104 / 134
4-4 早く真実が知りたい
しおりを挟む
それから数日、僕たちは、ずっと考えていた。
違和感といえば。まなちゃんはいつも勉強をしている。
「それのどこが違和感なんですか?」
「いやいや、絶対おかしいって。あんなに勉強したら、頭爆発するよ、普通」
「しませんよ……」
僕はそっと扉を開けて、まなちゃんを観察する。どうやら、本を読んでいるらしい。扉には南京錠がかかっていたが、僕にかかれば、そんなもの、ないに等しい。
「姿を消していこう」
透明になって、僕とマナは二人部屋に忍び込み、部屋の中を勝手に探索する。
「特に怪しいものはないね……。でも、やっぱり食器は二人分あるよ。それから──意外と本が少ないな……って、あれ。マナ?」
一緒に探しているとばかり思っていたのに、返事がない。振り向くと、彼女はまなちゃんの本を、後ろから覗き込んでいた。というより、まなちゃんの横顔に見とれているらしかった。
「チョップ!」
「へなん」
脱線しているマナの頭上に手刀を振り下ろして、制裁を与える。
そして、僕は、一段しかない小さな棚に並べられた本を、順番に眺めていく。
「魔法大全、禁忌魔法集、魔法の仕組み、魔法の起源……うへえ、頭痛が痛い」
「──あんたたち、何してんの?」
鋭く尖るような声に、僕は振り返る。白髪の少女が、しゃがむ僕らを、仁王立ちで見下ろしていた。
「あれ、なんで見えるの?」
「あんたね……あたしに魔法は効かないって、いつも言ってるでしょ? 視覚に作用する魔法でも効かないわよ」
そういえば、そうだった。さすが僕、すっかり忘れていた。
「アイちゃん、どうして教えてくれなかったのさ?」
「あかりさんが滑稽で愉快だったので、つい」
「それで、あんたたち、何してたの?」
──マズイ。本人にバレないようにしろというのが、魔王の命令だ。本当のことは言えない。
「いやあ、普段どんな本読んでるのかなーって」
「……あかりが本に興味を? 血の雨でも降るのかしら」
「降らないよ!? 僕でも少しくらい興味あるって! 文字がすらすら読めないだけで!」
「え、あんた、文字読めないの?」
まなちゃんは、マナに問いかけた。なぜ僕本人に聞かないのだろうか。
「あかりさんは、別の国に住んでいらしたので、この国の言葉は不自由ですね。とはいえ、二年ほど在中していますが」
「あんなにペラペラ話してるのに?」
「それは魔法でなんとかなるんだよ。話すのはいいけど、書きと読みは魔法で翻訳するのが難しいんだって」
「まあ、確かにそうね……ってことは、あんた、ずっと魔法使ってんの?」
「言われてみれば、そういうことになるね?」
「それは強いわ……」
強すぎるせいで、引かれた。とはいえ、魔法が強いのは、ほとんど才能みたいなもので、僕自身が誇れるようなことでもない。
「まなさんはいつも、魔法に関する本ばかり読んでいるんですね?」
「ええ。魔法に興味があって。まあ、使えないんだけど」
「なんで魔法に興味があるの?」
「それは──忘れたわ。まあ、理由なんて、どうでもいいでしょ」
なんとも、まなちゃんらしくない答えだった。ここにも、何かが隠されているような気がした。
「この本、明日学校に返さないといけないから、今日はあまり遊んであげられないわよ? まあ、どうしてもって言うなら、借り直すけど……」
「まなちゃん、優しい……。でも、今日はいいや」
「今日はこの辺りで、失礼させていただきますね」
「ええ──」
僕たちが何かしているということには、勘づいたみたいだ。さすがまなちゃん。まあ、ここまで怪しければ誰でも気がつくか。
防音も効くかどうかも怪しかったので、僕たちは部屋には戻らず、外に出ることにした。
「どうする? てか、どうすればいい!? これ以上、どうしろと!」
「落ち着いてください」
「うん、落ち着く……」
僕は深呼吸を繰り返し、少しずつ気持ちを落ち着かせる。実のところ、かなり焦っている。なぜなら、
「なんだっけ、まなちゃんの変なところ」
「それは……。お弁当のときに何か──確か、一つ多いということでしたね」
「そうそう、それから、今の、本──じゃなくて、勉強しすぎってこと。あと、髪の毛か」
