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4-34 平和な一日を過ごしたい
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もともと、私たちが親睦を深めることは計算されたことで、宿舎が同じだったのも、偶然ではなく故意だということは、さすがの私も、もう知っている。最初はかなりショックを受けたが、別にたいして気にはしない。まゆがいてくれさえすれば。
「あんた、いくつ隠し事があるわけ?」
「さあねえ?」
そもそも、なぜ私の願いを狙うのか、その理由も不明だ。聞いてもはぐらかされるだけなので、もう聞かないけれど。
「まなさんは、どうしてこんなクズ野郎と普通に話せるんですか?」
「ごふぉっ」
あかりが撃沈した。マナは相変わらず、容赦ない。仮に、私と同じことを言ったとしても、マナから受けるダメージの方が遥かに大きいだろう。確かに、昨日の一件は、決別してもおかしくないほどのことだったが。
「あたしは許してないけど、マナが許すって言うんだから、あたしは何かを変えるつもりはないわ」
「まなさん、愛してます」
「はいはい」
マナは私に抱きついてきた。私も大概、マナに甘い。この可愛さの前では、人類も魔族もモンスターも、皆等しく無力だ。
「クズ……野郎……」
あかりが何やら、うわ言のように呟いていたが、無視した。
「お姉ちゃん、宿題やってる?」
「んーん。やる気なーい」
「やる気ないじゃありません。一日五ページはやらないと、後が大変よ」
「えー、やだやだー」
「わがまま言わない」
マナが私を抱きしめる力が、少しだけ強くなったような気がした。
「マナ? どうかした?」
「──いえ。なんでもありませんよ」
「そう?」
まゆの姿は誰にも見えていない。そして、まゆに関わるすべての記憶は、ただちに記憶から消される。だから、違和感など、感じるはずもないし、感じたとしても、すぐに忘れるはずなのだ。そんなことは、とうの昔から知っている。ただ、忘れていただけで。
──そうして、日が暮れて。
「よし。宿題終了」
「私も終わりました」
「早すぎ……。羨ましー」
「二人ともすごいねー!」
マナに至っては、昼から始めて、すべて終わらせたらしい。間違いなく、彼女は天才だ。当然、まゆは一ページも進んでいない。
「あかりはどこまでやったの?」
「社会がね、二ページ終わったよ!」
「嘘は良くないわよ」
「嘘じゃないって!?」
そう言って、あかりはワークノートをこちらに見せてくる。私とマナは、それを隅から隅まで眺めて、真面目に取り組んでいることを確認する。
「あかり、あんた、やればできるじゃない……!」
「感動しました……」
「あかりくん、すごーい!」
「え、そんなに? なんか、照れるな……」
大袈裟と思うことなかれ。今まで、宿題などろくに出したことのないあかりが、二ページも終わらせていたのだ。人にはそれぞれペースがある。それを考えれば、これは素直に褒めてもいいだろう。
──甘やかしすぎだろうか。いや、ティカ先生に出された宿題には、まったく手をつけていないのだ。十分、進歩と言える。
「僕、明日も頑張るね……!」
誉められるのに慣れていないあかりが、照れた様子で、少しだけやる気を出した。こんなことでやる気が出るのなら、誉めて損はないだろう。
とはいえ、このペースでやっていては、期日に間に合わないのだけれど。それは、黙っておくとしよう。
「今日は解散。また明日から頑張りましょう」
そうして、何もない平和な一日が過ぎた。
「あんた、いくつ隠し事があるわけ?」
「さあねえ?」
そもそも、なぜ私の願いを狙うのか、その理由も不明だ。聞いてもはぐらかされるだけなので、もう聞かないけれど。
「まなさんは、どうしてこんなクズ野郎と普通に話せるんですか?」
「ごふぉっ」
あかりが撃沈した。マナは相変わらず、容赦ない。仮に、私と同じことを言ったとしても、マナから受けるダメージの方が遥かに大きいだろう。確かに、昨日の一件は、決別してもおかしくないほどのことだったが。
「あたしは許してないけど、マナが許すって言うんだから、あたしは何かを変えるつもりはないわ」
「まなさん、愛してます」
「はいはい」
マナは私に抱きついてきた。私も大概、マナに甘い。この可愛さの前では、人類も魔族もモンスターも、皆等しく無力だ。
「クズ……野郎……」
あかりが何やら、うわ言のように呟いていたが、無視した。
「お姉ちゃん、宿題やってる?」
「んーん。やる気なーい」
「やる気ないじゃありません。一日五ページはやらないと、後が大変よ」
「えー、やだやだー」
「わがまま言わない」
マナが私を抱きしめる力が、少しだけ強くなったような気がした。
「マナ? どうかした?」
「──いえ。なんでもありませんよ」
「そう?」
まゆの姿は誰にも見えていない。そして、まゆに関わるすべての記憶は、ただちに記憶から消される。だから、違和感など、感じるはずもないし、感じたとしても、すぐに忘れるはずなのだ。そんなことは、とうの昔から知っている。ただ、忘れていただけで。
──そうして、日が暮れて。
「よし。宿題終了」
「私も終わりました」
「早すぎ……。羨ましー」
「二人ともすごいねー!」
マナに至っては、昼から始めて、すべて終わらせたらしい。間違いなく、彼女は天才だ。当然、まゆは一ページも進んでいない。
「あかりはどこまでやったの?」
「社会がね、二ページ終わったよ!」
「嘘は良くないわよ」
「嘘じゃないって!?」
そう言って、あかりはワークノートをこちらに見せてくる。私とマナは、それを隅から隅まで眺めて、真面目に取り組んでいることを確認する。
「あかり、あんた、やればできるじゃない……!」
「感動しました……」
「あかりくん、すごーい!」
「え、そんなに? なんか、照れるな……」
大袈裟と思うことなかれ。今まで、宿題などろくに出したことのないあかりが、二ページも終わらせていたのだ。人にはそれぞれペースがある。それを考えれば、これは素直に褒めてもいいだろう。
──甘やかしすぎだろうか。いや、ティカ先生に出された宿題には、まったく手をつけていないのだ。十分、進歩と言える。
「僕、明日も頑張るね……!」
誉められるのに慣れていないあかりが、照れた様子で、少しだけやる気を出した。こんなことでやる気が出るのなら、誉めて損はないだろう。
とはいえ、このペースでやっていては、期日に間に合わないのだけれど。それは、黙っておくとしよう。
「今日は解散。また明日から頑張りましょう」
そうして、何もない平和な一日が過ぎた。
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