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少女達の輪舞曲《ロンド》
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「えーっと、確かこの辺りに………」
食事を終え酒場から出た私はフィルミールさんに連れられるまま
町の中を歩いていた。
石造りが主体な家が立ち並び、人気はあまりない。
微かに鉄の香りが漂い、時折家の中から金槌で金属を叩く甲高い音がする。
ここって………鍛冶屋通りって感じなのかな?
偶に見かける人は私たちを物珍しそうに見ている。
あー、やっぱり目立つよね私達。
私の制服姿もそうだけど、フィルミールさんの格好もこの場では結構目立つ。
そう言えば、異世界の事が衝撃的過ぎてまだフィルミールさんの事は
何も聞いてなかった。
髪の色と合わせた白を基調にした衣装で、何か神官っぽい印象を受けるけど
それにしては肌の露出が結構多い気がする。
スカートのスリットが結構高いし、肩も露出してて胸元も空いてる。
それでも神聖な感じはするのは服のデザインが秀逸なのか
フィルミールさんの雰囲気なのか
ぶっちゃけ私は着ても全然似合わないと思う、特に胸元が………
「あ、ここね」
私の視線に気づかないまま、フィルミールさんは一軒家の前で立ち止まる。
何か看板は出てるからお店っぽいけど、やっぱり読めない。
何のお店なんだろう。
「ここは討伐した魔物を買い取ってくれる場所ですよ
私達の世界では魔物の牙や毛皮、後は体内にある魔晶石などは素材として
結構な需要があるんですよ」
成程ね、魔晶石ってものはよく解らないけど
牙に毛皮に需要があるならあの熊も売れるって事だね。
「っと、入る前に………」
フィルミールさんは店に入ろうとせずきょろきょろと周囲を窺う。
どうしたんだろ、見られたくない物でもあるのかな?
「どうしたの?」
「あ、すみません、実は私の【インベントリキューブ】は特別性なんです
なので見る人が見れば大騒ぎになりかねないんです」
………確かに、あんな小さい立方体の中に熊が入ってるのを見られたら
騒ぎになるよね。
フィルミールさんは立方体を前面に掲げると熊の死体が
吐き出されるように出てくる。
うん、目の前で見ても信じられない光景だねこれ。
「それではお店の中に入りましょう、これを買い取って貰いませんと」
フィルミールさんは店の扉を開けて中に入り、私もそれに続く。
店の中には2人の老人がいた。
1人は店主っぽく店のカウンターに手をかけて座り、もう1人はお客らしく
カウンター越しでお互い何か話している。お客の方は随分と
体格のいいお爺ちゃんで、背負っている長弓が印象的だ。
「ん?客かい」
店主のお爺ちゃんは私達を見かけると不愛想に声をかける。
その言葉に反応した客らしきお爺ちゃんがこちらに振り向いた瞬間―――
「――――――!?」
私の感覚が一瞬にして研ぎ澄まされる。これは………
向こうも見ると同じ感覚だったようだ、そしてすぅっと目が細くなる。
間違いない………この人、強い。
「レン様?」
「何しとんじゃゼーレン、店の客にそんな厳つい顔を見せるでないわ」
フィルミールさんと店主さんの言葉にはっとする、そして一息ついて
「ごめんなさい、いきなり強そうなお爺ちゃんと顔を合わせてしまって
思わず緊張しちゃったみたい」
「強そう、ですか。まぁ確かに老人とは思えない体格ですが」
フィルミールさんがお爺ちゃんをまじまじと見る。
いや、そんなに見たら失礼じゃないかな?
ところがそのお爺ちゃんはフィルミールさんの視線に嬉しそうに微笑み
「ふふふ、いや~こんな奇麗な嬢ちゃんにそう見つめられると照れるのう
どうじゃグノス、儂もまだまだ捨てたもんじゃなかろう?」
「何を言っとるか、そっちの嬢ちゃんはお前のレベルを確認しとるだけじゃ」
成程ね、確か「意識して見つめればレベルが見える」って言ってたね。
試しに私もやってみる………けど、やっぱりそんなものは見えない。
「………レベルを隠匿してるの?珍しいことをしていますね」
レベルを隠匿?そんな事もできるの?
