どうせみんな死ぬ。

桜愛乃際(さくらのあ)

文字の大きさ
上 下
85 / 134

3-7 命の石を見つけたい

しおりを挟む
 石について調べるために、図書館で調べていると、気になる本を一冊、見つけた。私はそれを借りて、宿舎の部屋へと戻る。そして、当然のように、二人は図書館にも、私の部屋にもついてきた。

「何借りたの?」
「命の石。童話だけど、読む?」
「ああ、それね。結構有名な話だよね。ね、アイちゃん?」
「なんで私に振るんですか?」
「対応が塩」

 一通り、目は通したが、なかなか面白い話だった。本は好きだが、この話は読んだことがなかった。

「あれだよね、死にかけの奥さんのために、不老不死になれるっていう命の石を探しに行くやつ。最後、どうなるんだっけ?」
「男が溶岩の中にある石を取ろうとして、焼け死ぬというお話ですね」
「めちゃくちゃ残酷な結末!?」

 中身が抜けているが、最初と最後だけ見ればそういう話だ。

「まなさんは、グロい話が好きなんですか?」
「好きではないけど、避けたいほどでもないわね」
「その話のどこが気になったのでしょうか?」
「だって、命の石は溶岩の中でも溶けないのよ? 気になるでしょ」

 まゆがにへらと笑いながら、私の顔をのぞきこんでくる。

「何を思いついたの、まな?」

 私はまゆに微笑を返し、口を開く。

「──犯人は、命の石を探してるのよ。そして、何かしらの方法で、それが、この近辺にあるっていう情報を得た。だから、この辺りの石や砂を溶かして、とにかく、必死になって探している。そういうことだと思うわ」

 この辺り以外では被害が発生していないことからも、この地域に対する執着のようなものが感じられる。一度溶かした場所は狙わないというのも、ポイントの一つだ。

「でも、犯人の狙いが分かっても、次にどこが狙われるか、分からなくない?」
「それも見当はついてるわ。この地域──学園都市ノアの中で、被害に合っていないのは、ここだけだから」

 私は机に地図を広げる。ギルドの依頼を確認し、聞き込みもしながら、被害にあった地域に印をつけておいたのだ。そして、被害に合っていないのは──、

「私たちの家の周りだけですね」
「へえ、地図だとこの宿舎ってここにあるんだ」

 私は近頃、肌身離さず身につけている、指輪の表面をなぞる。そして、

「この中に、心当たりがある人、いる?」

 不老不死になれる、命の石。この話の中だけの存在だと思いたいが、この二人なら何があってもおかしくはない。なにせ、女王と勇者だ。冒険の途中に見つけたと言われても納得できる。それに、以前、確認したとき、マナの部屋には、大量の宝石があった。

「数は多いですが、もらえるものをもらえるままに受け取っていただけですから、そういったものがあるかどうかは存じませんね」

 いかにも、マナらしい。執着がないというか、むしろ、なさすぎて、マナに贈った人が可哀想に思えてくる。

「宝石、棚に並べたわよね。まだ原型は残ってる?」
「棚? そんなものが私の部屋にあるんですか?」

 片づけを手伝ったときに、一緒に棚に並べたはずだが、興味のないことに関しては、とことん記憶がないらしい。

「あんたね……まあいいわ。とりあえず、確認しましょう」
「分かりました。それでは、あかりさん、部屋を開けてきてください」
「アイちゃん、また鍵なくしたの?」
「余計なことは言わないでください」
「はいはい……」

 鍵を無くして、そのままにしておいていいのだろうかと、思わずにはいられなかったが、いちいち指摘するのも面倒だったので、私は口をつぐんだ。

 あかりの鍵で扉を開ける。そして、私は思わず顔をしかめた。部屋の状態が、先日、起こしに来たときよりもさらに酷くなっていたのだ。目眩がするほどの散らかしようだ。

「棚はどちらに?」
「ここに積んである段ボールの後ろだけど?」
「それは大変ですね」
「てか、なんでこんなに荷物が増えてるわけ……?」
「城から、部屋にあった分が送られてきたんです。整理するのも面倒だったので、つい、後回しに。えへへ」
「誤魔化さないの」
「大丈夫です。これくらい、魔法で一瞬ですから」

 マナが指を向けると、段ボールたちが宙に浮き、道を開けた。ただし、片づけたわけではなく、寄せただけだ。不満はあったが、今は言及しない。

「全部見ますか?」
「そうね。一応確認させてくれる?」

 マナが魔法で棚を開け、中にある宝石をガラスでできた机の上に並べていく。机の上だけは綺麗にされていた。

 宝石は並べてあるものだけでも、百ほどあるのではないだろうか。

「わあー! きれー!」

 まゆが楽しそうにはしゃいでいた。気持ちはよく分かる。

「こんなにたくさん、誰からもらったの?」
「忘れました」
「忘れたって、そんなわけ──」
「覚えていません」

 マナに、聞くなという態度を取られ、私はそれ以上の追求を避ける。何かしら、思いの詰まった宝石たちだと、見ただけで分かった。

 この間見た、城の引き出しの中にあった宝石たちも、段ボールに詰められているに違いない。マナの母の歌も、この中のどこかにあるのだろう。

「んー、ありそう?」

 マナとまゆには触らせないようにして、私はあかりと二人で机の上の宝石を調べていた。後の二人はうっかり落としそうで怖い。あかりは宝石を落としそうになっても、きっと、自分を犠牲にして守ってくれるはずだ。

「この中にはなさそうね。命の石って、中に水が入ってて、絶えず波打ってるらしいから」
「だよねえ」

 てっきり、この中にあると思ったのだが、勘違いだったらしい。宝石を戻すよう、マナに頼もうと、顔を振り返ると、彼女は並べた宝石たちをじっと見ており、何やら考え事をしているらしかった。

「マナ? どうかしたの?」
「──いえ、なんでもありませんよ」

 そうして、マナは笑みを浮かべた。とても言葉通りとは思えなかったが、私が何か尋ねようとするよりも先に、マナは宝石を棚に並べ直し、段ボールをその前に積み直した。

「あかりは心当たりとかないわけ?」
「うん。全然ない」
「なんでどや顔……? ──まあいいわ。まだ、どれも溶けてないわよね?」
「はい。大丈夫です」

 ──そのとき、カラスが鳴いた。そして、部屋に一時、静寂が訪れたことにより、外の喧騒に気がついた私たちは、ベランダから、下を眺める。

「溶けてる……」

 宿舎の庭にある石が溶けていた。ここに、現在、魔法がかけられているのだ。

 マナが少しずらした段ボールの隙間から棚の宝石を見ると、すべて、スライムのようにドロドロに溶けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。 家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。 なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...