそれはもう屈託のない表情で答えてくれる。
あー、うん、ここまではっきりと言われたら私の事男だなんて思ってないね。
でもそれはそれで次の問題が出てきたような―――
そしてそっちの方が厄介のような!?
「あー、うん、それは有難う。だったらもう1つ聞くけど
フィルミールさんって男より女のほうが好きだったり………」
「しませんよ♪」
ニコニコ顔のままフィルミールさんは即答する。
「レン様、私は男が苦手だったり嫌悪感を持ってたりはしませんし
女に特別な感情を抱いたりは今までしてませんよ」
「だ、だったら何故………」
「当然じゃありませんか、レン様に一目惚れしたからに決まっています!!」
ニコニコ顔から一転、自信に満ち溢れたこれ以上ないドヤ顔をして
フィルミールさんは言い放つ。
心なしか「ふんす!」と言う鼻息も聞こえそうだ。
それなのに神秘的な雰囲気が薄れないのは凄いと思う。
「そ、そっか………それなら仕方ないね」
「ええ、ご理解いただけて光栄です♪」
私はあまりの雰囲気に押されて思わずそう答えてしまう。
ま、まぁ、一番の懸念材料が解消したので良かったのかな?
何か疲労感が一気に増した気もするけど。
「ふふふ、こうしてレン様とお話し出来て胸が高鳴りっぱなしです
他にご質問はありますか?何でも答えますよ♪」
「あー、ゴメン。その気持ちは有難いんだけど流石に今日は疲れちゃったかな
出来ればさっさとお風呂に入って寝たいかも」
「お風呂………ですか」
フィルミールさんが思案の表情を浮かべる、思わず言っちゃったけど
この世界ってお風呂の習慣ないのかな?
でも、町の人達はそこまで不衛生な感じはしなかったからどうなんだろ?
そんな考えに耽ってると突然フィルミールさんがずいっと顔を近づけ私の腕を取り
「分かりました、そこまでお疲れでしたら私にお任せください
レン様の疲れをお風呂で徹底的に癒して差し上げます♪」
「えっ?ちょっ!?」
そのまま私を引きずってお風呂場に向かおうとする。
流石に私は恥ずかしくなって首を振り
「い、いいって!!流石にそこまでして貰わなくても」
「女同士ですし恥ずかしがる必要などありませんよ
さぁさぁ、行きましょう♪」
「ちょっ、そういう事じゃなくてえええぇぇぇぇぇ」
その細腕のどこにそんな力があったのか、フィルミールさんは鼻歌を歌いながら
抵抗する私を引きずりお風呂場へ向かっていった。
――――ちなみに、フィルミールさんの癒し効果はとんでもなかったのか
私が意識を取り戻したのは宿屋のベッドの上だった。
朝起きたらフィルミールさんの顔が妙につやつやしてたのは
気のせいだったと思いたいなぁ。
………
………………
………………………
次の日の朝、私達は宿の食堂で朝食を摂っていた。
材料は相変わらずよく解らないけど結構美味しい。
材料を気にしないで何でも食べられるようになったのは
お爺ちゃんに好き嫌いを徹底矯正されたおかげだと思うけど。
「………」
フィルミールさんは私の横で食事に手を付けずにずっとジト目で
目の前を睨んでる。
神秘的な印象の人だけどこんな表情もするんだね、まぁ人間だから当然だけど。
そんなフィルミールさんの視線の先にいるのは――――
「どうした神官の嬢ちゃん、食が進んでない様じゃが体調でも悪いのか?」
昨日熊を売った時にいた、確か…ゼーレンって呼ばれてたお爺ちゃんだった。
「………何で貴方がここにいるんですか?」
初めて聞くフィルミールさんの不満そうな声、奇麗な人が奇麗な声で
こんな言い方すると迫力あるなぁ。
そんな雰囲気でも弓のお爺ちゃん、確か「ゼーレン」って呼ばれてたっけ。
ゼーレンさんはにこやかに私達と同じテーブルで食事を摂りながら
「嬢ちゃん達と一緒に食事したかったからに決まっておろう
いやはや、同じ宿だったのは幸運じゃったわい、ははは」
………フィルミールさんもそうだったけどこの人も距離感の近い人だねぇ。
この世界の人達ってみんなそうなのかな?