「はい、レベルを他人に見せたくない場合は隠すこともできます
尤も、冒険者や軍人にとってはレベルは自らの価値に等しいですから
隠すことはあまりないですが………」
「それってレベルが高ければ偉いってことになるの?」
「ええ、簡単に言えばそうなりますね」
ふーん、そうなんだ。確かに自分の価値を隠す人間はあまりいない。
けど………強さに関してはそうでもなかったりするんだよね。
とするとこのゼーレンって呼ばれたお爺ちゃんは………
「んで、嬢ちゃん達は何を売りに来たんじゃ
悪いが嬢ちゃん達が狩れそうな魔物の買取りは今はやっておらんぞ
と言うかそっちの嬢ちゃんはレベル0?何じゃ《SystemError》とは………」
店主のお爺ちゃんは私達のレベルを見たのかそう言い放つ。
そんなにレベル0って珍しいのかな?
大きいお爺ちゃんは私の事を興味深そうに見てるし………
「私のレベルからしたらそう言われても仕方ありませんが………
私達………レン様が狩ったモンスターはファングベアですよ」
「「はぁ!?」」
フィルミールさんの言葉にお爺ちゃんズが驚きの声を上げる。
まぁ、こんな小娘が熊を倒したって言われれば驚くのも無理はないだろうね。
「冗談じゃろう?レベルの事を差し引いてもこんなちっこい嬢ちゃんが
ファングベアを倒せるなんてとても思えんぞ」
「証拠なら今店の外にファングベアの死体を置いてますので確認してください」
フィルミールさんの言葉に店主のお爺ちゃんは慌てて店の外に飛び出す。
その後続いて私達も外に出る、何故か弓のお爺ちゃんもついてきたけど………
「ほ………本物じゃ、しかもこんな奇麗な状態で………」
店主のお爺ちゃんは信じられないって表情で熊の死体を見つめる。
「しかもこ奴、確か討伐依頼が出ていた個体じゃな
ネームド程ではないが成程、こりゃ確かにギルドが依頼を出すのも
不思議じゃないな」
そんなことを言いながら弓のお爺ちゃんは熊の腕を取ったり
背中を触ったりしている。
そうして私が蹴りを入れた部分、延髄に手を置いた瞬間眉を顰め
「これは………急所を強力なメイスで殴ったように見事に打ち砕かれとる
成程、これならいくらこ奴でもひとたまりもあるまい」
そう言うと弓のお爺ちゃんは私を見つめて、にやりと笑みを浮かべる。
「強力なメイスで急所を………確かにそれならこの状態も納得じゃが
この嬢ちゃんがそんな強力な武器を装備できるのか?」
店主のお爺ちゃんは私を改めてまじまじと見る。
まぁ熊を撲殺できるような棍棒なんて確かに装備できないけど。
「さてな、そこまでは儂にも解らんよ
良ければ嬢ちゃん教えてくれんかの?」
う~ん、教えてもいいんだけど自分の事ながら荒唐無稽すぎてどうもね………
私が悩んでるとフィルミールさんが口を開き
「レン様は自らの手足のみでファングベアを倒されました
あの時の凛々しい姿はいつ思い出しても惚れ惚れします」
ちょっ!!
フィルミールさんはまるで我が事のように胸を張って私の自慢をする。
お爺ちゃんズは再び私を驚愕の目で見つめてくる。
「いやいやいや、あれはフィルミールさんの魔法があったからだって
実際あれが無かったら私熊を蹴り殺す事なんてできないって!!」
私は恥ずかしくなり慌てて否定する。
お爺ちゃんズは驚愕の表情のまま私達を交互に見つめる。
そして――――
「ぶっ………わっはっはっはっは!!」
突然弓のお爺ちゃんが大爆笑を始める。
えっ!?今の会話にウケるとこあったっけ?