そう。僕たちは、こうしている間にも、少しずつ違和感をなくしているのだ。マナでさえ思い出すのに時間がかかるほどに、強力な力が作用している。紙に書き留めることすらできない。
こんなものを、まなちゃんは今までどうやって覚えていたのだろうか。
──どんな想いがあれば、忘れずにいられるのだろうか。
「れなさんは、覚えていられるのでしょうか」
「あの人なら知ってそうだけどね。あの人がダメなら、もう詰みでしょ。もう魔王とか、依頼したことすら忘れてるんじゃない?」
「それはないと思いますよ。魔王ですから」
「あ、確かに!」
魔王という素敵な響きだけで、僕的には何を言われても納得する自信がある。魔王に不可能などない、的な。全知全能、的な。神、的な。マナはそんな僕にため息をついた。
「仕方ありませんね。気は進みませんが」
「ん、どこかに向かってるの?」
「はい、ギルドに立ち寄ろうかと」
「え、僕、お酒ダメなんだけど」
「風でマスクでもしてください」
「マナ、あったまいー……」
そうして、僕たちはギルドにたどり着いた。
ふと、以前、まなちゃんを一人置き去りにして逃げたことがあったなと思い出す。
そこには、命の石に気づかれたくなかったのと、もう一つ、理由があったのだが──、
「行きますよ」
「はいはーい」
それはまた、別のお話。
違和感といえば。まなちゃんはいつも勉強をしている。
「それのどこが違和感なんですか?」
「いやいや、絶対おかしいって。あんなに勉強したら、頭爆発するよ、普通」
「しませんよ……」
僕はそっと扉を開けて、まなちゃんを観察する。どうやら、本を読んでいるらしい。扉には南京錠がかかっていたが、僕にかかれば、そんなもの、ないに等しい。
「姿を消していこう」
透明になって、僕とマナは二人部屋に忍び込み、部屋の中を勝手に探索する。
「特に怪しいものはないね……。でも、やっぱり食器は二人分あるよ。それから──意外と本が少ないな……って、あれ。マナ?」
一緒に探しているとばかり思っていたのに、返事がない。振り向くと、彼女はまなちゃんの本を、後ろから覗き込んでいた。というより、まなちゃんの横顔に見とれているらしかった。
「チョップ!」
「へなん」
脱線しているマナの頭上に手刀を振り下ろして、制裁を与える。
そして、僕は、一段しかない小さな棚に並べられた本を、順番に眺めていく。
「魔法大全、禁忌魔法集、魔法の仕組み、魔法の起源……うへえ、頭痛が痛い」
「──あんたたち、何してんの?」
鋭く尖るような声に、僕は振り返る。白髪の少女が、しゃがむ僕らを、仁王立ちで見下ろしていた。
「あれ、なんで見えるの?」
「あんたね……あたしに魔法は効かないって、いつも言ってるでしょ? 視覚に作用する魔法でも効かないわよ」
そういえば、そうだった。さすが僕、すっかり忘れていた。
「アイちゃん、どうして教えてくれなかったのさ?」
「あかりさんが滑稽で愉快だったので、つい」
「それで、あんたたち、何してたの?」
──マズイ。本人にバレないようにしろというのが、魔王の命令だ。本当のことは言えない。
「いやあ、普段どんな本読んでるのかなーって」
「……あかりが本に興味を? 血の雨でも降るのかしら」
「降らないよ!? 僕でも少しくらい興味あるって! 文字がすらすら読めないだけで!」
「え、あんた、文字読めないの?」
まなちゃんは、マナに問いかけた。なぜ僕本人に聞かないのだろうか。
「あかりさんは、別の国に住んでいらしたので、この国の言葉は不自由ですね。とはいえ、二年ほど在中していますが」
「あんなにペラペラ話してるのに?」
「それは魔法でなんとかなるんだよ。話すのはいいけど、書きと読みは魔法で翻訳するのが難しいんだって」
「まあ、確かにそうね……ってことは、あんた、ずっと魔法使ってんの?」
「言われてみれば、そういうことになるね?」
「それは強いわ……」
強すぎるせいで、引かれた。とはいえ、魔法が強いのは、ほとんど才能みたいなもので、僕自身が誇れるようなことでもない。
「まなさんはいつも、魔法に関する本ばかり読んでいるんですね?」