「昨日店で顔を合わせただけなのに随分と気安いわね」
どうやらそうでもないみたい、フィルミールさんは敬語も取れて
完全に警戒状態だ。
私はと言うとこのお爺ちゃんにそこまで警戒心はなかったりする。
敵意も殺気も感じないし、うちのお爺ちゃんにちょっと似てるからかな。
「奇麗な女性とお近づきになりたいと思うのは男として当然じゃろう?
それが2人もとなればそれを見逃す手はあるまいて」
………訂正、うちのお爺ちゃんはこんなに軟派じゃなかった。
愛情をもって育ててくれたのは確かに感じてたけど、相当厳しかったよ。
それでもまぁ、警戒心を抱くほどではないかなぁ。
「女漁りね、生憎私は心に決めた方がいるから
貴方にこれっぽっちも興味はないわよ」
「この年でそんな事しても仕方ないじゃろ
儂はただ奇麗な嬢ちゃん達と一緒に食事をしたいだけじゃよ」
フィルミールさんも取り付く島がないけどこのお爺ちゃんも強者だね。
しかしながら敬語なしでつっけんどんな態度なのに神秘的は雰囲気が
ちっとも薄れないフィルミールさんは凄いね、どうやらこっちが素の様だけど。
とりあえず、このままの雰囲気でご飯は食べたくないしちょっと仲裁しようかな。
「まぁまぁフィルミールさん落ち着いて、そんなに警戒してたら失礼だよ」
「ですがレン様………」
「このお爺ちゃんに敵意は感じられないから大丈夫だよ、それに………」
私はお爺ちゃんに向き、言葉を続ける。
「この人、私達よりずっと強いから。その気になったら
私達なんてあっという間に殺されてると思うよ」
「えっ!?」
私の言葉にフィルミールさんは絶句し、お爺ちゃんは笑顔のまま
すっと目を細める。
「ほう?レベルを隠してるジジイに何故そう思うんじゃ?」
お爺ちゃんはまるで私を射抜くような視線を送りながら問いかける。
顔は笑顔のままだけど目は完全に笑ってない、むしろ威圧感バリバリだ。
うん、こんな目をするってことは完全にあっち系の人だね。
普通の人だったらこんな目で見られたら竦み上がって動けなくなる程の凄味だ。
事実、視線に晒されていない筈のフィルミールさんでさえ
少し怯んだ表情を見せている。
けど、生憎と私は慣れちゃってるんだよね。
「歩いた時の体幹とか立った時の足の配置や腕の動きとか色々あるけど
何より気配だね、流石にそんな気配を出せる人に今の私じゃ勝ち目はないよ」
私は臆せずただ単に事実だけを述べる、ここで強がったって意味はないしね。
こう言う彼我の差を正確に見抜く事もお爺ちゃんに叩き込まれた事なんだよね。
………これが出来ないと早死にするって脅されて必死こいて覚えたものだよ。
私はそう言って目の前のお爺ちゃんを見つめ返す、私の返答が想定外だったのか
お爺ちゃんは一瞬驚いた顔をするも………大きな声で笑いだした。
「ははははは!その年でそこまで見抜くとは大したな嬢ちゃんじゃな。
見た瞬間から只者じゃないとは思っておったが、これはこれは………
いやはや、レベルに惑わされてる冒険者共に爪の垢を煎じて
飲ませたいくらいじゃ」
そう言ってひとしきり笑った後、私に向きなおす
………ふぅ、どうやら認めてもらえたみたいかな。
そうして今度こそ、にっこりとほほ笑みを私に向け
「儂の名は【ゼーレン=グローネフェルト】と言う
見ての通りただのジジイじゃが、良ければ嬢ちゃん達の名前も
教えて貰んじゃろうか?」
お爺ちゃん………ゼーレンさんはそう名乗って私達の名前を聞いてきた。
まぁ、向こうが名乗って来たからこっちも名乗らないといけないよね。
「公塚 蓮って言います、ちなみにファーストネームは蓮の方なんで
そっちで呼んでくれるかな、そしてこちらは………」
「………フィルミール=ルクヴルール」
と、私は営業スマイルで、フィルミールさんは不服そうに名乗った。
「レン嬢ちゃんにフィルミール嬢ちゃんか、2人ともいい名前じゃな
しかしこんな街に異界の少女と【ブランディア聖教】の神官殿との
組み合わせとは中々珍しいの」
ゼーレンさんは顎髭を撫でながら興味深そうに言葉を放つ。
特に説明もしてないのに私の事を異世界者だって言うのは
やっぱりその手の人が多いのかな、フィルミールさんも一目でそう言ってたし。
けど………ブランディア聖教?フィルミールさんの事かな?