「いやはやグノス、この嬢ちゃん達とんでもない2人組だぞ
普段ならホラ話にしか聞こえんがこれを見せられるとな」
「ゼーレン、儂はまだ信じられんのじゃが………」
「このファングベアをよく見てみい、こんな奇麗な状態で討伐ができる
冒険者が存在すると思うか?大抵は剣や矢とかの傷跡が付くはずじゃ」
「それはそうなんじゃが、お主でも無理なのか?先を潰した矢で戦えば………」
「無理じゃな、少なくともそれでは仕留めるのに数十発かかる
そうしたら痕が体中に残ってこうはならんよ」
「む………」
へぇ、このお爺ちゃん鏃潰して熊倒せるんだ………とんでもないね。
やっぱり出会った時のあの感覚は気のせいじゃなかったね。
「兎に角、嬢ちゃん達が貴重なファングベアを持ってきたのは事実なんじゃ
素直に買い取ってやらんか」
「………確かに、それもそうじゃの」
弓のお爺ちゃんに言われて店主のお爺ちゃんは店の中に入って行き
ずっしりとした重さの革袋を持ってきて私に手渡す。
「ほれ、5万ルクルじゃ。これ以上は無理じゃな」
「ごっ5万!?」
店主のお爺ちゃんの言葉にフィルミールさんが驚いた声を出す。
革袋の中を確認すると金貨らしきものがずっしりと詰まっている
見るからに大金そうだけど………
「ほう?ケチ臭いお前が随分と奮発したもんじゃの」
「ふん、解体費用等差っ引いても安いくらいじゃ、正直こんな素材は
二度と手に入らないレベルじゃしの」
やっぱり大金なんだ、とは言え貨幣価値がいまいち掴めない為
こっそりフィルミールさんに聞いてみる。
「これってそんなに大金なの?」
「ええ、贅沢をしなければ半年は働かなくて済みます。ファングベアは
個体数が少ないのでそれなりに高値が付くと思いましたが………」
そうなんだ、ならフィルミールさんと分けても十分そうだね。
「それと討伐証じゃ、ギルドから報酬貰ってくるとええ」
「討伐証?」
店主のお爺ちゃんが名刺大の紙を渡してくる。やっぱりなんて書いてあるか
わからない。
「ん?嬢ちゃん達冒険者じゃないのか」
「冒険者?」
次から次へと知らない単語が出てきて私の頭は?マークで埋め尽くされる
討伐証?ギルド?冒険者?
「えっと、私達は冒険者ではありません。ファングベアを倒したのも
襲われたから撃退しただけですよ」
混乱してる私を見てフィルミールさんが代わりに答えてくれる。
「そうか、なら帝都に行って登録してくるとええ
レベルは兎も角、ファングベアを倒せるなら問題はなかろうて
嬢ちゃん達、いい取引を有難うな」
店主のお爺ちゃんはそう言って僅かばかりに笑みを見せ
「ほれゼーレン、さっきの話の続きじゃ
全くお前は厄介な事を持って来おってからに………」
「だからそれは謝ってるじゃろ?嬢ちゃん達、また後でな」
お爺ちゃんズは店の中に戻っていく。
それと行き違いに店の中から従業員らしき人が台車を持ってきて
熊を乗せどこかに持っていった。
「一先ず、当面のお金は調達できたみたいだね」
「ええ、そうですね」
これでたちまちは飢え死にの危険性は無さそうだけど………
また新しい単語が出てきたね、討伐証とかギルドとか
その辺りも教えて貰わないといけないかなぁ。
「フィルミールさん、申し訳ないけどまだまだ知らないといけない事が
いっぱいありそうだし、付き合ってくれないかな」
「ええ、レン様が気が済むまで喜んでお付き合いしますよ♪」
フィルミールさんは本当に嬉しそうに返事をする。
正直異世界で1番最初に会ったのがこの人で良かったと思う。
下手すれば悪人に拾われて何もわからないまま悪事に加担してたり
最悪いきなり魔物に襲われて死ぬってケースもあり得たよね。
そう考えるとほんとにラッキーだった。
「それじゃ、一先ずこれを渡しておかないとね」
私はそう言って熊の買取り金の3分の2をフィルミールさんに渡す。
「レン様、これは………」
「ん?何ってフィルミールさんの取り分だよ」
「は?ちょっと待って………ください、何故私の方が多いんですか!?」
フィルミールさんは驚愕の表情で私に問いかける。
あれ?そんなに驚くとこかな?
