2 / 5
白衣を着た男 2
しおりを挟む「ねぇ、統也さんはさ、何タイプの幽霊なの?」
私は、今日も統也さんの所に来ていた。
そして、来て早々、そんなことを私が聞くもんだから、統也さんは面食らっていた。
「タイプ、って?」
「昨日、調べたんだ。浮遊霊とか、地縛霊ってのがいるんでしょ?統也さんは何かなって。
ずっとここに居るし、地縛霊?」
「えー?さぁ。考えたことも無い。というか、幽霊だって居たい所に居るし、居たくなくなったらどっか行くよ。身体が無いだけで、元々人間なんだし。」
確かにそうだ、と思った。肉体は無くとも、元々人間なのだ。自由にする。
「じゃあ、どこかに行ったりするの?」
「そういえば・・・無いね。行こうとも思わなかった。」
「じゃあ、やっぱり地縛霊なんじゃ?」
「そうなのかなぁ。今度、出てみようか。」
「大丈夫?」
「分からない。けど、暇だし。もう死んでるから、なんとでもなるよ。ところで、今日はどうしたの?また落とし物?」
「あ、違う違う。そうじゃなくてね、」
話し込んでしまったが、今日ここに来た理由を思い出した。あれから弟のスマホがどうなったのか、統也さんに伝えようと思ったのだ。
ただ、それだけで私が大変な思いをしてまたここに来るわけではない。なんとなく、また統也さんと話したいと思ったのだ。幽霊に惹かれるなんて、危険だろうか。
私の目の前に立っている統也さんの顔を見る。
「?どうしたの。」
相変わらずの薄ら笑顔。少しだけ、自分の頬が熱くなったことに驚き、急いで視線を逸らした。
「や、えっ、と。あれから、スマホがどうなったのか伝えようと思って。」
「そっか、実は少し気になってたんだよね。どうだった?」
私は、スマホを持って帰ってからのことを話した。
弟にスマホを返す時、電源がつかないことを伝えると、弟は焦った様子だった。充電を100%まで充電して行ったので、数時間で0になる可能性は低いという。
・・・・弟のスマホは、炎天下によって、壊れてしまっていたのだった・・・。
そこからが大変だった。弟は母にこっぴどく叱られ、しばらく買い替えは無しだという。
それで今、弟は荒れに荒れまくり、学校から帰ると、ふて寝しに部屋にこもっている。
「弟さんのスマホだったのか。ごめん、俺が簡単に物を持てるタイプの幽霊だったら、日陰に避難させたのに。」
統也さんから薄ら笑顔が消えて、申し訳なさそうだった。
「気にしないでください。忘れてった弟が悪いんです。というか、やっぱり幽霊って、物持てないんですね。」
「あぁ、うん。基本、持てないよ。持てないし、触れないよ。」
統也さんは「あ、でも」と、続けた。
「稀に触った物に影響が出ることもあるみたい。」
統也さん曰く、物を触ろうとすると手がすり抜けていくのだが、何の原理かは知らないが、稀に触った物が動いたり、持てたりすることがあるらしい。そして、統也さんはこんなことを話してくれた。
ある日の深夜、酔っ払った中年男性がここまで迷い込んできて、その辺で寝転んでぐーすか眠ってしまったらしい。自分自身は幽霊で、介抱することもできず、ただただ男性を見守るしかなかった。
ふと、風で揺れる男性の髪が気になった。見てみると、転んだのかなんなのか、前髪あたりに草が付着していた。自分が触っても何も影響が無いことは承知していたが、なんとなく手で草を払ってみた。すると、勢いよく髪の塊が飛んでいってしまったらしい。
そう、その中年男性はカツラだったのである。今まで物を触っても何も影響が無かったのにカツラを飛ばせてしまった事にかなり焦ったという。カツラをあるべき場所へ戻すため、拾い上げようとしたが、掴もうとしてもすり抜けていくだけ。廃墟のある場所には、空の月と陸の月が、朝まで光り輝いていたという・・・。
「だからね、触る物はちゃんと選ぼうって心に決めたんだ。弟くんのスマホも、一応試しはしたんだけど、ダメだったよ。ほんとにごめんね。」
「はぁ・・・。」
話はおっさんのヅラを取ってしまったという、ロマンスのカケラも無いものだが、統也さんは楽しそうに話していた。生前、誰かと話をする事が好きな人だったのかもしれないな、と思った。
「どうしたの?俺の顔、ジロジロ見て。華実さんにはよく顔見られてる気がするよ。」
私はいつの間にか、統也さんの顔を凝視していたらしい。顔が熱い。
「そんなことよりさ、この前、カブトムシ取りに来た、って男の子が来てね・・・・・」
統也さんは、再び嬉々として別の話を始める。
記憶の無い、白衣を着た幽霊。いつか、彼の事を本当の意味で知る事ができるようになるだろうか。ここまで来るのは大変だけれど、彼と話ができるなら、悪くない。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
猫の私が過ごした、十四回の四季に
百門一新
キャラ文芸
「私」は、捨てられた小さな黒猫だった。愛想もない野良猫だった私は、ある日、一人の人間の男と出会った。彼は雨が降る中で、小さく震えていた私を迎えに来て――共に暮らそうと家に連れて帰った。
それから私は、その家族の一員としてと、彼と、彼の妻と、そして「小さな娘」と過ごし始めた。何気ない日々を繰り返す中で愛おしさが生まれ、愛情を知り……けれど私は猫で、「最期の時」は、十四回の四季にやってくる。
※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
今日から俺は魔法少女!?
天野ナギサ
キャラ文芸
いつか変身して町のヒーローになりたい松城京馬。
しかし、現実は甘くない。変身も怪物も現れず中学2年生になった。
そんなある日、怪物と妖精が現れ変身することに!
だが、姿は魔法少女!?
どうする京馬!!
※カクヨム、Nola、なろうにも投稿しております。
毒入りゴールデンレトリバーの冒険
一本島宝町
キャラ文芸
家出少女と親なし少年の同居生活始まりの物語です。ほんわかと、けれどちょっとだけ異能がからむ緊張感のあるストーリー。少女には毒を出してしまう体質があり、閉じ込められていた山奥から自由を求めて逃げ出しました。少女が追手に捕まりそうになったところ、少年と出会って助けられます。一軒家に一人で生活してきた少年は無邪気で明るい少女を住まわせることにワクワクしますが、毒を出してしまうという特殊な人間だとわかった少年は………。そして少女を追う怪しい男たちが二人を追い詰めていくことに。日常系でありながら異能系。そして少女の無邪気であどけない様子を楽しんでいただけたら幸いです。
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる