上 下
80 / 134

3-2 何かをしたい

しおりを挟む
 昼食の時間になり、手洗いうがいをしてから教室に戻ると、まゆが頑張って机を押しているのが見えた。非力すぎてまったく動かせていないけれど。

「あ、まなまな! みんなで一緒に食べよ!」
「まなちゃん、いらっしゃーい」

 もともと、近い席の集まりなのに、なぜ机をくっつける必要があるのかは分からないけれど、まゆが頑張っていたので、私は机を二つ、後ろに向ける。

「まなちゃんって、いっつも朝からお弁当作ってて、偉いよねえ」
「あんたもたまにお弁当作ってくるじゃない。マナの分も一緒に」
「あれは夕飯の残り物を詰めて、冷凍食品をチンしてるだけだから」
「あたしもたいして変わんないわよ。お姉ちゃんは少食だから、あたしのお弁当ちょっとつまむだけで満足しちゃうし」
「わたし、食べなくてもへーきだから!」

 あかりは登校中に、近くのスーパーでたまごサンドを買っていた。そういえば、マナがいないなと、辺りを見渡していると、

「アイちゃん、トンビニまで行くって。朝買ったトンビアイス、早弁しちゃったからねえ」
「トンビニって……ここから歩いて二十分かかるでしょ?」
「どうしても、ホイサバが食べたいんだって」
「ホイサバ? それ、美味しいの?」

 ホイル焼きの鯖だろうか。しかし、トンビニにはそんなもの、売っていなかったと思うのだが。

「まあ、見れば分かるよ……」

 すると、マナが教室に戻ってきた。昼休みが始まってからまだ五分程度しか経っていないが、手にはおにぎりを二つ掴んでいた。全力で走ってきたのだろう。有料のレジ袋は買わなかったらしい。

 向けられる視線に手を振り、マナは席に着く。未来の女王様は、たいそう、人気らしい。視線がこの辺りに集まっているのを感じる。以前は理由を知らなかったが、今なら分かる。

 なにせ、勇者と王女が並んでいるのだ。注目されるに決まっている。よく見ると、別のクラスからも見に来ているし。まあいいけど。

「何買ったの?」
「ホイップクリーム鯖サンドです」
「何それ……」
「ね、本当に意味分かんないよねえ──」
「美味しそう……!」
「美味しそう!?」

 甘いクリームに魚。合わないはずがない。とはいえ、私の味覚が周りと違うことくらいは、なんとなく知っている。そもそも、私には嫌いな食べ物などほとんどない。美味しくないものがこの世にあるはずない。ゲテモノは別として。

「まなさんも食べますか?」
「こっちのおかずと交換でいい?」
「あ、それ、わたしが食べたいやつ!」
「悩みますね……」
「マナちゃん、これどーお? お肉にニンジン詰めたやつ、まなが作ったの! おすすめだよー」
「お姉ちゃんがニンジン嫌いなだけでしょ……」

 引き気味のあかりを差し置き、三人で騒いでいると、

「キャーッ!」

 校庭から悲鳴が上がった。窓際の私たちはすぐに窓の外を確認する。

「何これ……」

 すぐに異変と分かった。校庭の砂や石が溶けていたのだ。溶けたそれらは、底なし沼のように、校庭にいた生徒たちを飲み込んでいく。

 今は昼食を兼ねた昼休みだが、先にご飯を食べる人の方が圧倒的に多く、まだ食べ終わるような時間でもない。それでも、校庭には確認できるだけで、三人の生徒の姿があった。

「助けないと──っ!」
「あ、待って! まなちゃん!」

 助けを呼ぶ人を目の前にして、放っておくわけにはいかない。魔法が使えなくても、何かはできるはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

北条氏政転生 関八州どころか東日本は全部俺の物 西は信長に任せて俺は歴史知識を利用して天下統一を手助けします。

ヒバリ
ファンタジー
1〜20までスカウトや内政ターン 20〜33まで戦タイム 安房攻め 34〜49戦後処理と内政 目標11/3日までに書き溜め 50〜61河東の戦い1 62〜70河東の戦い2 71〜80河東の戦い3 81〜85河東の戦い 後始末 86〜 川越夜戦 やばい、話の準備してるとどんどん内容が増えて予定通りにいかんのだがー? 時代物が好きなのでかきました。 史実改変物です。基本的な大きな歴史事件は史実通りに起こります。しかし、細かい戦や自分から仕掛ける戦はべつです。関東に詳しくなく細かい領地の石高や農業に関することはわからないのでご都合主義ですしある程度は史実とは違うことをするので全体的にご都合主義です。 北条氏親がいない世界線です。変更はこれだけです。あとは時代知識を使って漁夫の利を桶狭間でとったり、河東を強化して領内を強くして川越夜戦の援軍に駆けつけて関東統一にのりだします。史実通り豊後に来たポルトガル船を下田に呼んで史実より早めの鉄砲入手や、浪人になったり登用される前の有名武将をスカウトしたりします。ある程度は調べていますが細かい武将までは知りません。こういう武将がいてこんなことしましたよ!とか意見ください。私の好きなものを書きます。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【完結】からふるわーるど

仮面大将G
ファンタジー
平凡な高校生が雷に打たれて死んだら、異世界に微チートとして生まれ変わっちゃった話。例えフィクションの登場人物だろうが他の転生者には負けないぜ!と謎の対抗心を燃やして微チートからチートへと成長していく主人公の日常。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも同作品を掲載しております! ※この作品は作者が高校生の時に「小説家になろう」様で書き始め、44話で一旦執筆を諦めてから8年の空白期間を経て完結させた作品です。

処理中です...