「何故って、あの熊はフィルミールさんがいないと倒せなかったし
ここまで持ってきたのもフィルミールさんだし
それに私、フィルミールさんからまだまだ色々な事を教えて貰わないとだし」
「ですが、それを言ったら私はレン様に命を………」
「それはここまで教えてくれた事とさっきの食事でチャラだよ、ぶっちゃけ私
あの場にフィルミールさんがいなかったら高確率で野垂れ死んでたろうしね
………命を助けられたのは私の方だよ」
「レン様………」
それでもフィルミールさんは納得してない顔をする。
これは受け取ってくれそうもないかなぁ。
………なら仕方ない、ちょっと恥ずかしいセリフだけど。
「わかったよ、だったらその代わりに………
この世界での、私の最初の友達になってくれないかな」
うわ~、覚悟してたけどやっぱり恥ずかしいねこれ。
ちょっと恥ずかしくてフィルミールさんの顔が見れない。
けど、私にはこれ以上の信頼を伝える術を知らない。
しかもこれ、断られたら気まずいってものじゃないよね………
ちらとフィルミールさんの様子を横目で窺う、流石に予想外だったか
驚いた表情をしている。しかしすぐにいつもの笑顔に戻り
「申し訳ありません、それはお断りさせていただきます」
と、素敵な笑顔で言い放った。
ま、そりゃそうだよね。会って1日も経ってない人間に
友達になってくれと言われても迷惑なだけだよねぇ。
とは言え流石に凹むかなぁ、と言うかどんな顔して
フィルミールさんの顔を見ればいいんだろ。
ガチで凹む私、その瞬間正面から衝撃を受ける。
「ごふっ」
予想外の衝撃に肺の中の空気が吐き出される、私は思わず正面を見ると
そこには極上の笑顔のフィルミールさんが抱き着いていて
「だって私、レン様の伴侶になりたいんですから!!」
と、言い放った。
―――――成程ね、だから友達はお断りしたかったんだ。
私は納得したようなそうでないような複雑な気分になっていた。
食事を終え酒場から出た私はフィルミールさんに連れられるまま
町の中を歩いていた。
石造りが主体な家が立ち並び、人気はあまりない。
微かに鉄の香りが漂い、時折家の中から金槌で金属を叩く甲高い音がする。
ここって………鍛冶屋通りって感じなのかな?
偶に見かける人は私たちを物珍しそうに見ている。
あー、やっぱり目立つよね私達。
私の制服姿もそうだけど、フィルミールさんの格好もこの場では結構目立つ。
そう言えば、異世界の事が衝撃的過ぎてまだフィルミールさんの事は
何も聞いてなかった。
髪の色と合わせた白を基調にした衣装で、何か神官っぽい印象を受けるけど
それにしては肌の露出が結構多い気がする。
スカートのスリットが結構高いし、肩も露出してて胸元も空いてる。
それでも神聖な感じはするのは服のデザインが秀逸なのか
フィルミールさんの雰囲気なのか
ぶっちゃけ私は着ても全然似合わないと思う、特に胸元が………
「あ、ここね」
私の視線に気づかないまま、フィルミールさんは一軒家の前で立ち止まる。
何か看板は出てるからお店っぽいけど、やっぱり読めない。
何のお店なんだろう。
「ここは討伐した魔物を買い取ってくれる場所ですよ
私達の世界では魔物の牙や毛皮、後は体内にある魔晶石などは素材として
結構な需要があるんですよ」
成程ね、魔晶石ってものはよく解らないけど
牙に毛皮に需要があるならあの熊も売れるって事だね。
「っと、入る前に………」
フィルミールさんは店に入ろうとせずきょろきょろと周囲を窺う。
どうしたんだろ、見られたくない物でもあるのかな?