「ええ。魔法に興味があって。まあ、使えないんだけど」
「なんで魔法に興味があるの?」
「それは──忘れたわ。まあ、理由なんて、どうでもいいでしょ」
なんとも、まなちゃんらしくない答えだった。ここにも、何かが隠されているような気がした。
「この本、明日学校に返さないといけないから、今日はあまり遊んであげられないわよ? まあ、どうしてもって言うなら、借り直すけど……」
「まなちゃん、優しい……。でも、今日はいいや」
「今日はこの辺りで、失礼させていただきますね」
「ええ──」
僕たちが何かしているということには、勘づいたみたいだ。さすがまなちゃん。まあ、ここまで怪しければ誰でも気がつくか。
防音も効くかどうかも怪しかったので、僕たちは部屋には戻らず、外に出ることにした。
「どうする? てか、どうすればいい!? これ以上、どうしろと!」
「落ち着いてください」
「うん、落ち着く……」
僕は深呼吸を繰り返し、少しずつ気持ちを落ち着かせる。実のところ、かなり焦っている。なぜなら、
「なんだっけ、まなちゃんの変なところ」
「それは……。お弁当のときに何か──確か、一つ多いということでしたね」
「そうそう、それから、今の、本──じゃなくて、勉強しすぎってこと。あと、髪の毛か」
そう。僕たちは、こうしている間にも、少しずつ違和感をなくしているのだ。マナでさえ思い出すのに時間がかかるほどに、強力な力が作用している。紙に書き留めることすらできない。
こんなものを、まなちゃんは今までどうやって覚えていたのだろうか。
──どんな想いがあれば、忘れずにいられるのだろうか。
「れなさんは、覚えていられるのでしょうか」
「あの人なら知ってそうだけどね。あの人がダメなら、もう詰みでしょ。もう魔王とか、依頼したことすら忘れてるんじゃない?」
「それはないと思いますよ。魔王ですから」
「あ、確かに!」
魔王という素敵な響きだけで、僕的には何を言われても納得する自信がある。魔王に不可能などない、的な。全知全能、的な。神、的な。マナはそんな僕にため息をついた。
「仕方ありませんね。気は進みませんが」
「ん、どこかに向かってるの?」
「はい、ギルドに立ち寄ろうかと」
「え、僕、お酒ダメなんだけど」
「風でマスクでもしてください」
「マナ、あったまいー……」
そうして、僕たちはギルドにたどり着いた。
ふと、以前、まなちゃんを一人置き去りにして逃げたことがあったなと思い出す。
そこには、命の石に気づかれたくなかったのと、もう一つ、理由があったのだが──、
「行きますよ」
「はいはーい」
それはまた、別のお話。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になっていた私。どうやら自分が当主らしい。そこまでわかって不安に覚える事が1つ。それは今私が居るのは天正何年?
俣彦
ファンタジー
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になった私。
武田家の当主として歴史を覆すべく、父信玄時代の同僚と共に生き残りを図る物語。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
世話焼き宰相と、わがまま令嬢
たつみ
恋愛
公爵令嬢ルーナティアーナは、幼い頃から世話をしてくれた宰相に恋をしている。
16歳の誕生日、意気揚々と求婚するも、宰相は、まったく相手にしてくれない。
いつも、どんな我儘でもきいてくれる激甘宰相が、恋に関してだけは完全拒否。
どうにか気を引こうと、宰相の制止を振り切って、舞踏会へ行くことにする。
が、会場には、彼女に悪意をいだく貴族子息がいて、襲われるはめに!
ルーナティアーナの、宰相に助けを求める声、そして恋心は、とどくのか?
◇◇◇◇◇
設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。
R-Kingdom_2
他サイトでも掲載しています。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる