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4-17 種族を当てたい
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──先ほど、マナにトンビアイスを買いに行かせたばかりだというのに、結局、自分で行くことになった。
「……悪かったな。巻き込んで」
「気にしないで。あたしが勝手にやったことよ」
それにしても、先ほどのル爺の怒りようは凄かった。血管がはち切れて死ぬんじゃないかと、ちょっと心配した。
それに、気になっていることがあった。そう、母の葬式に来ていたことだ。
「……あんたって、魔族じゃ、ないわよね?」
「いや、魔族だが」
「え? そうなの? でも、目の色が──」
「ああ、俺はクレイアみたいな、人魔族じゃないんだ。モンスターだからな」
「へえ。そうなの」
これでも、私は内心、とても驚いていた。まさか、ハイガルが人でないとは思っていなかった。モンスターということは、卵から産まれたということだ。驚くに決まっている。
「何のモンスター?」
「悪魔の一種だ。当ててみろ」
そう言われて、私は持っている知識を総動員して考える。悪魔は成長するに従い、人に近い形をとれるようになる。とはいえ、ハイガルのように人のコミュニティに属していることは少なく、共食いなどをして生きていることが多い。
私は日傘をくるくると回してみる。ハイガルも日傘を差していた。彼は昼間に外に出ている感じもしないし、
「日に当たると駄目とか?」
「そうだな。光を浴びすぎると、ものすごく疲れる」
「それなら、キュランね」
「正解だ。よく、知ってるな?」
「たまたまよ」
キュラン。別名、吸血鳥。そう、鳥だ。生態は血を吸うこと以外、フクロウに近かったと思う。
「もしかして、あんた、実は魔法使わずに飛べるの?」
「ああ。背中から、バサッと、翼が生える」
「バサッとね」
そうこう話しているうちに、トンビニについた。目的のものを買い、私たちはこの前の公園で、一休みする。
「トンカラあげるわ」
「いいのか?」
「ええ」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言うと、ハイガルはトンカラを二つ持っていった。
「二つ食べていいとは言ってないわよ」
「見えないからな。悪いな」
「……いいえ、わざとでしょ」
ハイガルは「バレたか」と言って、いたずらっ子のような顔をした。
「この前、一つやっただろう」
「あのときあの瞬間のトンカラは、あのときしか味わえないんじゃなかったの?」
「何の話だか、さっぱり」
ハイガルはポンポンサイダーを喉に流し込んでいた。なんだか腑に落ちないが、よく考えれば、ハイガルには恩しかないし、まあいいか。
「あんた、ル爺と仲いいの?」
「昔はな。今は、喧嘩ばっかりだけどな」
「ル爺も、キュランなの?」
「いや。あの人は、卵のときから、俺を育ててくれた人だ。間違いなく、人魔族だ」
「そう。じゃあ、瞳の色は赤いのね」
「怒ると、全身赤くなるけどな」
「あんたも大概ね……」
飲み終わったポンポンサイダーの容器を、ハイガルはゴミ箱に投げ捨てる。私も残っていたトンカラを口に入れ、帰路につく。
「あんた、生き物の血吸わなくて大丈夫なの?」
「いや、わりと吸ってる」
「わりと吸ってる!?」
「安心しろ。人の血は、吸ってない。出荷前の家畜から、注射器一本分ずつ、もらうくらいだ」
「美味しいの?」
「興味があるなら、飲んでみればいい。鉄の味しかしない」
「そうよね……」
そんな会話をしながら、宿舎がある通りに曲がると、長い桃髪が猛スピードで反対に駆けて行くのが見えた。
「マナ! ……あーあ、やっちゃった」
宿舎の入り口に、あかりが座り込む。すると、中から、ギルデルドが出てきた。ギルデはマナが走っていった方を一瞥すると、あかりの胸ぐらに掴みかかり、顔面を殴った。
「今日は喧嘩の絶えない日ね……!」
私はあかりの様子をうかがい、ハイガルはギルデを押さえつける。さすがキュラン。人よりも圧倒的に強い。ギルデはぴくりとも動けないようだ。
「離してくれハイガル!」
「離したら、殴るから、ダメだ」
あかりは、殴られた痛みというよりも、人に触れられた恐怖で、体を震わせていた。一体、何があったのだろうか。というより、なぜここで、ギルデなのだろうか。