「どうしたの?」
「あ、すみません、実は私の【インベントリキューブ】は特別性なんです
なので見る人が見れば大騒ぎになりかねないんです」
………確かに、あんな小さい立方体の中に熊が入ってるのを見られたら
騒ぎになるよね。
フィルミールさんは立方体を前面に掲げると熊の死体が
吐き出されるように出てくる。
うん、目の前で見ても信じられない光景だねこれ。
「それではお店の中に入りましょう、これを買い取って貰いませんと」
フィルミールさんは店の扉を開けて中に入り、私もそれに続く。
店の中には2人の老人がいた。
1人は店主っぽく店のカウンターに手をかけて座り、もう1人はお客らしく
カウンター越しでお互い何か話している。お客の方は随分と
体格のいいお爺ちゃんで、背負っている長弓が印象的だ。
「ん?客かい」
店主のお爺ちゃんは私達を見かけると不愛想に声をかける。
その言葉に反応した客らしきお爺ちゃんがこちらに振り向いた瞬間―――
「――――――!?」
私の感覚が一瞬にして研ぎ澄まされる。これは………
向こうも見ると同じ感覚だったようだ、そしてすぅっと目が細くなる。
間違いない………この人、強い。
「レン様?」
「何しとんじゃゼーレン、店の客にそんな厳つい顔を見せるでないわ」
フィルミールさんと店主さんの言葉にはっとする、そして一息ついて
「ごめんなさい、いきなり強そうなお爺ちゃんと顔を合わせてしまって
思わず緊張しちゃったみたい」
「強そう、ですか。まぁ確かに老人とは思えない体格ですが」
フィルミールさんがお爺ちゃんをまじまじと見る。
いや、そんなに見たら失礼じゃないかな?
ところがそのお爺ちゃんはフィルミールさんの視線に嬉しそうに微笑み
「ふふふ、いや~こんな奇麗な嬢ちゃんにそう見つめられると照れるのう
どうじゃグノス、儂もまだまだ捨てたもんじゃなかろう?」
「何を言っとるか、そっちの嬢ちゃんはお前のレベルを確認しとるだけじゃ」
成程ね、確か「意識して見つめればレベルが見える」って言ってたね。
試しに私もやってみる………けど、やっぱりそんなものは見えない。
「………レベルを隠匿してるの?珍しいことをしていますね」
レベルを隠匿?そんな事もできるの?
「はい、レベルを他人に見せたくない場合は隠すこともできます
尤も、冒険者や軍人にとってはレベルは自らの価値に等しいですから
隠すことはあまりないですが………」
「それってレベルが高ければ偉いってことになるの?」
「ええ、簡単に言えばそうなりますね」
ふーん、そうなんだ。確かに自分の価値を隠す人間はあまりいない。
けど………強さに関してはそうでもなかったりするんだよね。
とするとこのゼーレンって呼ばれたお爺ちゃんは………
「んで、嬢ちゃん達は何を売りに来たんじゃ
悪いが嬢ちゃん達が狩れそうな魔物の買取りは今はやっておらんぞ
と言うかそっちの嬢ちゃんはレベル0?何じゃ《SystemError》とは………」
店主のお爺ちゃんは私達のレベルを見たのかそう言い放つ。
そんなにレベル0って珍しいのかな?
大きいお爺ちゃんは私の事を興味深そうに見てるし………
「私のレベルからしたらそう言われても仕方ありませんが………
私達………レン様が狩ったモンスターはファングベアですよ」
「「はぁ!?」」
フィルミールさんの言葉にお爺ちゃんズが驚きの声を上げる。
まぁ、こんな小娘が熊を倒したって言われれば驚くのも無理はないだろうね。
「冗談じゃろう?レベルの事を差し引いてもこんなちっこい嬢ちゃんが
ファングベアを倒せるなんてとても思えんぞ」
「証拠なら今店の外にファングベアの死体を置いてますので確認してください」
フィルミールさんの言葉に店主のお爺ちゃんは慌てて店の外に飛び出す。
その後続いて私達も外に出る、何故か弓のお爺ちゃんもついてきたけど………
「ほ………本物じゃ、しかもこんな奇麗な状態で………」
店主のお爺ちゃんは信じられないって表情で熊の死体を見つめる。
「しかもこ奴、確か討伐依頼が出ていた個体じゃな
ネームド程ではないが成程、こりゃ確かにギルドが依頼を出すのも
不思議じゃないな」
そんなことを言いながら弓のお爺ちゃんは熊の腕を取ったり
背中を触ったりしている。
そうして私が蹴りを入れた部分、延髄に手を置いた瞬間眉を顰め
「これは………急所を強力なメイスで殴ったように見事に打ち砕かれとる
成程、これならいくらこ奴でもひとたまりもあるまい」
そう言うと弓のお爺ちゃんは私を見つめて、にやりと笑みを浮かべる。
「強力なメイスで急所を………確かにそれならこの状態も納得じゃが
この嬢ちゃんがそんな強力な武器を装備できるのか?」
店主のお爺ちゃんは私を改めてまじまじと見る。
まぁ熊を撲殺できるような棍棒なんて確かに装備できないけど。
「さてな、そこまでは儂にも解らんよ
良ければ嬢ちゃん教えてくれんかの?」
う~ん、教えてもいいんだけど自分の事ながら荒唐無稽すぎてどうもね………
私が悩んでるとフィルミールさんが口を開き
「レン様は自らの手足のみでファングベアを倒されました
あの時の凛々しい姿はいつ思い出しても惚れ惚れします」
ちょっ!!