まぁ、露出度は高めだけどそれっぽい雰囲気の格好だし、やっぱり
宗教関係の人なんだね。
「………私がレン様に同行してるのがおかしいと?」
けど、フィルミールさんの機嫌はさらに悪くなる。
もはや嫌悪感も隠さずにゼーレンさんを睨みつけてる。
「そうは言わんよ、ただまぁ、勇者でもない異世界人に神官を付けるのは
あの聖教らしくないと思うてな」
むむ、また新しい単語が出てきたね。
今度は勇者かぁ、確かこれも男子が話してたゲームの話題にあった記憶がある。
レベルと言いますますゲームっぽくなってきてるなぁ。
もしかしてここってゲームの中の世界だったり?
「私の行動に聖教は関係ないわ、レン様に付き従ってるのは私の意志よ」
「そうか、どうやら野暮なことを聞いた様じゃな、済まなかった」
2人はそうやって会話を打ち切る。
う~ん、結構気になる単語があったけど聞かない方がいいのかな?
そう言えばフィルミールさんの事も何一つ聞いてなかったけど
あの様子だと無理に聞かない方がいいっぽいね、聞けば話してくれるかもだけど。
「それで、嬢ちゃん達はこれからどうするつもりじゃ?」
話題を変えたかったのか、ゼーレンさんは私に水を向ける。
「どうするも何も、私は昨日この世界に飛ばされてきたばっかりなんだよね
だから、フィルミールさんに色々教わってたところ。
そういう訳だから行動指針を決めるのもまだ情報が足りなさすぎるかな
一先ずの目的は元の世界に帰る方法を探す事だけど」
「ふむ………」
ゼーレンさんは私の言葉に考え込むようにして顎髭を撫でる、そして………
「なら嬢ちゃん、冒険者になってみてはどうじゃ?」
「はぁ!?」
ゼーレンさんの言葉に、フィルミールさんが驚嘆の声を上げる。
そう言えば昨日も聞いたけど、冒険者って………何?
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物語の舞台には、二つの異なる世界に広がります。
えんけい世界
• ヒューマンは普通の人間、ヒューマノイドは異能力を持つ人間に似た存在で、両者は対立しています。
• トラスト教会(ヒューマン側)とミミクリーサーカス団(ヒューマノイド側)という二大勢力が、激しい権力闘争を繰り広げています。
(みつかど世界)
• とある人物が創造した空想の世界
• この世界が作られたことで、後にえんけい世界がヒューマンとヒューマノイドの対立によって歪み、現在の状態が生まれました。
勢力構図と役職
トラスト教会(ヒューマン側)
• 目的:ヒューマノイドを排除し、ヒューマンだけの世界を作る。
• 特徴:異能力を持たず、聖なる道具を駆使してヒューマノイドを駆逐。
• 役職:
• 9人の教皇:教会の最高位。
• 枢機卿:教皇に唯一謁見できる人物。
• 大司教:司教を統括。
• 司教:各地区の教会を統括。
• 神父:地域の責任者。
• 執行人:ヒューマノイドを駆逐する実行者。
• ポーター:教会や信者を守る志願兵。
ミミクリーサーカス団(ヒューマノイド側)
• 目的:ヒューマンへの復讐、世界支配。
• 特徴:サーカス団の形態を取り、虐殺や誘拐など非道な活動を行う。
• 役職:サーカス団員は各役職(歌姫、猛獣使い、曲芸師など)に従事し、それぞれが特別な能力を持つ。
それぞれ異なるルールと存在が絡み合い、物語を形作っています。トラスト教会とミミクリーサーカス団が繰り広げる対立の中で、主人公たちは自らの役割を果たし、運命に立ち向かっていきます。
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