「とりあえず、中に入ったら? マナに本気で逃げられたら、誰も捕まえられないだろうし」
そうして、私たちはギルデとあかりを中に連れ戻した。
「……悪かったな。巻き込んで」
「気にしないで。あたしが勝手にやったことよ」
それにしても、先ほどのル爺の怒りようは凄かった。血管がはち切れて死ぬんじゃないかと、ちょっと心配した。
それに、気になっていることがあった。そう、母の葬式に来ていたことだ。
「……あんたって、魔族じゃ、ないわよね?」
「いや、魔族だが」
「え? そうなの? でも、目の色が──」
「ああ、俺はクレイアみたいな、人魔族じゃないんだ。モンスターだからな」
「へえ。そうなの」
これでも、私は内心、とても驚いていた。まさか、ハイガルが人でないとは思っていなかった。モンスターということは、卵から産まれたということだ。驚くに決まっている。
「何のモンスター?」
「悪魔の一種だ。当ててみろ」
そう言われて、私は持っている知識を総動員して考える。悪魔は成長するに従い、人に近い形をとれるようになる。とはいえ、ハイガルのように人のコミュニティに属していることは少なく、共食いなどをして生きていることが多い。
私は日傘をくるくると回してみる。ハイガルも日傘を差していた。彼は昼間に外に出ている感じもしないし、
「日に当たると駄目とか?」
「そうだな。光を浴びすぎると、ものすごく疲れる」
「それなら、キュランね」
「正解だ。よく、知ってるな?」
「たまたまよ」
キュラン。別名、吸血鳥。そう、鳥だ。生態は血を吸うこと以外、フクロウに近かったと思う。
「もしかして、あんた、実は魔法使わずに飛べるの?」
「ああ。背中から、バサッと、翼が生える」
「バサッとね」
そうこう話しているうちに、トンビニについた。目的のものを買い、私たちはこの前の公園で、一休みする。
「トンカラあげるわ」
「いいのか?」
「ええ」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言うと、ハイガルはトンカラを二つ持っていった。
「二つ食べていいとは言ってないわよ」
「見えないからな。悪いな」
「……いいえ、わざとでしょ」
ハイガルは「バレたか」と言って、いたずらっ子のような顔をした。
「この前、一つやっただろう」
「あのときあの瞬間のトンカラは、あのときしか味わえないんじゃなかったの?」
「何の話だか、さっぱり」
ハイガルはポンポンサイダーを喉に流し込んでいた。なんだか腑に落ちないが、よく考えれば、ハイガルには恩しかないし、まあいいか。
「あんた、ル爺と仲いいの?」
「昔はな。今は、喧嘩ばっかりだけどな」
「ル爺も、キュランなの?」
「いや。あの人は、卵のときから、俺を育ててくれた人だ。間違いなく、人魔族だ」
「そう。じゃあ、瞳の色は赤いのね」
「怒ると、全身赤くなるけどな」
「あんたも大概ね……」
飲み終わったポンポンサイダーの容器を、ハイガルはゴミ箱に投げ捨てる。私も残っていたトンカラを口に入れ、帰路につく。
「あんた、生き物の血吸わなくて大丈夫なの?」
「いや、わりと吸ってる」
「わりと吸ってる!?」
「安心しろ。人の血は、吸ってない。出荷前の家畜から、注射器一本分ずつ、もらうくらいだ」
「美味しいの?」
「興味があるなら、飲んでみればいい。鉄の味しかしない」
「そうよね……」
そんな会話をしながら、宿舎がある通りに曲がると、長い桃髪が猛スピードで反対に駆けて行くのが見えた。
「マナ! ……あーあ、やっちゃった」
宿舎の入り口に、あかりが座り込む。すると、中から、ギルデルドが出てきた。ギルデはマナが走っていった方を一瞥すると、あかりの胸ぐらに掴みかかり、顔面を殴った。
「今日は喧嘩の絶えない日ね……!」
私はあかりの様子をうかがい、ハイガルはギルデを押さえつける。さすがキュラン。人よりも圧倒的に強い。ギルデはぴくりとも動けないようだ。
「離してくれハイガル!」
「離したら、殴るから、ダメだ」
あかりは、殴られた痛みというよりも、人に触れられた恐怖で、体を震わせていた。一体、何があったのだろうか。というより、なぜここで、ギルデなのだろうか。
「とりあえず、中に入ったら? マナに本気で逃げられたら、誰も捕まえられないだろうし」
そうして、私たちはギルデとあかりを中に連れ戻した。
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