フィルミールさんはまるで我が事のように胸を張って私の自慢をする。
お爺ちゃんズは再び私を驚愕の目で見つめてくる。
「いやいやいや、あれはフィルミールさんの魔法があったからだって
実際あれが無かったら私熊を蹴り殺す事なんてできないって!!」
私は恥ずかしくなり慌てて否定する。
お爺ちゃんズは驚愕の表情のまま私達を交互に見つめる。
そして――――
「ぶっ………わっはっはっはっは!!」
突然弓のお爺ちゃんが大爆笑を始める。
えっ!?今の会話にウケるとこあったっけ?
「いやはやグノス、この嬢ちゃん達とんでもない2人組だぞ
普段ならホラ話にしか聞こえんがこれを見せられるとな」
「ゼーレン、儂はまだ信じられんのじゃが………」
「このファングベアをよく見てみい、こんな奇麗な状態で討伐ができる
冒険者が存在すると思うか?大抵は剣や矢とかの傷跡が付くはずじゃ」
「それはそうなんじゃが、お主でも無理なのか?先を潰した矢で戦えば………」
「無理じゃな、少なくともそれでは仕留めるのに数十発かかる
そうしたら痕が体中に残ってこうはならんよ」
「む………」
へぇ、このお爺ちゃん鏃潰して熊倒せるんだ………とんでもないね。
やっぱり出会った時のあの感覚は気のせいじゃなかったね。
「兎に角、嬢ちゃん達が貴重なファングベアを持ってきたのは事実なんじゃ
素直に買い取ってやらんか」
「………確かに、それもそうじゃの」
弓のお爺ちゃんに言われて店主のお爺ちゃんは店の中に入って行き
ずっしりとした重さの革袋を持ってきて私に手渡す。
「ほれ、5万ルクルじゃ。これ以上は無理じゃな」
「ごっ5万!?」
店主のお爺ちゃんの言葉にフィルミールさんが驚いた声を出す。
革袋の中を確認すると金貨らしきものがずっしりと詰まっている
見るからに大金そうだけど………
「ほう?ケチ臭いお前が随分と奮発したもんじゃの」
「ふん、解体費用等差っ引いても安いくらいじゃ、正直こんな素材は
二度と手に入らないレベルじゃしの」
やっぱり大金なんだ、とは言え貨幣価値がいまいち掴めない為
こっそりフィルミールさんに聞いてみる。
「これってそんなに大金なの?」
「ええ、贅沢をしなければ半年は働かなくて済みます。ファングベアは
個体数が少ないのでそれなりに高値が付くと思いましたが………」
そうなんだ、ならフィルミールさんと分けても十分そうだね。
「それと討伐証じゃ、ギルドから報酬貰ってくるとええ」
「討伐証?」
店主のお爺ちゃんが名刺大の紙を渡してくる。やっぱりなんて書いてあるか
わからない。
「ん?嬢ちゃん達冒険者じゃないのか」
「冒険者?」
次から次へと知らない単語が出てきて私の頭は?マークで埋め尽くされる
討伐証?ギルド?冒険者?
「えっと、私達は冒険者ではありません。ファングベアを倒したのも
襲われたから撃退しただけですよ」
混乱してる私を見てフィルミールさんが代わりに答えてくれる。
「そうか、なら帝都に行って登録してくるとええ
レベルは兎も角、ファングベアを倒せるなら問題はなかろうて
嬢ちゃん達、いい取引を有難うな」
店主のお爺ちゃんはそう言って僅かばかりに笑みを見せ
「ほれゼーレン、さっきの話の続きじゃ
全くお前は厄介な事を持って来おってからに………」
「だからそれは謝ってるじゃろ?嬢ちゃん達、また後でな」
お爺ちゃんズは店の中に戻っていく。
それと行き違いに店の中から従業員らしき人が台車を持ってきて
熊を乗せどこかに持っていった。
「一先ず、当面のお金は調達できたみたいだね」
「ええ、そうですね」
これでたちまちは飢え死にの危険性は無さそうだけど………
また新しい単語が出てきたね、討伐証とかギルドとか
その辺りも教えて貰わないといけないかなぁ。
「フィルミールさん、申し訳ないけどまだまだ知らないといけない事が
いっぱいありそうだし、付き合ってくれないかな」
「ええ、レン様が気が済むまで喜んでお付き合いしますよ♪」
フィルミールさんは本当に嬉しそうに返事をする。
正直異世界で1番最初に会ったのがこの人で良かったと思う。
下手すれば悪人に拾われて何もわからないまま悪事に加担してたり
最悪いきなり魔物に襲われて死ぬってケースもあり得たよね。
そう考えるとほんとにラッキーだった。
「それじゃ、一先ずこれを渡しておかないとね」
私はそう言って熊の買取り金の3分の2をフィルミールさんに渡す。
「レン様、これは………」
「ん?何ってフィルミールさんの取り分だよ」
「は?ちょっと待って………ください、何故私の方が多いんですか!?」
フィルミールさんは驚愕の表情で私に問いかける。
あれ?そんなに驚くとこかな?
「何故って、あの熊はフィルミールさんがいないと倒せなかったし
ここまで持ってきたのもフィルミールさんだし
それに私、フィルミールさんからまだまだ色々な事を教えて貰わないとだし」
「ですが、それを言ったら私はレン様に命を………」
「それはここまで教えてくれた事とさっきの食事でチャラだよ、ぶっちゃけ私
あの場にフィルミールさんがいなかったら高確率で野垂れ死んでたろうしね
………命を助けられたのは私の方だよ」
「レン様………」
それでもフィルミールさんは納得してない顔をする。
これは受け取ってくれそうもないかなぁ。
………なら仕方ない、ちょっと恥ずかしいセリフだけど。
「わかったよ、だったらその代わりに………
この世界での、私の最初の友達になってくれないかな」
うわ~、覚悟してたけどやっぱり恥ずかしいねこれ。
ちょっと恥ずかしくてフィルミールさんの顔が見れない。
けど、私にはこれ以上の信頼を伝える術を知らない。
しかもこれ、断られたら気まずいってものじゃないよね………
ちらとフィルミールさんの様子を横目で窺う、流石に予想外だったか
驚いた表情をしている。しかしすぐにいつもの笑顔に戻り
「申し訳ありません、それはお断りさせていただきます」
と、素敵な笑顔で言い放った。
ま、そりゃそうだよね。会って1日も経ってない人間に
友達になってくれと言われても迷惑なだけだよねぇ。
とは言え流石に凹むかなぁ、と言うかどんな顔して
フィルミールさんの顔を見ればいいんだろ。
ガチで凹む私、その瞬間正面から衝撃を受ける。
「ごふっ」
予想外の衝撃に肺の中の空気が吐き出される、私は思わず正面を見ると
そこには極上の笑顔のフィルミールさんが抱き着いていて
「だって私、レン様の伴侶になりたいんですから!!」
と、言い放った。
―――――成程ね、だから友達はお断りしたかったんだ。
私は納得したようなそうでないような複雑な気分になっていた。
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事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
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【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
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色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
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クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
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ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
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